試乗インプレッション

見た目は同じでも中身は大幅進化。ジープの新型「ラングラー」にオン/オフロード試乗

直4 2.0リッターターボとV6 3.6リッターに試乗

 いつでも、どこにでも、そしてどんなところにも。これが究極の移動の自由。それを実現してくれるのがクロカン四駆だ。クロカン四駆とは道なき道をも走り抜けることのできるサバイバー。そのイメージを背負い、もっとオンロードを快適にしたSUVが今は人気。さらに言うと、現代版SUVの多くはカッコだけクロカン四駆のテイストを持っている、背と車高が高い乗用車だ。つまり、なーんちゃってクロカン四駆(FFのSUVもあるぞ)。

 そこで、限りなくクロカン四駆に近いSUV。というか今でもクロカン四駆。それが世界で唯一ともいえるジープ「ラングラー」ではないだろうか。もうご存知の方も多いことだろう。2017年にフルモデルチェンジし、すでに北米マーケットで販売されていたジープ ラングラーがいよいよ日本上陸だ。

長い歴史の中で変わらないデザイン

 日本に導入されるラインアップを紹介しよう。改良版3.6リッター V6エンジンを搭載した2ドアモデルの「スポーツ」。そして4ドアモデルには、新開発2.0リッター 直4ターボエンジンを搭載した「アンリミテッド スポーツ」と、3.6リッター V6エンジンを搭載する「アンリミテッド サハラ ローンチ エディション」の2種類。

 ちなみにアンリミテッドとは2世代目バージョンで登場したロングホイールベース仕様車(2004年)のこと。日本に導入されるレギュラー車はこのロングホイールベース&4ドアのアンリミテッドで、2ドアのスポーツは受注生産。つまり、日本におけるジープ ラングラーの需要は4ドアモデルに集中しているということ。新型におけるホイールベース比は、スポーツの2460mm(全長4320mm)に対してアンリミテッドは3010mm(全長4870mm)と550mmも長い。

 2ドアモデルに搭載されるのは3.6リッターエンジンのみで、4ドアモデルには3.6リッターと2.0リッターターボエンジンの両方が搭載されるわけだ。これらに組み合わせるトランスミッションは8速AT。4輪駆動システムは、これまでのパートタイム式からフルタイム式に変更されている。

 今回の試乗会はそのオフロード性能も確認できるように、愛知県にある猿投(さなげ)アドベンチャーフィールドで開催された。ここは本格的なオフロードコースで、ボクがこれまで経験したオフロードのなかでもかなり難易度が高い。今回の試乗会では、このオフロードコースを2019年発売予定の「ルビコン」で走行した。また、オフロード以外に、猿投アドベンチャーフィールド周辺のオンロードも試乗したのだ。

4ドアのロングホイールベースモデルとなる新型「ラングラー アンリミテッド スポーツ」(494万円)のボディサイズは、4870×1895×1845mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは3010mm。2ドアモデルの「スポーツ」と比べると、全長とホイールベースは550mm長く、全高は20mm高い
アンリミテッド スポーツは245/75 R17サイズのオールテレインタイヤを装着
フューエルキャップはキー付きのむき出しタイプ
アンリミテッド スポーツのヘッドライトとフォグランプ、テールランプはハロゲンとなるが、アンリミテッド サハラ ローンチ エディションではすべてLED化された
アンリミテッド スポーツのインテリア
シートは布製のバケットタイプ
ルーフは簡単に取り外してオープンエアーが楽しめる「フリーダムトップ 3ピース モジュラーハードトップ」となる
来春発売となる「ラングラー アンリミテッド ルビコン」
LT255/75 R17サイズのマッドテレーンタイヤを装着
テールランプの形状がより特徴的なものとなる
フューエルキャップはむき出しではなく、フューエルフィラードアが付く
ラングラー アンリミテッド ルビコンのインテリア
ステアリングスポークにはオーディオや、全車標準装備となったクルーズコントロールのスイッチを配置
シフトノブまわり
クルーズ用の「2H」、雪道や砂利道などに有効な「4H」、最大の駆動力を発生するローギヤードの「4L」といった従来からのパートタイム4×4モードに加え、ジープ初となる自動で前後輪のトラクションを配分するフルタイム4×4の「4H AUTO」モードを搭載。走行中でもレンジの切り替えができる
シフトノブの後方にはドリンクホルダーを備える
「Uconnect」システムは、ラングラー アンリミテッド サハラ ローンチ エディションではオーディオナビゲーションシステムが、スポーツ、アンリミテッド スポーツはApple CarPlay、Android Auto対応のインフォテインメントシステムがそれぞれ標準装備される
エアコンスイッチの下部には、ヒルディセントコントロールやトラクションコントロールなどのスイッチを、さらにその下にはウィンドウの開閉スイッチを配置
「MEDIA」のふたを開くとUSBポートなどが現われる
ラングラー アンリミテッド ルビコンはレザーシートを装着し、背もたれ部分に「RUBICON」の刺繍が入る
カーゴルームには大型の床下収納スペースを装備

