試乗インプレッション

満を持して登場したシトロエン初SUVの「C5 エアクロス SUV」。コンパクトな「C3 エアクロス SUV」と同時試乗

個性は違えど快適性バツグンな乗り心地

 2019年にちょうど100周年の節目を迎えたシトロエン。人々の“移動の自由”と“自由な移動”を支え、それをコンフォート(快適)なものにするための開発と探求の積み重ねこそが、シトロエンの歴史であると伝えるリリースに、まったくその通りだと深くうなずいてしまった。

 シルクハットを被ったままでも乗れるようにと、ユニークなシルエットに生まれた「2CV」。オイルを用いた独創的な「ハイドロニューマチック・サスペンション」。それらは世間から見れば一風変わった手法でも、まだ世の中になかったものだとしても、移動を快適にするために必要と思えば実現し、乗る人に新しい世界を見せてくれるのがシトロエンの大きな魅力だ。

 今回は、世界中でまだまだ人気が続いているSUVで、どんなシトロエンの世界を見せてくれるのか、とても楽しみに試乗した。

まるも亜希子がシトロエン初のSUV「C5 エアクロス SUV」「C3 エアクロス SUV」に試乗

 まずは、5月28日に発売された「C5 エアクロス SUV」。カスタマーがシトロエンに期待するものを持つだけでなく、市場に溢れかえっているSUVだからこそ、それらにユーザーがどんな不満を持っているのかを徹底してリサーチし、とくに多かった3つをしっかりクリアにしてきたという。その3つとは、居住性、シートアレンジ、ラゲッジの使い勝手。感心したのは、後席が3座独立したシートとなっており、前後スライドが150mm、リクライニングが5段階に調整できるということ。シートの作り自体も入念に行なわれていて、表層部に15mmの柔らかいレイヤーを置き、その下には高密度ウレタンフォームを置くことで、身体をソフトに優しく包みながら確実にサポートするシートが完成したという。

 さらに、C5 エアクロス SUVの“隠れた目玉装備”とも言えるのが、魔法の絨毯のような乗り心地と絶賛されたハイドロニューマチック・サスペンションを現代的解釈して開発された、PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)だ。これは15年前のパリ=ダカールラリーで優勝した、ZXラリーレイドに搭載されて以来、WRCに転向してからもシトロエンのラリーカーを支えてきた技術。悪路を安全に速く走るためのノウハウが積まれてきた技術を、ノーマルカーで一般道を快適に走るために応用したのがPHCということになる。

撮影車両は「C5 エアクロス SUV SHINE BlueHDi」。ボディカラーは「ブルー チジュカ」で、ルーフカラーを「ノアール ペルラネラ」に変更するオプションのバイトーン ルーフを選択。ボディサイズは4500×1850×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2730mm。最小回転半径は5.6m
18インチアロイホイールにはミシュラン「LATITUDE TOUR HP」(235/55R18)を組み合わせる
サスペンションは“魔法の絨毯”のような乗り心地を生み出すという、シトロエン最新の「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」を装着。ショックアブソーバー内にセカンダリーダンパーを組み込むことで、これまでのシステムでは吸収しきれなかったショックを抑制して、フラットライドを実現する

 パワートレーンは1種類で、177PS/400Nmの直列4気筒 2.0リッターディーゼルターボ+8速AT(EAT8)というコンビネーション。排出ガス処理はAdBuleを使うシステムで、最新の欧州環境基準をクリアしている。駆動は2WD(FF)のみだが、グリップコントロールとヒルディセントコントロールが装備されて、本格的なオフロード性能を発揮できると謳う。確かにタイヤはマッド&スノーのミシュランを履いており、WRCでのノウハウを生かした車両制御システムで、マッド/スノー/サンド/ESC OFFがダイヤルで選択できるようになっている。今回はオフロードを試す機会がなかったが、果たしてFFでどこまで攻められるものなのかが気になるところだ。

