インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI クラブスポーツ トラック エディション&ストリート エディション」(サーキット試乗)

 1976年にフォルクスワーゲン「ゴルフ」のパフォーマンスモデルとして登場した「GTI」。その衝撃は、高性能スポーツハッチバックを称してGTIクラスという言葉を確立したほどだ。このことからもGTIのコンセプトがいかに秀でていたか分かる。

 7代目を数えるGTIも時代と共に変化してきたが、歴代モデルが高い実用性と動力性能、安定性とハンドリングを目指してきたことは一貫して変わらず、独自のブランドとして認められてきた。

 このGTIブランドの頂点に立つのが、今年5月に登場したGTI誕生40周年記念車「クラブスポーツ トラック エディション」だ。さらに8月末には同じクラブスポーツの名を持つ「クラブスポーツ ストリート エディション」も登場した。この2台を千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで堪能することができたが、その中身は興味深いものだった。

左が8月29日に計350台限定で発売された「ゴルフ GTI クラブスポーツ ストリート エディション」(449万9000円)、右が5月21日に計400台限定で受注を開始した「ゴルフ GTI クラブスポーツ トラック エディション」(469万9000円)。トラックエディションはブラックルーフを採用しているところが2台を見分けるポイント

 GTIの基本スペックは、最高出力220PSを発生する直列4気筒2.0リッターの直噴+ポート噴射のガソリンターボを搭載して、最大トルクは350Nmを1500-4400rpmで発生。組み合わされるトランスミッションは6速のデュアルクラッチであるDSGを搭載する。また、デフには走行状態に応じて内輪にブレーキをかけてトラクションを確保する電子制御デフロック「XDS」も採用して、現代のGTIとしてふさわしいドライビングプレジャーをもたらしてくれる。

タイヤのメーカーとサイズが異なることも大きな違い。左のストリート エディションは225/40 R18サイズのブリヂストン ポテンザ S001、右のトラック エディションは225/35 ZR19サイズのミシュラン パイロットスポーツを装着する

トラック エディションは“FF最速”と言われることも納得のフィーリング

 クラブスポーツ トラック エディションは、このGTIをさらに高度にチューニングしてサーキットで実力を発揮するモデルに仕上げられている。

 装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツで、サイズは225/35 ZR19。白いボディにブラックペイントされたルーフを持つトラック エディションは、その外観だけでも異彩を放つ。今回の試乗では、サーキットで遺憾なくそのポテンシャルを堪能できるのは嬉しいところ。

両モデルで搭載する「CJX」型の直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力195kW(265PS)/5350-6600rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1700-5300rpmを発生。トランスミッションは6速DSGの組み合わせる。一定条件下でキックダウンしたときに、約10秒間に渡り最高出力を290PS、最大トルクを380Nmに高める「ブーストモード」も備える

 エンジンパフォーマンスが高いのはスペックからも承知だが、復習しておくと、トラック エディションはGTIをさらにチューニングして、最高出力が33kW(45PS)アップした265PS/350Nmとなり、さらにアクセルを踏み込んだときには10秒間だけブーストアップして290PS/380Nmに高まる機能を備える。このエンジンパフォーマンスはなかなか強烈で、矢のように加速していたGTIがさらにもう1段、グイと踏み出すようなパンチ力はなかなか印象的だ。ただ、常にブーストアップで290PSを発生するわけではなく、ギヤが3~6速に入っていることと、ドライビングプロファイル機能で「スポーツモード」が選択されている場合に限られる。一応のリミッターがあるのだ。それにしても、硬質感の伴うこのエンジン回転フィールはドライバーの気持ちもシャキッとさせてくれる。

 エンジンのマナーはなかなかよく、いわゆるドッカンターボではなく低速回転から高いトルクを出し、リニアに力が出るので使いやすい。また、サーキットではコーナーの立ち上がりなどでレスポンスがシャープで、トルクが自在に取り出せるために素早い立ち上がりが可能だ。19インチタイヤは横剛性も高く、コーナー後半で少しステアリング舵角が残っていても、強大なトルクにめげることなく狙ったどおりのラインを通過する。トラクションもしっかりとかけられるのでラップタイムは当然速く、“FF最速”と言われることも納得するに十分なフィーリングだった。

 サーキットでは俊敏で、一体感のある走りは小気味よく爽快。ズーっと走っていても疲れず、ただただ楽しい。ただ、ダイレクトなクルマの動きがビシバシと感じ取れるシャシーは、一般道でのゴツゴツとした乗り心地をある程度は妥協しなければならないことを予感させられた。

日常的な使用にも厭わず使えるストリート エディション

 一方、その一般道での乗り心地でダイレクトさを緩和したのがストリート エディションだ。こちらも基本的なエンジンスペックなどはトラック エディションから引き継いでいるが、タイヤがブリヂストンのポテンザ S001に変更され、サイズも225/40 R18となる。よりフレキシビリティの高いタイヤだ。

 パワートレーン系などに変更はなく、強いて言えばトラック エディションで装着しているヘッドレスト一体型の専用レカロスポーツシートが、ストリート エディションだとバケット形状の専用トップスポーツシートに変更されている点ぐらいか。また、ルーフのブラック塗装も施されない。

左はトラック エディションの専用レカロスポーツシート、右はストリート エディションの専用トップスポーツシート。シート表皮はどちらもファブリック&アルカンターラ

 パワートレーンは同じなので、優れたスロットルレスポンスや分厚いトルク、床まで踏むとさらに伸びるエンジンパフォーマンスも変わりがない。違うのは、タイヤメイクとインチダウンされたことによる乗り心地と、GTIの頂点に立つクラブスポーツのパフォーマンスとのバランスを取ったモデルになっていること。

 トラック エディションほど限界域を追求していない代わりに、路面からのあたりが柔らかくなり、日常的な使用にも厭わず使える仕様になっている。サーキットでもその感触はドライバーに十分伝わり、ダイレクト感は少なくなるものの、GTIのクラブスポーツのエッセンスが確かに感じられる。ブレーキング時もトラック エディションと比べればわずかにタイミングはずれるが、強力なストッピングパワーは変わらず、信頼に足るブレーキだ。

 乗り心地とともに最も差が出るのがコーナーリングだ。コーナー後半でタイヤのわずかなヨレによってトラクションをかけるのが遅くなるのを顕著に感じる。もちろん、電子制御の油圧式デフロックはタイトコーナではイン側タイヤのトルクをアウト側タイヤに振り向けるが、タイヤのキャパシティ以上のことはできないので、その限界内で走らせるドライバーの裁量に任せられる。

 しかし、このような限界域での違いこそあるものの、18インチと19インチというタイヤサイズの違いによってクルマの性格をうまく変えていることに感心した。トラック エディションとストリート エディションは、ピュアなスポーツドライビングを望むユーザーとクラブスポーツのポテンシャルを日常的に身近に置いておきたいユーザーで選択の幅を広げるモデルと言えるだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