 エクステリアデザインはこれまでのジープ ラングラーの印象を継承している。目を向けた瞬間にジープ ラングラーと分かるそのフォルム。張り出した台形のフェンダーアーチデザイン、7本スロットのフロントグリル、そのスリットに食い込むようにデザインされた丸目のライト。これはもう明らかにルイ・ヴィトンのようにブランドである。変わりようがないのだ。とはいえ、燃費性能を考慮してフロントガラスの傾斜は5.8度寝かされている。ルーフの形状も、前後が若干絞り込まれている。

 ジープの始まりは1941年に登場した軍事用の「WILLYS(ウィリス)」。昔、「コンバット」という米国版戦争TVドラマがあり、主人公のビッグ・モローが戦場を走り回ったあれだ。といっても、分かる人は少ないだろう。とにかく、戦争映画に登場するいわゆるジープのこと。この頃のフロントグリルは9本スロットだったが、その後1945年に登場するジープ「CJシリーズ」から7本スロットとなり、丸目ヘッドライトが大型化されて両端のスリットに食い込んだデザインになったのだ。

 ラングラーと呼ばれるようになったのは、ずっと後の1987年に登場する「YJシリーズ」から。しかし、このとき一時的にライトは角目になっている。1997年に登場した「TJシリーズ」からは丸目に戻されたが、2007年に登場した「JKシリーズ」も含め、スロットに食い込むデザインではなかった。そして、今回の新型「JLシリーズ」からは、1945年のCJシリーズ以来となるスロットに食い込むヘッドライトデザインが復活したのだ。ついでにいうと、ヘッドライトを含めたランプ類は一部グレードでLED化されている。もう1つついでに、他のジープブランド同様に初代ウィリスのシルエットアイコンがこのラングラーのいたるところに隠されている。東京ディズニーランドで行なわれている“ミッキーを探せ!”と同じで、発見したからといって何がもらえるわけではないのだが、ちょっと楽しい。

ラングラーには、計3か所に“イースターエッグ”が隠されている。ホイールとフロントウィンドウは初代「ウィリス」のシルエット、もう1か所はビーチサンダルのシルエットとなる。ぜひ探してみてほしい

新型になり、車内は運転しやすく快適に。4WD性能はいわずもがな!!

 ではまず、そのオンロードを走行した印象だ。シートは座面長がしっかりとあり、クッションフィールも厚手でオフロードで威力を発揮しそうだが、オンロードも剛性感があるので安心なタイプ。初採用のテレスコピックの調整幅はそう長くないが、ドライビングポジションに不満はない。チルト機能もある。

 エクステリア同様に、インテリアも水平基調のダッシュボードなど基本デザインは変わらないが、ディスプレイを含めた中身は様変わりしている。速度計と回転計の間には4WDの設定状態などを表示するディスプレイがはめ込まれる。試乗エリアには住宅地もあり、譲り合わないと抜けられない狭い道もあったが、車幅1895mmとは思えないほど左側のサイズ感が分かりやすい。フロントドアのショルダー部が下げられていて視認性がよいこと、さらにリアスイングゲートにぶら下げられたスペアタイヤの位置が下げられるなどして、視界が大幅に改善されていることも大きさを感じさせない効果となっているようだ。

