試乗インプレッション

ボルボ「XC40」のベーシックモデル「T4 AWD Momentum」は個人的にベストグレード

「T5 AWD R-Design」と合わせてテストドライブ

「T4 AWD Momentum」「T5 AWD R-Design」を比較

 2018年3月末の発表から9月末までの6か月間で、実に4000台以上もの受注を達成したボルボ「XC40」。ご存知のように、ボルボのXCシリーズには90/60とラインアップがあることから、40はその末っ子的存在に思われがちだが、実際は3モデルそれぞれにキャラクターがある。XC90を「フォーマルシューズ」、XC60は「カジュアルシューズ」、XC40は「スニーカー」とボルボの開発陣がそれを靴になぞらえたのは有名な話だ。

 確かにXCシリーズを同じ条件で乗り比べてみると、同形式のエンジン、同一トランスミッション(各ギヤ段や最終減速比も同じ)でありながら、車両サイズや車両重量、そしてサスペンションのジオメトリーに至るまで事細かく設計変更がなされていることから、見事なまでに乗り味を変化させた。車体の土台であるプラットフォームにしても、XC90とXC60が「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」であるのに対して、XC40は「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」と小型車専用としたことで、90は徹底して重厚で60はダイナミックで上質、そして40は軽快感が際立つ走行性能に仕上げられた。

 今回はXC40のベーシックモデルである「T4 AWD Momentum」(459万円)と、「T5 AWD R-Design」(539万円)を中心に試乗した。T4 Momentumはボトムグレードである「T4」の次にくるグレードで、T4にパワーシート機構やハイパフォーマンスオーディオ(80W/3スピーカー→250W/8スピーカーへ)など、快適性能を向上させる装備が追加されたモデル。一方のT5 AWD R-Designは、導入直後の「T5 AWD R-Design ファーストエディション」(限定車で即日完売)のベースとなったカタログモデル(≒通常ラインアップモデル)。ファーストエディションが装着していた「パノラマ・ガラス・サンルーフ」がなく(オプションとして選択可能)、タイヤサイズが245/45 R20から235/50 R19へと変更されている。

XC40はコンパクトカー向けプラットフォーム「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)」を採用する第1弾モデル。今回の試乗会では「T4 AWD Momentum」「T5 AWD R-Design」に乗った

 正直に告白すると、この春に試乗したファーストエディションにはあまりよい印象を持てなかった。それは個人的な好みの問題が大部分を占めるのだが、パワフルさを演出したエンジンフィールには最後まで身体をなじませることができなかったのだ。とりわけターボチャージャーの過給特性が急激に感じられ、道路状況に合わせてゆっくり走ろうとしても、どこかクルマに急かされているように思えてならなかった。

 また、ステアリングのロック・トゥ・ロックが2.7回転とシリーズ中、10%程度早められているため鼻先は軽く、左右に連続したカーブもすんなりこなしていくのだが、半面、直進時にはどこか据わりがわるい。これは引き締められたサスペンションのダンパーやスプリング、そして20インチタイヤの相乗効果によるものだ。これをもって「スポーティでいいね!」という向きがあるのは理解するものの、筆者にはやや過剰演出のように感じられた。

 そうした経験をもとに、T4 AWD MomentumとT5 AWD R-Designに試乗した。以前のファーストエディションが上り下り勾配やカーブの連続する神奈川県の箱根であったのに対し、今回は神奈川県と千葉県を結ぶ「アクアライン」を挟み、周辺都市部や郊外路で走行テストを行なった。

撮影車はアマゾンブルーカラー(Momentum専用色)の「T4 AWD Momentum」。ボディサイズは4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm
エクステリアでは北欧神話の「トール・ハンマー」をモチーフにしたT字形LEDヘッドライトを採用するとともに、強く張り出したフロントグリルや立体的な造形のフロントバンパーを採用してタフなイメージを演出。撮影車は19インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」(235/50 R19)を装着
チャコール/ブロンドカラーのインテリア。XC40ではセンターアームレスト下にボックスティッシュが入る収納スペースが用意されるほか、大きく取られたドアポケット、ダストボックスなど、多彩な収納を設定して利便性を高めているのもポイントの1つ
こちらはフュージョンレッドメタリックカラーの「T5 AWD R-Design」。「T4 AWD Momentum」が装着していたアルミホイールとはデザインが異なるものの、同じ19インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」(235/50 R19)を組み合わせる
R-Designにオプション設定される「Lava」(オレンジ)のフロアカーペット&ドアトリムを採用

