試乗インプレッション
レクサス初の市販EV「UX300e」、テストコースでその実力に迫った
中国市場から投入する意味とは?
2019年11月22日 11:40
1900kg台の車両重量に204PS/300Nmの「4KM」型モーター
10月某日、とあるテストコースでレクサス(トヨタ自動車)初の電気自動車(BEV)である「UX300e」のプロトタイプに試乗した。スタート地点に佇むUX300eを見る限り、販売されているUX(ガソリン/ハイブリッドの各モデル)との区別は難しい。BEV専用車種ならいざ知らず、既存車種への追加という形で販売されるわけだから違いはなくてもいいし、あってもそれは最小限で十分ではないかと筆者は考えている。
早速乗り込む。内装も外観同様、既存のUXとほぼ同じだ。水平方向にスイッチ関連の多くが展開されていることや、センターパネル全体を運転席側へオフセットさせ、操作性を向上させている点などもUX300eに引き継がれた。
違いはパワートレーンの変更に伴うインパネ内の表示方法とシフトまわりに少しだけ見て取れる。とはいえ正直、クルマ全体を確認できるほど時間は与えられえておらず、対面して乗り込みスタートまでの約1分で車両全体を把握しなければならなかった。なので、大きな相違点を見逃していたかもしれない……。
試乗を許されたのは約5kmの専用コース1周。よって、いつも以上に心して向かう。Dレンジに入れてゆっくりアクセルを踏むと、ちょっと拍子抜けするほどおとなしい加速をみせた。執筆時点(11月20日)で判明しているスペックは、150kW(204PS)/300Nmの「4KM」型モーターで前輪を駆動することと、54.3kWhリチウムイオンバッテリーを搭載し、1回の充電あたり400km(NEDC計測値)の走行ができるということだ。ボディサイズは既存UXと同じ、はずだ。
コースイン直前の停止ラインで完全停止。ECB(電子制御ブレーキ)のペダル操作感や減速フィールは、トヨタ/レクサスで慣れ親しんだいつもの感覚で自然なブレーキングができた。聞けば回生ブレーキに関しては、例えば「UX250h」など既存のハイブリッドシステム「THS II」が採用するECBよりもさらに進んだ技術を投入していて、ペダル操作感を変えることなく停止直前まで回生ブレーキを働かせることでバッテリーへのエネルギー回収率を高めているという。
専用コースの序盤は大きな左右カーブが連続し、それに緩やかな上り/下りの勾配が組み合わされる。テストコースだけにコース幅の中にはフラットで平坦な路面から、ざらついて突起物が仕込まれた路面まで用意されていた。まずはフラットな路面を60km/hを上限にスムーズに走らせる。初速でおとなしいと感じた加速性能だが、速度が20km/hあたりを超えてからは同じようなアクセルペダル操作でもクルマが軽くなったかのような動きを見せる。そこで、試しにほぼ停止状態から徐々に大きくアクセルを踏み込んでみると、やはり動き出しこそ緩やかだが、その後は結構な勢いで加速する。
初速がやや緩慢に感じられたのは、1900kg台の車両重量(開発陣談)が効いている。ちなみに、日産自動車「リーフ e+」(62kWhバッテリー搭載車)が160kW(218PS)/340Nmで車両重量が1680kgだから、想像するにUX300eの常用域における加速力イメージはリーフ e+の80%程度か。ただし、開発者曰く「発表しているモーターとバッテリーのスペックは余力を大きく残した状態」とのことなので、瞬間的な加速力では2車の違いはそこまで広がらないだろうと推察できる。
コースが変化し、5%以上の上り勾配路にさしかかる。カーブ曲率もきつくなり、右に左に終始ステアリング操作を求められる。車体下部に搭載したバッテリーによって既存のUXよりも重心位置が低くなり、それに併せてロールセンター位置をやや上方へと変更したことで、カーブ進入時から曲がり切るまで少なめのロール量を維持したまま走る。技術者によれば、プラットフォームは既存のUXと同じく「GA-C」を採用するものの、BEV化にあたって大幅な変更を各所に行ない、車体下部には補強用のブレースを複数追加しつつ、サスペンションの取り付け部分の剛性も向上させている。実は、これ以外にもかなりの変更が行なわれていて、車体後部の剛性を高めるためにGA-Cとは別物といってもいいほどの手が加えられた。前述した1900kg台の車両重量は54.3kWhの大容量バッテリーと、こうした車体の剛性向上を目的とした構造変更によるものだ。
