インプレッション

マイチェンで走行面にも大きく手を入れたホンダ「レジェンド」(車両型式:DAA-KC2)

地を這うようなグリップ力はまるでスポーツカー

 本田技研工業にとって「レジェンド」は大きな意義を持ったクルマだった。フラグシップに相応しいクルマを製造する技術と力を持つことを示すからだ。

 現在のレジェンドは5代目で、2015年2月からハイブリッド専用車として登場した。しかもホンダらしいのは、技術的にも攻めの姿勢を崩さなかったことだ。後に「NSX」のパワートレーンのベースとなる3モーターハイブリッドとしたことがその証。後輪は2個のモーターのみで駆動され、フロントにはパラレルタイプのハイブリッドモーターを1個搭載する。

 システムのネーミングは「スポーツ ハイブリッド SH-AWD」。SHは「スーパーハンドリング」の略称で、AWD(4WD)の安定性もさることながら、積極的にトルクベクタリングをすることによる未体験のハンドリングを目指して開発された。その成果はこれまでのLクラス車の概念を覆すもので、“4ドアのNSX”とも言えるものだ。ホンダのフラグシップらしい、とはいうものの、Lクラスサルーンに求められるラグジュアリーなたたずまいもおろそかにしていない。

「スポーツ ハイブリッド SH-AWD」のリア側に使われている「TMU(ツインモーターユニット)。左右対称に配置したモーターをワンウェイクラッチ、減速機構などで接続し、左右のトルクを自在に配分する
リアのトランクリッドに「SH-AWD」のバッヂを装着

 そのレジェンドが2月に大きなマイナーチェンジを受けて、さらにホンダ・フラグシップらしい一体感のあるモデルに成長した。エクステリアではフロントのグリルとバンパーを大幅に変更してロー&ワイドのデザインとなり、合わせてヘッドライトまわりも視認性に優れたポジションランプを使い、シンプルで繊細なイメージになった。リアのコンビネーションランプも点灯時のデザインが立体的になり、見やすく華やかになっている。

ボディカラーに新採用の「マジェスティックブラック・パール」(左。5万4000円高)、「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」(中央。7万5600円高)、「オブシダンブルー・パール」(右)など6色を設定し、全8種類を設定する
ボディサイズは5030×1890×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。車両重量は1990kg
リムの周囲に中空構造の消音機能を与え、中周波ロードノイズを低減するノイズリデューシング機能採用の19インチアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは245/40 R19 94Y
ボンネットも新しいラインが与えられた新形状に変更してエモーショナルな雰囲気を演出している
3D形状のフロントメッシュグリルを採用。宝石をイメージしたデザインの「ジュエルアイLEDヘッドライト」はライトユニット形状を改め、ウインカーとスモールランプをライン発光のスタイルに変更
リアコンビネーションランプも形状変更し、ビルトインタイプのマフラーエンドの上に「リアツインフィニッシャー」を設定してロー&ワイドな印象を与えるデザインとした

 インテリアでは落ち着きのある加飾パネルに変更するとともに、革の風合いを増していること、シートのホールド性を高めたことなどが特徴だ。また、インテリアカラーは4色が用意され、全8色のボディカラーと組み合わせることで32種類のバリエーションから選択することになる。変わったのはデザインだけではなく、走りの質も大きく変わった。こちらは試乗を重ねながらレポートする。

 シートはコシがあり、しっくりと体に馴染む。握り太いステアリングホイールで操舵力はやや重めだ。メーターはフル液晶ディスプレイではない。このクラスとしては安心感がある半面、ちょっと物足りない。例えばセンターコンソール上段のカーナビなどのディスプレイと、オーディオや空調をコントロールする下段の画面との統合性があると、レジェンドのチャレンジ精神をインターフェースでも感じることができると思う。

インパネは基本的な形状はそのままだが、シルバー加飾を変更して革の風合いを生かした室内空間としている
スイッチ操作でギヤを選択する「エレクトロリックギアセレクター」
アクセルペダルはオルガン式を採用する
インパネ上段の8.0型ワイドVGAディスプレイはカーナビの地図表示、スポーツ ハイブリッド SH-AWDの作動状況などを表示。下段の7.0型タッチディスプレイはカーナビ、オーディオ、エアコン、ハンズフリーフォンなどを大型のアイコン表示で操作する「オンデマンド・マルチユース・ディスプレー」となっている
マイチェンで「タキシードをイメージした」という新しいシート形状に変更。フロントシートはシートバックのサイドサポートが大きくなり、多面体構成と縦基調パターンで座った人の体をしっかりと支える
左右どちらからでも開けられ、後方にスライドさせることも可能な「スリーアクセスコンソール」。内部にUSBやHDMIなどの端子も備える
リアシート後方に設置されたIPU(インテリジェント・パワー・ユニット)を小型化したことで、トランク容量は13Lアップの414Lに拡大。新たにトラックリッドが電動開閉する「パワートランク」を採用した
「プレミアムブラック」内装のインテリア
「ディープブラウン」内装のインテリア
「グレーストーン」内装のインテリア
ボディカラー8色、インテリアカラー4色の組み合わせが可能になった

最初に驚いたのは上質な乗り心地

 さて、こちらもちょっと重めのアクセルを踏むと、レジェンドは路面をしっかり掴む感じで発進する。4輪を掴んでグイとスタートする感じが好ましい。そしてよくある連続した段差などを通過した際の滑らかな乗り心地はなかなか素晴らしい。マイチェン前のレジェンドはこのような路面が苦手で、ブルブルとボディが震えるような場面があったが、今、ステアリングを握っている新しいレジェンドは実にうまく収束しており素直に感心した。この滑らかな乗り心地はワインディングロードから高速道路までいろいろな路面と速度で試したが、ショックはおおむねバネ下で吸収し、パッセンジャーにはしなやかな乗り心地だけを提供する。

