試乗インプレッション

走りよし、個性よし、使い勝手よし。ボルボ渾身の新型SUV「XC40」(車両型式:DBA-XB420XC)に乗った

想像以上に存在感があったボルボ史上最小SUV

ボルボが放つ渾身の1台が登場

 欧州カー・オブ・ザ・イヤー2018受賞という、いわば“世界のお墨付き”を引っさげ、ボルボ史上最小サイズとなるSUV「XC40」が日本上陸した。日本では2017年の日本カー・オブ・ザ・イヤー2017-2018を「XC60」が受賞し、販売も好調で一気に「SUVに強いボルボ」を印象付けているタイミング。狭い車庫や道路事情となる日本では、コンパクトクラスのSUVがぐんぐん販売シェアを伸ばしており、そこに渾身の1台を投入するカタチとなる。

 ただ、ボルボ史上最小SUVとは言っても、4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)というボディサイズは決して貧弱なものではなく、マツダ「CX-5」よりもやや大きめ。そしてデザインも、兄貴分となる「XC90」やXC60のようなライフスタイルカー路線を踏襲せず、全体としてのテーマは「Meカー」。つまりファミリーカーではなく、自己表現をするための自由で若々しいイメージが随所に盛り込まれている。未来的な雰囲気も強く、担当したデザイナーは「SFに出てくるようなロボットからもインスピレーションを得た」という。

 実車を眺めてみると、確かに想像していたよりもずっと存在感があり、薄い横型のヘッドライトがとても精悍なフロントマスク。サイドビューでは、ベルトラインがCピラーあたりでキュッと上へ立ち上がり、ドア下方には横長の六角形が浮き上がって見える、斬新なスタイルだ。都会的にも、アクティブにも、エレガントにも、見る人や乗っている人によって受ける印象が変わりそうな、ちょっと不思議だけどスタイリッシュなデザインである。

 そしてデザインにはバリエーションがあり、今回試乗したR-Designはルーフとドアミラーがブラックになり、グリルもハニカム形状でスポーティ。Momentumではアルミの輝きが強調されたホイールデザインやダークグレーのグリル、オプションでホワイトルーフも用意されるなど、スカンジナビアンテイストが映える。Inscriptionでは、クローム仕上げのグリルやルーフピラートリム、リアバンパーなどにもクロームが配され、プレミアム感がグッと増す。ボディカラーもそれぞれのキャラクターに合わせたラインアップだ。

3月28日に発売された新型SUV「XC40」は、小型車専用として新開発された「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」をボルボとして初採用。安全性や機能性は大型車用の新世代プラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」と共用し、90シリーズやXC60とほぼ同等となる16種類以上の先進安全・運転支援技術「IntelliSafe(インテリセーフ)」を搭載する。今回試乗したのは1月26日に300台限定で予約受注を行なった「T5 AWD R-Design 1st Edition」(559万円)で、ボディサイズは4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。同モデルはすでに完売とのこと
エクステリアでは上級モデルのXC90やXC60などで採用する北欧神話の「トール・ハンマー」をモチーフとしたT字型ヘッドライトや、上部まで伸びるリアコンビネーションランプなどを継承する一方で、XC90やXC60に比べてよりスポーティでカジュアルなスタイリングを特徴とする。足下では20インチアルミホイールを装着。ボンネットの助手席側にある樹脂製のスウェーデン国旗のアクセサリーは、初期納車分だけに設定されたもの

 インテリアを見てみると、そこには日本のミニバンにも匹敵するような、まさに“マイルーム”と言える収納の数々が用意されていてビックリ。それらを紹介するムービーがまたユニークで、物であふれたデスクに座った女性が、PCやスマートフォン、手帳やドリンクなどを1つずつテキパキと片付けていく様子が流れる。ボックスティッシュやダストボックスも手の届くところに設置されており、それがそのままXC40の運転席と重なるというエンディングだ。

 そのムービーのとおり、ドアスピーカーをなくしてガッポリと大きく取られたドアポケットには、ノートPCがすっぽり。サングラス収納や充電可能なスマホトレイ、グローブボックスにはフックが格納されていて、ちょっとした手提げバッグがかけられる。センターコンソールの中にボックスティッシュが収まり、その前に小さなダストボックス。もちろんカップホルダーやボトルホルダーも完備で、なんという機能性! しかもそれらがまったく生活感を感じさせない、スマートで上質な空間を保ったまま備えられているところがまた素晴らしい。

 ノートPCをドアポケットに入れて走って大丈夫なの? という疑問もあったが、インナーにフェルト素材が使われており、見た目に優しいだけでなくそうした大切な荷物の保護機能も兼ねている。そして、ドアスピーカーがなくなったら音がわるくなるのでは? という心配も無用。XC40には「エアウーファーテクノロジー」という最新技術が採用されており、フロントのダッシュボード最前端あたりにウーファーが組み込まれている。スピーカーも室内全体では13個あり、高音質はしっかり実現されていたのだった。ちなみにこの「エアウーファーテクノロジー」は、日本のアルパインが開発したものだとか。

R-Designにオプション設定される「Lava」(オレンジ)のフロアカーペット&ドアトリムを採用したインテリア。
オーディオシステムでは、エンジンルームとキャビンの間の空間をエンクロージャーとして活用する「エアウーファーテクノロジー」を標準装備。撮影車は「haman/kardonプレミアムサウンド・オーディオシステム」も装備
グローブボックスにはバッグがかけられるリトラクタブルフックが備わるほか、センターアームレストの下にはボックスティッシュが入る収納スペースを備え、さらにその前方にはダストボックスも用意。そのほかスマートフォンを置くだけで充電できる「ワイヤレス・スマートフォン・チャージ」を採用するなど、利便性にもこだわった造りになっている

