試乗インプレッション

レクサス「UX」は爽快な加速フィールのハイブリッド、清々しい身のこなしのガソリンとどちらも魅力的

ひと目で惹きつける美しさがUXの存在意義

 20年前、いや、ほんの10年前までは、SUVに対して「美しい」という形容詞を使う日が来るとは夢にも思っていなかった。もちろん、ルーフラインやテールランプ、インテリアなど部分的に美しい要素はあったし、機能美という表現は常套句。でも、外観をひと目見て、自然に「キレイなクルマだな」と感じたのはこの「UX」が初めてだったかもしれない。それも全長が4.5mを切るコンパクトな部類に入るSUVとなれば、他には思い浮かばない。

「二律双生」をクルマづくりの哲学に掲げるレクサス(トヨタ自動車)にとって、SUVはまさに挑戦しがいのある題材だったのではないだろうか。私は「セキュアさ」という言葉を初めて耳にしたが、本来は「安心な」「危険のない」という意味で、UXにおいては「安心感・守られ感、力強さ、見晴らしのよさ」を意味するという。そこに、独自の価値として追求したのが「大人の遊び心」や「華」。レクサスの既存のSUV「LX」「RX」「NX」とは明らかに世界が違うと感じるのは、その要素がもたらす印象が強いからだろう。とにかく私は「運命のワンピース」に出会った時のように、一瞬にしてUXに心奪われた。普通なら「スニーカー」に例えるようなところを、ワンピースと言いたくなる感覚が、すでにこれまでのSUVとは違っている。

自然吸気ガソリンモデルのUX200“version L”(ソニックチタニウム)。ボディサイズは4495×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mmで全車同一。車両重量は1500kg
柔らかな面構成とシャープなラインが同居する「二律双生」の外観デザイン。横一列に光るテールランプのコンセプトは「空気を切り裂く発光体」
車両後方側が大胆にキックアップする上下2本のラインでサイドビューに力強さと躍動感を与えている
ヘッドライトにはレクサスのLをモチーフとしたデイライト機能付クリアランスランプを備え、“version L”は3眼フルLEDヘッドライト(ロー・ハイビーム)を標準装備
レクサス車のアイデンティティであるスピンドルグリルは、見る角度によって多彩に表情を変え、生命感を演出する「ブロックメッシュパターン」(左)を標準設定するほか、“F SPORT”では「LS」から導入を開始したL字ピースのメッシュパターンを採用する

 インテリアも外観からの期待を裏切らないものだった。レクサスは日本上陸当初から、竹や和紙など「和」の伝統的な素材や技法を取り入れてきたが、今回もさりげなくダッシュボードやシートに和紙や刺し子刺繍、柔道や剣道の道着に由来する縫い目などを表現。そのせいなのか、丁寧な仕上げのおかげもあるのか、初めて乗ったクルマなのにどこか懐かしいような、ホッとするような、不思議な居心地のよさを感じた。

 身を預けたシートはゆったりとしているが、運転席では少々タイトでコクピット感が強めだ。女性はシート位置が前寄りになることが多いので、よけいにタイトに感じるのかもしれない。ただ、それでもミリ単位にまでこだわって配置を検討したという、各部の操作感は上々。カーナビ操作を指先だけで行なえるという「リモートタッチ」(タッチパッド式)は、数時間の試乗ではなかなか慣れずに使いこなせなかったが、TFT液晶式の一眼式メーターはエレガントで見やすいし、シフトセレクターやスイッチ類、カップホルダーなども上質感があって使いやすいと感じた。

UX200“version L”のインテリア。メーターパネルは7インチのTFT液晶式で、インパネ中央に10.3インチワイドディスプレイをレイアウト
樹脂の表面に和紙を思わせる質感を与えた「和紙調シボ」のオーナメントパネルを設置
ロッカーパネルをドア下側に設定。ドアを開けた時に地面に足を下ろしやすくなるほか、雨水や泥によってスカートなどが汚れる心配も減る
フロントシートはシートバック下側の張り出しで腰まわりをしっかりとサポート。上側は運転中の操作性を考慮したショルダー形状としている
リアシートは6:4分割可倒式。シートバック中央はカップホルダー付きのセンターアームレストになっている
シート中央部分には空調性能まで考慮した「数理曲線パーフォレーション」を与え、肩まわりに「刺し子」をモチーフとしたステッチが施されている

 UXには、北米での販売割合のほとんどを占めるという2.0リッター直噴エンジン+モーターのハイブリッドモデルと、2.0リッター直噴エンジンのガソリンモデルが用意されており、まずはハイブリッドモデルから試乗した。

カーライフ・ジャーナリストのまるも亜希子氏が、女性チーフエンジニアが手がけたレクサスのコンパクトクロスオーバー UXをチェック

後席は包み込まれるような安心感

 スタートボタンで起動した静かな空間は予想どおりだが、そこから速度を上げていっても静かさが失われず、伸びやかな加速フィールを心地よく味わえる贅沢な時間が流れる。今回、ハイブリッドユニットの最適設計と小型・軽量・高効率化技術を投入し、従来では手をかけなかった0.01%レベルの改良アイテムにまで磨きをかけたというUXのハイブリッドシステム。それだけでなく、鋭いレスポンスにもこだわったということで、アクセルペダルを踏み込んだ際にこちらが思い描くとおりの応答が得られ、エンジン回転の上昇とのズレもないスカッと爽快な加速フィールに感心した。

