試乗インプレッション

トヨタ「C-HR」(プロトタイプ)

全身が個性のカタマリのようなクルマ

 トヨタ自動車としては珍しく、英文字を車名とするニューカマー「C-HR」に関する情報にはずいぶん前から触れていた気がするが、近年コンパクトSUVの人気が高まる中で、他メーカーとはひと味違ったトヨタのチャレンジングなアプローチを興味深く思っていたところである。

 そして年末の発売を控えたタイミングで、伊豆の日本サイクルスポーツセンターにおいてプロトタイプを駆り、「C-HR」が意味する「Compact High Rider(コンパクトなボディがリフトアップされた格好いいプロポーション)」「Cross Hatch Run-about(ハッチバックのようにキビキビ走るクロスオーバー)」ぶりをひと足早く試すことができた。

「プリウス」に次ぐTNGA(Toyota New Global Architecture)第2弾でもあるCH-Rは、むろん内容的にはプリウスとの共通性が高いが、最低地上高を高め、大径タイヤを履き、電動ではない4WDを設定したことなどの要件に合わせて各部が専用に手当てされている。

1.2リッターターボ(左)と1.8リッターハイブリッド(右)を用意する新型SUV「C-HR」。ガソリン車が「G-T」「S-T」、ハイブリッド車が「G」「S」の計4グレードで構成される。国内外の一般道やサーキットなどで走行性能に磨きをかけ、2013年からニュルブルクリンクでも評価を行なってきたという異色のSUVは年末の発売予定

 スタイリングは、たくましい下半身に対し上半身はクーペ的で、リアウィンドウの傾斜角もかなり寝かせつつリアドアの存在感を薄めるなど、SUVであるだけでなくスポーツカーの要素もかなり入っている。サイドまで回り込んだヘッドライトや3次曲面のロアグリル、立体的な各部の造形や複雑に配されたキャラクターラインなどがユニークなデザインをより際立たせていて、フロントフェイスやリアビューも独特の表情を見せている。とにかく全身が個性のカタマリのようなクルマである。サイズは小さいながらも存在感は非常に大きい。

 それと呼応するかのように、インテリアのデザインも特徴的だ。ドア内張りの斬新な柄も印象深い。ドライバー側に向いたインパネは視認性、操作性に優れる。シートの形状もスポーツカーのようだ。

現行プリウスから採用を開始した「TNGA(Toyota New Global Architecture)」第2弾モデルとなる新型C-HRのボディサイズは4360×1795×1550mm(全長×全幅×全高、4WD車の全高は1565mm)。ホイールベースは2640mm。駆動方式についてはハイブリッドが2WD、ガソリンが4WDとなる。撮影車は1.2リッターターボのG-Tで、ボディカラーは国内初設定色となる「センシュアルレッドマイカ」。リアドアハンドルをボディと一体化したような2ドアクーペライクなデザインに仕上げているのが特徴的
こちらは新色となる「ラディアントグリーンメタリック」カラーの1.8リッターハイブリッドで、グレードはG。フロントグリルのエンブレムからフロントタイヤの上部まで翼形状に回り込んだヘッドライトはLED式で、ウィンカーには内から外に流れるように点灯する「LEDシーケンシャルターンシグナルランプ」(トヨタブランド初採用)を装備。リアのコンビネーションランプもLEDになっている
1.2リッターターボは最高出力85kW(116PS)、最大トルク185Nm(18.9kgm)を発生
ハイブリッドが搭載する1.8リッターガソリンエンジンは最高出力72kW(98PS)、最大トルク142Nm(14.5kgm)というスペック。これに最高出力53kW(72PS)、最大トルク163Nm(16.6kgm)のモーターを組み合わせる
17インチ仕様(左。タイヤサイズ:215/60 R17)と18インチ仕様(右。タイヤサイズ:225/50 R18)を用意。17インチホイールはシルバーメタリック塗装、18インチホイールは切削光輝処理にブラック塗装を組み合わせる

 横から見ると明らかなとおり、ルーフのピークは前席の頭上にあり、さらには車内側も丸くえぐられていて、座ると頭上空間にはだいぶ余裕がある。むろん目線はSUVらしく高めに設定されている。

 ウィンドウグラフィックにも表れているとおり、車内は前席優先のパッケージングながら、後席に乗り込む際には頭を少しかがめる必要はあるものの、乗り込んでしまえば広さは十分。平均的な成人男性の体格である筆者が後席に座って頭上はコブシ1つ分ぐらい空き、膝前も狭さは感じない。

 ハイブリッドとガソリンでは、ドライブシャフトの有無によりセンタートンネルの高さが違うこと以外に、荷室を含め差異はないように見えた。

リコリスブラウンカラーの本革を採用する1.8リッターハイブリッド(G)のインテリア。新型C-HRでは1280mmのアイポイント、Aピラーのスリム化、ドアミラーの取り付け位置の工夫など、優れた前方視界の確保に注力。ステアリングスイッチやヒーターコントロールスイッチ、ドアトリムオーナメント、天井など随所にダイヤモンドのモチーフが与えられている
リスコスブラウンカラーの1.2リッターターボ(G-T)のインテリア。シートは本革に上級ファブリックを組み合わせたコンビネーション

速いのはどっち?

