インプレッション

マツダ「CX-5」(車両型式:3DA-KF2P/6BA-KF5P)。2代目初の商品改良で新搭載された気筒休止エンジンに“飽くなき挑戦”を見た

ディーゼルの「SKYACTIV-D 2.2」も乗りやすくアップグレード

2代目になって初の商品改良

 2017年2月に発売されたマツダの2代目「CX-5」は、2017年には4万894台とまずまずの販売実績を見せた。そして兄貴分の「CX-8」の登場というマツダにとってのビッグイベントを経て、発売から約1年が経つCX-5にも初めての商品改良が実施された。見た目にはほとんど変更がないのだが、走りはかなり変わっていたことを、まずはお伝えしておこう。

 改良の概要は既報(マツダ「CX-5」商品改良。ガソリンエンジンに新技術「エッジカットピストン」「低抵抗ピストン」採用)のとおり。すでに用意された最新のよい技術を少しでも早くユーザーに届けたいという今のマツダの方針に即しており、最大の注目点はガソリン、ディーゼルとも進化版エンジンを導入したこと。とりわけガソリンの2.5リッターは、マツダが国内向けで初めて気筒休止技術を用いたのが特徴だ。

CX-5 25S PROACTIVE(4WD)。ボディカラーは「ソウルレッドクリスタルメタリック」

 今回も実際にドライブして、両者の違いがけっして小さくなかったことを、あらかじめお伝えしておこう。

 その他、マツダコネクトの「自車位置演算ユニット」や「360°ビュー・モニター」、「車速感応式オートドアロック」「4席オートパワーウィンドウ&イルミネーション」などを新たに採用したのも今回の改良点として挙げられる。これらによる安全性や使い勝手の向上も言うまでもない。

CX-5 XD L Package(4WD)。ボディカラーは「スノーフレイクホワイトパールマイカ」
「SKYACTIV-D 2.2」の新旧比較。左奥が商品改良前、右手前が商品改良後
商品改良後のSKYACTIV-D 2.2では、最高出力140kW(190PS)/4500rpm、最大トルク450N・m(45.9kgf・m)/2000rpmを発生し、商品改良前から15PS/30N・mアップ
新たにメーカーオプション設定された「360°ビュー・モニター」は、「トップビュー」「フロントビュー」「リアビュー」「左右サイドビュー」などを表示可能。後退時にはステアリング操作と連動して、黄色いラインで車両が動く予測軌跡を画面上に表示する
人気の高い「パワーリフトゲート」は設定が拡大され、20S PROACTIVEと25S PROACTIVEでもオプション装着できるようになった

あれほどよかった従来型が一気に古く感じた

 直近の販売比率は65%程度と、最盛期に比べるとやや落ち着いてきている「SKYACTIV-D 2.2」は、今回の改良で燃料噴射系や制御系の進化、ターボチャージャーの見直しなどが行なわれ、低速トルクを出すとともに高回転まで吹け上がるようにされた。

 従来型もディーゼルの既成概念を覆すほどのインパクトがあったのはそう遠い話ではないところ、そのアップグレード版を搭載したCX-8で感じたよさは新型CX-5でも同様だった。

 新旧を乗り比べると、走り始めた瞬間からけっこう雰囲気が違う。従来型は動き始めに飛び出し感があり、1000rpm台半ばから2000rpm台にかけてややゴロゴロ感があるのに対し、新型はそれが圧倒的に少ない。吹け上がりもスムーズで、エンジンが発する音も静か。飛び出し感は抑えてもアクセル操作に対するツキはリニアで、中間加速の印象もずっと力強い。全開加速もそうだが、ハーフアクセルから少しだけ踏み増したときの車速の伸びもぜんぜん違って、新型のほうが乗りやすい。おそらく競争しても新型の圧勝だろう。あれほどよくできていると思っていた従来型が、全体的に音と振動が気になり、トルクの立ち上がり方にもラフな印象が残るなど、やけに古さを感じてしまったというのが正直なところだ。

XD L Package(4WD)の走行シーン
今回の試乗車で、商品改良後モデルの2台はどちらも19インチアルミホイールと225/55 R19タイヤを装着

 なお、今回はシャシー関連には変更がなく、GVC(G-ベクタリング コントロール)の制御も従来を踏襲している。後発のCX-8ではGVCに少し違う制御を取り入れていて、それがCX-5よりもいくぶんよい印象を抱いていたので、おそらくCX-5もそうなるだろうと思っていたのだが、そうではなかった。

 ただし、新型CX-5も微妙に印象が変わったように思えた。というのは、筆者はGVCについて、切り始めの動きにやや唐突感があるとかねてより感じているのだが、新型ではそれがわずかながらマイルドになったように感じられたからだ。おそらくそれにも、飛び出し感の抑えられたエンジン特性の変化が影響しているのではないかと思う。

XD L Package(4WD)のインテリア
CX-5は全車で6速ATを採用
アクセルペダルはオルガン式となる

注目の気筒休止はいかに?

