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ボルボ、“Drive-E クリーンディーゼル”搭載5モデル発表会

ガソリンエンジンでも6カ月以内にPHVモデル「T8」の市場投入を予告

2015年7月23日開催

発表会で新しい“Drive-E クリーンディーゼル”の搭載モデルと並んでフォトセッションに立つボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 木村隆之氏

 ボルボ・カー・ジャパンは7月23日、同日に発表した最新クリーンディーゼルエンジン「D4」の搭載車について解説する発表会を都内で開催。ボルボのラインアップにおける販売構成比率で約9割になるという「V40」「V40 クロスカントリー」「S60」「V60」「XC60」の5車種に対して同時に追加設定を行っている。モデルバリエーションや価格などの詳細は、関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150723_713071.html)を参照していただきたい。

「V40 D4」
「V40 クロスカントリー D4」
「S60 D4」
「V60 D4」
「XC60 D4」

ボルボの新しい時代“ディーゼルメインストリーム”を木村社長が宣言

ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長 木村隆之氏

 発表会でプレゼンテーションを行ったボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長の木村隆之氏は、「ボルボの特徴とは、北欧のカルチャーに根ざした“人を中心としたクルマ造りとデザイン”です。具体的には、人が感じる心地よさ、妥協のない安全性と高い環境性能などが挙げられます。それらを私たちボルボ・カー・ジャパンが日本のみなさまにご紹介してきました。とくに心地よさと安全性においては多くのみなさんにご満足いただけていると自負しています。しかし、ボルボが環境の面でも際立つ性能を持っているというイメージは、まだ浸透していないというのが現実でしょう。本日の発表は、そんなボルボの環境に対するイメージを大きく変えるターニングポイントになると確信しています」と語り、最新クリーンディーゼルエンジンの導入理由について解説。

 木村氏は、この日から発売を開始する5車種のD4エンジン搭載車がボルボにおける販売構成比率で約9割を占めており、今後は販売されるボルボ車の半数以上がディーゼルエンジン搭載車となるとの予測を明かし、「日本のボルボはディーゼルが販売の主力となり、ボルボの新しい時代として“ディーゼルメインストリーム”をここに宣言します」と意気込みを披露した。

 さらに木村氏は、自身が1995年から2000年にかけて欧州に駐在していたときに、社会的な環境意識の高まりと直噴ターボ技術などによる大幅な性能向上といった要素から、欧州メーカーを中心にディーゼルエンジンが急速にシェアを伸ばしていったことを目の当たりにした経験について紹介し、同様にディーゼルに対するシフトが日本でも起きると確信していると述べた。それに向け、多くの人にこのディーゼルエンジン搭載モデルに乗って体感してほしいと考えており、発表翌日の7月24日から全国102店舗のボルボディーラーに試乗車を準備して興味のある人の来店を心待ちにしていると語っている。

木村氏はディーゼルエンジン搭載車が販売の主力となる“ディーゼルメインストリーム”を宣言
1998年以降にディーゼルエンジン搭載車の販売台数が急増し、ついには半数以上を占めるまでになった欧州の現状を語り、日本でも同様のシフトが起きると語る木村氏
新しいD4エンジンが持つ3つの大きな特徴

 木村氏は、新しいD4エンジンを「今、多くのお客さまにとってベネフィットとバリューが最も高いエンジン」であると紹介し、「低燃費・経済性」「ドライビングパフォーマンス」「環境負荷の低減」という3つの特徴が高いレベルで実現されていることをその理由として挙げた。

 具体的に、まず「低燃費・経済性」では、V60のガソリンエンジンを搭載するT4と新しいD4のJC08モード燃費を比較。T4の14.9km/Lに対してD4は35.5%アップとなる20.2km/Lとなっているほか、ハイオク指定のT4に対してD4の軽油が燃料費も安いことを紹介し、100kmを走った場合に燃料にかかるコストが約6割に抑えられるとアピールした。さらにモータージャーナリストの笹目二郎氏がD4エンジンを搭載したV40で実走行を行い、東京都から1224kmを走破して熊本県までドライブした例を紹介。この状態でも燃料タンク内には8L前後の軽油が残されていたこと、実燃費で22.7km/Lを記録したことなどを明かしている。

