試乗インプレッション

スバルの歴代「レガシィ」と「レヴォーグ」に乗って感じた、進化した“ツーリングワゴン魂”

時代に合ったワゴンづくりの一端に触れるグランドツーリング

 スバルのツーリングワゴンの歴史は古く、1960年代の「スバル1000」の時代に遡ることができる。FFによる先進的レイアウトはフラットな荷室を生み出し、4WD化によって、機動力が一気に上がった。“シンメトリカルAWD”の原点である。そのコンセプトは「レオーネ」に引き継がれ、ダブルルーフのワゴンの独特な雰囲気も人気だった。

 そして「レガシィ」の登場である。「磨いてきたのは走りです」のキャッチコピーで登場した骨太のレガシィには、伝統のツーリングワゴンもラインアップされていたのは当然だ。プラットフォームからエンジンまですべてを一新したスバルの野心作で、世界戦略車としての重責を担っていた。レガシィに使われていたグランドツーリング(GT)のネーミングは他にも使われているが、スバルにとっては、ロングドライブで真価を発揮する意味を込めてブランドづくりをしてきた特別なネーミングだ。

 私事で恐縮だが、レガシィではパワーステアリングのチューニングを巡って、3代目レガシィの主査で後にSTIの社長を務められた桂田さんと親しく懇談したのがよい想い出だ。この仕事をやってきたおかげで多くの自動車エンジニアとお付き合いいただいたが、桂田さんのエンジニア魂と人柄は強く印象に残っている。

レストアされた歴代のレガシィが揃っていた

 今回の1泊2日のグランドツーリングの試乗車は、3代目と4代目のレガシィ、そしてレガシィツーリングワゴンの系譜を引き継ぎ日本専用モデルとして登場した「レヴォーグ」だった。

 ルートは東京から中央自動車道で勝沼まで行き、ブドウ畑の中のレストランで昼食。クルマを乗り変えて再び中央道を南諏訪まで行き、車山高原経由で再度中央道に乗って南下し、長野県の昼神温泉を目指す。2日目は三度クルマを変えて昼神温泉からいったん木曽山中に入り、木曽馬としばしのんびりした時間を過ごしてから、江戸時代から街道筋の宿場町として有名な奈良井宿を経由して、クルマを変えて恵比寿までのロングドライブである。

 われわれは「レヴォーグ 1.6 STI Sport EyeSight」、4代目のBP型「レガシィ ツーリングワゴン 2.0GT」、「レヴォーグ 2.0 STI Sport EyeSight」、3代目のBH型「レガシィ ツーリングワゴン 250S」と、4台のツーリングワゴンを乗り継いだ。

 旅はいつもワクワクさせてくれるが、最初の足となったのは深紅のレヴォーグで、いっそう気持ちが上向いてくる。

まずはピュアレッドの「レヴォーグ 1.6 STI Sport EyeSight」からスタート

レヴォーグはレガシィのパッケージを引き継ぎつつ、運転支援システムを装備

 中央道を一路勝沼へ。レヴォーグは全長4690mm、全幅1780mmのワイドボディを持つが、サイズ感が掴みやすく狭い道でも走りやすい。キャビンも適度に締まっているので、運転しやすいクルマだ。コクピットではディスプレイの色使いが華やかで楽しくなってくる。レヴォーグ STI Sportはビルシュタイン製ダンパーを使ったスポーツ仕様で、荒れた路面では少し反発力が強かったが、高速になると落ち着いてくる。装着タイヤも225/45R18と大径で、グリップ力やステアリングのレスポンスなども高い。

 ちなみに、高速道路では全車速対応のEyeSightを最大限に活用させてもらった。設定速度を決めて前走車に追いつけば追従してくれる機能は、昨今では軽自動車にも装着されているが、1.6リッターターボとの組み合わせでは余力もあって、ドライビングアシストとして楽をさせてもらった。斜め後方の後続車の接近を知らせるアラートも認識しやすく安心だ。ただ、前走車があった場合の車間追従性と制動が早めだとさらに信頼感は高くなると思う。それにしても最新のクルマは運転支援システムが充実していてありがたい。

 今では当たり前のように付いているEyeSightは、勝沼で乗り換えた16年前の2003年式BP型レガシィにはまだ装備されていない時代だ。

 BP型レガシィは16年前のクルマとは思えないほど体によくなじむ。最近、最小限のレストアをしたとのことだが、ダッシュボードなども当時のままで歪みもない。クリーンなエクステリアデザイン同様に、インテリアも清潔感があって好ましい。レヴォーグのような華やかさはないがシンプルで見やすい。明るくルーミーなキャビンは、現在のクルマとは違った解放感がある。サッシュレスドアも魅力だった。

