試乗インプレッション

ホンダの新型「CR-V」、他のSUVにはない一体感溢れる走りが魅力だった

7人乗りの1.5リッターターボ、5人乗り2.0リッターハイブリッドに試乗

1.5リッターターボエンジンと2.0リッターハイブリッドの2本立て

「CR-V」の車体設計開発責任者の津嶋広通氏は、プレゼンテーションにおいて「ことさらに尖る必要はない。誰にでも使えるストレスフリー。究極に普通のクルマを造りたい」という思いを語っていた。それがグローバルで年間70万台以上を造るクルマの責任であり、これこそが次世代のSUVのベンチマークとなるという考えのようだ。競合ひしめくSUV市場において“普通のクルマを造る”とは、むしろ思い切った決断のように感じる。インテリアやエクステリアといった目先の飛び道具を持つことなく、言われてみれば派手さはないというのが新型CR-Vの表面的な第一印象ではあるが、よくよく見てみれば実は凝った造りをしているということが伝わってくる。それを1つひとつ振り返ってみることにしよう。

 今回のモデルで5世代目となるCR-Vは、日本市場に登場するのはおよそ2年ぶりとなる。すでに北米では2年前から投入されているため、それがようやくやってきた感は正直あるのだが、実は日本仕様に合わせたセッティングを施すために時間がかかったのだという。SUVを言い訳にすることのない走りが日本仕様の見どころらしい。

ガソリンターボモデルを8月31日、ハイブリッドモデルを11月1日に発売した新型ミドルクラスSUV「CR-V」。今回の試乗会ではその両方に乗ることができた

 エンジンは1.5リッターの直噴ターボエンジンと2.0リッターアトキンソンサイクルエンジン+SPORTS HYBRYD i-MMDの2本立てとなり、それぞれに対して2WD(FF)とリアルタイム4WDが準備されている。1.5リッターのガソリンエンジンは専用タービンを搭載することで、重量級のSUVでもシッカリと走れることを目指している。最高出力は140kW(190PS)/5600rpm、最大トルクは240Nm(24.5kgfm)/2000-5000rpmを実現。JC08モード燃費の最良は15.8km/Lとなる。

はじめに試乗したのは直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンにCVT(7速モード付)を組み合わせる2WD(FF)/7人乗りの「EX・Masterpiece」(381万4560円)。ボディサイズは4605×1855×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2660mm。先代モデル比で70mm長く、35mm広く、5mm低い(全高比較は2WDモデル同士)スリーサイズとなる。ボディカラーは「プラチナホワイト・パール」
エクステリアではヘッドライトやフォグランプ、リアコンビネーションランプなどにLEDを採用するとともに、シャークフィンアンテナとテールゲートスポイラーを全車に標準装備。フロントアッパーグリルの内側に、国内販売するホンダ車として初めてシャッターグリルを採用したのもトピックの1つ。足下はブラック塗装と切削デザインのコンビネーションタイプとなる18インチアルミホイールにブリヂストン「DUELER H/L 33」(235/60 R18)の組み合わせ。直列4気筒DOHC 1.5リッター「L15B」型ターボエンジンの最高出力は140kW(190PS)/5600rpm、最大トルクは240Nm(24.5kgfm)/2000-5000rpm
ブラックレザーを用いる「EX・Masterpiece」のインテリア
7人乗り仕様の1列目(左)と3列目(右)シート。3列目シートはシートバックが5:5分割可倒式で、リクライニングにも対応
2列目シートは6:4分割可倒式で前後に150mmスライドでき、リクライニング機能も備わる
著者が座った状態で前後にスライドさせてみたところ(左/中央)。3列目シートの居住性は大人にはちょっと厳しいところだが、子供は十分座れるし、エマージェンシー用としても活用できる(右)
2列目、3列目シートを倒してフルフラットにしたところ

 一方の2.0リッターハイブリッドは、クラストップの低燃費と3.0リッター並のトルクをターゲットに開発が行なわれ、エンジンの最高出力は107kW(145PS)/6200rpm、最大トルクは175Nm(17.8kgfm)/4000rpm。走行用モーターの最高出力は135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)/0-2000rpm。燃費はJC08モードで25.8km/L(FFモデル)を達成。車速に対してリニアにエンジン回転が上がるようにチューニングされたほか、アクティブサウンドコントロールによって加速サウンドを調整することで、これまたリニアさを追求している。

 また、燃費性能を追求するために、ホンダ車として国内初となるシャッターグリルを装着。これはフロントグリル奥に備わり、車両や走行の状況によってシャッターを閉じることで空力性能を向上させ、燃費性能を高めてくれるというもの。さらに、アンダーフロアはカバーを装着することでフラット化が行なわれ、床下の空気の流れも最適化されているところもポイントだ。

