試乗レポート

ガソリンモデルが追加されたシトロエン「C5 エアクロス SUV」 個性的なデザインの特徴的な走りとは

価格を抑えたガソリンモデル

“ダブルシェブロン”のブランドロゴを中央に配した細身でワイドなアッパーグリルや、その下に補助ライト風の装いでビルトインをされたヘッドライトユニット。さらに、アクセントカラーが与えられたサイドの“エアバンプ”など、特徴溢れる数々のデザイン言語の採用で、「シトロエンの最新作」であることを明確にアピールするのが、まずは2017年に中国で発表され、「シトロエン100周年」の2019年には欧州や日本でも発売された、C5 エアクロス SUVというブランニュー・モデル。

 4500×1850mmという全長×全幅の持ち主ながら、実車を目前にするとそれ以上のボリューム感を抱かされるのは、全高が1710mmと「思いのほか背が高い」からでもありそう。全長が4160mmに過ぎない弟分の「C3 エアクロス SUV」に比べると“ひとまわり半”ほど大きい印象だが、それでも1.9mは大きく下まわる全幅や5.6mという最小回転半径などから、「日本でも何とか持て余すことなく扱えそう」と感じられるのも確かな印象だ。

C5 エアクロス SUV。グレードはSHINE(415万円)のみの設定。ボディサイズは4500×1850×1710mm(全長×全高×全幅)、ホイールベースは2730mm。最小回転半径は5.6m。車両重量は1520kgで、ディーゼルモデルのSHINE BlueHDiと比べて120kg軽い

 モノグレードの設定ではあるものの、全6色のボディカラー中で5色には“バイトーン(2トーン)ルーフ”をオプション設定。さらに、ディーゼルモデルにはナッパレザーを用いたシートやステアリングホイール、電動のメッシュシェード付きパノラミック・サンルーフなどから成る“ナッパレザーパッケージ”もオプション設定されるので、選択肢は意外にも多彩ということになる。

 一方、2020年4月に追加設定をされた今回試乗したガソリンモデルは、ディーゼルモデルと同様装備で23万円近くのマイナスと、まずは価格訴求型のバージョンでもあるのは明らか。そうした狙いどころもあってか、前出“ナッパレザーパッケージ”のオプションはこちらには設定をされていない。「リアシート頭上にまで広がるパノラミックサンルーフがどうしても欲しい」となった場合、そうした希望を叶えるのはディーゼルモデル一択となってしまうのはちょっと残念なポイントだ。

ダブルシェブロンが伸びてランプを囲むシトロエン独特のフロントフェイスを踏襲。個性的なデザインの18インチホイールやアクセントカラーを用いたルーフレール、2トーンのルーフカラーなど、ポップな印象のエクステリア

インテリアデザインも個性的

 他の多くのSUVとは一線を画したC5 エアクロス SUVのエクステリアデザインに呼応をするように、やはりキラリと光る個性が感じられるのが、このモデルのインテリアの仕上がりでもある。

 水平基調ながらも同時に立体感にも富んだダッシュボードは、SUVらしい力強さを演じつつも、最新モデルらしいモダンな雰囲気をアピール。そのセンター部分には8インチのタッチスクリーンをレイアウトしながらも、物理スイッチの排除を過度には推し進めず、メニューの選択など基本的な操作はダイレクトなスイッチ操作で行なえる点には好感を抱くことができる。

 左右フロントシート間に置かれた高めのセンターコンソール上の、バイワイヤ方式であることを活かしたユニークな形状のATセレクター脇に置かれたのは、独自の機能である“グリップコントロール”のモードを選択するダイヤル。

 路面や走行状況に応じてトラクション・コントロール機能などを最適制御。190mmと大きな最低地上高に加え、ヒルディセントコントロールまでを装備することで、4WDシステムを採用しないながらも悪路でも高い踏破性を実現させようというのが、このディバイスの狙いどころであるわけだ。

水平基調のインテリア。ステアリングスポークにはオーディオ類の操作ボタンが配置される。トラフィックジャムアシストなどドライバーアシスト機能の操作スイッチはコラムタイプ。ATセレクターまわりにはグリップコントロールなどのスイッチを集約
中央には8インチのタッチスクリーンを装備。下部にはエアコン関連の操作スイッチを配置
メーターの表示タイプも複数種類用意

 3席セパレートのデザインが与えられたリアシートは、それゆえに「2人でゆったり座ろう……」といった場面では時にマイナスに働くことにもなる一方で、4名乗り+長尺物搭載といった特定のシーンでは大きな強みを生みだすことになる。

 そもそも、シートアレンジ時はもとより、後席使用時でも広大なラゲッジスペースが確保されるのも、このモデルならではのパッケージングの特徴。

 いずれにしても、長期のバカンスに大量の荷物と共に出掛けることが当たり前の欧州発のモデルらしく、“ゆったり乗れて、たっぷり積める”というのが、C5 エアクロス SUVのパッケージングの基本であることは間違いない。