ハイブリッドモデルのUX250hが搭載する直列4気筒 2.0リッター直噴「M20A-FXS」型エンジンは最高出力107kW(146PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4400rpmを発生。電気式無段変速機やモーターと組み合わせ、JC08モード燃費は2WD車が27.0km/L、4WD車が25.2km/Lとなる

 そしてその爽快感を後押ししているのが、ほどよくガッシリ&しなやかなボディの一体感だ。UXはレクサスで初めて、走りのよさに定評のあるトヨタ「C-HR」用をベースとした「GA-Cプラットフォーム」を採用。車体にレーザースクリューウェルディング(LSW)や構造用接着剤を導入して剛性を高め、アルミニウムサイドドアや樹脂バックドアなどの導入で低重心化を図るなど、さらに磨きがかけられている。加えて、フロントがマクファーソンストラット式、リアがダブルウィッシュボーン式となるサスペンションも新開発。一部グレードにはパフォーマンスダンパーも採用されている。試乗車はE-Four採用のAWD車だ。

 試乗コースは路面状況が芳しくなかったこともあり、ギャップを乗り越えた後や高速道路でのレーンチェンジ直後など、やや足まわりがドタドタッとバタつくシーンはあったものの、ステアフィールにも適度な手応えがあり、気持ちよく運転できる。右へ左へとカーブが連続するような場面では、ここゾの一瞬で操作できるパドルシフトが欲しくなるほどスポーティな一面も感じられた。乗り心地にもおおむね落ち着き感があり、とてもバランスがいいと感じた。また、後席は包み込まれるような安心感に加え、ほとんど前席と遜色ない乗り心地で、ホッとリラックスできる空間なのも美点だ。

ガソリンモデルの清々しい身のこなしに好感

 続いてガソリンモデルに乗り換えてみる。レクサス初となる2.0リッター直噴エンジンは、クラストップレベルの動力性能と低燃費を目指して新開発されたものだ。174PS/209Nm、17.2km/L(JC08モード)/16.4km/L(WLTCモード)というスペックは、例えば同じ2.0リッターガソリンの日産自動車「エクストレイル」(MR20DD 2WD車)の147PS/207Nm、16.4km/L(JC08モード)よりも確かにパワフルで低燃費。果たしてアクセルを踏み込んでいくと、思いがけないほどの軽やかさで加速し、ハイブリッドモデルからさらに贅肉を削ぎ落としたような清々しい身のこなしに好感を持った。

直列4気筒 2.0リッター直噴「M20A-FKS」型は最高出力128kW(174PS)/6600rpm、最大トルク209Nm(21.3kgfm)/4000-5200rpmを発生。トランスミッションとして発進用の1速ギヤを持つ新型CVT「Direct Shift-CVT」を組み合わせる

 試乗車のグレードは「F SPORT」で、18インチの専用アルミホイールが装着されていることをはじめ、外観やインテリアもスポーティに彩られている。足まわりでもリアにオプション品のパフォーマンスダンパーが奢られ、先ほど欲しいと思ったパドルシフトも付いている。一般道から高速道路へと入りながら、「コレだ!」としっくりきている自分がいた。

 ステアリングを切り込んだ時にシュッと素直に向きを変える鼻先と、リアタイヤまでがしっかりと軽快感を損なわずに追従する気持ちよさ。ハイブリッドの4WDモデルより140kgほど車両重量が軽いというだけではない、UXの持つ「素の魅力」がダイレクトに引き出せている感覚がとても楽しい。インテリアはちょっと硬派になってしまうので、F SPORT以外のカラーがいいなと思ったが、乗り心地はランフラットの18インチタイヤの割には硬すぎず、後席でも許容範囲内だし、個人的にはガソリンモデルがすっかり気に入ってしまった。取材時点での受注状況では、なんと8割以上がハイブリッドモデルなのだというが、もし機会があればガソリンモデルにも試乗してほしいと思う。

以前まではトヨタ車やレクサス車に紡錘形の「エアロスタビライジングフィン」が積極的に用いられていたが、UXでは「空力走安の性能を合わせ持つパーツ」として、ホイールアーチの「エアロスタビライジングアーチモール」、リアコンビネーショオンランプ両サイドの「エアロスタビライジングブレードライト」に発展。デザイン性と機能性を両立させている
UXでは“version L”と“F SPORT”で225/50 RF18タイヤ(写真)、“version C”などで215/60 R17タイヤを標準装備

 そして最後に、UXには最先端の予防安全パッケージ「Lexus Safety System+」をはじめ、路車間通信、車車間通信などの「ITS Connect」、エージェント採用の最新ナビといった運転サポート技術が満載となっている。また、運転席側のエアコン吹き出し口からお肌や髪にいい「ナノイー」が放出されるなど、空調面での運転環境も抜群。女性はもちろん、家族のクルマとしても魅力的だと感じた。

 ただ、家族で使うために1つだけ不満を挙げるとすれば、ラゲッジのフロアが最近のクルマにしては高めになっていること。しかしこれには、デザインや衝突安全性能をはじめ、UXの個性・価値を考え抜いた上で、あえてそうなっているという。フロアは高めでも、掃き出し口からフラットにして積載性は考慮している。その上で、あまたあるSUVの中でUXが存在する意義とは何か。そこにこだわったという信念こそが、ひと目で「美しい」と惹きつけるUXを創り出したのだと確信したのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学