試乗インプレッション

「CX-5」とどう違う? マイチェンしたマツダの3列シートSUV「CX-8」に乗った

運転者だけでなく、同乗者にも便利で嬉しい機能を多数追加

CX-5と映った写真と見比べるとCX-8がいかに大きいか分かると思う

「CX-8」が2019年11月にマイナーチェンジ

 2017年9月に「CX-5」のストレッチ版として発表された「CX-8」は当初2.2リッターディーゼルターボでスタートしたが、2018年には2.5リッターの自然吸気とターボの2機種のガソリンエンジンを加えて選択幅が広がった。同時にハンドリングにこだわるマツダらしく、「G-ベクタリング コントロール」にはハンドルを戻す側の制御も加わった「プラス」に進化している。またこの時、衝突回避ブレーキの夜間歩行者認知機能や内外装の質的向上も行なわれていた。そんなCX-8は発売して以来、瞬く間に3列シートSUVの中で高い支持を集めている。

試乗車は2019年11月のマイナーチェンジで追加された新グレード「XD PROACTIVE S Package」(4WD/7人乗り)。ボディカラーの「スノーフレイクホワイトパールマイカ」は特別色で3万3000円高となる
TFT(Thin Film Transistor)液晶カラー7インチマルチスピードメーターを搭載。両サイドのメーターは通常の針が動くタイプで、中央のメーターが液晶になる
「XD PROACTIVE S Package」では、6人乗り/7人乗りとも全席に高級感が漂うブラックレザーシートを採用。さらに運転席と助手席にはシートヒーター&シートベンチレーションが内蔵される
7インチから8インチへ大型化されて見やすくなったWVGAセンターディスプレイ
タイヤサイズは前後とも225/55R19
シルバーメタリック塗装の19インチアルミホイール
マツダは2020年1月にCX-8の売れ行きが好調と公式リリースで発表している

 2019年11月のマイナーチェンジでは、主に質的向上が行なわれた。

 CX-8は3列シートSUVの中にあって居住空間が広く、座ってしまえばリラックスできるが、その移動空間をより快適にするために上級グレードには3列目シートにもUSB端子が装備されることになった。また、2列目がキャプテンシートの場合は前席センターコンソール後部にカップホルダーとUSB端子が設けられ、全席にUSB端子が付いて利便性が向上している。

 さらに2列目シ―トにシートヒーターとベンチレーションファンを装着した特別仕様車もあり、夏も冬も前後席で快適に過ごせるのはありがたい。もう1つ大きな改良点は床下トランクの形状変更で、従来モデルの65Lから84Lに拡大されている。3列シートを起こした状態でも機内持ち込みができるスーツケースが4個収納可能だ。ラゲッジルーム容量としては3列シートを使った場合でも242L、3列シートを倒すと775Lの大きな空間が出現し、かなりかさ張る荷物もなんなく積める。

一部グレードに設定された電動スライドガラスサンルーフ(チルトアップ機構付)。また、フレームレスの自動防眩ルームミラーも追加設定されている
2列目がキャプテンシートの場合(6人乗り)、運転席と助手席の間にUSBポートを備えたカップホルダーが用意された(25Sは除く)
Lパッケージにはナッパレザー素材を採用したウォークスルータイプのキャプテンシートが追加された
同乗者をおもてなしする特別仕様車「Exclusive Mode」には、2列目のアームレスト付コンソールを備えたキャプテンシートに、マツダ車初採用となる「電動スライド&リクライニング機構」や、シートと背中の間にこもる熱を吸い出してくれる「シートベンチレーション機能」(風量3段階調節)が装備され、前席と同等の快適さを誇る
3列目の左右に追加装備されたUSBポート(グレードによってオプション設定)
リアハッチには「パワーリフトゲート」(25Sは除く)が採用され、ボタンで開閉できる
シートレイアウトによる荷室容量の値
ラゲッジ下にあるサブトランクボックスの奥行きが、ボーズサウンドシステム非装着車は前モデル比+19Lの84Lで、装着車は前モデル比+8Lの56Lに拡大された