「ドライビングパフォーマンス」では、「エコカーだから走りの楽しさが犠牲になっているのではないかと思う人もいるかもしれませんが、ボルボのディーゼルはそんなことはありません。日本のサプライヤーであるデンソーの協力を得て、燃料噴射技術『i-ART』を乗用車として世界で初めて採用。最高出力は190PS、最大トルクは一般的な4.0リッターガソリンエンジン並みといわれる400Nmを発生します。さらにボルボとは40年来のパートナーであるアイシンAWの8速ATを搭載しています。私も自分で運転して、低速からの太いトルクによるパワフルさ、アクセル操作にすぐ応えてくれるレスポンス、ガソリンエンジンと遜色ないエンジン回転の伸び感など、運転が楽しいプレミアムなクルマに仕上がっています」と自信を見せた。

 また、「環境負荷の低減」では、事前に予測しているように同社の販売比率で50%以上がD4エンジン搭載車になった場合、CO2排出量が約2割削減されるとしている。

 このほかに発表会では、木村氏から既存のガソリンエンジンに対する施策についても紹介が行われ、「ガソリンのよさを最大限に生かした新たなエンジンを投入し、ボルボ全体のパワートレーンを進化させる」と解説。6カ月以内に3種類のエンジン投入が明かされ、まず同日に一部仕様変更を行った「V40」「V40 クロスカントリー」に、燃費と動力性能を高次元で両立させる直列4気筒1.5リッター直噴ターボの「T3」エンジンをダウンサイジングターボとして発表。9月1日から販売を開始することを発表した。

 なお、T3エンジン搭載以外の一部仕様変更については関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150723_713157.html)を参照していただきたい。

 残る2つは、直列4気筒2.0リッターターボで300PS以上を発生することで最大限のドライビングパフォーマンスを目指す「T6」、待望のプラグインハイブリッドパワートレーンとなる「T8」であると紹介されている。

同じV60でガソリンエンジンからJC08モード燃費を35.5%アップ。燃料の価格差とも合わせ、ランニングコストにおける燃料費を大きく低減させる
400Nmという強力なトルクを背景に、ロングランではJC08モード燃費を上まわる数値を計測する可能性があることも示唆した
D4エンジン搭載車でも、これまでのDrive-Eパワートレーンと同じくデンソー、アイシンAWが協力して開発された
ディーゼルらしい太いトルクとガソリン並みというフィーリングで「プレミアムなクルマ」と表現する
販売の半数以上がディーゼルエンジン搭載車となることで、CO2排出量を約2割削減するという試算
ガソリンエンジンでも6カ月以内に3種類の新エンジンが市場投入されると発表された

32年ぶりに日本市場に投入される「サードウェーブディーゼル」

ボルボ・カー・ジャパン マーケティング部 プロダクト・マネージャー 青山健氏

 D4エンジンの技術解説については、ボルボ・カー・ジャパン マーケティング部 プロダクト・マネージャーの青山健氏が担当。青山氏は2014年から日本導入を進めている新パワートレーン「Drive-E」シリーズについて振り返り、このDrive-Eでは従来はフォードグループとの関係から多数ラインアップしていたパワートレーンを、自社開発のシンプルなラインアップにスイッチ。「4気筒以下であること」「可能な限りガソリンとディーゼルで構造を共有すること」「将来的に電動化に対応すること」の3点を柱に設定し、資源を集中して良質なパワートレーン開発に取り組んでいると解説した。

Drive-Eの戦略で目標としているポイントや開発におけるキーワード
パワートレーン戦略でボルボが歩んできたロードマップ
フォードグループから供給される多彩なエンジンラインアップから、自社開発のシンプルな構成に転換
ガソリン・ディーゼルともにシュブデ工場で生産。「25%の共通部品」「50%の類似部品」「25%の異なる部品」をキーワードに開発されている

 直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボとなるD4エンジンは、最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmを発生。アイシンAW製の8速ATと組み合わせて前輪を駆動させ、JC08モード燃費は搭載する車種により18.6km/L~21.2km/Lとなる。

 青山氏はD4エンジンに搭載される代表的な技術として、デンソーが開発したi-ARTを紹介。従来は燃料を噴射するための蓄圧器となる「コモンレール」に1個設置していた圧力センサーを、コモンレールの先に設定される各インジェクターに1個ずつ設置。シリンダーそれぞれで発生する微細な燃焼のズレを検知して制御することが可能になり、採用する圧力センサーでは10万分の1秒のズレにまで対応できる性能を持っているという。さらにパイロット噴射、プレ噴射など、1回の燃焼につき最大9段階まで燃料噴射のコントロールが可能となっており、燃料の噴射圧力も世界トップレベルとなる最高250MPaまで対応。これらの技術によって燃料噴射の最適化による燃費向上と排出ガスのクリーン化を実現している。