メーター中央には車両情報を表示できるディスプレイが新採用された

 走り出したのは新開発となった直列4気筒の2.0リッターターボエンジン。約7100rpmからレッドゾーンとなっているが、マニュアルモードで引っ張らない限り、6000rpm+の域でシフトアップする。このエンジンの最高出力は272PS/5250rpm、最大トルクは400Nm/3000rpmで、旧モデルから改良されたV6の3.6リッターエンジンでは最高出力284PS/6400rpm、最大トルク347Nm/4100rpm。最高出力では2.0リッターターボエンジンの方が若干下まわるが、最大トルクは3.6リッターエンジン+53Nmの400Nmで、しかも発生回転域が1100rpmも低い3000rpm。このことを象徴するように住宅地を含めた市街地走行では、カメラマンと編集者の3人乗車でまったく力不足を感じることはなかった。

アンリミテッド スポーツにのみ搭載される、最高出力200kW(272PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000rpmを発生する新開発の直列4気筒DOHC 2.0リッター「N」型ターボエンジン
スポーツ、アンリミテッド サハラ ローンチ エディションには、最高出力209kW(284PS)/6400rpm、最大トルク347Nm(35.4kgfm)/4100rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.6リッター「G」型エンジンが搭載される

 また、高回転域でも振動感がなく、ZF製8速ATがスムーズなシフトチェンジを行ないストレスを感じさせない。ちなみにこのV6と直4の性能差はそれほどなく、おそらく中国などの仕向け地での税制を優位にするために、2.0リッターターボモデルを設定したのではないかと考えられる。われわれにとって嬉しいのは、両エンジン共に無鉛レギュラーガソリン仕様であることだ。また、アイドリングストップ機構も採用している。

 運転のしやすさ以外で感じることは、室内の静粛性と軽快感だ。フロントウィンドウには外音をカットするフィルム内蔵のものが採用されていて、これは軽量化の役目も担う。それゆえ静粛性はとても進歩しているのと、ボディのブルブル感が少なくガタピシ感がなくなったこと。室内環境がとても快適。これまでのラングラー同様に、トップ、ドアなどを取り外すこともでき、フロントウィンドウもワイパーとボルトを外すことでボンネット上に倒すことも可能(日本では公道走行不可)。特にトップの取り外しはよりシンプルになり、オープンエアーもこれまで同様に楽しめる。なのに、クローズド状態での快適性はこれまでとは比較にならない。ラダーフレーム、前後リジットアクスルはこれまでと同じ。確かにラダーフレームは静粛性にフォローだが、それでも雑味の減少分はハンパない。そこにガッカリするラングラーファンも居るかもしれないが、走行性能では旧モデルよりも明らかに進歩している。

ドアは簡単に外せるように、配線のカバーも工夫されている

 その1つが4WDシステム。新型ラングラーは後2輪駆動、4輪駆動、オンデマンド方式4輪駆動を持つフルタイム式4輪駆動となった。ATのセレクトレバー横に、この切り替えレバーがニョキっと生えていて、これを切り替えることでオフロード専用のローギヤモードも選択できる。ローギヤモードではセンターデフをロックする。

 そして軽量化だ。ドアパネルやフェンダー、ウィンドシールドフレームにアルミニウムを、リアスイングゲートの骨格や内側パネルにはマグネシウムを採用して、全体で約40kgの軽量化を達成している。取り外し可能なトップのウェザーストリップを2重にして、ピラーに水抜きのドレーンパイプを組み込むなど、雨漏りにも細部の気配り。そしてホイールベースの延長によるリアスペースの拡大で、リアシートの背もたれ角が緩くなって快適性がアップした。

 最後に、来春発売予定のルビコンでオフロードコースを試乗。ルビコンはよりオフロード性能を追求していて、さらにローギヤードな4L(4WDローギヤモード)でのスウェイバー(スタビライザー)の切り離し機能によるホイールストロークアップなどを採用。でも、このオフロード試乗では4Lモードだとセンターデフがロックされ、切り返さないと曲がれない箇所があるため使わず、通常の4Hモードでの走行。しかし、どこもまったく問題なく走破できた。

 クラストップのアプローチアングル44度、ブレークオーバーアングル27.8度、デパーチャーアングル37度、地上高277mm(ルビコン)、渡河性能最大76.2cm。と言われてもピンとこないかもしれないが、今年のような強烈な台風や大雨下でも安心できそうなブッチギリのSUVである。

試乗会の最後には、インストラクターによる岩場登坂のデモンストレーションが行なわれた

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:中野英幸