インプレッション

マツダ「CX-8」(3DA-KG2P/公道試乗)

日本市場に向けた、マツダの多人数乗車モデルの提案

 7人乗りの選択肢に新たなクルマが加わった。マツダが新たに送り出したSUVの「CX-8」がそれだ。これまで7人乗りといえばミニバン以外にはあまり考えられず、世の父上方は諦め半分でミニバンを選んでいたという人も多いはず。僕もそんな1人であり、今回のCX-8は非常に興味深い1台。家族を連れ、たまに爺さん婆さんを乗せて食事に、なんて時には7人乗りは非常にありがたい存在なのだ。いつもは使わなくても、いざという時に役立つ、そんな7シーターは、いまやなくてはならない相棒だ。マツダはミニバン市場から撤退を宣言していたメーカーなだけに、相手にされていない気分だったが、国内市場を見据えてこんな新たな提案をしてくれるとは……。「見捨てられてなかったのね」と、オトーサンはちょっとばかし嬉しいのだ。

 前述したとおり、CX-8は国内市場を見据えている。プラットフォームは北米市場を睨んだ「CX-9」を使用しているが、全長は4900mm、全幅は「CX-5」と同様の1840mmに抑えられており、全長さえクリアできればCX-5と同じ感覚で乗れそうなところがマル。CX-5比で230mmも延長したホイールベース・2930mmを採用することで3列シートを納めていることも特徴的だ。伸びやかなデザインからは風格も感じるし、このロングホイールベースならロングドライブでのクルーザーとして十分なパフォーマンスを発揮してくれそうだ。けれども、ネガを言えば重くなったことも事実。4WDの最上級モデル「XD L Package」では1900kgに達してしまう。すなわちそれは、CX-5よりも200kg以上も重いということだ。

 CX-8が搭載するエンジンは、見かけ上はCX-5と同様の2.2リッターディーゼル。だから一体どう走るのかは非常に興味深かった。CX-5の低速域はディーゼルの割にはトルクが薄いと感じていたからだ。その分、高回転域まで伸びやかな加速を実現しており、それはそれでガソリンエンジンのような盛り上がりがありよいとも感じたものだが、なにせ200kg以上も重いのだ。果たしてきちんと加速してくれるのか? そこが気になるポイントだ。

12月14日に発売された3列シートの新型クロスオーバーSUV「CX-8」(スノーフレイクホワイトパールマイカ)は、12月で生産を終了する3列シートのミニバン「プレマシー」「ビアンテ」に代わる、多人数乗車モデルのマツダからの新しい提案。写真は2WDの「XD PROACTIVE」で、価格は353万7000円
「XD PROACTIVE」のインテリア。「XD」「XD PROACTIVE」は6人乗りと7人乗りを設定し、写真は2列目がキャプテンシート仕様の6人乗り
4WDの「XD L Package」(マシーングレープレミアムメタリック)。価格は419万400円。ボディサイズは全グレード共通で4900×1840×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2930mm
「XD L Package」の足下は、専用装備の19インチアルミホイール(高輝度塗装)に東洋ゴム工業「PROXES R46」(225/55 R19)の組み合わせ
「XD L Package」ではアダプティブ・LED・ヘッドライト、スマート・ブレーキ・サポート(SBS)&マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)、レーンキープ・アシスト・システム(LAS)といった先進の安全装備を標準装備
CX-8では静粛性を高めるため、ワイパー取り付けを低い位置に変更するとともに、ドアパーティングシールの構造変更を行ない段差や隙間を低減するなど、風騒音の発生を抑制
ナッパレザーを用いた「XD L Package」のインテリア(ピュアホワイト)では、日本市場向けの新世代商品群として初めて本物の木を素材に用いる「本杢」加飾を採用。1~3列目で会話が楽しめるよう静粛性にこだわり、室内天井部やDピラー付近に吸音材を配置。2列目中央には収納機能付きのコンソールボックスが備わり、エクスクルーシブな空間を演出
1列目は身長189cmまでを想定して適正なドライビングポジションを取れる空間を、2列目は186cmまでを想定して大人でもゆったりくつろげる空間を、3列目は170cm程度の大人が不快なく短/中距離を移動できる空間を確保
ラゲッジスペース。定員乗車時にはゴルフバッグ2個を積載できる239L、3列目シートを倒すと67型のスーツケース3個を積載できる572Lの容量を確保した。床下には容量65Lのサブトランクも用意される
CX-8では、アウトドアで活躍する「サイドタープ」(2万4840円)、「ベッドクッション[2枚両側、ベンチシート車用]」(7万9920円)、「ウインドシェード(サイド・リア)」(4万3200円)といったさまざまなアクセサリーを用意する
CX-8では750kg以下のキャンピングトレーラーなどをトーイング(けん引)することが可能で、けん引時の走行安定性を高めるため「トレーラー・スタビリティ・アシスト(TSA)」と呼ばれるブレーキ制御を全車に標準装備する

加速感、静粛性はCX-5以上!