コース中盤は再びフラットな平坦路。ここで改めて加速フィールを確認する。少し踏んで保つ/じんわり深く踏み込む/イッキに深く踏み込むなど、さまざまなシーンを想定してアクセル操作を行なってみたが、見事なまでに「時間あたりの加速度変化(躍度)」はペダルの踏み込み量に同調していることが分かった。これは公道で乗りやすさを実感する操作感でもあるため、非常に好感を抱いた。
こうした乗りやすさは疑似音にも支えられる。「ASC(アクティブサウンドコントロール)」と命名されたシステムは、走行状態に応じてスピーカーから発せられる疑似音により運転操作にメリハリをつけることが目的だ。音質は低~中音域中心でアクセルペダルの踏み込み量や、踏み込み速度に合わせて大きく、素早く盛り上がる。しかし、決して出しゃばり過ぎることなくインバーター系の高周波音にうまくミックスされたもので、確かに運転にメリハリがつくし速度感が掴みやすい。
いわゆる内燃機関車両のスポーツモデルが採用する同様のシステムとは少し違って、とかく走行環境をイメージさせる音が少ないBEVにあって、ドライバーの運転操作にシンクロさせる黒子のような存在だ。以前にCar WatchでレポートしたマツダのプロトタイプEV「e-TPV」でも擬似的サウンドは採用されていた。
コース終盤は長い下り坂からのワインディング路。下り坂では、ステアリングに装着されたパドルシフトの操作によって4段階に調整できる回生ブレーキを確認する。最も強い減速度が得られるのは4段階目で、開発者によれば「4段階目ではブレーキランプ点灯義務要件と重なる0.13G(1.3m/s 2 前後の減速度が発生する」とのこと。さらに、このパドルシフト操作による回生機能はワインディング路でも有効だった。減速度そのものが強過ぎないこともあるが、アクセルペダルとの連携が非常にスムーズに行なえてギクシャク感がないから運転操作がリズミカルになる。
日産「ノート e-POWER」などの「e-POWER Drive」やリーフの「e-Pedal」など、いわゆるアクセルペダルの戻し加減で減速度を生み出す運転操作はかなり市民権を得てきたように思う。BMW「i3」やフォルクスワーゲン「e-ゴルフ」「e-up!」でも、同じく回生ブレーキを積極的に運転操作に組み込んでいた。先だって試乗したメルセデス・ベンツ「EQC」に至っては車両重量が2495kgと重量級であるため、回生ブレーキを常時使うことが乗りやすさを向上させ、同時にブレーキパッドのロングライフ化に貢献。また、回生ブレーキだけで完全停止まで行なう/行なわないなど、回生ブレーキに対する考え方にもメーカー間で違いがあって興味深い。ちなみに、UX300eはEQCと同じく回生ブレーキだけでは完全停止を行なわず、最後はブレーキ操作で止める方式だ。
BEVニーズがとくに高い地域から販売する
UX300eは、11月22日の広州モーターショーでレクサス初のBEVとして発表されたわけだが、量産乗用車という意味ではトヨタ/レクサス初のBEVであり、その意味で記念すべき1台。一方、トヨタブランド初の量産型BEVは2020年に超小型モビリティの新規格として発売されることが2019年6月に発表されている。
レクサスを代表する1人である佐藤恒治氏は、レクサス初のBEVを中国市場から投入する意味を次のように語る。「レクサスでは3つの柱を掲げています。①原点回帰、②電動化、③Fモデルの強化です。このうち、②の電動化はHV/PHV/BEV/FCVのすべてを意味し、BEVがナンバー1であるとは考えていません。BEVを早急に導入しなければならないという焦りから、レクサスの各モデルを販売しているすべての市場へ同時に導入するのではなく、BEVニーズがとくに高い地域から販売する戦略を打ち立てました。中国ではBEVのニーズが高いことから、それに対応すべく今回UX300eを導入しました」。
現在、日本国内においてUXはガソリン/ハイブリッドの両モデルが導入されているが、佐藤氏の考えから察するに、このままUX300eを国内導入するかどうかは微妙であると筆者は考えている。確かに国内でもBEVへの関心は高まりつつあるが、「2025年には全モデルを電動化」(佐藤氏)という目標を掲げていること、さらには3つの柱である①と③も同時に進めていくことを考えると、国内市場においてBEVが最優先されるとは考えにくいからだ。
3つの柱にはどれも大きな意味がある。2019年は初代レクサス「LS400」(日本名:セルシオ)が北米で誕生して30周年となる記念すべき年。その年に発表された3つの柱は、この先のレクサスを決める大切な羅針盤となる。東京モーターショー 2019では近い将来の電動化を示すコンセプトカー「LF-30 Electrified」が発表されたが、①の原点回帰、③のFモデル強化の領域も、②の電動化で見せた勢いをそのままに具現化されることを期待したい。