試乗インプレッション
ベントレーのSUV「ベンテイガ V8」、W12モデルの700万円安は破格か?
官能的なエンジンサウンドと加速フィール。高回転型エンジンに脱帽
2019年1月2日 00:00
700万円安は破格か?
当初はW12モデルのみでスタートした「ベンテイガ」に、のちにV8モデルが加わった。そのV8モデルは価格がW12よりもずっと控えめ。かといって2000万円をやや下まわるぐらいで、高価であることに変わりはないわけだが、W12との差額がひと声700万円という数字はなかなかインパクトがある。
ということは700万円分、中身もそれなりに差別化されていろいろ省かれているのかと思えば、ぜんぜんそんなことはない。エンジン以外の差はごく小さく、見た目の違いもホイールのデザインとフロントグリルやマフラーのテールエンドぐらいのもので、バッヂ類もなく相違点は少ない。
インテリアにおいても、W12との違いはほぼない。1つひとつにクラフトマンシップをヒシヒシと感じさせる仕立てのよさは、いつもながら素晴らしいのひとこと。美しいウッドのパネルも鏡のように映り込みがキレイなのは、それだけ表面が平滑ということに違いない。
一方で、むしろV8のみに新たに設定されたものもある。具体的には、カーボンを用いたパネルをはじめ、インテリアのコーディネートの選択肢が増え、機能面ではカーボンセラミックブレーキが選択可能になり、ブレーキキャリパーのレッドペイントを選べることなどが挙げられる。
肝心のエンジンは、気筒数も排気量もW12の3分の2となる4.0リッターV8ツインターボ。W12に比べると、スペック的には最高出力が58PS、最大トルクが130Nm下まわるが、それでも550PS/770Nmという数値は立派なもの。0-100km/h加速は4.5秒、最高速は290km/hというから、相当な実力の持ち主であることには違いない。
W12に比べると弟分的な位置付けとはいえ、同門のポルシェ「カイエン」やランボルギーニ「ウルス」に積まれているものと基本的に同じエンジンと言えば、どれほどのものか想像いただけよう。にもかかわらず、W12より700万円も安いというのはまさしく“破格”に違いないと、乗らずしてもすでに強く思う。
V8ならではのサウンドと加速フィール
果たしてそのドライブフィールは、あくまでW12でも味わったベンテイガならではの境地を感じさせながらも、少なからず異質のものであった。
まずスポーツエキゾーストによるサウンドからして、W12の奥ゆかしい響きとは明確にキャラクターが異なる。アメリカンマッスルカーにも通じる、低くドロドロと唸るV8サウンドは、W12に比べて音量も大きく迫力のあるもの。それでいて、まわすと現代的に洗練されたスポーティな音質を聴かせる官能的な側面も併せ持っている。W12に比べると荒々しさを感じさせながらも、あくまでベントレーらしく上品に仕上げられているあたりもさすがというほかない。
エンジン特性もW12に比べるとずっとスポーティだ。W12がアクセルを踏めばどこからでもズドンと加速するのに対し、V8もこれだけ排気量があれば十分に下から力強いのだが、本領を発揮するのはもう少し上の回転域。1000rpm台の後半あたりからもりもりと力がみなぎっていき、中間域ではフラットにトルクカーブを描きながら伸びやかに吹け上がっていくといった具合で、これまた官能的な味付け。
550PSのピークパワーを6000rpmで発生し、6800rpmからレッドゾーンが始まる高回転型のキャラクターゆえ、トップエンドにかけてより勢いを増していく印象だ。かつてベントレーにおいて、これほど高回転型のエンジンがあっただろうかと思わずにいられないほどだ。
価格差はさておき、どちらが好きかと言われたら、W12の味ももちろん素晴らしいと思うが、筆者にとってはこのサウンドと加速フィールを味わえるV8の方がタイプかな……。
さらに軽快なフットワーク
エンジンだけでなく、フットワークにもV8ならではの味わいがある。以前、W12をワインディングで走らせたときにも、スポーツカーをカモれるほどのコーナリング性能に舌を巻いたものだが、V8はさらに鼻先が軽く、そのハンドリングには気持ちよさすら感じるほど。フロント軸重は50kgばかり軽くなっているようだが、感覚としてはもっと軽やかだ。
軽いといっても、車両重量はW12とは2.5tを少し上まわるか下まわるかぐらいの違いで、巨漢であることに違いはない。にもかかわらず、本当にこともなげにワインディングを駆け抜けていけるのには驚かされるばかり。ブレーキも十分なキャパシティが確保されていて、まったく不安を感じさせない。このままサーキットに持ち込んで全開で攻めても問題なく走れてしまいそうな気がするくらいだ。
22インチもの大径ホイール&タイヤを履くと、バネ下もそれなりに重いはずながら、質量の影響を感じさせることもなく、たっぷりとストロークの確保された4つのタイヤがしなやかに路面を捉える感覚が伝わってくる。これに寄与しているであろう48Vシステムを駆使したアクティブスタビライザー等も効いてか、コーナリング時の姿勢も重心の高さを忘れさせるほどフラットに保たれる。それでいて、あるところからほどよくロールやピッチングなどの挙動が起こるように躾けられていて、車両がどのような状態にあるか常にとても掴みやすい。
W12のときも同じようなことを述べた記憶があるが、物理の法則はどこへいったのかという感じ。重量物というのはもっとイナーシャ(慣性)を感じさせるはず。ステアリングに対しても、アクセルやブレーキに対しても。ところが、それが見事なまでに払拭されている。最新のテクノロジーというのは、こうした神業のようなことができてしまうのかと恐れ入るばかりだ。
むろんW12のよさも重々承知しているものの、もしベンテイガを買うとしたら、価格差と走りの好みで筆者ならV8を選ぶ、と勝手に妄想してみるが、戯言ではなく本当にそんなことで悩んでみたいものだ。ああ、年末ジャンボ当たらないかな……。