インプレッション

ボルボ「V40 T3」

新開発の直列4気筒1.5リッター直噴ターボ「T3」エンジンを搭載

 フライング・ブロック(空飛ぶレンガ)と呼ばれる四角張った堅牢ボディーがボルボの代名詞だったころなどウソみたいに、美しくなめらかなボディーラインが目を惹くV40。しかも全長4.3mそこそこのコンパクトサイズで、ダウンサイザーや女性ドライバーにもアピールする、トレンドにドンピシャなキャラクター。こんなクルマを世界が放っておくワケがなく、一時は人気すぎて品薄状態になっていたというベストセラーモデルだ。

 そんな絶好調のV40だというのに、デビューから1年半余りで早くもパワートレーンが入れ替わった。そこが今、クリーンディーゼルを5車種同時デビューさせるなど、攻めてるボルボの勢いを感じさせるところ。というのも、ボルボはフォード傘下から独立することが確定した2010年ごろに、「DRIVE-E」プロジェクトをスタートさせた。それは、エンジンを自社開発することにより、妥協のないドライビングエクスペリエンスを追求するのはもちろん、高効率化やランニングコスト低減も実現するという、新しいパワートレーン戦略だ。

撮影車はクリスタルホワイトパールメタリックの「V40 T3 SE」。ボディーサイズは4370×1800×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2645mm。タイヤサイズは205/50 R17

 ガソリンもディーゼルも同じ工場、同じ生産工程で造られ、共通の基本構造を持ち、25%の共通部品、50%の類似部品を使う。4気筒以上は造らず、段階的に4~5種類のパワートレーンに集約していくというのが「DRIVE-E」のストーリー。今回、V40に新たに加わったT3というパワートレーンは、その第3弾として従来の1.6リッターターボであったT4/T4 SEに置き換わる。ボルボ通の人なら、T3の数字「3」がかつては気筒数を表していたことを知っているから、「えっ、ついに3気筒?」と驚くかもしれないけれど、現在の数字はパフォーマンスを表すものに変わっており、T3は直列4気筒1.5リッターの直噴ダウンサイジングターボ。152PSの最高出力と、わずか1700rpmからピークに達する250Nmの豊かなトルクを持つ。トランスミッションにはアイシン・エィ・ダブリュ製の新開発6速ATを採用し、従来のATより小型で約16%の軽量化を果たして16.5km/Lの燃費を達成している。

V40 T3 SEが搭載する新開発の直列4気筒1.5リッター直噴ターボ「T3」エンジンは、最高出力112kW(152PS)/5000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1700-4000rpmを発生。これにロックアップ機構付の6速ATを組み合わせ、前輪を駆動。JC08モード燃費は16.5km/Lをマークする

 もう少しこの新しいパワートレーン、T3のトピックを挙げていくと、まず独自のレイアウトで設計された直噴技術がある。既存のポート噴射式や横からの直噴式に比べて、優れた燃焼性能をもたらす燃焼システムは、中央にスパークプラグとインジェクターを配置することで均一な混合気を発生させることが可能。それによる掃気や給気冷却の効果で、ポート噴射式よりも低回転域でのトルクが向上するという。

 さらに、深海2000mでの水圧と同等という20MPa(200気圧)もの高圧でエンジン内に燃料を噴射するコモンレール式直噴技術が、偏りや無駄のないクリーンな燃焼を実現している。この時の点火プラグには、イリジウムと強化白金を使ったDRIVE-E専用の小型小径点火プラグを採用して、高過給・高気流化にも耐えうる火花を実現している。

 また、ターボチャージャーには鋼板製タービンとマニホールドが一体となった、自社開発の小径ターボを採用。エンジンオイルはカストロールと共同で専用開発しており、電動ウォーターポンプも新開発するなど、高効率と低燃費を徹底して突き詰めたものとなっている。