 室内の居住性もゆったりとしていて、常に必要なものが手の届く場所に収まっている状態というのは、なんと気持ちのいいものだろう。ボルボは「車内が整理されていれば、運転に集中できる」という理由からもこうした収納にこだわったとのこと。それだけでなく、流木風の白いパネルを使ったり、ボルボのお膝元であるスウェーデンのイエテボリの地図を模した凹凸のあるデコレーションパネルを用意したりと、オシャレな中に遊び心があるのも魅力的だ。

 後席は頭上の圧迫感もなく、足下は広々。しっかりとハリのあるクッションが心地いい。やや座面が小さめかなと感じたが、実際にはXC60とサイズは変わらず、少しヒップポイントが低いためにそう感じるだけとのことだった。ヘッドレストはボルボお約束の格納式で、後席に誰も乗らない時はスイッチ1つで格納され、後方視界を広く取ることができる。

R-Designはシート表皮に専用ヌバック/ファインナッパレザーのコンビネーションを採用

 SUVとしてはラゲッジの積載量、使い勝手も気になるところだが、こちらも工夫満載。通常でも460L、最大で1336Lの大容量はもちろん、ボタンで後席が倒れてほぼフラットになり、フロアボードを立てれば仕切りとしても使え、買い物袋などをスマートに運べるようにフックが付いているのがポイント。そして、外すと置き場所に困るトノカバーも、フロア下に収納できるのが秀逸だ。フロアの掃き出し口も高すぎず、トランクスルー機能もある。これは日常からレジャーまで、かなり使い勝手がよさそうだ。

ラゲッジスペース容量は通常時は460Lだが、6:4分割可倒式リアシートを前方に倒して1336Lまで拡大できる

ボルボらしさ満載

 さて、いよいよ走り出してみる。今回の試乗車はT5 AWD R-Design 1st Edition。20インチホイールを履く限定300台の特別仕様車で、残念ながらすでに日本では完売となってしまった。搭載エンジンは2種類あるガソリンの2.0リッター直列4気筒ターボ「DriveE」のうち、252PS/350N・mを発生する高性能版「T5」で、もう1つの「T4」は190PS/300N・mとなる。トランスミッションはすべて8速ATが搭載されている。

T5 AWD R-Design 1st Editionが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420」型エンジンは、最高出力185kW(252PS)/5500rpm、最大トルク350N・m(35.7kgf・m)/1800-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.4km/L

 駐車場を出るといきなり上り坂だったが、まるでエスカレーターにでも乗っているかのように、なめらかに余裕たっぷりに加速していく。過給器がグイグイとパワーを見せつけるというよりは、自然にスムーズに伸びていく感覚で気持ちがいい。運転席からの視界も広々としていて、道を間違えて私道のような細い路地に迷い込んでしまったときも、車両感覚が掴みやすくてそれほど緊張せずに進めた。最小回転半径は2WD(FF)も4WDも5.7mで、Uターンもそんなに難儀ではない。

 そしてアップダウンやカーブが連続するワインディングに入ると、加速フィールの気持ちよさに加えて、まるで手に吸い付くようなステアフィールでカーブをトレースしていける。このXC40は、XC90やXC60などが使うプラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」ではなく、ボルボが2015年に開発を発表した「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」を使っており、サスペンションもSPAがフロントにダブルウィッシュボーンを使うのに対し、CMAではマクファーソンストラットを採用。リアはマルチリンクという形状は変わらないが、細部を適正化したものだという。

 さらに1st Editionにはモノチューブダンパーが奢られ、R-Designの装備としてスポーツサスペンションも採用されているので、実はもっと硬めの乗り味ではないかと予想していた。しかし、ワインディングだけでなく一般道でも、それをいい意味で裏切るしなやかで上質な乗り味。タイトコーナーが続くシーンでは、ややステアフィールが大味になるかなとも思ったが、「コンフォート」「エコ」「ダイナミック」「オフロード」と4つのドライブモードが選べて、それぞれステアリング制御やスロットル制御などが変わるので、もっといろいろと試してみればピタリと決まるモードがありそうだ。

 帰り道に後席でも試乗してみたが、期待どおりに快適。R-Designにオプション設定となる「Lava」という鮮やかなオレンジ色のカーペットも、最初はちょっと派手かなと思っていたが、だんだんとその明るさが心地よく、気持ちを豊かにしてくれると感じた。

 もちろん、ボルボの企業理念の大きな柱である安全装備も、16種類以上が標準装備という充実ぶり。その中には、初お目見えとなる「オートブレーキ機能付CAT(クロス・トラフィック・アラート)」も含まれ、「全車速追従機能付きACC」や「パイロット・アシスト(車線維持支援機能)」もしっかり備わっている。

 こうして、ボルボのSUVとしてはちょっと異端児的な見た目を持つXC40だが、中身は「人」を中心としたインテリア、気持ちのよい走り、安全性と、ボルボらしさ満載。「Meカー」とは謳いつつも、ちょっとオシャレなパパならファミリーカーとパーソナルカー兼用としても似合いそうだ。さらに今後、新開発の1.5リッター3気筒エンジンの投入が予定されているほか、近い将来にEV(電気自動車)とPHV(プラグインハイブリッド)の追加も発表されているXC40。それらがどんな乗り味となるのかも、楽しみにしていたいと思う。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学