こちらは直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジン+i-MMDにCVT(減速セレクター付)を組み合わせる4WD/5人乗りの「HYBRID EX・Masterpiece」(436万1040円)。全高は2WD車から10mm高くなる1690mm。ボディカラーは「ミッドナイトブルービーム・メタリック」
ハイブリッド車のマフラーエンドはガソリン車と異なり控えめなデザインを採用。搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター「LFB」型エンジンは最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm(17.8kgfm)/4000rpmを、組み合わせる「H4」型モーターは最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm(32.1kgfm)/0-2000rpmをそれぞれ発生
ブラウンレザーを用いた「HYBRID EX・Masterpiece」のインテリア。ハイブリッド車はスイッチ操作でレンジを変更する「エレクトリックギヤセレクター」を採用。助手席側には「SPORTモードスイッチ」も用意

 フットワーク系は欧州のワインディングやアウトバーンで磨き直したというサスペンションが備わる。フロントストラット、リアマルチリンク式となる足まわりには、振幅感応型のショックアブソーバーや液封コンプライアンスブッシュが前後に与えられ、リニアで軽快なフィーリングを実現するという。FFモデルと4WDでは車高が異なり、FFモデルは10mmダウンの設定とされていることもポイントの1つだ。さらに、電動パワーステアリングはデュアルピニオンタイプとなり、切りはじめのスムーズさとその後のリニアなフィールを実現。可変ステアリングギヤレシオを採用しているところも見逃せない。また、常用域からブレーキの外側や内側を状況に応じて効かせ、ライントレース性能を高めるアジャイルハンドリングアシストも搭載。ボディは超ハイテン材を36%使用するなどした結果、旧型に対してねじり剛性で25%向上と20%の軽量化を達成している。

 ブレーキは先代に比べてディスクサイズをアップさせるとともに、全車に対して電動ブレーキブースターを装着している。ガソリン車に対してもそれが搭載されることは国内初。あらゆる電子制御との協調にはこちらの方が有利だという考えがあったようだ。しかし、ブレーキブースターの電動化はまだまだ好フィーリングを実現できていないものも多く、CR-Vが掲げるリニアな走りとのマッチングは気になるところ。いずれにしても、あらゆる装備を「これでもか」と奢っているところは、さすがは走りにこだわるホンダといったところかもしれない。SUVを言い訳にしない走りが期待できそうだ。

手足のように操れる

 今回はそんなCR-Vを山中湖周辺のワインディングや高速道路において試乗した。まず乗り込んだのはFFの1.5リッターガソリンモデルだ。3列シート仕様を選べることがガソリン車のよいところであり、早速それが気になって3列目に乗り込んでみたのだが、身長175cmの筆者が乗り込んだ場合はやはり窮屈なのは否めない。小柄な女性や小学生くらいまでなら快適に過ごせそうだが、それ以上となると1マイルシートと割り切った方がいいだろう。けれども、いざという時に3列目が使えることは羨ましいポイント。国内で言えば「CX-8」や「アウトランダー」のガソリンモデルがライバルとなるのだろうが、それらと大差はない感覚がある。

 そんなユーティリティを備えながらも、走りはかなり爽快だ。発進時の俊敏さについては後に乗るハイブリッドモデルに負けるが、それ以降は必要十分以上の走りを展開してくれるし、エンジンの伸び感もなかなかだ。ワインディングに突入すれば、まさに狙った通りにライントレースする感覚が備わっており、SUVならではの全高が気になることもなく、一体感溢れる軽快な動きを展開してくれるのだ。クルマが小さく感じるほどのリニア感はなかなか。可変ギヤレシオも電動ブレーキブースターも違和感はない。ワインディングにおいて背の低いクルマと同様の感覚で操れたことは、新型CR-Vで行なった次世代化のおかげだろう。

 ハイブリッドモデルの4WDに乗り換えて同じようなシーンを走ると、前述した通り走り出しからまさにストレスフリーに動き出すから心地いい。7人乗りはスペースの都合で断念せざるを得なかったというが、その問題さえクリアできるならこのハイブリッドはありがたさしかない。EV走行からハイブリッド走行、そしてエンジンのみで走る領域まで連続性が保たれており、クセのない走りが可能なところも好感触。いつでも、どこでも、誰が操ったとしても、違和感を覚えるようなことはないだろう。そこに静粛性が備わるのだから上質だ。CR-Vの上級モデルとしても、ミディアムクラスのSUVとしても質感は高い。その上で、前述したガソリンモデルと同等の一体感溢れる走りがワインディングで得られるのだ。

 ただ、細かいことを言えば4WDモデルで車高が若干高いこと、さらには重量が増したことで多少の動きの大きさや応答遅れがあることも事実。ワインディングでの走りも満たしたいのであれば、FFのガソリンモデルが一番であることは確かなようだ。また、ガソリンもハイブリッドもそうだが、走りを意識したためか、荒れた路面で若干ハーシュネスが強いところもあった。SUVで乗り心地も走りもとなれば、次なる手は可変ダンパーということになるのだろうが、そこはコストとの闘いもある。これは次の一手を待っていることにしよう。

 しかしながら、決して派手さはないが、ここまでSUVを意識せずに普通に走れるとは思いもしなかった。手足のように操れることができるという、当たり前のようだがなかなかできないことを達成したところにCR-Vの価値があるように感じる。走りに対して正面から向き合ったCR-Vは、ちょっとマジメすぎる不器用さが逆に好印象な1台だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学