V40 T3 SEの車両価格は374万円だが、撮影車はオプションのパノラマ・ガラスルーフ、歩行者エアバッグ、モダンウッドパネル、レザー・パッケージ(本革シート、助手席8ウェイパワーシート、フロント・シートヒーター)などを装備し、総額452万9000円となっている。全車速追従機能付ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や自動ブレーキを含む10種類の先進安全装備・運転支援機能「インテリセーフ 10」は、ベース車のV40 T3や同じパワートレーンを採用する「V40 クロスカントリー T3」を含め全車標準装備となっている。後席は6:4分割可倒式となっている

ずっと乗っていたくなる心地よさ

 さて、そんなT3エンジンを味わうべく、やっぱり何度見ても心に潤いをくれるように美しいV40に身体をすべらせた。生産工場となったシュブデがあるらしい、南北に細長く伸びる美脚のようなスウェーデンの足先あたりに思いを馳せながら、いよいよスタートボタンをプッシュする。どことなく楽器のような音色が響いて、するするとなめらかな吹け上がりを全身に感じつつ、カーブの多い郊外路を駆けていく。私たちを覆うボディーやタイヤからフロアまでの部分には、とてもガッシリとした剛性を感じる一方で、ペダルやステアリング、シートから伝わってくる疾走感はかなり軽やかだ。

 そうしたエンジンの気持ちよさに加えて、足下のしなやかさもかなり高ポイント。デビュー当初のV40は、しなやかさよりもやや硬めのスポーティさが強めの印象で、コーナリングでついつい攻めてしまいたくなる感覚だった。でも、年次改良などを経たこの最新のV40は、タイヤが205/50 R17(T3 SE)と汎用性の高いサイズに変わったこともあり、乗り心地とのバランスが絶妙。高速道路のIC(インターチェンジ)にあるようなヘアピン&下り坂のようなシーンでは、微塵もブレることのないしっかりした剛性感がありつつ、片側が段差を通過するような路面でも振動を最小限に抑えてくれているようで、ずっと乗っていたくなる心地よさがあった。

 1つだけ不満があるとすれば、今回T3 SEに標準装備されたパドルシフトの操作感が、ちょっと物足りないということ。カチッ、カチッというシフトチェンジ感が指先の感触からも耳からも小さく控えめで、せっかくF1ドライバー気分でシフトダウンしたつもりが、なんだか盛り上がりに欠けてしまう。とはいえ、そのほかは高速道路のレーンチェンジなどもビシッと決めてくれるし、本当に気持ちのよいクルマだとすっかり満たされたのだった。

 さらに、T3には通常のドライブモードのほかに、スイッチ切り替えでECO+モードがついている。ATのシフトスケジュールが変わり、アイドリングストップがこまめになり、エアコン制御もより省燃費モードに。そしてペダルストロークが長くなってアクセルペダルのレスポンスがソフトになったり、エンジンブレーキが解除されて惰性走行が伸びたり、高速道路でのコースティングも行われることで、最大で燃料消費を5%抑えることができる。

 これを試してみると、他社ではかなりペダルが板のようになって踏み込みにくく感じたり、発進加速がもっさりとするモデルもあるのに、V40は本当に効果があるのか心配になるくらい、ほとんど違和感がない。高速でも普通に運転していれば流れに乗れるし、これなら普段からECO+モードで走ってもいいくらいだ。

 軽やかで乗り心地もよく、シーンを選ばないバランスのよさが際立っていたV40 T3。先に日本初導入されたクリーンディーゼルのD4、245PSの高出力が魅力の2.0リッター直噴ターボであるT5 R-DESIGNと合わせて、V40にはボルボの最新パワートレーン・DRIVE-Eが出揃ったことになる。もちろん、アクティブな専用デザインを纏うV40 Cross CountryにもT3が加わっている。

 世界的にメーカー間でパワートレーンの共用化が進む中で、あえて自社開発にこだわったボルボの想いが、V40を走らせているとじんわりと伝わってくる気がする。歩行者や自転車までも検知する高度な自動ブレーキシステムも全車種全グレードに標準装備するという、その心意気もひしひしと感じる。エントリーグレードとなるT3が、こんなに満足度の高いモデルだったことで、トレンドにのっただけじゃない、V40の存在価値を改めて実感することができたのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一