 このモデルから全幅が1730mmと5ナンバー枠を超えて3ナンバーサイズとなった。現在のクルマほど安全対応が厳しくなかったので車内も大きく取れ、後席も適度な広さを持っている。個人的には歴代レガシィの中では最も好きなモデルでもある。BP型レガシィは激戦だった2003-2004 日本カーオブザイヤーを獲得している。

4代目(BP5型)の「レガシィ ツーリングワゴン 2.0GT」。発売開始年に合わせ、ナンバーは「2003」。吸排気系構造を中心にエンジン構成部分の約8割を新設計し、等長等爆エキゾーストシステムを採用。パワートレーンはツインスクロールターボ搭載の水平対向4気筒DOHC 2.0リッターターボと5速ATの組み合わせ。なお、登場当時のプレスリリースには「グランドツーリングカーとしての『本質』を追求した」と記されている

 日本のツーリングワゴンを引っ張ってきた矜持がデザインはもちろんのこと、使い勝手のよいラゲッジルームやバランスのよいハンドリング、乗り心地などに表れている。

 フラット4のターボエンジンは相変わらず高回転で力を出す素性を持ち、グイグイと加速していく感触は当時と変わらない。また、5速のトルコンATはショックもなく、適度なルーズ感が余裕の走りを感じさせる。

 ハンドリングはきびきびとして、スポーティなツーリングワゴンに仕上がっており、ビーナスラインのツイスティなワインディングコースでも、小気味よくドライビングを楽しむことができた。ちょっと重めのパワーステアリングと相まって、程よい感触のスポーティさを持っている。折から降り出した雨にも安定した接地感を持ち、中央道では直進安定性の高さもデビュー当時を思い出させてくれた。クルマの基本性能の大切さを改めて感じた次第である。

ビーナスラインのツイスティなワインディングを小気味よく走る

 長野県の昼神温泉ではたっぷりとしたお湯に心温まり、星空鑑賞ツアーに出かける。日本一の星空と言われる阿智村にある「浪合パーク」は標高1200mの高地にあり、スバルが星空ツアーを行なっているポイントでもある。今回はメディアとしてこれに便乗させてもらった。残念ながら曇り空だったが、案内役を務める“星兄”の軽妙な解説を聞き外に出てみると、幸運なことにわずかに星が見え出し、満月に近い月も顔を出した。月の明かりはかなりの照度で、満月では月が隠れる新月の時よりも120倍も空が明るいという。北斗七星や白鳥座の一端も顔を出し、昔、手に取っていた星座早見表を思い出した。

 天体望遠鏡では月のクレーターをしっかり見ることができた。月は小さな双眼鏡でもクレーターを見ることができるので、もしチャンスがあれば夜空を見上げてみてはいかがだろう。

星空観賞ツアーで訪れた“日本一の星空”という長野県阿智村の「浪合パーク」。写真右が星空鑑賞会でガイドを務める“星兄”(ほしにぃ)
星兄の軽妙な語り口で星座や星空にまつわる話を聞きながら、雲の切れ間からぽつぽつと見える星を探す
用意された望遠鏡では月のクレーターがはっきりと確認できた

レガシィのグランドツーリングの思想を紡ぐレヴォーグ

 翌日は2.0リッターのレヴォーグ STI Sport EyeSightで、昼神温泉ユルイの宿を後にする。1.6リッターとは違ったちょっとどっしりとした感触があって、排気量アップはトルクの増大だけではないことを確認できた。カメラマンの大きな荷物もすっぽりと飲み込むラゲッジルームはやはりありがたく、ツーリングワゴンの王道を行く。

「レヴォーグ 2.0 STI Sport EyeSight」(マグネタイトグレー・メタリック)。ボディサイズは4690×1780×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mm。最小回転半径は5.5m。足下はダークグレー+切削光輝の18インチアルミホイールに、ダンロップ「SP SPORT MAXX 050」(225/45R18)の組み合わせ
レヴォーグ 2.0 STI Sport EyeSightが搭載する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジン「FA20」型は、最高出力221kW(300PS)/5600rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/2000-4800rpmを発生。トランスミッションはCVTのスポーツリニアトロニック(マニュアルモード付)
ボルドーとブラックの本革シートが目を引くインテリア
メーターはブラックとレッドのスポーティなイメージ。マルチファンクションディスプレイにはブーストメーターを表示できる
シートのヘッドレストに「STI」のロゴが入る