シートは「Citroën Advanced Comfortプログラム」に基づいてシートクッション素材のポリウレタンフォームを徹底的に研究し、業界平均に対して密度の高い独自の高密度フォームを採用。シート表皮中央部にはさらに15mm分レイヤーを重ねることで、座った瞬間の当たりの柔らかさとなじみのよさを向上させている。座り心地、ホールド感は抜群だ
ラゲッジスペースは通常時580L、リアシートをスライドさせると670Lに拡大。さらにリアシートバックを折りたたむと最大1630Lまで容量が増える

想像以上の加速感

 搭載エンジンが1.6リッターのターボ付き直噴ガソリンユニットとなったことで、従来のディーゼルモデル比での車両重量は120kgほどのマイナス。最大トルクは150Nmと大幅ダウンではあるものの、発生回転数がわずかに1650rpmとディーゼルユニット以上に低いポイントにあることも大きな特徴だ。

最高出力133kW(180PS)/5500rpm、最大トルク250Nm/1650rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせ、前輪を駆動する。WLTCモード燃費は13.8km/L

 実際、スタートをしてみれば数字ほどのトルクの落ち込みは感じられない。それどころか、重量低減に加えて前述のようなエンジンのトルク特性もあり、「思った以上に軽々と加速をしてくれる」というのが実際の第一印象でもあった。

 同時に、スペック上では“低速型”と思えるそんなエンジンが、高回転域まで引っ張ってもさしたる頭打ち感を示さず、意外にも「威勢よく回ってくれる」点にも好印象を抱けたもの。さらに、隣り合うギヤ同士の細かなステップ比とワイドな変速レシオを両立させ、巧みな変速を行なう8速ステップATの貢献度も大きく、ディーゼルユニットに大きく後塵を浴びるのでは? という当初の予想を覆して、なかなかの底力を味わわせてくれることになったのである。

 さらに、加速力のみならず快適性の面でも、優れたポテンシャルを備えるのがこのガソリンエンジン。前述のように低回転域で十分以上のトルクを発してくれるので高回転域まで引っ張る必要性が薄く、日常シーンでは早めのアップシフトが繰り返されるために静粛性に優れているのだ。

 確かに、ディーゼルモデルの圧倒的と言えるトルク感には捨てがたい魅力があることは間違いなし。一方で、こうしてガソリンモデルが発する動力性能も、予想と期待をした以上だったのである。

前席は“ハイドロニューマチックの現代的解釈”を感じる乗り心地

 実は、2種類のパワーユニットが出揃ったことで「どちらを選ぶか?」という悩ましさを加速させることになったのは、ディーゼルモデルに対して大いに軽快感を増したそのフットワークの印象でもあった。

 前述120kgという重量差のうち、フロント側が90kgほど軽くなったことにより前輪負担が減少をした印象は、特にワインディング路へと乗り入れると明白だ。試乗中に遭遇をしたヘビーウェットの路面の下でもアンダーステアの気配もなく、また前輪駆動モデルでありながらもトラクション能力の不足を感じさせることもなく、思いのほか“ガンガン走っていける”という実力はちょっとばかり驚かされるものでもあった。

 同時に、「シトロエン車の真骨頂」と表現をしたくなる、ふんわりと優しい乗り味も大きなみどころ。実際、通常のダンパーにセカンダリーダンパーを追加した“PHC”(Progressive Hydraulic Cushions)なる独自のサスペンションシステムが、“ハイドロニューマチックの現代的解釈”というキャッチフレーズを謳いたくなるのもさもありなん、と思わせてくれることになったのは事実だ。

 一方で、実はそうした好印象を抱くことができたのはフロントシートにおいてのみ。リアシートへと移動するとそうした感触が大きくダウンすることになったのは付け加えておく必要があるだろう。

 すなわち、後席で感じる乗り味は路面凹凸を乗り越えた際のショックがより直接的で、“ハイドロニューマチック”を彷彿……とはとても言えないもの。端的に言って、これほどまでにシートポジションで印象が異なるモデルは初めての経験でもあったのだ。

 かくして、乗り味という視点から評価を行なえば「2+2的な仕上がりの持ち主」と言わざるを得ないことにはなったものの、それでも個性豊かなルックスと実用性に富んだパッケージング、そしてディーゼルに匹敵する動力性能と(フロントシートでの……)優しい乗り味は、ガソリンエンジンを搭載したC5 エアクロス SUVの大きな魅力であることは間違いない。

 高速クルージングを大いに得意とするディーゼルバージョンに、特に街乗りシーンでの軽快さ機敏さに富んだガソリンバージョンと、C5 エアクロス SUVは、2つの走りの個性をそろえたシトロエン流SUVなのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:安田 剛