試乗インプレッション
レクサス「UX」は爽快な加速フィールのハイブリッド、清々しい身のこなしのガソリンとどちらも魅力的
ひと目で惹きつける美しさがUXの存在意義
2019年1月1日 00:00
20年前、いや、ほんの10年前までは、SUVに対して「美しい」という形容詞を使う日が来るとは夢にも思っていなかった。もちろん、ルーフラインやテールランプ、インテリアなど部分的に美しい要素はあったし、機能美という表現は常套句。でも、外観をひと目見て、自然に「キレイなクルマだな」と感じたのはこの「UX」が初めてだったかもしれない。それも全長が4.5mを切るコンパクトな部類に入るSUVとなれば、他には思い浮かばない。
「二律双生」をクルマづくりの哲学に掲げるレクサス(トヨタ自動車)にとって、SUVはまさに挑戦しがいのある題材だったのではないだろうか。私は「セキュアさ」という言葉を初めて耳にしたが、本来は「安心な」「危険のない」という意味で、UXにおいては「安心感・守られ感、力強さ、見晴らしのよさ」を意味するという。そこに、独自の価値として追求したのが「大人の遊び心」や「華」。レクサスの既存のSUV「LX」「RX」「NX」とは明らかに世界が違うと感じるのは、その要素がもたらす印象が強いからだろう。とにかく私は「運命のワンピース」に出会った時のように、一瞬にしてUXに心奪われた。普通なら「スニーカー」に例えるようなところを、ワンピースと言いたくなる感覚が、すでにこれまでのSUVとは違っている。
インテリアも外観からの期待を裏切らないものだった。レクサスは日本上陸当初から、竹や和紙など「和」の伝統的な素材や技法を取り入れてきたが、今回もさりげなくダッシュボードやシートに和紙や刺し子刺繍、柔道や剣道の道着に由来する縫い目などを表現。そのせいなのか、丁寧な仕上げのおかげもあるのか、初めて乗ったクルマなのにどこか懐かしいような、ホッとするような、不思議な居心地のよさを感じた。
身を預けたシートはゆったりとしているが、運転席では少々タイトでコクピット感が強めだ。女性はシート位置が前寄りになることが多いので、よけいにタイトに感じるのかもしれない。ただ、それでもミリ単位にまでこだわって配置を検討したという、各部の操作感は上々。カーナビ操作を指先だけで行なえるという「リモートタッチ」(タッチパッド式)は、数時間の試乗ではなかなか慣れずに使いこなせなかったが、TFT液晶式の一眼式メーターはエレガントで見やすいし、シフトセレクターやスイッチ類、カップホルダーなども上質感があって使いやすいと感じた。
UXには、北米での販売割合のほとんどを占めるという2.0リッター直噴エンジン+モーターのハイブリッドモデルと、2.0リッター直噴エンジンのガソリンモデルが用意されており、まずはハイブリッドモデルから試乗した。
後席は包み込まれるような安心感
スタートボタンで起動した静かな空間は予想どおりだが、そこから速度を上げていっても静かさが失われず、伸びやかな加速フィールを心地よく味わえる贅沢な時間が流れる。今回、ハイブリッドユニットの最適設計と小型・軽量・高効率化技術を投入し、従来では手をかけなかった0.01%レベルの改良アイテムにまで磨きをかけたというUXのハイブリッドシステム。それだけでなく、鋭いレスポンスにもこだわったということで、アクセルペダルを踏み込んだ際にこちらが思い描くとおりの応答が得られ、エンジン回転の上昇とのズレもないスカッと爽快な加速フィールに感心した。
そしてその爽快感を後押ししているのが、ほどよくガッシリ&しなやかなボディの一体感だ。UXはレクサスで初めて、走りのよさに定評のあるトヨタ「C-HR」用をベースとした「GA-Cプラットフォーム」を採用。車体にレーザースクリューウェルディング(LSW)や構造用接着剤を導入して剛性を高め、アルミニウムサイドドアや樹脂バックドアなどの導入で低重心化を図るなど、さらに磨きがかけられている。加えて、フロントがマクファーソンストラット式、リアがダブルウィッシュボーン式となるサスペンションも新開発。一部グレードにはパフォーマンスダンパーも採用されている。試乗車はE-Four採用のAWD車だ。
