インプレッション

ベントレーのSUV「ベンテイガ」試乗。この上ないラグジュアリー感に心酔

0-100km/h加速4.1秒、最高速301km/h。その俊足ぶりに驚くばかり

“超”高級SUVの先駆者

 これほどまでにSUV全盛の時代がやってくるとは、かつては想像もできなかった。大手メーカーはラインアップの拡充にいそしみ、それまでSUVを手がけたことのないスポーツカーメーカーや高級車メーカーまでもが相次いで参入するなどして、大いに賑わいを見せているのは周知のとおりだ。

 折しもニューモデルがランボルギーニから登場したばかり。あるいは、かつての盟友であり、それぞれの道を歩み始めてちょうど20年が経つロールス・ロイスもSUVを送り込むことを明言したり、同じくイギリスの名門であるアストンマーティンもついにSUVに名乗りを上げるらしきことが報じられているタイミング。そんな彼らに先んじて、ハイエンドクラスに現れたベントレー「ベンテイガ」は、近年の高級SUVの動向を象徴する1台であり、その先駆者である。

 2739万円という価格は、メルセデス・ベンツ「Gクラス」やレンジローバーのトップモデルなど一部にさらに上回る例もあるものの、世に数あるSUVの中でももっとも高価な部類に入る。まぎれもなくSUVの中の頂点に位置するモデルである。そんな高価なクルマながら、北米、中東、中国などでの販売は非常に好調で、2016年6月に導入が発表された日本でも売れ行きは非常によいそうだ。

 堂々たるサイズはもとより、どこから見てもひと目で分かる印象的な丸目の灯火類や、きめの細かい光り輝くグリルを備えたフロントフェイス、ボディサイドのシャープなパワーラインがアイキャッチとなっている。

今回試乗したのはラグジュアリー性、スポーツ性能、オフロード性能、実用性を融合したというベントレーのSUV「ベンテイガ」。ボディサイズは5150×1995×1755mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm、車両重量は2530kgというヘビー級モデル。価格は2739万円
ベンテイガはベントレーのモデルとしてアルミモノコックボディを初採用。そのエクステリアでは丸目2灯タイプのヘッドライトを採用するほか、リアコンビネーションランプやフロントフェンダーのエアアウトレットなどにベントレーの「B」をモチーフにした造形を採用。撮影車のホイール&タイヤはオプション設定の22インチアルミホイールにピレリ「P-ZERO」(285/40 ZR22)の組み合わせ

 丁寧に作り込まれた新設計のインテリアにもホレボレ。究極のクラフトマンシップと贅を尽くした数々の装備が、この上ないラグジュアリー感を味わわせてくれる。ハンティングジャケットからヒントを得たという新感覚のシートが提供する夢見心地の着座感も素晴らしい。この空間に乗り込めば誰しも有頂天にならずにいられないはずだ。

ベージュを基調とし、レザーやウッドパネルを贅沢に使用したインテリア。センターコンソールに8インチのタッチスクリーン式インフォテイメントシステムを標準装備するほか、ダッシュボード中央のアナログ時計が目を引く。センターコンソールには8種類のドライブモード(スポーツモード、ベントレーモード、コンフォートモード、カスタムモード、雪道/草地モード、泥道モード、砂利道モード、砂地モード)を統合制御する「ドライブダイナミクスコントロール」のコントロールダイヤルが備わる
ラゲッジスペース容量は430L(荷物カバー格納時は590L)だが、リアシートの背もたれを6:4分割で前方に倒すことで拡大させることが可能。ラゲッジスペースには「ディバイダー」を標準装備し、後方にスライドして展開させると、簡易的なベンチとして利用できる

性能だって“超”高級

ベンテイガが搭載するW型12気筒6.0リッターツインターボエンジンは、最高出力447kW(608PS)/6000rpm、最大トルク900N・m/1350-4500rpmを発生。8速ATを介して4輪を駆動し、0-100km/h加速4.1秒、最高速301km/hをマーク

 2018年春のジュネーブショーで発表された、ベントレーの電動化戦略の第一歩となるプラグインハイブリッドの存在も興味深く、また年初に報じられたV8のニュースも記憶に新しいところだが、日本導入はもうしばらく先。

 ということで、今回拝借したのは本命のW12。フォルクスワーゲン系のいくつかの高級車に、この挟角V6を2つ組み合わせたような作りのW12という独特の方式のエンジンが与えられているが、こちらはベンテイガに搭載するにあたり新規に開発したもので、ポート噴射と直噴を併用しているのが特徴だ。6.0リッターの排気量を持ち、ツインターボを備えたW12エンジンは608PS、900N・mというスペックを誇り、クルマの性格に相応しくトルクに振った特性とされている。

 この巨漢ながら0-100km/h加速は実に4.1秒という俊足ぶりには驚くばかり。初代「アウディR8 V10」や「ランボルギーニ・ディアブロVT」が4秒フラットだったといえば、いかにベンテイガが速いかイメージしていただけるだろうか。さらには最高速301km/hを誇るというから、その実力たるや相当なものだ。動力性能はもとより、SUVながら空力もよいということだろう。

 実際にドライブしても、ベンテイガはまず性能からして“超”高級であることを実感する。

 踏めばどこからでもついてきて、独特の響きを奏でながらスムーズに力強く吹け上がるW12のフィーリングは「素晴らしい!」のひと言だ。静寂な中にもパワーユニットの存在を乗員に伝えてくるのは、元来はスポーツカーメーカーであるベントレー車に共通して感じられる味。ベンテイガもW12ならではの鼓動を感じさせる。

2.5t超のSUVとは思えない

 プラットフォームは身内であるアウディ「Q7」やポルシェ「カイエン」と共通性の高いもので、大きなサイズながらその中で最大限に軽量化を図ったという。実際に走らせてみても、とても車両重量が2.5tを超えているSUVという感じがしない。源流といえる初代フォルクスワーゲン「トゥアレグ」あたりがやや重々しい印象だったのとは隔世の感がある。これには、いち早く導入した48Vの高電圧電源を用いて電子制御を駆使したシャシーの恩恵も小さくないはずだ。

 高速巡行で極上のフラットライド感を味わったのち、せっかくなので箱根のワインディングにも連れ出したところ、あらためて感心させられた。その走りは、アイポイントこそ高いが乗り味は車高の低い乗用車のように軽快だ。タイトターンでもあまりロールせず、内輪も浮き上がることなく4輪がしっかりと接地したままコーナーをクリアしていける。

 強力な動力性能と重量級の車体に相応しく、ブレーキのキャパシティも十分に確保されていて、不安を覚えることはない。動力性能、旋回性能、制動性能とも、まるで物理の法則を覆すかのような走りっぷりだ。

 走行モードをスポーツに切り替えると、全体的にスポーティな味付けとなるが、それでもけっして快適性を損なうことなく、過度な演出もなく控えめにスポーティな感覚を高めているあたり、いかにもベントレーらしい。さらにはSUVゆえ、砂地や泥道など、いくつかのシチュエーションに向けたオフロードモードも設定されている。また、ベントレーの中でも先進安全運転支援システムが充実していない車種も見受けられるところ、ベンテイガには最新のものが与えられている点も特筆できる。

 このクルマに乗っていると、あたかも自分が特別な力を身に着けたかのような気分にさせてくれる。見た目も装備も性能も、とにかくすべてが“超”高級なベンテイガ。これからロールス・ロイスやアストンマーティンもSUVを送り込もうとしているが、これより上なんて想像できない……。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