インプレッション

ボルボ「V40 D4 R-DESIGN」

 7月より各ボディシリーズに対してクリーンディーゼルエンジン搭載車を5車種も導入したボルボ。その販売は実に順調で、今ではV40シリーズ、60シリーズで半数を占めるまでにシェアを拡大。XCシリーズでは7割に達するほどなのだとか。キメ細かい制御が可能なデンソー製のコモンレール・ダイレクト・インジェクションシステム「i-ART」を装備する新世代のDrive-Eディーゼル「D4」エンジンは、最高出力190PS、最大トルク400Nmを発生させる実力を持ちながら、一方でV40ではJC08モード燃費20.0km/Lの低燃費と129g/kmのCO2排出を実現。このバランスがヒットの要因といっていい。

 だからこそ“次なる一手”が早くも進んだのだろう。D4エンジンを搭載するV40に対し、スポーツグレードの「R-DESIGN」を限定200台で追加した。これまでありそうでなかった組み合わせがいよいよ発進する。

12月8日に200台限定で発売された「V40 D4 R-DESIGN」。価格は459万円で、試乗車はボディカラーのオプションである「クリスタルホワイトパール」(10万3000円)とポールスター・パフォーマンス・パッケージ(18万8000円)の追加で488万1000円。ボディカラーはこの「クリスタルホワイトパール」以外にも、「パワーブルーメタリック」「パッションレッド」など計5種類を用意

 ただ、今回のニュースは単に「R-DESIGN」ならではの装備を追加しただけではないところがポイント。エンジン制御ソフトウェアにはポールスター・パフォーマンス・パッケージが与えられ、最高出力は10PSアップの200PS、最大トルクは40Nmアップの440Nmを達成。スロットルレスポンスやギヤチェンジのプログラムも変更され、より力強く生まれ変わっているのだ。

 ボルボではこの変更プログラムを、すでに9月からD4エンジン搭載車に対して販売している。従来価格は20万5715円(作業工賃込み)とやや値が張るものだったが、9月からはこの価格も改められており、現在は18万8000円(作業工賃込み)となっている。さらにV40 D4 R-DESIGNでは、2016年1月初旬の初売り期間中に限って購入者に無償プレゼントされるという。これぞ今回のクルマのポイントの1つだ。

直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジン「D4204T14」は通常状態で最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmを発生。「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」を採用した場合、専用ソフトウェアの導入によって最高出力147kW(200PS)/4000rpm、最大トルク440Nm/1750-2250rpmに出力向上する

 もちろん「R-DESIGN」ならではの装備は、これまでに存在していたガソリンエンジン仕様の「V40 T5 R-DESIGN」と同等の作り込み。専用デザインのアルミホイールやシルバー塗装のグリル&ディフューザーといった方程式にはなんら変化するところはない。

 ただし、シャシーはかなり引き締められていると見た。足まわりは初期のV40のみが採用していたダイナミックシャシー(標準モデルの割にはスポーティな仕上がりだった)比で、スプリングレートをフロント+10%、リア+7%引き上げたというのだ。それに合わせた強化ダンパーやバンプストップラバー、さらには強化リアスタビライザーまで奢っている。それらは単にスポーツ度を高めることを目指したわけではないだろう。ディーゼルエンジンの搭載とパノラミックルーフをはじめとする特別装備を標準化したことによって、V40 T5 R-DESIGNから約40kgアップした車両重量への対策という意味もあるのではないだろうか。

シルクメタルフレーム・フロントグリルとブラックのハイグロス仕上げグリルメッシュ
シルクメタルフレームのドアミラーカバー
リアバンパーはディフューザー形状となり、シルバーのカラーリングで加飾されるほか、マフラーにシルクメタル仕上げの専用90mm系エンドパイプを採用
リアハッチのD4エンブレムと並べてポールスター・パフォーマンス・パッケージの専用リアエンブレムを装着

ディーゼル市場に新たなる風を吹かせるオンリーワンの世界観

 そんなV40 D4 R-DESIGNに乗り込むと、インテリアもまたスポーティ仕立て。太目のグリップを与えたステアリングホイールと、適度にホールドしてくれる専用本革シートが絶妙なポジションを与えてくれる。アルミニウム感を多用した各所の作り込みもなかなか。走りの期待が高まる。

インテリアでは専用のスポーツステアリングホイール、スポーツペダルなどを装着し、本革巻ハンドブレーキやシフトブーツにコントラストカラーステッチを採用。センターコンソールのアルミニウムパネルにはブルーの縁取りが与えられる
ナッパレザーの専用本革/パーフォレーテッドレザーコンビネーション表皮を前後のシートに採用
アイシンAW製の8速ATも、ポールスター・パフォーマンス・パッケージのプログラム変更によって変速スピードを高めた迅速なシフトダウン、変速精度の向上、不要なギヤチェンジを抑制するホールド機能などが与えられる
ルーフトリムにチャコールルーフライナーを使い、パノラマ・ガラスルーフも標準装備

 レブリミットが5000rpmからとなっていることはディーゼルならではの世界観。これでどんな加速をするのかと試しにアクセル全開で加速してみると、4500rpmあたりで次々にシフトアップ。強力にグイグイと速度を重ねていくから面白い。ノーマルよりもトルクの発生回転を250rpmほど低めたチューニングをしているから、エンジンを回すより、低回転でのトルクを利用して加速してやろうということなのか? とにかく効率よく速いクルマであることが伝わってくる。ただ、だからといって面白味がないわけじゃない。求めたとおりにグッと前に出てくれるリニアさがあるからむしろ心地よい。ディーゼルエンジン搭載のスポーツモデルなんてほかではなかなか存在しない世界だけれど、「わるくないねぇ~」なんて思わず気分が高まってくる。

 シャシーはスペックほど引き締められた感覚はない。ドッシリと安定している感覚はいかにもディーゼル車っぽいところもあるが、それでいてかなり速く、そして狙いどおりにコーナーをクリアしていく感覚に溢れているから楽しいのだ。箱根のワインディングでそんな感覚が持てるのだから、きっとどこに行っても十分に通用するだろう。

225/40 R18サイズのミシュラン パイロット スポーツ 3を装着。ブレーキに関してはベースモデルと同じものとなる

 唯一心配になったのはブレーキ。もちろんきちんと止まることは止まるのだが、もはやスポーツカーの領域に片足を突っ込んだかのような仕立てになっているだけに、ブレーキもまたひと味違うものがあればとリクエストしたくなってくる。ポールスターブランドでそんなところまでフォローしてもらえたら、よりいっそうスポーツディーゼルが愉しいものになるような気もしてくる。

 このように、パワーもシャシーもバランスしていたV40 T5 R-DESIGNは、ディーゼル市場に新たなる風を吹かせたことは間違いない。このクラスでオンリーワンなこの世界観は、間違いなく“買いの1台”だと感じることができた。気になる方はぜひ初売りのボルボディーラーに足を運んで、この仕上がりをお買い得感ある状態で手にしてほしい。

Photo:堤晋一

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。