 このほかにD4エンジンでは、ボルグワーナー製の2ステージターボチャージャーを採用する加給システムで幅広い回転域で力強いパワーを発生し、「LNT(リーンNOxトラップ)」と「DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)」を組み合わせた触媒コンバーターの採用により、「AdBlue」と呼ばれる尿素水溶液を必要としない点なども大きな特徴となっている。

D4エンジンの詳細スペック。エンジン型式は「D4204T14」で、圧縮比は15.8:1
i-ARTの採用は、トヨタ自動車がブラジル市場で販売しているピックアップトラックの「ハイラックス」に続き、乗用車としては世界初となっている
圧力センサーをインジェクターごとに設置する以外にも、i-ARTでは世界トップレベルとなる最高250MPaの噴射圧力、最大9段階までの燃料噴射コントロールなどのテクノロジーを採用する
Drive-Eパワートレーンとして、エンジンブロックの基本構造はガソリンエンジンと同じものを使用しているが、イラストでブルーに色づけされた部分にディーゼル専用のパーツを採用。スパークプラグを持たない腰上部分、独自のエンジン音を低減させる吸音材などが大きく異なる部分となる
ピストン、コンロッド、バランスシャフトなどもディーゼル専用に変更される
ガソリンエンジンの22倍以上の噴射圧を生み出す高圧ポンプもディーゼル専用品
ボルグワーナー製の2ステージターボチャージャーは、大小2つのタービンを、エンジン回転などに合わせて切り換え、併用する
触媒コンバーターにはLNTとOPFを組み合わせて採用
より細かなエンジン制御を行うため、新しいECM(エンジンコントロールモジュール)を採用

 また、価格面について青山氏は、D4エンジン搭載車をガソリンエンジン搭載車から25万円高に設定していると説明。この差額は、ガソリンエンジン搭載車がエコカー減税で自動車取得税40%軽減、自動車重量税25%減税になるところが、クリーンディーゼル車としてそれぞれ免税(100%減税)になり、前に登壇した木村氏も説明したように燃料費でアドバンテージを積み重ねていけることを挙げ、一例としてV60の「T4 SE」と「D4 SE」を比較して、車両価格ではD4 SEが25万円高くなっているが、エコカー減税により購入時に差額が10万6000円減少。さらに燃費と燃料費の差額で走行距離が伸びていくたびに差額が縮まっていき、1年間に1万kmを走った場合には、初回車検からしばらく経った3.3年後に差額が消滅すると説明。そこから先はD4 SEのランニングコストが勝り、また年間走行距離が1万kmよりも長いユーザーなら逆転はもっと早く訪れるとの試算を紹介。D4エンジン搭載車がコストバリューの高いモデルであるとアピールしている。

 このほか、ディーゼルエンジン搭載車の発売は今回が初めてではなく、かつては1981年に「244」、1984年に「760ターボディーゼル」を市場投入しており、今回のD4モデルは同社にとって32年ぶりのディーゼルエンジン搭載車の発売となる。これを受け、発表会で配布された資料には新たに発売するD4モデルを「3RD WAVE DIESEL(サードウェーブディーゼル)」と表記している。

D4エンジン搭載車は全車クリーンディーゼルとして免税(100%減税)となる
年間1万kmという一般的な使用でも、3.3年ほどで25万円の差額が埋められるとの試算
ボルボのディーゼルエンジン搭載車は32年ぶりの日本上陸となる
V40の新しいモデルレンジと価格
V40 クロスカントリーの新しいモデルレンジと価格
S60の新しいモデルレンジと価格
V60の新しいモデルレンジと価格
VC60の新しいモデルレンジと価格
D4204T14型エンジンは最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmを発生。5車種すべてが同一のスペックとなっている
D4パワートレーンで採用されるアイシンAW製の6速ATのカットモデル
i-ARTに関する技術展示。ソレノイドインジェクターの上側に燃料センサーが設置される
外観上でガソリンエンジン搭載車と異なる部分は、車両の後方に設置された「D4」のバッヂとデザインの異なるアルミホイールのみ。なお、D4のDはディーゼルを表している。ガソリンエンジン搭載車で使われているTは、かつては高性能モデルに採用されたハイプレッシャーターボのTを表しており、T4、T6の数字は気筒数に対応していたが、現在のラインアップでは対応するパワーレンジの表示となっている

(編集部:佐久間 秀)