試乗インプレッション

トヨタ「C-HR“GR SPORT”」試乗。専用チューニングでドライビングの質はさらに高まった

ハイブリッド&1.2リッターターボにクローズドと公道で乗った

C-HRに“GR SPORT”を新設定

 2016年12月にデビューした「C-HR」が10月にマイナーチェンジした。エクステリアデザインが開口部の広いワイド感のあるフロントデザインに変更され、同時にリアのコンビネーションランプも変わった。機能的にはショックアブソーバーや取り付け部などの細部が異なっているが、キビキビ走るSUVコンセプトに変わりはない。マイチェン前後のC-HRについては少しだけ後述する。

 さて、トヨタがカンパニー制を引いて決断の早い組織に変貌したのは2016年。それ以来、開発者などは一様にクルマ軸でシンプルな決定ができるようになったという。そんな流れの中で、GRカンパニーの役割はモータースポーツの知見を活かして、量産モデルではできなかったひと味違ったクルマを作ることにある。まだ新規のモデルは少ないが、着々とその目指す方向が見えてきたように思う。

 GRカンパニーにはボディ&シャシーはじめ、ドライブトレーン、エンジンまで手を入れた「GRMN」、ボディ&シャシーとドライブトレーンをチューニングした「GR」、そしてボディ&シャシーを変更した「GR SPORT」がある。GR SPORTのコンセプトはドライバーが気持ちよく走れ、日常を快適にドライブできることに主眼を置いたものになる。

 今回紹介するのはC-HRに新設定されたGR SPORTだ。エクステリアではGR専用のフロントグリルや補助ランプベゼルなどで差別化を図り、タイヤも225/45R19サイズの横浜ゴム「ADVAN FLEVA」を採用し、ホイールは7Jから7.5Jになっている。

 インテリアでは小径のステアリングホイール、インストルメントの加飾パネル、専用スポーツシート、アルミペダルなどが採用され、差別化と機能向上を図っている。

 機能面ではボディ下面の補強パーツであるブレースの形状を変えていることをはじめ、フロント&リアスプリング、ショックアブソーバー、スタビライザー、電動パワーステアリングがGRの凄腕ドライバーたちの手によってチューニングされている。

今回試乗したのは10月のマイナーチェンジに合わせてデビューした、「C-HR」の“GR SPORT”。写真は直列4気筒 1.2リッターターボ「8NR-FTS」型エンジンに6速MTを組み合わせる「S-T“GR SPORT”」(273万2000円)で、ボディサイズは4390×1795×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm。このほかハイブリッド仕様の「S“GR SPORT”」(309万5000円)もラインアップする
GR SPORTではフロントフロア下にトンネルブレースを追加してボディ剛性を強化。また、専用の横浜ゴム「ADVAN FLEVA」(225/45R19)を採用するとともに、足まわりについても専用のチューニングを施している
インテリアではGR SPORT専用の本革巻き小径3本スポークステアリングホイール、インストルメントパネル加飾&ドアインナーガーニッシュ(GR専用金属調ダークシルバー塗装)、スポーティシート(GRエンブレム付+シルバーダブルステッチ付)、アルミペダルなどを装備

マイチェン前後のモデルとGR SPORTを比較

 試乗は、クローズドコースのスラロームなどでC-HRのマイチェン前と後のモデルとGR SPORTを比較し、GR SPORTは公道でも行なった。

 マイチェン前後のモデルについて触れておくと、マイチェン後のモデルは路面突起などでのあたりは柔らかく、突き上げに対する乗り心地が向上している。スラロームでは転舵時のロール感はよいが、切り返しでは少し収束性が鈍くなっている感じだ。一方のマイチェン前のモデルは、上下動の動きが多少大きいものの収束に優れている点や、スラローム時のクルマの動きに一体感がある点では好ましい。

マイチェン前と後のC-HRにも試乗

 さて、GR SPORTで同じように大きな段差を超えてみると、突起物を左右で1輪ずつ越えるような場面でのバネ上の動きはフラット感があって好ましい。ただ、左右に同時に乗り越えるような時は突き上げとその後の収束がわるくなる。概して一般道にあるような荒れた路面を通過する際は、フラット感のある乗り心地となっている。

 もう少し速度を上げてスラロームなどを走ってみると、ハンドルの手応え、ライントレース性、レーンチェンジなどはGR SPORTの本領発揮で、素直で一体感のある動きが好ましく感じられる。

 19インチのADVAN FLEVAは路面へのあたりが意外なほどしなやかで快適。スラロームのように左右にハンドルを切るケースでもガツンとしたグリップよりも、滑らかに路面を捉える感触が好ましい。

 ショックアブソーバーはマイチェン後のC-HR同様にSACHS製から日立製となり、ソフトなところが持ち味だ。GR SPORTではスプリングレートがノーマルに対して50%ほど高くなり、ショックアブソーバーの減衰力もこれに合わせて中速域の伸び側が上げられて、微低速域は逆に下げられているのが特徴だ。乗り心地を損なわずにハンドリングの質を上げた巧みな設定だ。

 ちなみにスタビライザーはスプリングレートのアップに伴って前後とも細くされ、スムーズなロールを損なわないようにチューニングされている。特に前後のロールバランスを取るために、フロントは56.2φから50.2φに、対してリアは59.1φから50.4φとなっている。高速スラロームやレーンチェンジでは、ハンドルの効きや姿勢変化にベースのC-HRとの違いがよく表れている。

 ステアリングホイールは362φと小径。それだけでも操舵フィールがスポーティで、少ない操舵量でスイと曲がれるのが小気味よい。また、GR SPORT専用のシートのバケット形状は深くないが、適度なホールド感があってスラローム時にも体が振られにくく、ハンドル操作がしやすかった。

 ボディ剛性では、床下に新たに追加されたブレースによってリアタイヤの追従性に効果があり、GR SPORTが目指す一体感のあるハンドリングの一端を担っている感じだった。

6速iMT仕様の公道でのフィーリングは?

 ここまではハイブリッドのGR SPORTの話だが、公道でのGR SPORTは6速iMTの1.2リッターターボである。

 新世代の燃費型ターボは低中速トルクと低回転時のレスポンスを重視した設定で、パンチ力はないが使いやすいエンジンだ。発進時も低回転でのトルクがあるので、滑らかにグイとスタートできる。半面、高速道路での追い越しなどではエンジン回転が頭打ちになり、そこは小排気量ターボらしい。

 6速のiMTは「カローラ スポーツ」と同じはずだが、C-HRでは車両重量の違いなのかシフトアップ時のエンジン回転落ちが滑らかであまり違和感はなかった。また、シフトフィールは軽さはないが、実用車らしいしっかりした手応えを持っており頼もしい。iMTはシフトダウン時に回転合わせをしてくれるので、MT初心者でもなじみやすいだろう。

 乗り心地では荒れた舗装路での接地感が高くスポーティモデルらしい味わいだが、ゴツゴツした感触がないのは好ましい。ショックアブソーバーとスプリングのバランスのよさを再確認できた。

 GR SPORTは、完成度の高いC-HRのドライビングの質をさらに向上させたモデルだ。ハイブリッドのGR SPORTは309万5000円。1.2リッターターボのGR SPORTは273万2000円となり、同グレードのC-HRと比較するとハイブリッド、1.2リッターターボともに36万5000円の差となる。装備の違いもあるので同列比較はできないものの、検討してみる価値はあると思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