 まずはCX-8の中でも軽い2WDの「XD PROACTIVE」に乗り込んで、横浜の街中を走り始める。すると、驚くことに低速域から力強い加速を実現。伸び感までCX-5以上のものを示していたのだ。それでいて静かにスムーズに回転している。シリーズ中で軽量だからそう感じるのか? 遮音材をふんだんに搭載したのか? そんなことを思いながら加速を続けるが、どうやらそんなことはなさそう。ならばギヤレシオが違う? いやいや、諸元表を見る限りCX-5とまったく同じ。

 違うのはパワーとトルクが一気に引き上げられていたのだ。最高出力140kW(190PS)/4500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgm)/2000rpmは、CX-5の最高出力129kW(175PS)/4500rpm、最大トルク420Nm(42.8kgm)/2000rpmと比べればはるかに力強い。コンピュータでも改めてブースト圧でも高めたのか? いずれにしても走り出しからこんな体感ができたことは意外。首都高速の料金所からフル加速をしてみるが、一切ストレスなく吹け上がるこの仕上がりはなかなかだ。それでいて燃費もそれほど悪化しておらず、JC08モード燃費はCX-5に対して0.4km/L落ちの17.6km/Lを実現している。

CX-8は全グレードで直列4気筒DOHC 2.2リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載し、最高出力140kW(190PS)/4500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgm)/2000rpmを発生

 後にエンジン担当者にお話をうかがってみると、CX-8に採用されている2.2リッターディーゼルは、名称を変更したかったほどの改良を施したという。燃焼のコンセプトから改めたというそれは、応答性を大幅に向上させたインジェクターを採用。一度の燃焼で最大6回の噴射をし、急速多段燃焼を行なっているのだとか。パイロット/プレ噴射で予混合させ、メイン噴射でクリーンな燃焼をし、アフター噴射で燃え残りを燃焼させるという新たな燃焼方法がそこにある。

 また、ピストンの形状も変更してエネルギーロスを低減。圧縮比も異なっている。なお、このエンジンは大小2つのタービンを採用しているが、大きいタービンに対しては新たに可変ジオメトリーターボチャージャーを搭載した。これはタービンプレートの外側に可変ノズルを備えることで、排気ガスが少ない領域でもきちんと羽に排気ガスを与えてタービンを回すことに成功している。だからこそ低回転でのトルクフルな走りに繋がったのだろう。

 シャシーの乗り味に関してはかなりユッタリとした仕立てで、乗り心地もソフトな感覚もあり、CX-5のようにキビキビと軽快な感覚とは少し違う雰囲気。ステアリングの応答もスローであり、大きく重たく、ホイールベースも長くなったことを意識させられる。だが、それが決してネガとはならず、すべてが心地よく感じる。まるで昔のメルセデスのようだと言ったら大げさかもしれないが、一体感に溢れながらもジワリと狙いどおりに動いてくれる感覚はなかなか。マツダは研究用にかつて極上のEクラス(W124型)を購入してその動きを解析していたことがあるが、それはCX-8のためだったのでは? なんて思えるほどなのだ。2WD仕様の街乗りから高速までの印象は、まさにW124を彷彿とさせるものだった。

 続いて4WD仕様で最上級モデルとなるXD L Packageに乗り込み走り出すと、重量がさらに重くなったことを補おうとしたのか、シャシーはやや引き締められたかに感じるものがあった。だからといってハードすぎるという感覚ではなかったのだが、やはり2WDに対して重くなるのだからそれも仕方なし。

 けれども、力強さは相変わらずであり、それほど重さを意識するようなことなく動いてくれるから好感触。コンソールボックスを備えて優雅なクルージングを楽しめる2列目の乗り心地もいいし、ちょっと窮屈にはなるが、3列目に座ってみても何時間かは過ごせそうな快適性は備わっていた。3列目に関してはリアガラスに熱線を入れるために、ラミネート入りのガラスを採用できなかったという事情があって多少風切り音が気になったが、ほかが静かだからそこが目立ったのかもしれない。いずれにしても、オトーサンの使い方からすれば十分すぎるほどの空間がそこにある。

 おまけに日本市場ではユーノス・コスモ以来となる、本物の木を使った「本杢」加飾の採用や、よりキメの細かさを感じるナッパレザーシートの触感もしっとりとしていてかなり上質! ここまで贅沢な空間があるのなら……。ミニバン乗りのオトーサンの気持ちがかなりグラつく1台だったことは紛れもない事実である。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一