C5 エアクロス SUVは最高出力130kW(177PS)/3750rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/2000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載。トランスミッションは8速ATを組み合わせ、前輪を駆動する。WLTCモード燃費は16.3km/L

 ただし一般道を走りはじめると、そんなことはもうどうでもいいと思えるくらい、気持ちのいい走りに浸ってしまった。駐車場を出て、ものの数十m走っただけなのに、早くも「これはいい!」と実感できるクルマというのは珍しい。路面への当たりがフカッとしつつ、しっかり踏ん張っている安定感といい、ステアリングとタイヤがダイレクトにつながっているかのように、しっくり馴染んで思い通りに動く感覚といい、すべての操作が心地よくて驚く。

 そして一般道に出て速度を上げていくと、その心地よさが今度はエンジンの回転とともに広がっていく。加速と減速のつながりが一筆書きのようで、坂道でも一瞬のもたつきもなく、カーブでは荷重移動がじわりと効いてきれいな弧を描いてくれる。後席の乗り心地も、路面の荒さを覆い隠すものではないが、当たりがソフトでフラット感もあり、とても快適な部類に入ると感じた。

 1つ気になった点は、後席の座面が背もたれに向かってやや傾斜しており、身体をシートに預けやすくなっているのだが、そうすると膝が持ち上がり気味になるため足裏がフロアにぺたりと置けず、小柄な人だとブラブラ浮いてしまうだろうということ。身長165cmの私で、深く腰掛けるとつま先立ちのような状態になるので、ちょっと落ち着かないかなと感じた。

 とはいえ、ナッパレザーを用いたシートやブラウンカラーのインテリアは、肌触りもシットリとして心が満たされる空間だ。静粛性も高く、車内の空気を清浄に保ってくれるAQC(エアクオリティシステム)で花粉や埃、PM2.5まで取り除いてくれるという、どこまでも快適性を追求した室内は本当に気持ちがいい。

シックな印象にまとめられたC5 エアクロス SUVのインテリア
ステアリングまわり。12.3インチのフルデジタルインストルメントパネルを採用し、スピードメーターやタコメーターといった情報のほか、シトロエン伝統の「ボビンメーター」も表示できる
シフトノブまわり。ドライブモードの選択スイッチやヒルディセントコントロールスイッチなどを集約
2WDモデルであっても悪路を走れるよう、車両制御システム「グリップコントロール」を採用。舗装道路で使う「ノーマルモード」、雪道や凍結路での走行を想定した「スノーモード」、ぬかるみの走行を想定した「マッドモード」、砂地に埋もれないようにする「サンドモード」、ESCをOFFにする「オフモード」を備える
撮影車はブラウン&ブラックのナッパレザーシートやフロントシートヒーター、パノラミックサンルーフなどをセットにしたオプションの「ナッパレザーパッケージ」を装着。リアシートは3席独立シートとなる

 またラゲッジスペースも通常で580L、後席をスライドすれば670L、後席を折りたたむと1630Lまで拡大し、スッキリとフラットなスペースになる。先進の安全運転支援技術ではカメラの感度がアップしており、全車速ACCでは車線の中央をキープするだけでなく、右寄り・左寄りなどドライバーの任意の位置をトレースしてくれる。

ラゲッジは40:20:40分割が可能。後席の中央部分だけを倒して長尺物も載せられる。ラゲッジ容量は通常のリアシートポジション時は580L、リアシートを最前方にスライドさせると670L、リアシートバックをすべて折りたたむと1630Lまで拡大できる

 そんなC5 エアクロス SUVは、シトロエンらしさ満載でありながら、マニアな人だけでなくクルマに詳しくない人にもオススメできるSUV。そして、スポーティとかタフ&ワイルドではなく、本物のコンフォートを求める人にぴったりのSUVになっていると感じた。

個性的でコンパクトな「C3 エアクロス SUV」はタイヤがキモ!?