「SKYACTIV-G 2.5」では、もちろん気筒休止技術に注目だ。すでにV型の多気筒エンジンで片側のバンクを休止させるものはいくつもあるが、直列4気筒というのは珍しい。ただし、もともと排気量の小さい4気筒でも、さらに効率を高める策の一環として気筒休止は有効に違いなく、上がり幅はわずかでもやることには大きな意義があると開発関係者は強調する。

 また、いち早く4気筒エンジンの気筒休止に着手した三菱自動車工業をはじめ、すでに気筒休止にトライした日本のメーカーもいくつか見受けられたものの、なんとなく定着せず止めているところが多いのも事実。それは何らかの事情があってのことに違いない。ところがマツダの新技術では、ラッシュアジャスターのロックピンを解除することと振動対策程度と、やっていることはいたってシンプルであることが強みだ。

気筒休止でバルブ開閉を停止させるキーとなる「スイッチャブルHLA(ハイドロリックラッシュアジャスター)」。油圧でロックピンを解除してカムシャフトがてこの原理で動かす作用点を切り換え、バルブ開閉をキャンセル
トルクコンバーターに追加された「振り子ダンパー」。気筒休止の切り換え時に発生する振動を振り子の慣性で吸収する
岡本幸一郎氏によるCX-5「振り子ダンパー」紹介(13秒)

 気筒休止させた場合の弊害として、2気筒と4気筒では爆発の間隔も2倍違うためエンジンの回転変動が大きくなり、振動や音の変動が課題となることが挙げられる。それに対して、一般的にはフライホイールを重くするのだが、こうするとトレードオフでアクセルレスポンスが鈍ってしまう。そこをブレークスルーするのが「振り子ダンパー」だ。これをトルクコンバーターに追加することで回転の速度変動を上手くおもりの部分で吸収し、振り子が回転振動を抑えるチューニングをすることで、アクセルレスポンスを阻害することなく振動を打ち消す、というものだ。

 さらに、切り替え時のショックに対して流入空気量や燃料噴射量を瞬時に制御することで、ほとんどトルク変動のない切り替えを実現したとのことで、実際にドライブしてもそのとおりだった。

「SKYACTIV-G 2.5」で、左側が商品改良後の「PY-RPS」型エンジン、右側が商品改良前の「PY-VPS」型エンジン。2WDと4WDで出力が異なり、4WDの新しいエンジンは従来から4PS/5N・mアップの最高出力138kW(188PS)/6000rpm、最大トルク250N・m(25.5kgf・m)/4000rpmを発生。エンジンカバーのほか、運転席側の側面に設置されたパーツが異なっている
試乗車のセンターコンソールに、専用アプリで気筒休止のON/OFFがひと目で分かるスマホを設置

 今回のために特別に用意したというアプリにより、車内に設置されたスマホの画面で、そのときエンジンで作動しているのが2気筒か4気筒かを確認できるようになっていたのだが、切り替わっても普通に乗っている分には、本当に何も感じない。それを感じ取ろうと神経を集中して運転すると、切り替わる瞬間らしきものを微妙に感じ取ることはできるのだが、それは無視してよいレベルだ。

 加速時や発進&停止を頻繁に繰り返す状況ではさすがに難しいが、例えば市街地でも巡行状態になると2気筒になる。高速道路やバイパスのような道であればなおのことだ。一定速度で走っていて2気筒になり、そこから少しぐらいならじわっとアクセルを踏んでも2気筒で維持されることが多い。なお、開発関係者によると、ドライバーが必死に努力して運転するよりも、ACC(アダプティブクルーズコントロール)をセットしたほうがずっと手っ取り早く2気筒になる頻度が増えるそうだ。

新型「CX-5」気筒休止シーン(55秒)
助手席に開発関係者が座って同乗走行。気筒休止のメカニズムなどについて解説を受けつつ、一般道と高速道路で気筒休止の動作を体感した

 エンジンフィールも全体的にトルク感が向上していることに加えて、「SKYACTIV-G 2.0」と共通の改善として実施した耐ノック性の改善や機械抵抗の低減も効いてか、心なしか吹け上がりがスムーズになっているように感じられた。

 こうしてSKYACTIV-D、SKYACTIV-Gとも効率の追求がひいてはドライバビリティの向上につながり、マツダの掲げる「人の感性によりそうドライバーとクルマの一体感、走る歓び」にさらに磨きがかけられることもよく分かった。“世界一のパワートレーン”を目指すマツダの飽くなき挑戦はまだまだ続く。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