インプレッション

フォルクスワーゲン「e-ゴルフ」(ZAA-AUEAZ/公道試乗)

新しいリチウムイオンバッテリーにより航続距離が301kmに

 e-Mobilityの分野でリーダーになることを念頭に、フォルクスワーゲンはより電動化に力を入れていく方針を打ち出した。実は2014年秋に「e-up!」を導入する予定もあったのだが、諸事情により見送られた。e-up!の件はその後、問題が解決して導入することも可能だったのだが、すでに欧州にはあったEV(電気自動車)の「ゴルフ」の進化版が、性能的にかなりよいものになるメドが立っていたことから、あえてe-up!は導入せず、今回のマイナーチェンジを機に日本に導入される運びとなった。

 性能向上の要因は、駆動用バッテリーの容量が従来モデルに対して50%も強化され、35.8kW/hになったことが大きく寄与している。これにより1回の満充電で301km(JC08モード)の走行が可能となったと聞けば、大丈夫だと感じる人も少なくないことだろう。充電は200Vの普通充電(3kW、6kWとも)とCHAdeMO(チャデモ)の双方に対応する。ご参考まで、最高出力が100kW、最大トルクが290Nmというのは、それぞれ日産自動車の新型「リーフ」よりも1割ほど控えめな数値となる。

 東京モーターショー 2017のフォルクスワーゲンブースで見たときも同じことを感じたが、実車を見るとe-ゴルフだと教えられなければパッと見では気づかないほど。フロントグリルに配されたブルーのラインや、バンパーに配されたC字型のLEDポジショニングランプなどの専用装備も与えられているものの、このあたり、EVを特別なものにしたくないというフォルクスワーゲンの思想が垣間見える。また、流れるウインカーを内蔵したLEDテールランプがオプションで選べる。

10月19日に受注を開始した新型「e-ゴルフ」。価格は499万円だが、10月19日~12月25日の期間にオプションのテクノロジーパッケージ装着車(17万2800円高)のみ申し込みを受け付けている。標準仕様車は2018年に受注を開始予定。右ハンドル仕様のみの設定となる。ボディサイズは4265×1800×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2635mm。車両重量は1590kg
エクステリアではブルーの挿し色やフロントにC字型LEDポジショニングランプを採用するほか、消費電力の少ないLEDヘッドライトを標準装備。16インチアルミホイールは専用装備品で、ブリヂストン「TURANZA T001」(205/55 R16)を組み合わせる。ボディカラーは「ピュアホワイト」のみの設定。e-ゴルフではフロントグリルのエンブレム内に普通充電の充電ポートを、右リアに急速充電用の充電ポートが用意される。急速充電では約35分でバッテリー容量の80%まで充電を行なうことができる
総電力量35.8kW/hの駆動用バッテリーを搭載するe-ゴルフでは、最高出力100kW(136PS)/3300-11750rpm、最大トルク290Nm(29.5kgm)/0-3300rpmを発生するモーターを採用。1充電あたりの走行可能距離は301kmを実現。バッテリーは床下に搭載され、低重心で安定感のある走りを可能にしている

 インテリアも同様に、一見すると普通のゴルフと変わらないように見えるが、ステアリングホイールやシフトブーツなどにブルーのステッチが施されているほか、タコメーターに代えてエネルギーのやり取りを表示する「パワーディスプレイ」が配置されている。また、メーターの中央に表示される地図は、従来は縮尺を任意に調整することができなかったところ、e-ゴルフでは可能となったのも新しい。

 中央にはEV専用機能を搭載した純正インフォテインメントシステム「Discover Pro」が標準装着され、出発時刻に合わせた充電予約や、最新の充電ステーション検索が可能で、専用アプリを使えば後席からもシステムを操作できる。“Volkswagen Car-Net”も生まれ変わり、既存の便利な諸機能に加えてスマートフォンから操作できる「オンライン目的地インポート」が追加されたのもありがたい。

 また、シフトセレクターの表示も異なり、ここで回生ブレーキの効き具合を調整できるようになっている。それについては後ほど述べることにしたい。

インテリアでは専用ファブリックシートを採用するほか、ステアリングやギヤシフトにブルーのステッチをあしらってe-ゴルフであることを主張。デジタルメータークラスター「Active Info Display」はオプション設定となる

