試乗レポート

ルノーの新型「キャプチャー」に最速試乗 欧州No.1コンパクトSUVの実力を体感

日常のゆったりした表情からスポーティな一面まで、異なる走りの表情を見せる1台

 ルノーのコンパクトSUV「キャプチャー」がフルモデルチェンジして日本にやってきた。キャプチャーは2013年に発売して以来、世界で170万台を販売するビッグヒットとなっており、BCセグメントSUVとしては欧州ではパイオニア的な存在だ。今日紹介するのはその2代目となるモデル。実はキャプチャーは2020年の欧州ではSUVでベストの販売台数を記録するほどの人気車種だ。

 新モデルも曲線を駆使して構成されたフレンチデザインと呼ばれるもので、アスリートのしなやかさをイメージしており、競合車の中でも独特なSUVらしさを出している。

 質感の向上も新しいキャプチャーのセールスポイントだ。最近の流れはダウンサイジング志向が強くなっており、BセグメントにもC・Dセグメントのユーザーの要求に応えられる質感が求められている。それはインテリアなど手に触る部分から走りや乗り心地にまで至る。

 デザインでは先代キャプチャーよりワイド感を出しており、特にC形状のデイライトまわりのデザインでも強調されているのが分かる。全長は10cmほど伸びており流れるようなデザインとなった。

 また最低地上高は大きく取られており、アプローチ、デパーチャーアングルとも大きく、FFと言えども悪路の走破性は高そうだ。

 デザイン機能で興味深いのは、フロントダクトから入る空気をホイールハウスからタイヤ外側に流れるように成形していることで、空気の流れが整流されCd値が下がり燃費向上にも貢献している。

新型「キャプチャー」。グレードは「インテンス」(299万円)と「インテンス テックパック」(319万円)の2種類をラインアップ。今回の試乗車は「レーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)」など、装備が充実しているインテンス テックパック。ボディサイズは4230×1795×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm。最小回転半径は5.4m(参考値)
独特なC形状のランプで、フロントまわりのワイド感を強調。SUVらしさが演出されている
18インチアルミホイールと組み合わせるタイヤは、215/55R18サイズのグッドイヤー製「EfficientGrip Performance」。フロントバンパーに設けられたダクトから入る空気をホイールハウスからタイヤ外側に流れるように整流してCd値を下げ、燃費向上に寄与している

 ドライバーまわりのインテリアはルーテシアと同じスマートコックピットの考え方で、ドライバーに優しいレイアウトを目指してデザインされている。ルーテシアと違うのは、コの字型に持ち上げられたフライングセンターコンソール。バイワイヤのシフトレバーをその上に乗せて、ドライバーから操作しやすくし、空いたスペースはスマートフォンが充電できるチャージスペースとしている。

フローティングしたシフトレバーなど、個性的なデザインを用いるインテリア。シフトレバー下のスペースにはスマートフォンワイヤレスチャージャーを設定する(インテンス テックパックのみ)
ステアリングスポーク左側には運転支援機能のスイッチを、右側にはオーディオ関連のスイッチをそれぞれ配置
インパネ中央には7インチマルチメディア EASY LINK(スマートフォン用ミラーリング機能)を装着。下部にあるUSBポートにコードを接続すると、スマートフォンとの連携が可能となる。また、センターコンソールの後方には、リア席用のUSBポートを2口と、12V電源ソケットを設定している

 ボディサイズを確認してみよう。先代よりもひとまわり大きくなって、全長4230mm(+95mm)、全幅1795mm(+15mm)、全高1590mm(+5mm)でホイールベースは2640mm(+35mm)となる。先代モデルは共同開発のアライアンスプラットフォームだったが、新型ではルーテシアと同様CMF-Bプラットフォームに刷新された。サイズはSUVのニーズに合わせてルーテシアより少し大きくなっているが、このプラットフォームはルノー、日産自動車、三菱自動車工業が共同開発した軽量、高剛性で静粛性にも配慮されたものだ。

 具体的にはキャプチャーではコンパクトSUVに求められるジャストなサイズと要件を満たすために後席のスペースを優先しており、実際に膝まわりのスペースが+17mm広がり、幅も+40mmとなって余裕をもつ。

 フロントシートにも恩恵がある。座面は20mm長く、幅も15mm広がりゆったりした。ヒップポイントが高いために、直前視界がよく、車幅感覚は掴みやすい。またシフトレバーは操作しやすい位置にあるので、ドライバーの操作性がよく、まとまり感のあるコクピットだ。ドライビングポジションではステアリングチルトの可動幅も大きく、多様なドライバーの体格に合わせられる。

インテンス テックパックのシート表皮は、シックな印象のファブリック×レザー調コンビ。しっかりとしたホールド感があり、座り心地もよい

 快適装備としては新開発のコンパクトなBOSEサウンドシステムがあり、音域、音質ともにトップレベルだという。

 ラゲッジルームに目をやると後席が前後に160mmスライドされるので、後席を一番前にした時には536Lの容量が生まれる。そのラゲッジルームは取り外せる棚で2段になっているので、普段使わないものは床下に収納ができる。

ラゲッジルームはラゲッジボードを2段階で調整可能。容量は536Lから、6:4分割可倒式のリアシートバックを倒すことで最大1235Lまで拡大できる。また、リアシートは160mmのスライド機構を備えている

 試乗車のタイヤはグッドイヤーの「EfficientGrip Performance」。サイズは215/55R18を履く。パターンは夏タイヤに近く、最近のタウンユース向けSUVに合わせてパターンノイズの小さそうなタイヤだ。

