インプレッション

ランドローバー「レンジローバー ヴェラール」(ディーゼル仕様/公道試乗)

斬新なデザインと往年のレンジローバーらしさが融合したSUV

 ランドローバーのプレミアムブランド「レンジローバー」から新たな上級モデル「ヴェラール」が誕生した。「イヴォーグ」に始まる存在感のある斬新なデザインをベースにしながら、各部の処理に往年のレンジローバーらしさを加えたモデルだ。

 例えば、ボディはSUVとしてはかつてないほど段差のないフラットな処理にこだわった。ドアノブは格納式で、エンジン停止時や走行時も8km/h以上になるとドアパネルに埋め込まれる。空気抵抗の低減には効果があるというが、これは新たな試みだ。一方、前バンパーと前輪ホイールハウス前端のフロントオーバーハングは極めて短く、後輪のホイールハウス後端からリアバンパーにかけてのオーバーハング部分はグッと持ち上げられ、悪路での高い走行性能を確保する。誰もが新しいSUVであるという印象を抱くデザインと、レンジローバーが大切にしている走行性能を新しく表現した、それがヴェラールだ。

 ボディタイプはご覧の1タイプだが、「標準仕様」と「Rダイナミック」の2つの商品ラインを持つ。搭載エンジンは、ランドローバーブランドの誇るインジウム直列4気筒2.0リッターガソリンターボおよび同ディーゼルターボ(180PS)、そしてV型6気筒3.0リッタースーパーチャージャー(380PS)の3種類。このうち、2.0リッターガソリンエンジンは250PS版と300PS版の出力違いがある。今回試乗したのは2.0リッターのディーゼルターボモデルで「Rダイナミック HSE」を名乗る最上級グレード(1053万円)だ。

 これまでレンジローバーとは各モデルに仕事で、そしてプライベートで運転する機会がとても多いのだが、このヴェラールも同じくレンジローバーファミリーであることを強く意識させられることがあった。実はヴェラールが発表された時には「とてもスマート! だけど頼りないかなぁ……」と少々がっかりしたものだ。レンジローバーらしい上品でいてタフな走行性能をイメージさせる絶妙なデザインが、洗練度をグッと上げたことで薄らいでしまったと感じたからだ。しかし、実車を目の前に細部に至るまでじっくり観察してみると、印象が大幅に好転! やや洗練が過ぎるかなという部分があるものの、全体の造り込みは丁寧で、レンジローバーが大切にしてきたブランドはしっかりと継承されていた。

7月に受注を開始した新型ミッドサイズ・ラグジュアリーSUV「レンジローバー ヴェラール」。今回試乗したのは直列4気筒2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンに8速ATを組み合わせる「Rダイナミック HSE」(1053万円)。ボディサイズは4803×2145(ミラー展開時)×1665mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2874mm
Rダイナミックでは専用デザインのフロント&リアバンパーやボンネットベント、サイドベントなどを採用。足下は20インチアルミホイールにミシュランのSUV用タイヤ「LATITUDE Tour HP」の組み合わせ
80km/h以上で走行しているときには550m先までハイビームで照らし、前方カメラで対向車や前方の車両を検知してハイビームが当たらないようLEDを調整して高い視認性を確保できる「マトリックス・レーザーLEDヘッドランプ(LEDシグネチャーライト付)」を標準装備
車両をロックするか走行を開始してから8km/hを超えるとドアノブがドアパネルに格納される、ランドローバー初となるドアパネル格納式のデプロイアブル・ドアハンドル
尿素水溶液「AdBlue(アドブルー)」の補給はフューエルリッド横から行なう。燃料タンク容量は60L

 適度にタイトな車内空間は、造形こそ凝っているがシンプルにまとめられた。ここはレンジローバーと、もう1つの上級ブランドであるジャガーが持つ要素をうまくミックスさせた印象だ。試乗車は温かみのある「ビンテージタン/エボニー」(落ち着いた濃いベージュ色と黒色の組み合わせ)をまとっていたこともあり、時として無味乾燥になりがちがTFT液晶画面(「Touch Pro Duo」と命名)との相性もよかった。Touch Pro Duoに連動する各部の操作系統も非常に使いやすく、たとえばエアコンの温度調整ダイヤルを回すのではなく、軽く押し込むとTFT液晶がシートの絵柄に変化し、シートヒーターなどの操作をダイレクトに行なうことができる。

 こうした物理的なスイッチを回したり押したりすることで複合的に機能させるという概念は、運転中のドライバーにもスッと馴染む。これは新たな発見だ。また、先進的な各種パネルや操作系はレンジローバー伝統のコマンドポジション(背筋を伸ばして遠くを見通すアップライトな運転姿勢)をとっても使いやすく、さらにウインカーレバーの頭部分には押し込むことでトリップ計、燃費計、日付などを順々に表示するという、ここ数代のレンジローバー&ジャガーが搭載している機能を踏襲するなど、既存のブランドユーザーに対する利便性も考慮されている。

インテリアカラーはビンテージタン/エボニー
インテリアでは全グレードに2つの10.2インチタッチスクリーンからなる最新のインフォテインメントシステム「Touch Pro Duo」を標準装備。ボタンやダイヤル類を可能な限り排除して直感的に各種操作を行なえるようにしたのも、ヴェラールの特徴の1つ
「Touch Pro Duo」の下部の画面表示の1例。オーディオやシートヒーターのON/OFF、エアコン操作などが行なえる
ラゲッジスペースは40:20:40の3分割リアシートを前方に倒すことで、最大1731Lまで拡大可能

ディーゼルエンジン、そのフィーリングは?

 ディーゼルエンジンは中回転域から本領を発揮するタイプだ。低速域での力強さという点では、セカンダリーターボをVG(Variable Geometry)化して低回転域の力強さを増したマツダ「CX-8」に分があるものの、過給効果が高まりをみせる2500rpmあたりからは実に頼もしい。その際のエンジン音もガソリンモデルのように燃焼音(コンコンという高い音)に角がなく心地よいのだが、全域で振動が多いのが気になるか。

直列4気筒 2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンは最高出力180PS/4000rpm、最大トルク430Nm/1500rpmを発生。JC08モード燃費は14.4km/L。最高速は209km/h、0-100km/h加速は8.9秒

 人が歩くような非常にゆっくりとした速度域(2~3km/h程度)でのアクセル操作はとてもやりやすく、さすがレンジローバーだと痛感する。泥濘地や滑りやすい路面では、この微速域のコントロール性能がトラクションを大きく左右するだけに、ヴェラールでも大切に育まれたようだ。今回は時間の都合で市街地での短距離試乗に留まったが、ランドローバーが誇る「テレインレスポンス」と「テレインレスポンス2オート」、そして「オールテレインプログレスコントロール」などを駆使するような状況でも試乗してみたい。

 レンジローバーとして4番目に導入されたヴェラールは、ラグジュアリーSUVという世界的に需要が高まっているカテゴリーだ。メルセデス・ベンツ、アウディ、BMWというドイツ御三家にはじまり、ボルボも「XC60」をラインアップする。加えて国産勢も複数のSUVをラインアップする。また、イタリアのスポーツカーブランドであるランボルギーニも、先ごろSUVである「ウルス」を発表するなど、こうしたSUV化の波はまだしばらく続くだろう。

 ヴェラールはそのなかで、“王道ど真ん中”のレンジローバーでありながら、斬新なスタイルとTouch Pro Duoにはじまる新たな車内情報端末を採り入れ差別化を図った。ボトムグレードでも699万円と高価だが、乗り味、走行性能ともに不足はないのではないか。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学