試乗インプレッション

マツダ「CX-8」商品改良。ガソリンモデル「SKYACTIV-G 2.5T」「SKYACTIV-G 2.5」を乗り比べ

 マツダグローバル販売の4分の1を占める「CX-5」。この後部を延ばして3列とした「CX-8」は、事実上マツダのトップモデルである。

 CX-8は当初、2列シートのCX-5とシュアを分け合う危惧もあったが、蓋を開けてみると販売は上乗せとなっており、2017年9月から1年で3万台を超えるヒット作となった。またユーザー層も想定以上に広がり、年齢問わず幅広いユーザーに支持されている。

2列シートの「CX-5」(左)、3列シートの「CX-8」(右)

 登場からまだ1年だが、さらに商品力を向上させるためにエンジンラインアップの拡充やサスペンションの改良などを行なって、外観だけでなく走りの質感を向上させている。

 エンジンでは従来2.2リッターディーゼルターボ「SKYACTIV-D 2.2」のみだったのに加えて、CX-5にも搭載された2.5リッターガソリンターボの「SKYACTIV-G 2.5T」と自然吸気の「SKYACTIV-G 2.5」の2機種が増えた。この2つのガソリンエンジンについて試乗を行なった。

「CX-8」と筆者

SKYACTIV-G 2.5を搭載する「25S」

「25S PROACTIVE」

 最初に自然吸気SKYACTIV-Gの「25S PROACTIVE」だが、こちらは「25S L Package」に準じた装備を持ち、主力グレードになりそうだ。「25S」はすべて2WD(FF)なので重量も軽く、6人乗りで1730kg(ルーフレール付きでは1760kg)となる。CX-5には同じグレードがないために直接比較はできないが、L Package同士ではおよそ200kg重くなる。

 エンジン出力は140kW(190PS)/252Nmなので、加速力などにディーゼルのSKYACTIVーDのようなパンチ力は期待できない。しかし、テストコースでドライブする限りは、発進加速から高速の伸びまで痛痒感はなく、むしろ滑らかな加速時にも振動が少ないCX-8らしい落ち着いた感触を得た。100km/hクルージングから追い越し加速を想定してアクセルを踏んでみたが、過不足ない動力性能だ。

「25S PROACTIVE」

 100km/hでのエンジン回転数は2.5リッターターボでは約2000rpmにすぎないが、自然吸気エンジンではギヤ比の関係もあり、もう少し高くなる。それにしても静粛性が高い。風切り音やロードノイズをキレイに遮断しており、快適な移動空間を作り上げている。

「25S PROACTIVE」のインテリア

SKYACTIV-G 2.5Tを搭載する「25T」

試乗車両は「25T L Package」

 2.5リッターターボの「25T」になるとすべてAWDとなる。25Sに比べて130kgほど重くなるが、出力は169kW(230PS)/420Nmになるので、動力性能にはかなり余力が生まれる。低回転から伸びのある加速を誇るマツダの自信作エンジンは、滑らかで上質な走りを実現している。

 ディーゼルのSKYACTIV-Dは力強い加速感も頼もしいが、ガソリンのSKYACTIV-G 2.5Tの滑らかでパワフルな加速力はディーゼルを凌ぎ、パワートレーンとしてはCX-8のトップに位置するだろう。高速クルージング燃費ではSKYACTIV-Dには敵わないが、25Tはターボでありながら耐ノック性の高いエンジン構造を持ち、レギュラーガソリンを使えるのはありがたい。

 2つのエンジンはCX-5に搭載されているものから変更はない。6速ATも共通だ。しかし、ホイールベースが230mm長い2930mmのCX-8は重厚感のある直進安定性、ピッチングの少ない乗り心地、静粛性に違いを感じる。

 25Sでも静粛性の高さに感心したが、ターボの25Tではエンジン出力に余力があるので、それほどアクセルを踏まないので加速時のエンジンノイズも小さく、キャビンの質感も高く感じる。225/55 R19のトーヨーの大径タイヤはタイヤノイズもよく抑えられており、ハーシュネスなどの突き上げも少ないまとまりのよいタイヤだ。

試乗車のタイヤサイズは225/55 R19

CX-8に「GVC プラス」を搭載

 CX-8には、前回のCX-5で紹介した「GVC プラス」を搭載している。ベテランドライバーの上手なコーナリングをビギナーでも実現するものだ。

 簡単に説明するとターンイン時のエンジン・トルクコントロールに加えて、ターンアウト時の軽い外輪ブレーキ制御を追加することで、コーナリング全体をマネージメントしようというものだが、決してドライバーがそれを意識することはない。そこがESCのようにメカニズムが積極的な介入するシステムとは違う。

 GVC プラスを搭載したCX-8は基本的な安定性の高いディメンションに加えて、リズムに乗れるドライビングが特徴で、ドライバーにかかるストレスが少ない。GVC プラスはパッセンジャーにとっても横揺れの少ないシステムなので、心地よいドライブはハンドルを握るドライバーだけではないだろう。

 ハンドリングでは電動パワーステアリングを改良した操舵力も滑らかで、切り増していった時の反応もしっとりとして、姿勢変化に無理がない。サイズから予想されるよりもフットワークはよいのがマツダらしい。上下動もよく吟味されており、バネ上は比較的フラットに保たれる。高速から低速まで同じようなリズムの乗り心地で余分な神経を遣わないで済むのは嬉しい。

 サスペンションは路面追従性にフォーカスしてチューニングされている。フロントスタビライザーを太く、リアスタビライザーを細くして前後ロールバランスをとり、合わせてスタビライザーブッシュを見直し、作動が滑らかになって、応答性を向上させている。

 ダンパーもバルブ構造を変更している。リアではトップマウントの材質を変え、低速での追従性の向上と、乗り心地の質感が変わった。ただ、個人的にはCX-8では重心が高いためか、ハンドルを切った時の初期ロールが大きめでもう少し抑えたいと感じた。

「L Package」のメーター中央に7インチ液晶TFTディスプレイを採用
CX-8のメーターパネル。エンジンスタート~メニュー選択(30秒)

 また、L Packageのメーター中央に7インチ液晶TFTディスプレイが配置され、情報が集約されるために視線移動が少なくなっている。キャビンで実質的なところでは3列目シートの静粛性だろう。制振材の設定範囲を拡大し、リアゲートのガラス接着剤の位置を変更している。

 CX-8の3列目シートは外観以上にレッグルームが広く、実用性が高い。マツダが真面目に3列目シートの居住性にも気を配っている証で、CX-5とは明確に棲み分けができている。

写真は「25T L Package」
写真は「25T L Package」

 上質な乗り心地と静粛性、安定感の高い伸びやかなハンドリングがCX-8の持ち味だと感じた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一