現行プリウスにも試乗

 1.8リッターのハイブリッドは2WD、1.2リッターのガソリン直噴ターボは4WDとなり、足まわりや電動パワステの味付けも差別化されている。また、試乗車に装着されていたタイヤのサイズがハイブリッドは18インチ、ガソリンは17インチと異なったのだが、いずれも全体的な印象は上々だった。加えて、この日はTNGA第1弾のプリウスとも乗り比べることができたので、その印象も交えてお伝えしよう。

 加速フィールは、やはりハイブリッドは出足からタウンスピード程度に乗せるまでが力強い。ガソリンは少し遅れて加速がついてくる感じがする。ただし、ガソリンはそこから上までスーッと伸びるのに対し、ハイブリッドは逆に頭打ちとなる。実際にどちらが速いのかよく分からなくなったので開発関係者に確認したところ、0-100km/h加速ではハイブリッドのほうが4~5%ほど速いらしい。

 一方で、ハイブリッドは基本的に同じシステムを搭載するプリウスに対して低中速域での加速感がリニアで、アクセル操作に対するツキがよいように感じたのだが、それはタイヤの外径や車両重量が増すことに対して最終減速比を落としていて、それがプリウスとの差を補って余りあるから。実際の加速はプリウスとほぼ同等だという。

 また、ガソリンでは静粛性が高いと感じたのに対し、ハイブリッドは強く加速させようとアクセルを踏み込むと唸ってやや騒々しく、そのわりには加速が伸びないという、THSに共通する傾向が見受けられた。とはいえ、それはクローズドコースでガンガン走らせたからの話であって、日常的な使い方ではハイブリッドの方が得意であろう面が多いことと思われる。

TNGA第2弾らしい気持ちのよい走り

 シャシーの第一印象としては、プリウスでも感じたTNGAの剛性感の高さと素性のよさは、もちろんC-HRにも受け継がれていることを感じた。タイヤが大径になり車高が高くなるぶん、乗り心地やハンドリングによろしくない部分が顔を出すのではないかと思っていたのだが、そんなことはなかった。開発関係者によると、だからこそ力を入れて、ハンドリングの評価に厳しい欧州でも認められるよう走りを鍛えたとのことで、実際にもそう感じさせる仕上がりであった。

 ステアリングを操作したとおり、狙ったラインを忠実にトレースしてコーナーをクリアしていくさまは、SUVというよりスポーツカー的な気持ちよさがあった。しっかりとしたステアリングフィールもプリウスを上回るものだ。また、この日は意のままに操れることをより体感できるよう、あえてコースの一部に道幅を狭めた箇所が設定されていたのだが、そこでもあまりストレスを感じることなく、ラクに通過できたのも優れた操縦性の表れといえよう。

 そして乗り心地について。このコースはあまりわるい部分が見えにくいので、改めてお伝えすることにしたいが、あえて凹凸の多い箇所を通ったりしてみた印象としては、路面からの入力による音や衝撃が上手く抑え込まれていて、あまり不快に感じることはない。こうした万人向けの、尖ったところのない味付けはまさしくトヨタが得意とするところだ。

 ハイブリッドとガソリンでは、車両重量はガソリンの方が30kgほど重く、リアにバッテリーを積むハイブリッドの方が、4WDでリアアクスルに後輪を駆動させるための機構を持つガソリンよりも、若干ではあるが前後重量配分としては均等に近いとのこと。それもあってか、タイヤの違いを差し引いても操縦性にそれほど大きな差異はない中で、コーナー立ち上がり等で積極的に後輪を駆動させるガソリンの方がいくぶん素直な回頭性を示すように感じられた。この日は乗れなかったものの、ガソリンの18インチが走りにおいてはベストではないかと思われる。

 こうして短時間ではあるがプロトタイプに触れることのできたC-HRは、なかなか印象深いクルマであった。乗りたい! 欲しい! と多くの人に思わせるであろうデザインこそ最大の武器であることは言うまでもないが、いずれC-HRが街を走る日が来ても当面は目で追ってしまいそうだ。さらには基本性能が十分に確保されていて、気持ちよく走れるクルマに仕上がっていることもよく分かった。こんなクルマが手元にあったら、毎回乗るのが楽しみになることに違いない。

 すでに先行受注が好調で、納車には時間を要するという情報もあるが、待っている人は大いに期待していいだろう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