 安定したフットワークで標高1300mの開田高原に寄る。昨日とは打って変わって爽やかな天候になって、ソバ畑の白い花が印象的だ。開田高原の牧場には木曽馬が遊んでおり、人懐っこくそばまでやってきて草を食む。木曽馬は小型の馬種で、戦国時代の武士が乗っていたのもこの種類だと言われており、ちょっと騎馬戦のイメージが変わってくる。

開田高原ではちょっとずんぐりとした日本古来の種である木曽馬がのんびり草を食んでいた

 レヴォーグは牧場の風景にもよくマッチし、さりげない感じがなんともスバルらしい。木曽馬ともう少し遊んでいたかったが、仲間が呼んだのかいつの間にか柵から離れて行ってしまった。われわれも木曽馬の里から中山道の奈良井宿に向かう。

 ここは2018年のラリーの際にラリー車で寄ったところだが、今回は歩いて散策することができた。名物のそばを食し、開いているお店に寄ってみる。民芸品はもちろん、ワインや日本酒などのお店が点在しているだけでなく、実際に住民が古民家で生活しているため奈良井宿自体が生き生きとしており、よく整えられている。長い街並みは散策していて飽きないが、限られた時間ではすべてを見るのは難しい。

奈良井宿は古い街並みながら生き生きとした雰囲気がある

 ここからは3代目のBH型レガシィ ツーリングワゴン 250Sのハンドルを握る。2001年式である。

 自然吸気のフラット4/2.5リッターに4速AT。レガシィが歩んできた歴史を感じさせる味わいがあり、スバルのフラグシップたらんとする志を感じる。この個体自体は18年あまりの歳月がクルマに緩さをもたらし、例えばサスペンションブッシュなどは往年のカチリとした感じはなくなっている。それでも日常の使用に対して十分実用的だ。

発着地となっていた奈良井宿の駐車場にはC12形蒸気機関車が置かれていた。ここからは3代目(BH型)「レガシィ ツーリングワゴン 250S」に乗る。こちらもナンバーは発売年に合わせた「1998」。パワートレーンは自然吸気の水平対向4気筒DOHC 2.5リッターエンジンと、4速ATの組み合わせ。このモデルから、現在まで続く「六連星(むつらぼし)」のエンブレムが採用されたという

 BH型はすべてがゆったりした動きで、BP型とはがらりと違っていた。堂々とした走りはそれまでのレガシィの集大成と言ってもいい。どっしりとした直進性、ロールを伴いながらの素直なハンドリングなど、その後のカチリとしたBP型レガシィとは異なるドライブフィールだ。

 試乗したのが250Sなので、スポーツ性の高い2.0リッターターボが注目されがちのBH型レガシィの中でもユニークでゆとりを感じさせるようなグレード設定だったが、レガシィの一面を知る意味で興味深い経験だった。BH型までは5ナンバーサイズのボディだが、後席も含めてキャビンは広くラゲッジルームも大きくツーリングワゴンらしい。

 エンジンはフラット4の2.0リッターよりは当然トルク感があるが、やはりこの当時のスバルエンジンのさがで、高回転になるといっそう元気になるタイプ。高速巡航時に追い越しなどが発生した時も力強く走ってくれるので頼りになる。

 ATは長年の使用でさすがにショックがあるが、4速トルコンらしいおおらかな感触が懐かしい。ロングドライブでは、シートにへたりがあってBP型に比べると腰の負担が大きかったが、この世代は座面の圧力分布のバランスがあまり感心しなかったのを思い出した。

 レガシィとレヴォーグによるグランドツーリングは2日目の夜、恵比寿で終了した。スバルが開拓して連綿と受け継がれたツーリングワゴン魂は、日本国内ではレガシィからレヴォーグに受け継がれて進化している。今回の旅では各世代でその時代に合ったベストなワゴンを作ろうというスバルの強い姿勢を感じ、体験することができた。SUVともセダンとも違う走りとユーティリティ、そしてツーリングワゴンがもたらすライフスタルを見直す旅でもあった。

 さて、スバルは次世代のツーリングワゴンで何を伝え、どんな世界を見せてくれるのだろう?

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学