 これは、車体側ではまず土台となるボディ剛性を上げたことが大きい。とくにフロアの接着面、サイドシルの接合部などで接着剤の使用範囲を大幅に拡大して、剛性向上と合わせて微振動の吸収を図っている。同時にショックアブソーバーの減衰力を前後とも特性変更しており、とりわけ伸び側を下げたことでツッパリ感がなくなった。

 また、快適性に大きな影響を与えるのは静粛性だが、ノイズに対して逆位相の音をスピーカーから出す「アクティブサウンドコントロール」に加えて、これらのボディ剛性のアップで実に心地よい車内空間となっている。新しいレジェンドで最初に驚いたのは、まさにこの上質な乗り心地だった。

 ハンドリングも乗り心地同様に一体感が格段に向上していた。速度を出さなくてもその違いはすぐに分かる。ステアリングを切ってクルマがロールし、旋回姿勢に入るまでの一連の流れが極めて自然なのだ。マイチェン前のレジェンドはSH-AWDの特徴を生かすべく、姿勢変化を抑えてグイと旋回するような特徴的なハンドリングを持っていた。これはレジェンドらしいところでもあったが、やや個性が強いように感じていた。

 ハンドリングが向上した理由で、ここにもボディ剛性の影響がある。ダッシュボードの接合面の接着剤を多用して微振動を抑え、剛性を大幅に上げることで、ステアリング系の余分な動きを最小限にし、電動パワーステアリングの特性を変えることで操舵感は至極自然になっている。

 さらにフロントのスプリングレートを下げ、それに合わせて前述したショックアブソーバーの減衰力変更と前後のスタビライザーのバランスをとったことで、荷重に対して車両姿勢が滑らかに変わるようになっていた。それでいてスポーツカーのようなハンドリングはSH-AWDの制御変更が大きい。車体側だけでもしっとり軽快に走るのだが、これに新しいAWD制御が加わるとさらにガラリと変わる。レジェンドが地を這うようなグリップ力を見せるのは知る人ぞ知るで、北海道などの降雪地で人気は高い。

 しかし、ハイグリップな点はコーナーリングのグリップ限界が分かりにくく、以前のレジェンドでは積雪路面でアクセルを踏むべきか離すべきか迷うことがあった。実は後輪の制御をコーナーリング中は左右輪の駆動力を外側に多くかけ、グイと旋回するようにしつけられた。前後方向はと言えば、大雑把に表現するとコーナー序盤から中盤のアクセルOFF時には後輪は駆動よりも回生をさせるように制御していたものを、弱く駆動力をかける方向に変更したために、体感上はよりスムーズで、かつ力強く旋回してくれるように感じられた。

 パワーユニットについては基本的に変更はない。横向きに置いたV型6気筒 3.5リッターの直噴エンジンは231kW/371N・mを発生し、ハイブリッドシステムのモーターはフロント35kW、リア27kW(1基あたり)の最高出力を持つ。前後左右のトルク配分は100分の1mm/秒で走行条件に応じて細かく制御される。走行中はマメにエンジンを停止し、電気で走れるところは走らせ、駆動力が必要な時には後輪も含めて素早く駆動し、必要に応じて左右後輪も別個でトルクを配分する。このパワーユニットに節度感とショックの小ささを両立させたデュアルクラッチ式の7速DCTを組み合わせる。これによって重量は1990㎏になっているが、JC08モード燃費は16.4km/Lを達成している。実に凝ったシステムで、駆動力配分のモニターとタコメーターを見ているだけで飽きないくらいだ。

V型6気筒SOHC 3.5リッター直噴の「JNB」型エンジンは、最高出力231kW(314PS)/6500rpm、最大トルク371N・m(37.8kgf・m)/4700rpmを発生。前後3個のモーターによるアシストを加え、システム合計の最高出力は281kW(382PS)、最大トルクは463N・m(47.2kgf・m)となる
マイチェンでトルクベクタリングの制御を変更。従来はコーナーリング中にアクセルを踏み込んだときも回頭性を高めるため、イン側の後輪で回生発電によるブレーキングを行なっていたが、アクセル操作が行なわれた状態ではトルクベクタリング向けの制動は行なわない方向に見直し。より力強く加速するイメージを強調している
フロントグリル内のミリ波レーダーとフロントウィンドウの単眼カメラを組み合わせて使う「ホンダ センシング」では、新たにステアリング操作もアシストする「トラフィックジャムアシスト」を採用。高速道路などで単眼カメラで車線を認識し、走行レーンの中央を維持するようステアリングを制御する

 使い勝手の点では、リアシート後方に配置されたバッテリーの小型化でトランク容量が13L増えた。それほど大きくないトランクにとってはちょっとした改善ながら414Lの容量を確保した。それに遅ればせながらトランクリッドが電動開閉になったことでも商品力は向上した。

 また、ホンダの安全運転支援システム「ホンダ センシング」には、渋滞時運転支援システムの「トラフィックジャムアシスト」が装備された。これは0~65km/hの範囲、つまり渋滞時に前走車について走行して、アクセル&ブレーキ、ステアリング操作までアシストする新機能で、ドライバーの疲労をかなり軽減してくれる。余談だが、レジェンドは政府が普及啓発している「サポカーS・ワイド」に該当する。

 新レジェンド、試乗前は何が変わったのか興味津々だったが、予想以上の熟成度合いに感心した。いかにもホンダのフラグシップに相応しいクルマだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一