試乗インプレッション

スバルの3代目「レガシィ」(BH型)。2.0リッター“フラット4”&2ステージツインターボ時代を振り返る

商品力を向上させた渾身の“グランドツーリングカー”

 水平対向エンジン、シンメトリカルAWD、独創的な技術を確立してきた富士重工業(現スバル)が経営的な基盤を確立したのが1989年にデビューした初代「レガシィ」BC/BF型だった。

 それまでの富士重工のクルマ造りを結集し、商品力を一気に向上させ、デザインはもちろん、プラットフォームからエンジンまですべてを一新した渾身の1台である。力強いブリスターフェンダーや航空機のキャノピーをイメージさせるような各ウィンドウのつながりを強調し、洗練されたデザイン、名機EJ型エンジンも初代レガシィから搭載された。

 そして、ツーリングワゴンには「レオーネ」で芽吹いたグランドツーリングへの憧憬にあふれていた。

現在のレヴォーグにも繋がる「より安全に、より早く、より遠くへ、より快適へ」という“グランドツーリング思想”を詰め込んだ3代目「レガシィ」(BH型)に日下部保雄が試乗

 1993年に登場した2代目のBD/BG型レガシィは初代を熟成したモデルで、高い評価を受けた初代のコンセプトを受け継いでいた。デビュー時はバブル崩壊で苦戦する自動車業界だったが、全幅1700mm、2.0リッター以下という5ナンバーサイズを踏襲しながら、上級車に負けないキャビンスペースとパフォーマンスを実現してユーザーの高い支持を得た。全長は50mm伸びて4545mmから4595mmになり、それに応じてホイールベースも2580mmから2630mmへと拡大されている。その分が後席に振り当てられたことも居住空間の拡大につながっていた。

3代目 レガシィ ツーリングワゴン(BH型)「GT-B」。ボディカラーは「マスタードマイカ」。ボディサイズは4680×1695×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mm、最小回転半径は5.6m
フロントグリルには六連星エンブレムではなく、オリジナルのエンブレムを装着
ボンネット上のエアインテークは少し薄め
シンプルなデザインの17インチホイール。タイヤサイズは215/45R17
太めのマフラーカッターでスポーティなイメージのリアまわり
“GT”とビルシュタインのエンブレムが輝く
ルーフレールを標準装備
1989年の初代レガシィ発売から現在のレヴォーグまで、ツーリングワゴンのフォルムは30年以上引き継がれている

 そして今回試乗したのは1998年に登場した3代目となるBE/BH型レガシィだ。「レガシィを極める」。開発コンセプトは明快。主査は後にSTIの社長となった桂田勝さんである。

 開発主査はそれぞれ魅力ある人ばかりだが、桂田さんは特に印象深い。航空畑のエンジニアだが、研究熱心でドライバビリティでは自分で納得するまで試してみるという人だった。朴訥としたしゃべり方の端々にも真摯さが伝わり、すぐにその魅力に引き込まれてしまった。

 ある時、レガシィの電子制御パワーステアリングに段付き感があるという私を連れて、さまざまなバリエーションのコーナーを持つ箱根に行った。何度も制御を変えてはデータを取って検証する作業が続く。結論として桂田さんを納得させるものではなかったと思うが、懐かしくも楽しい思い出だ。

2ステージツインターボを存分に感じる走り

 目の前にあるゴールドのレガシィはまさに1998年10月登録のツーリングワゴン。内外装はレストアされており、当時の華やかな雰囲気を伝えている。さすがにシートは22年の年月を感じさせるが、表皮はしっかりしている。ダッシュパネルも歪みもなくキチリと収まっているのに感心した。この時代のスバルは内装の質的向上に躍起となっていた時代で、3代目レガシィも表面のシボや造詣などが丁寧で、当時の熱意を感じさせる。現在のクルマのようにドライバーに伝える情報が多くないので構成はシンプルで、メータークラスターに入るアナログメーターもスッキリして見やすい。

 このレガシィからはすべてのグレードが4WDとなって、レガシィの路面を選ばないグランドツーリングカーへの道は確固たるものになった。

レガシィ(BH型)のインパネ
MOMO製ステアリング
シンプルな2眼メーター
シフトまわり
ステアリングコラム右側にはヘッドライトのレベリングスイッチを配置
ペダル
マッキントッシュのオーディオをオプション設定。今となっては懐かしい、カセットに対応する
ラゲッジにもマッキントッシュのスピーカーを配置する

 ボディサイズは4680×1695×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mmのリアオーバーハングの長い伸びやかなスタイルを持つ。その長さはリアシートとラゲッジルームの拡大に充てられている。

 後席はステップルーフのためヘッドルームに余裕があり、レッグルームも広く適度に落ち着く。ただ前席が低く落とされているのでつま先がひっかかるのがたまに傷だ。

 ラゲッジルームは床面が高いものの、奥行きがありフラットで広い。BE/BH型からリアサスペンションがストラットからマルチリンクになり、サスペンションタワーがなくなって広がった成果だ。容量はグランドツーリングにふさわしい。

シート
広々としたラゲッジルーム。後席シート座面をチップアップさせてフルフラットにすることもできる
ロール式の6:4分割ELRカーゴネットをリアシートバックレストに内蔵
カーゴネットはリアシートを倒しても使える
ラゲッジボード下のスペースは控えめ。このころはまだトノカバーが収納できなかった

 ドライビングポジションを取ると、最近のクルマに比べると着座位置は低い。ただ、ダッシュボードも低く抑えられているので視界はわるくない。ちなみにボンネット上にあるインタークーラー用エアインテークも気にならない。

 エンジンは2.0リッターの“フラット4”に2ステージツインターボを引き続き搭載している。アクセルを踏むと多少のタイムラグと共に、ターボの「シューン」という音がして懐かしい。

水平対向4気筒DOHC 2.0リッター2ステージターボ「EJ20」型エンジンは、最高出力191kW(260PS)/6000rpm、最大トルク319Nm(32.5kgfm)/5000rpmを発生。トランスミッションには4速ATを組み合わせる

 往年のパンチ力はないものの、ターボの存在感をタップリと感じることはできる。この時代の2ステージターボは低速回転域と高回転域の挟間でトルクの谷間があることを思い出した。走行中に感じられるわずかなトルクの切れ目も、今となっては旧友に会った思いだ。

 ATは4速のトルコンタイプ。シフトレバーはメルセデスベンツから採用されたゲートを切ったタイプで「あー、そうだったな」とこちらも懐かしい。トラスミッションはさすがにシフトアップ時の時間を置いたショックが伝わってくるが、アクセルワークにちょっと気を配れば問題なく走れる。

 ハンドリングは老体ゆえ、桂田さんと箱根を走り回ったときのようなキレはないが、少しおっとりとしたところが古いレガシィを走らせるというグランドツーリング観にはちょうどいい。

 サスペンションも年式相応にヤレがあり、例えばビルシュタインは倒立特有のいい意味でのフリクション感は失って、上下収束もシャッキリしていない。ブッシュ類もそろそろというところだ。しかし、これらのパーツは交換すれば元の元気を取り戻せるだろう。今は「戦い終えて日が暮れて」という穏やかな気持ちでステアリングを握っていられる。

 22年振りに乗るレガシィは、世相を感じさせる明るいゴールドカラーもさることながら、改めて歴代レガシィが作り上げてきたグランドツーリングの世界観を感じることができ、気持ちが豊かになった。

 この伝統を継承したレヴォーグが、また新たな歴史を作っていくのだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