 いろいろと快適性が改善された2列目、3列目シートだが、特に7人乗りの3列目シートに入る際は、2列目シートをスライドさせる必要があり、その操作が結構重かった。Lパッケージではモーター駆動の「ワンタッチ・ウォークイン・スイッチ」が設定され、スイッチ1つでシートが動いてウォークインができるようになった。これなら子供でも自分で3列目シートに乗り込むことができる。

【マツダCX-8】2列目シートに採用される「ワンタッチ・ウォークイン・スイッチ」(17秒)

 CX-8のボディは4900×1840×1730mm(全長×全幅×全高)とLクラスだ。全幅はCX-5と同じだが、特に全長はCX-5よりも355mm長くなる。ホイールベースも長いため、最小回転半径はCX-5の5.5mから5.8mと大きくなっている。駆動方式ではディーゼルと同様に、どのガソリンエンジンでも2WD(FF)と4WDが選べるようになった。

 ちなみに、今回新たに設定された2.5リッター自然吸気ガソリンエンジン(25S)の4WDは318万4500円で(同じエンジンのFFが294万8000円)、お買い得感がある。また、ディーゼルターボの廉価グレードである「XD」はラインアップから整理された。そのほかに、4WDには新開発の「オフロード・トラクション・アシスト」が採用され、接地輪への駆動力伝達を最大化して、さまざまな路面環境において安心・安全の走行性能を実現している。

CX-5とCX-8のサイズ比較
CX-8ラインアップ
オフロード・トラクション・アシストのON/OFFスイッチはステアリング右下に配置

加速感よし、静粛性よし

 試乗したのは2.2リッターディーゼルターボ。SKYACTIV-Dはアイドリングこそ耳をすませば音が聞こえるが、走り出してからはディーゼルを意識することはまずない。最高出力は140kW(190PS)、最大トルクは450Nmで、約1.9t(4WD)の重量に対しても余裕があり、多人数乗車でも滅多にトルク不足は感じないはずだ。しかもエンジン回転も気持ちよく伸びていくので、高速道路での追い越し加速もストレスを感じない。ノイズだけでなく振動が小さいのも特徴で、これもSKYACTIV-Dが疲労の少ない大きな要因になっている。

搭載するSKYACTIV-D 2.2は最高出力140kW(190PS)/4500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgfm)/2000rpmを発生。4WDのWLTCモード燃費は15.4km/L

 静粛性ではノイズの遮断が進化した。リアから入ってくるノイズが小さくなったようで、耳障りな音がさらにカットされた感じだ。もともとCX-8は室内の静粛性が高かったが、さらに磨きがかかった。地道な技術の積み重ねがマツダらしく、そのこだわりがユーザーからの評価につながるといういい循環となっている。試乗日は晴天だったので確認できなかったが、雨がルーフを打つ音の減少にも効果があるという。また、100km/hクルージング時のエンジン回転数は2000rpmで、室内はまったく平和なものだ。

 CX-8はCX-5よりホイールベースが230mm長い2930mmのロングホイールベースだ。ほぼトヨタのミニバン「エスティマ」級の長さで、その分を3列目シートに回していることになる。ロングホイールベースはハンドリングにも影響している。CX-5と比べて、高速道路でのハンドルの微小な動きに対しては鈍い反応でゆったりしている。横風などでふらつかない限り安定感のあるものだ。

 ただ、重量があるのでいったん姿勢変化に影響を受けると、その収束はCX-5よりも時間がかかってしまう。これは機敏なハンドリングのCX-5に乗った直後だから余計に感じてしまうところだが、ロールやヨーの収束ではもう少しスッキリと収まってほしいところ。凹凸のある路面ではわずかにピッチングも残る。

 ハンドルの保舵感は、もう少しシットリすると多人数乗車のクルマらしくもっと落ち着きが出るのでないかと感じたが、ただユッタリとしたクルーザーに留まらないところがマツダが作る3列シートSUV、CX-8のいいところ。CX-5の延長にある活気にある走りも楽しめる。

 CX-8とCX-5のキャラクターは違うが、そのサイズは何かと便利な存在で、実は3列目をフルに使ったファミリーユースから大きな荷物を運ぶことが多いアウトドア派のアクティブユーザーまで幅広い層に訴える1台だ。

 別項でCX-5もレビューを記載しているので、合わせてご覧いただきたい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一