試乗インプレッション

ベントレーのSUV「ベンテイガ V8」、W12モデルの700万円安は破格か?

官能的なエンジンサウンドと加速フィール。高回転型エンジンに脱帽

700万円安は破格か?

 当初はW12モデルのみでスタートした「ベンテイガ」に、のちにV8モデルが加わった。そのV8モデルは価格がW12よりもずっと控えめ。かといって2000万円をやや下まわるぐらいで、高価であることに変わりはないわけだが、W12との差額がひと声700万円という数字はなかなかインパクトがある。

 ということは700万円分、中身もそれなりに差別化されていろいろ省かれているのかと思えば、ぜんぜんそんなことはない。エンジン以外の差はごく小さく、見た目の違いもホイールのデザインとフロントグリルやマフラーのテールエンドぐらいのもので、バッヂ類もなく相違点は少ない。

試乗モデルは2018年秋にデリバリーを開始したラグジュアリーSUV「ベンテイガ」の追加モデル「ベンテイガ V8」。ボディサイズは5150×1995×1755mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm、車両重量はW12が2530kgなのに対し、V8は2480kg。価格は1994万6000円。ボディカラーはドラゴンレッドII
エクステリアではブラックメッシュとクロームラインを組み合わせたフロントグリルを備え、エキゾーストパイプには中央に凹みを与えた独特の形状を持つツインクアッドテールパイプを採用。足下は21インチアルミホイールにピレリのオールシーズンタイヤ「SCORPION VERDE」(285/45 R21)の組み合わせ

 インテリアにおいても、W12との違いはほぼない。1つひとつにクラフトマンシップをヒシヒシと感じさせる仕立てのよさは、いつもながら素晴らしいのひとこと。美しいウッドのパネルも鏡のように映り込みがキレイなのは、それだけ表面が平滑ということに違いない。

インテリアではグレーレザーを用いるとともに、各所にレッドステッチをあしらった上質なもの。Apple CarPlayに対応するインフォテイメントシステムが備わるほか、「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」や各種道路標識をドライバーに知らせる「道路標識認識システム」、後退出庫などのシーンで後方を横切る車両などの存在を知らせる「リア・クロッシング・トラフィック・ウォーニング」といった先進の安全装備も備わる

 一方で、むしろV8のみに新たに設定されたものもある。具体的には、カーボンを用いたパネルをはじめ、インテリアのコーディネートの選択肢が増え、機能面ではカーボンセラミックブレーキが選択可能になり、ブレーキキャリパーのレッドペイントを選べることなどが挙げられる。

 肝心のエンジンは、気筒数も排気量もW12の3分の2となる4.0リッターV8ツインターボ。W12に比べると、スペック的には最高出力が58PS、最大トルクが130Nm下まわるが、それでも550PS/770Nmという数値は立派なもの。0-100km/h加速は4.5秒、最高速は290km/hというから、相当な実力の持ち主であることには違いない。

パワートレーンは最高出力404kW(550PS)/6000rpm、最大トルク770Nm/1960-4500rpmを発生するV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンに、ZF製8速ATとフルタイム4WDを組み合わせる

 W12に比べると弟分的な位置付けとはいえ、同門のポルシェ「カイエン」やランボルギーニ「ウルス」に積まれているものと基本的に同じエンジンと言えば、どれほどのものか想像いただけよう。にもかかわらず、W12より700万円も安いというのはまさしく“破格”に違いないと、乗らずしてもすでに強く思う。

V8ならではのサウンドと加速フィール

 果たしてそのドライブフィールは、あくまでW12でも味わったベンテイガならではの境地を感じさせながらも、少なからず異質のものであった。

 まずスポーツエキゾーストによるサウンドからして、W12の奥ゆかしい響きとは明確にキャラクターが異なる。アメリカンマッスルカーにも通じる、低くドロドロと唸るV8サウンドは、W12に比べて音量も大きく迫力のあるもの。それでいて、まわすと現代的に洗練されたスポーティな音質を聴かせる官能的な側面も併せ持っている。W12に比べると荒々しさを感じさせながらも、あくまでベントレーらしく上品に仕上げられているあたりもさすがというほかない。

 エンジン特性もW12に比べるとずっとスポーティだ。W12がアクセルを踏めばどこからでもズドンと加速するのに対し、V8もこれだけ排気量があれば十分に下から力強いのだが、本領を発揮するのはもう少し上の回転域。1000rpm台の後半あたりからもりもりと力がみなぎっていき、中間域ではフラットにトルクカーブを描きながら伸びやかに吹け上がっていくといった具合で、これまた官能的な味付け。

 550PSのピークパワーを6000rpmで発生し、6800rpmからレッドゾーンが始まる高回転型のキャラクターゆえ、トップエンドにかけてより勢いを増していく印象だ。かつてベントレーにおいて、これほど高回転型のエンジンがあっただろうかと思わずにいられないほどだ。

 価格差はさておき、どちらが好きかと言われたら、W12の味ももちろん素晴らしいと思うが、筆者にとってはこのサウンドと加速フィールを味わえるV8の方がタイプかな……。

さらに軽快なフットワーク

 エンジンだけでなく、フットワークにもV8ならではの味わいがある。以前、W12をワインディングで走らせたときにも、スポーツカーをカモれるほどのコーナリング性能に舌を巻いたものだが、V8はさらに鼻先が軽く、そのハンドリングには気持ちよさすら感じるほど。フロント軸重は50kgばかり軽くなっているようだが、感覚としてはもっと軽やかだ。

 軽いといっても、車両重量はW12とは2.5tを少し上まわるか下まわるかぐらいの違いで、巨漢であることに違いはない。にもかかわらず、本当にこともなげにワインディングを駆け抜けていけるのには驚かされるばかり。ブレーキも十分なキャパシティが確保されていて、まったく不安を感じさせない。このままサーキットに持ち込んで全開で攻めても問題なく走れてしまいそうな気がするくらいだ。

 22インチもの大径ホイール&タイヤを履くと、バネ下もそれなりに重いはずながら、質量の影響を感じさせることもなく、たっぷりとストロークの確保された4つのタイヤがしなやかに路面を捉える感覚が伝わってくる。これに寄与しているであろう48Vシステムを駆使したアクティブスタビライザー等も効いてか、コーナリング時の姿勢も重心の高さを忘れさせるほどフラットに保たれる。それでいて、あるところからほどよくロールやピッチングなどの挙動が起こるように躾けられていて、車両がどのような状態にあるか常にとても掴みやすい。

 W12のときも同じようなことを述べた記憶があるが、物理の法則はどこへいったのかという感じ。重量物というのはもっとイナーシャ(慣性)を感じさせるはず。ステアリングに対しても、アクセルやブレーキに対しても。ところが、それが見事なまでに払拭されている。最新のテクノロジーというのは、こうした神業のようなことができてしまうのかと恐れ入るばかりだ。

 むろんW12のよさも重々承知しているものの、もしベンテイガを買うとしたら、価格差と走りの好みで筆者ならV8を選ぶ、と勝手に妄想してみるが、戯言ではなく本当にそんなことで悩んでみたいものだ。ああ、年末ジャンボ当たらないかな……。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