EVならではの静粛性と瞬発力

 今回は都内の湾岸エリアの一般道を走行した。車両重量はガソリン車から270kg増の1590kgに達しているものの、その走りに重々しさはない。フットワークは身軽なままで、しっとりとした乗り心地は快適そのものだ。静粛性も極めて高く保たれていて、モーターを含め電気にまつわる制御系はもとより、タイヤの発する音や風切り音など、キャビンに侵入する音はほとんど気にならないほどよく抑えられていて、パワートレーン系が静かなったことでそのほかの音が気になるようなこともない。

 モーターならではのスムーズな加速フィールがガソリン車のゴルフとはまったく異質なのは当然として、いざ踏み込んだときの瞬発力はかなりのもの。モーター駆動ならではの蹴り出しの強さが印象的だ。0-100km/h加速は9.6秒と、EVとしてはまずまずとはいえ、数字だけ見ると大したことはないが、60km/h程度までの加速はけっこう速い。なお、最高速は日本では必要十分な150km/hに達している。

 走行モードの選択により、パフォーマンスやエアコンの効きを変更することが可能で、それに応じて消費するエネルギーが変わり、走行可能距離の表示も増減する。「ノーマル」では最高速150km/h、最高出力100kW、最大トルク290Nmのところ、「エコ」では同115km/h、70kW、225Nm、「エコ+」でさらに90km/h、55kW、175Nmとなり、エアコンについてもそれぞれ標準→低下→OFFとなる。

e-ゴルフにとって最大の強敵は……

 回生ブレーキの利きは5段階に調整可能で、「D」レンジでは作動せず、シフトセレクターを右に倒して「D1」→「D2」→「D3」と操作すると効きが強くなり、手前に引いて「B」レンジにすると最強となる。「B」レンジでは、いわゆるワンペダルドライブが可能なほどの減速感がある。ただし、個人的には「B」レンジについてはもう少し強く減速してもいいような気もした。

 一方で、ブレーキフィール自体も非常に自然に仕上がっていることに感心させられた。回生協調を行なっているものには違和感を伴うものも少なくないのだが、車速域の違いによる特性の変化も気にならず、電気エネルギーの回収と減速Gの出し方を実にうまく制御しているように感じた。

 そんなe-ゴルフ。ベース車自体のそつのない仕上がりに加えて、EVとしての完成度も申し分ないのだが、実は悩ましい問題がある。というのは、e-ゴルフの登場と同時に新しくなったPHEV(プラグインハイブリッド)「ゴルフ GTE」の存在である。e-ゴルフの車両価格は499万円、ゴルフ GTEは469万円。そして購入時の補助金は、それぞれ30万1000円と20万円。しかもゴルフ GTEは、「ゴルフ GTI」ばりのスポーティなキャラクターを身に着けている点も魅力。むろん、かたやピュアEV、かたやPHEVであるわけだが、この身内にいる強力なライバルを凌ぐ“何か”を見い出す人には、ぜひe-ゴルフを選んでほしいところである。

PHEVの「ゴルフ GTE」のボディサイズはe-ゴルフと共通。車両重量は1580kg。価格は469万円。モーターで走行する「Eモード」、エンジンと電気モーターを使用する「ハイブリッド」、駆動用バッテリー充電量を一定に保つために再充電しながら走行する「バッテリーホールド」、駆動用バッテリーを優先的に充電する「バッテリーチャージ」、アクセル反応や変速ポイントなどがスポーティになり、エンジンとモーターを同時に作動させてシステム最大出力を発生する「GTEモード」という5つの走行モードが用意される
エクステリアでは、フロントバンパーを現行の「ゴルフ GTI」と同形状にするとともに、C字型のLEDポジショニングランプを採用。足下は17インチアルミホイールが標準装備になるが、撮影車はアダプティブシャシーコントロール「DCC」と5ダブルスポークの18インチアルミホイール(タイヤはブリヂストン「POTENZA S001」[225/40 R18])からなる「DCCパッケージ」を装着
ゴルフ GTEのインテリア
ゴルフ GTEでは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.4リッターターボエンジンに、最高出力80kW(109PS)、最大トルク330Nm(33.6kgm)のモーターを組み合わせ、トランスミッションに6速DSGを採用。JC08モード燃費は19.9km/Lとなる。EV走行可能距離は45.0km(JC08モード)

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