試乗インプレッション

ボルボ最小の新型SUV「XC40」、スペインでその実力を試す

2018年の輸入SUVの中にあっても最大級の台風の目と成り得る!

X2やQ3、C-HR、NXあたりが近いサイズ感

 ワールドプレミアの場として選ばれたのは、イタリア第2の都市ミラノ。繊維や服飾産業が盛んであったことからイタリアン・ファッションの発信拠点としても知られるこの地の、しかも敢えてファッションウィークの真っ只中というタイミングを選んで発表されたことからも、デザインに対する自信と意気込みのほどが伺えるのが、世界で唯一のスウェーデン・ブランドであるボルボから2017年に発表された、ブランニュー・モデルの「XC40」だ。

 そのネーミングからも推察できるように、現時点では「ボルボ・ラインアップ中で最小のSUV」という位置付けが与えられたこのモデルのボディサイズは、4425×1863×1652mm(全長×全幅×全高、欧州仕様)。欧州勢ではBMWのブランニュー・モデルである「X2」やアウディ「Q3」、日本勢ではトヨタ自動車「C-HR」やレクサス(トヨタ自動車)「NX」あたりが、「近いサイズ感の持ち主」と言えそうだ。

日本でも3月28日に発売となった新型コンパクトSUV「XC40」は、まずは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する「T4」(190PS/300Nm、欧州参考値)と「T5」(252PS/350Nm)を導入。いずれも8速ATを組み合わせ、T4では2WD(FF)モデルと4WDモデルを、T5では4WDモデルのみを展開。ボディサイズは4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。価格は389万円~559万円

 ハードウェアのみならず生産設備までを一新した“新世代ボルボ車”の先駆けである現行「XC90」や「XC60」に比べると、直立したグリルや高く水平に近いフロントフード、“トールハンマー”をアイキャッチャーとしたヘッドライトや縦長のテールランプ・グラフィックなどで共通するブランド・アイデンティティをアピール。一方で、それら兄貴分とは一線を画したより強いカジュアルさを演じるのが、この末っ子のアピアランスの特徴でもある。

 実際、そこのところを担当デザイナー氏に問うてみれば、「XC90とXC60はお互いが“兄弟”同士で、XC40はそれらとは“いとこ”の関係を模索した」というコメントが返ってきた。なるほど、そう言われてみるとボルボ最新のSUV3台は、まさにそんな関連性が納得できる仕上がり。と同時に、比べると欧州ライバルの兄弟たちの見た目が、どこか“金太郎飴”のようにすら思えてくるというのも巧妙なデザインだ。

 ボルボ車の新たなデザイン言語を用いてのブランディングは、まだスタートを切ったばかりというタイミング。だからこそ、自社の既存モデルの歴史に“忖度”する必要のないデザイン面での冒険も、可能になるということかも知れない。

 一方でXC40のインテリアデザインは、ダッシュボードまわりの造形を中心に、新世代ボルボ車の一員であることがエクステリア以上により明確に理解できる仕上がりだ。中央特等席部分に縦長の大型ディスプレイをレイアウトしてメカニカルなスイッチ類を極力排したダッシュボードや、大型ディスプレイを左右から挟むように配された縦長の空調吹き出し口、さらには高く存在感の強いセンターコンソールを採用するのは、ボルボの最新XCシリーズ共通のフォーマット。

 もちろん、スカンジナビアン・デザインが意識されているのも兄貴分たちと同様で、複数のカラーやデコラティブパネルを選択する楽しみは、このモデルでもしっかりと踏襲されている。

 一方で、新世代ボルボ車に共通するインフォテイメントシステム「SENSUS」は、前述のようにスイッチ類を大幅に削減させたことがシンプルでクリーンな見た目の演出には大いに効果的である半面、実は使い勝手上では難アリという点も、兄貴分からの招かれざる踏襲と言わざるを得ない印象。

 ナビゲーションシステムの操作を筆頭に、空調のコントロールやドライブモードの変更など、走行中でも操作したくなるメニューの多くを画面上のアイコンを注視してタッチしなければならないのは、ひいては「安全にはひと際のこだわりを持つこのブランドのフィロソフィとも合致していない」とも思える出来栄え。

 実際、このモデルの国際試乗会を終えた直後に訪れたスウェーデン本社で機会が得られた、同社の「安全」の技術開発トップで、「2020年までに新しいボルボ車が関わる交通事故による死亡者や重傷者をゼロにする」という「VISION2020」を策定した人物でもあるヤン・イヴォンソン氏へのインタビューでは、その操作ロジックについては「改善の余地あり」という趣旨の回答が得られもしたのだ。

 本社周辺での自社製品が関わる交通事故を自身の手で調査するなど、机上の設計やデータ解析に留まらず、リアルワールドの出来事に強い関心を払うことで現在の高い評価の獲得に至ったのがボルボの安全性。そんなポリシーの持ち主ゆえ、恐らくは近い将来、このインフォテイメントシステムの使い勝手には何らかの改良の手が加えられるであろうと確信することにもなった。

新開発のCMAプラットフォーム採用、その実力は?