 さて、今回はもう1台、7月16日に発売されたばかりのC3 エアクロス SUVも出番を待っていた。全長4.1mほど、全幅1.7mほどのコンパクトSUVで、シックな印象が強かったC5 クロスとは違い、世界中で大ヒットしているC3同様にモダンでポップなシトロエンワールドが印象的だ。

 どれも2トーンとなるボディカラーは全6タイプで、ドアミラーやルーフレールなどが別色になる「カラーパック」にはオレンジ、シルバー、ホワイトが用意されていて、どの組み合わせでも個性的で遊び心いっぱいのエクステリアが楽しめそう。インテリアにもヘッドライトベゼルのモチーフが使われていたり、シートと同じファブリックがダッシュボードに使われていたりと、かなりオシャレで楽しげで、気軽な気持ちで乗れそうな空間になっている。

撮影車両は「C3 エアクロス SUV SHINE」。ボディカラーは「ナチュラル ホワイト」で、ヘッドライトベゼルやドアミラー、ルーフレール、リアクォーターパネルステッカーをアクセントカラーでコーディネートをするカラーパッケージの「オレンジ」を選択。ボディサイズは4160×1765×1630mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2605mm。最小回転半径は5.5m
足下は16インチアロイホイールとブリヂストン製「トランザ T001」(195/60R16)の組み合わせ
リアクォーターパネルはステッカーをプリントすることもあって、ポリカーボネート製となる
特徴的なバンパーデザインでタフさを演出
C3 エアクロス SUV SHINEのインテリア。グレーのシートやオレンジの差し色がポップな印象を与えている。また、インパネにもシートと同じ生地が用いられ、室内に暖かみを加えている

 パワートレーンは直列3気筒 1.2リッターガソリンターボ+6速AT(EAT6)のみで、こちらも最新の欧州環境基準に適合し、駆動は2WD(FF)のみ。グリップコントロールがオプション設定となっていることから、シティユース寄りのSUVと位置付けているのだと分かるが、ラゲッジは通常で410L、後席をスライドすると520L、折りたたむと1289L。さらに上級グレードなら助手席も折りたためて2.4mの長尺物まで積めるようになるというから、サーファーやサイクリストなどアクティブな趣味を持つ人たちにも頼もしいSUVだ。

C3 エアクロス SUVは最高出力81kW(110PS)/5500rpm、最大トルク205Nm(20.9kgfm)/1750rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボエンジンを搭載。トランスミッションには6速ATを組み合わせ、WLTCモード燃費は14.7km/Lとなる

 走り出してみると、110PS/205NmとC5 エアクロス SUVの約半分のトルクとなってしまうこともあり、出足の加速はちょっとスカスカ感がある。それでもすぐに軽快感が顔を出し、キビキビとした走りを見せてくれた。上り坂などで少し速度を上げていくと、3000rpmあたりからノイズが大きくなって、“がんばってます感”が強まってしまうが、パワーはしっかり出ていて、人によってはこの方が楽しいと感じるかもしれない。わるく言えばあちこちに粗さがあるものの、それが味であるとも言える、ちょっと好き嫌いが分かれる走りのフィーリングかなと感じた。

 ただ乗り心地に関しては、最初にサマータイヤを履いた16インチモデルを試すと、ややゴツゴツが大きめでカジュアルな印象だったのだが、のちにマッド&スノータイヤの17インチを履いたモデルを試すと、あら不思議。路面からの当たりが柔らかくなり、段差を乗り越えた後の収まりもよく、上質感がアップした印象。ステアリングのクイックさは16インチの方が目立ち、17インチはややふわっとしたフィーリングになるが、後席の快適性まで求めるならば17インチモデルがオススメだ。

 というわけでC5 エアクロス SUV、C3 エアクロス SUVと試乗してみて、しみじみと「やっぱりシトロエンは面白いクルマを作るものだ」と感心。DSというもう1つのブランドがあるからこそ、シトロエンワールドがより濃厚に表現できるという面もあり、SUVになってもかなり濃いめのシトロエンが見え隠れしていた。快適なSUVを探しているならC5 エアクロス SUV、ご近所さんと被らないSUVならC3 エアクロス SUVで間違いない。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学