試乗コースは路面状況が芳しくなかったこともあり、ギャップを乗り越えた後や高速道路でのレーンチェンジ直後など、やや足まわりがドタドタッとバタつくシーンはあったものの、ステアフィールにも適度な手応えがあり、気持ちよく運転できる。右へ左へとカーブが連続するような場面では、ここゾの一瞬で操作できるパドルシフトが欲しくなるほどスポーティな一面も感じられた。乗り心地にもおおむね落ち着き感があり、とてもバランスがいいと感じた。また、後席は包み込まれるような安心感に加え、ほとんど前席と遜色ない乗り心地で、ホッとリラックスできる空間なのも美点だ。
ガソリンモデルの清々しい身のこなしに好感
続いてガソリンモデルに乗り換えてみる。レクサス初となる2.0リッター直噴エンジンは、クラストップレベルの動力性能と低燃費を目指して新開発されたものだ。174PS/209Nm、17.2km/L(JC08モード)/16.4km/L(WLTCモード)というスペックは、例えば同じ2.0リッターガソリンの日産自動車「エクストレイル」(MR20DD 2WD車)の147PS/207Nm、16.4km/L(JC08モード)よりも確かにパワフルで低燃費。果たしてアクセルを踏み込んでいくと、思いがけないほどの軽やかさで加速し、ハイブリッドモデルからさらに贅肉を削ぎ落としたような清々しい身のこなしに好感を持った。
試乗車のグレードは「F SPORT」で、18インチの専用アルミホイールが装着されていることをはじめ、外観やインテリアもスポーティに彩られている。足まわりでもリアにオプション品のパフォーマンスダンパーが奢られ、先ほど欲しいと思ったパドルシフトも付いている。一般道から高速道路へと入りながら、「コレだ!」としっくりきている自分がいた。
ステアリングを切り込んだ時にシュッと素直に向きを変える鼻先と、リアタイヤまでがしっかりと軽快感を損なわずに追従する気持ちよさ。ハイブリッドの4WDモデルより140kgほど車両重量が軽いというだけではない、UXの持つ「素の魅力」がダイレクトに引き出せている感覚がとても楽しい。インテリアはちょっと硬派になってしまうので、F SPORT以外のカラーがいいなと思ったが、乗り心地はランフラットの18インチタイヤの割には硬すぎず、後席でも許容範囲内だし、個人的にはガソリンモデルがすっかり気に入ってしまった。取材時点での受注状況では、なんと8割以上がハイブリッドモデルなのだというが、もし機会があればガソリンモデルにも試乗してほしいと思う。
そして最後に、UXには最先端の予防安全パッケージ「Lexus Safety System+」をはじめ、路車間通信、車車間通信などの「ITS Connect」、エージェント採用の最新ナビといった運転サポート技術が満載となっている。また、運転席側のエアコン吹き出し口からお肌や髪にいい「ナノイー」が放出されるなど、空調面での運転環境も抜群。女性はもちろん、家族のクルマとしても魅力的だと感じた。
ただ、家族で使うために1つだけ不満を挙げるとすれば、ラゲッジのフロアが最近のクルマにしては高めになっていること。しかしこれには、デザインや衝突安全性能をはじめ、UXの個性・価値を考え抜いた上で、あえてそうなっているという。フロアは高めでも、掃き出し口からフラットにして積載性は考慮している。その上で、あまたあるSUVの中でUXが存在する意義とは何か。そこにこだわったという信念こそが、ひと目で「美しい」と惹きつけるUXを創り出したのだと確信したのだった。