 スペインはバルセロナで開催された国際試乗会で用意されたのは、T5とD4といういずれも8速ATと組み合わされたパワーパックを搭載する、R-DesignとMomentumという2種類のグレード(いずれも4WD)。

 現時点で発表されている搭載エンジンはいずれも2.0リッターのターボ付き4気筒で、ガソリンが3種、ディーゼルが2種の出力レベルが異なるもの。最高出力が247PSのT5はガソリン、同じく190PSのD4はディーゼルの、いずれもXC40では頂点に置かれるユニットだ。

 まずはT5 R-Designでスタートをすると、早々に好印象を得られたのは静粛性の高さ。なかでも、エンジンノイズの遮断性は「これまでのボルボ車で随一ではないか?」と思える水準だ。そんな優れた静粛性とともに、このモデルの走りの上質感に磨きを掛けていたのが、20インチというオプションの大径シューズを履きつつもしなやかな乗り味だ。

 大きなシューズゆえに覚悟したバネ下の重さはほとんど気にならず、むしろサスペンション・ストロークの豊かさの方が印象に残ったそのフットワークのテイストは、率直なところ実は「兄貴分よりも上質ではないか!?」とすら受け取れたもの。

 XC40が採用する骨格は、XC60やXC90が用いる“SPA”と呼ばれるアイテムに対して、より小型のモデルに向けて新開発された“CMA”と名付けられたもの。親会社である中国ジーリー・ブランドのモデルへの採用も前提とすることで、潤沢な投資を行なうことが可能になったというこの新骨格が、XC40の魅力的なプロポーションと、走りの好印象を生み出す1つの根源となっていることは間違いなさそうだ。

 と同時に、実は「遅いタイミングで現れるボルボ車ほどに、好印象を受ける可能性が高い」というのも昨今の実感。前出SPAを採用したモデルも、デビュー当初よりも熟成が進んでいるということかもしれない。

 かくして“期待以上の好印象”だったT5 R-Designから、D4 Momentumへと乗り換える。

 走り始めるとディーゼルエンジンならではの音質は明確に耳に届くものの、ボリュームは過大ではなくこちらも「静粛性は優れている」という評価が当てはまる。ただし、1300rpm付近でピークを迎えるこもり音だけは、やや目立つのが残念。常用域であるだけに、1度気になり出すとちょっと耳に付いてしまうのだ。

 シーケンシャルツインターボを用いた最新ディーゼルエンジンゆえ、加速のパフォーマンスが十分であることは6.2秒というT5モデルのデータには及ばないものの、こちらでも7.5秒という0-100km/h加速を発表することからも明らか。

 ただし、微妙なアクセル操作に対するコントロール性はT5モデルに敵わないし、恐らくはその大半が前輪側に加わると思われる40kgほどの重量増加分が、ハンドリングの軽快さをやや殺いでいる感もある。少なくとも今回乗った2モデルを比べた場合、「XC40により似合っているのはT5の方」というのが個人的感想だ。

 ちなみに、これまで積極的にディーゼルモデルが導入されてきた日本のボルボ車だが、「XC40の場合、導入はしばらく先になりそう」というのがインポーターであるボルボ・カー・ジャパンによる回答。が、少なくとも今回乗った2台のテイストからすると、「敢えてディーゼルのデビューを待つ必要性は薄そう」と、正直そんな印象を抱くことなった。

 かくして、日本の環境を考えるとジャストサイズの印象が強いXC40は、4人が長時間を過ごすにも抵抗のない居住空間や、大きなサブトランクを含めて十二分なラゲッジスペース容量を確保しているなど、実用性に富んだパッケージングの持ち主であることもまた魅力のポイント。

 見てヨシ、乗り込んでヨシ、そして走ってヨシのこのモデルは、「今年の輸入SUVの中にあっても、最大級の台風の目と成り得る!」と自信を持って言える1台だ!

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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