 エンジンはルノー・日産・三菱自動車のアライアンスで開発されたルーテシアと同じガソリンの1.3リッター直噴ターボだが、出力は131PSから154PSに、トルクは240Nmから270Nmにアップされている。ボディサイズの拡大に伴ってのパワーアップだが、大きなトルクは競合車に対してもアドバンテージがある。

最高出力113kW(154PS)/5500rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/1800rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.3リッター直噴ターボエンジンを搭載。トランスミッションはデュアルクラッチトランスミッションの7速EDCを組み合わせる。WLTCモード燃費は17.0km/L(市街地モード12.9km/L、郊外モード17.2km/L、高速道路モード19.5km/L)

 トランスミッションはEDCと呼ばれる7速デュアルクラッチで、こちらもルーテシアから受け継いだものだ。燃費はWLTCで17.0km/Lと電気デバイスを使っていない割には結構よい値を出している。

キビキビと小気味よく走り、乗りやすいコンパクトSUV

 まずドライブモードをディスプレイの中から呼び出し、「My Sense」「SPORT」「Eco」の3つのモードの中から、ノーマルにあたるMy Senseを選んだ。走り出してみるとターボとはいえパフォーマンスはとても1.3リッターとは思えないほどだった。スポーティなルーテシアの延長線上にあるSUVであることが鮮明だ。

 アクセルの反応は意外なほど早く、グンと出ようとする。発進だけでなく中間加速もシャープである。伸びのよいエンジンで、デュアルクラッチもこのような領域でリズムよくシフトして小気味よい。エンジンの上げる加速音も雑音がうまく隠されて力強さが感じられる。

 車重は1310kgに抑えられているのでクルマは軽くよく動き、どこまでも軽快だ。腰高な印象はほとんどない。首都高速道路の長いコーナーでも過度に大きなロールは発生せずに、粘り腰のライントレース性を見せてくれる。

 高速道路での直進安定性も高く、ステアリングのスワリもよく、腕に力が入らないのは好ましい。横を大型トラックが走っていても神経を使わないで済む。

 一方、市街地でも思いのほかクイックだ。ステアリングのロック・ツウ・ロックは2回転半。ステアリングレシオは先代から10%ほど早くなっているので、そのクイックさが市街地でのフットワークでも反映されている。操舵力もクルマの機敏な動きとバランスが取れている。

 乗り心地は路面の凹凸などでの上下動やそれに伴うピッチングは乗員にも伝わってくるが不快なものではなく、コンパクトSUVとしてシャキッとして気持ちがよい。大きく出来のよいシートとのコンビネーションも快適だった。サスペンションの伸び側ストロークはそれほど長くはない印象だったが、乗り心地に影響はほとんどなく、ハンドリングも乗りやすくスポーティだ。

 SPORTモードを選択するとアクセルレスポンスが早くなり、最初からトルクが出る印象で、加速感は高まる。文字通りスポーティだ。ただこのモードだとストップ&ゴーでのドライバビリティは落ちてしまう。スロットルが早開きになるのでスタート時に飛び出すような動きが出てくる。アクセルワークには少しだけ神経を使う。本領を発揮できるのはギヤ選択やエンジンの出力特性からしてもワインディングロードなどのツイスティな山道だろう。

 ステアリングの操舵力もセンターフィールがシッカリするので、キャプチャーは思いのほかスポーティなコンパクトSUVに変身する。

 個人的には普段の使い方としてはMy Senseを選択し、EPSのモードはCOMFORTにすると操舵力も少しダラ~として、街中でリラックスして乗るにはちょうどよい感じだった。EPSモードをレギュラーにすると、前述のようにかっちりとした手応えとなるのでクイックなステアリングを好むドライバーには向いていると思う。

 また、My Senseではアクセルのゲインも少し抑えられるのでデュアルクラッチの苦手なスタート時のギクシャクした動きもある程度抑えられる。

 各ドライブモードによってメリハリよく設定が変わるので、ドライバーの好みに応じて自分のドライブスタイルに合ったモードを選択可能だ。

 ちなみにメーター内のイルミネーションカラーはディプレイからレッドやブルーなど8色に変えられ、こちらも好みに合わせられる。

メーター表示は3種類。イルミネーションカラーは8色から選択可能

 ついでながら電動パーキングのオートホールドモードもルノー初の標準装備になった。個人的にはファブリックシートにもシートヒーターが装備されるのは嬉しい。ファブリックの感触はあたりが柔らかくてシート設計時の狙いどおりのクッションになっていると思われるが、シートヒーターがつかない車種がほとんどなので、この設定は歓迎だ。また後席に乗る機会も増えるために、USBポートは前後各所に設けられているのもルーテシアと違うところだ。

 ADAS系はルーテシア同様、ほぼ全てを搭載しているが、インテンスとインテンス・テックパックの2グレードのうち、レーンセンタリングアシストは後者のみに装備される。歩行者や自転車にも対応するエマージェンシーブレーキや先進装備は一世代前とは雲泥の差だ。また、ルーテシアでは一部オプションだった360度カメラ、レーンキープアシストも標準装備となっている。

 ナビはスマホのミラーリング機能を使い、自分のスマホから使い慣れた機能を呼び出して操作できる。きめ細かいことはできないが大抵はこれでカバーできそうだ。キャプチャーとの付き合いが深くなるほど、まだまだいろいろな機能が出てきそうだ。

 キャプチャーはルーフが基本的に黒の2トーンカラーになり、内装も黒になる。ただインテンス・グレードのオレンジ外装のモデルのみは内装はオレンジとなる。

インテンスの「オランジュ アタカマM(メタリック)」のみ、インパネやシート、ドアトリムにオレンジのアクセントカラーが入る仕様

 欧州No.1の販売台数を誇るフランス生まれのSUV。なかなか味わい深かった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学