個人的なベストグレードはT4 Momentum

 早速、気になっていたT5 AWD R-Designに乗り込む。20インチから19インチへとタイヤのエアボリュームが増えただけだろう(失礼!)と呑気に構えていたのだが、乗り始めてすぐにファーストエディションとの違いを実感。路面のちょっとした段差やうねりを実にしなやかに受け止めるように激変していたからだ。これならR-Designのスタイル(専用グリルやトリムカラーなど)が気に入った方々にも自信をもっておすすめできる。エンジン特性にしても、ターボチャージャーの過給特性がいくぶんマイルドになっているし、タービンが高速で回転する際に発する高周波の過給音も、今回試乗したT5 R-Designの方が静かだ。

 それにしても違いが大きい……。それでボルボ・カー・ジャパンの担当者に伺ってみたのだが、「エンジン特性やサスペンションに変更はない」という。もっとも、冷静になって試乗車を比べてみると、ファーストエディションは走行距離にして1000kmに満たない、いわゆる“あたり”がついていない状態。その点、今回のR-Designは3000km以上走行した個体で、“渋味”がとれた状態と違いがある。残るタイヤサイズに違いはあるものの、R-Design本来の乗り味はこうした滑らかさをも併せ持つ特性であることを再認識できた。ちなみに、完売してしまったファーストエデョシンが装着していた20インチホイールや、さらに1インチ大きな21インチホイール(ともに専用デザイン)はディーラーオプションでの用意があるという。

 続いてT4 Momentumの4WDモデルに試乗。T5との違いはエンジン出力とトルク特性にあり、T5の最高出力252PS/5500rpm、最大トルク350Nm/1800-4800rpmから、T4では駆動方式問わず190PS/4700rpm、300Nm/1400-4000rpmと、低回転型であることが分かる。さらにカタログに表記のある出力/トルク特性グラフで両車を細かく確認してみると、発進加速時や巡行時に多用する1500rpmあたりの出力では、最高出力で62PS上まわるT5よりもT4が10%以上力強い。トルク特性はどちらも扱いやすいとされる台形カーブを描く相似形で、アクセルペダルの踏み込み量による加速度変化を付けやすい。よって具体的には、T4はT5よりも軽やかに発進し、その後はT5よりもマイルドな加速特性に変化する、そんなイメージだ。

T5 R-Designが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420」型エンジンは、最高出力185kW(252PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1800-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.4km/L
T4 Momentumが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420」型エンジンは、最高出力140kW(190PS)/4700rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1400-4000rpmを発生。JC08モード燃費は13.2km/L

 興味深いことに、T5のドライブモード(スイッチ操作で出力特性を変更可/T4にもあり)を最もおとなしい性格の「エコ」モードにすると、T4に近い特性が味わえた。もともとT5は発進後、具体的には20km/h以上での躍度(時間あたりの加速度変化)をT4よりも強めた特性にすることで力強さを演出しているが、電子デバイスであるドライブモードを変更することで、T4の美点であるスムーズに増速する乗り味も変化させることができる。これも新たな発見だった。

 乗り味はどうか? 滑らかさを併せ持つとしたT5 R-Designだが、T4 Momentumはさらにその上をいくおおらかさがある(試乗した両車のタイヤサイズはともに235/50 R19で、タイヤ銘柄も同じ)。体感値として大きな違いを生み出しているのは、T4 Momentumのシート地が「テキスタイル・コンビネーション」と呼ばれるファブリック地となっていることだ。T5 R-Designの表皮が専用ヌバック(人工皮革)/ファイン・ナッパレザーであることから、外気温の低い時に乗り込むと若干の冷たさとともにシートの減衰特性としては強め(≒突き上げられる方向)に感じることがある。

 一方、ファブリック地は温度変化に左右されにくく減衰特性としても弱く、よって体感値としてはソフトな印象に落ち着く。もっともこれは一般的な話だが、ボルボの場合、革シートの経年変化に対する耐久性を重視することから初期の革は張りが強く、よって表皮違いによる体感値の違いが大きいようだ。

 実は別の機会にT4 MomentumのFFモデルにも試乗することができたのだが、4WDとの違いは明確だった。車両重量にして60kgほどFFモデルは軽量なのだが、それ以上に重量配分の関係(車体後部が軽い)もあって車体全体の動きが軽やかで、前述したファブリック地の滑らかな乗り味とのバランスがさらに高められていると感じられた。

 4.5mを切る全長と210mmの最低地上高が与えられたXC40が持つ魅力は、これからのスノードライブでもいかんなく発揮されるはず。また、繰り返しになるが、XCシリーズはモデルごとに明確なキャラクターが与えられていることが、XC40の試乗を通じて改めて体感することができた。個人的なベストグレードはT4 Momentumで、スノードライブが多いことから4WDを選ぶ。予算に余裕があれば、パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)とパワーテールゲート(5万8000円)、さらにダンパーの減衰特性をドライビングモードに連動させて変化させることができるFOUR-C(11万円)も選びたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一