インプレッション

ボルボ「V40 クロスカントリー T5 AWD」(Drive-E搭載モデル)

新生「T5エンジン」で初となるAWDの組み合わせ

 2015年モデルで大幅にアップデートされたボルボのV40シリーズ。その一員である「V40 クロスカントリー」にも新しい「Drive-E」パワートレーンが与えられて生まれ変わった、「V40 クロスカントリー T5 AWD」が、まずは200台のみ限定発売された。

 もともとV40 クロスカントリーには「T5 AWD」というモデルがラインアップされており、今回はそちらに一連の「T5」モデルと同じく、新しいDrive-Eパワートレーンが搭載されたことがポイントとなる。ただし、ほかのモデルと異なるのは、この新生パワートレーンに初めてAWD(4WD)が組み合わされたことだ。

「XC60」や「XC70」などのT5モデルにもまだAWDの設定がないなかで、V40 クロスカントリーで初めて新生T5エンジンとAWDという組み合わせが実現したわけだ。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボの「B420」エンジンは、最高出力180kW(245PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを発生。電子制御8速ATと組み合わせ、JC08モード燃費は14.8km/L

 V40 クロスカントリーについておさらいしてみよう。そもそもなぜこのクルマが「XC40」と名乗っていないかというと、もともとオフロードを走ることをあまり考えていないからだ。降雪地帯における日常の足として、あるいはスキーなどのウインタースポーツを楽しむため、そこまで本格的な4WDではなくても、滑りやすい路面での走破性があると助かるといった状況を視野に入れたキャラクターのクルマである。

 ベースモデルのV40に対し、全高とヒップポイントが30mm上昇。最低地上高はサブフレームの設計変更でアンダーカバーの形状が変わり10mmの上昇となる。市街地でも使えるヒルディセント機構を備えているのも特徴だ。

V40 クロスカントリー T5 AWD。ボディーカラーは「アイスホワイト」

 内外装の相違点も見てのとおり少なくない。一目瞭然の部分はさておいて、実は共通に見えるフロントグリルのデザインも違って、こちらのほうが高く立って見え、視覚的に頑丈そうな印象を受けるような構成となっている。ドアミラーカバーも標準のV40ではボディーカラーと同色のところ、グロッシーブラック仕上げの処理が施されている。

 インテリアでは、ツートーン仕様のレザーシートに同限定車となる専用ステッチが施されているほか、センターコンソールは従来のV40 クロスカントリーに付いていた銅色のパネルとまったく印象の異なるモダンウッドパネルが与えられている。

グロッシーブラック塗装のドアミラーカバーを装着
専用ルーフレールはレール部分がシルバーに塗装されたもの
チャコール&ブロンドのツートーンレザーシートはサイドにオレンジ色のステッチが入る

大きく変わった乗り味

 そろそろ従来の2.5リッター直列5気筒のT5エンジン搭載車と比べた話は割愛したいところだが、これまで何度か新しいDrive-Eパワートレーン搭載車をドライブしてきて、いずれもよい印象を抱いており、それは今回も変わらず。T5エンジンは力強い加速感はもとより、振動やノイズが小さく抑えられたスムーズな回転フィールを実現しており、このクラスの直噴ターボエンジンで1、2を争う完成度ではないかと乗るたびに感じている。

 これはV40 クロスカントリー T5 AWDで駆動方式が4WDになり、同じパワートレーンを搭載するV40 T5 R-DESIGNと比べて車両重量が70kg増の1580kgになったといっても、むろん印象がそれほど大きく変わることはない。

 組み合わされるのが8速ATというのも特徴であり、強みでもある。昨今ではこのクラスはDCT採用車も多いところだが、乗りやすさではトルコンの付くATのほうに分があることをあらためて実感する。走り始めのスムーズさや、アクセルを踏み込んだときの瞬発力など、いずれも上々と言える仕上がりだ。とくにV40 クロスカントリーのようなキャラクターのクルマでは、滑りやすい路面を走るときに最初のタイヤひと転がりがスムーズに走り出せるかどうかがなおのこと重要なのだが、その点でもDCTに対してATが優位となる。

 ベースモデルのV40より30mm高いコマンドポジションはもともとV40 クロスカントリーの持ち味だが、フットワークの印象も、ベースモデルでは明確な変更のアナウンスがあったのに対し、こちらではとくに強調されてはいないものの、乗ってみると明らかに変わっていると実感する。

 まずはエンジン換装による鼻先の軽さを感じることはもとより、乗り心地がよくなっている。従来型の印象は、スポーティな従来型V40の硬めの乗り心地ともまた違った、動かない印象の足まわりだった。サスペンションアーム類を変更することなくベースモデルから車高を上げると、一般的には挙動が大きく出るようになるので、そのぶんサスペンションを引き締めて動きを抑えようとしていたのだろう。

 今回はブッシュ類とタイヤが従来型から変更されているようだが、それだけでこれほど乗り味が変わるはずもなく、ほかにも少なからず手当されたものと思われる。乗り心地は車速がある程度高いほうがフラットに落ち着いてくる。ただし、高速巡航時の直進安定性やコーナーリング時の走りの一体感など、ベースモデルのV40で感じたこの上ないシュアな感覚はやや薄れたように思えた。

基本的な内装デザインに変更はないが、印象的なセンターコンソールのパネルが銅色からモダンウッドに変更された。また、ほかのボルボ2015年モデルと同じくパドルシフトも新設されている
未舗装路などの走行も視野に入れたモデルだけに、オールテレイン風のタイヤを採用。タイヤサイズは225/50 R17

 それは車高が高いこともあるだろうが、タイヤにも原因がありそうだ。V40 クロスカントリーの性格に合わせ、ベースモデルのV40とはだいぶ異なるオールテレイン風のタイヤが装着されている。このタイヤはちょっとした悪路走行には対応するであろう半面、オンロードではブロック剛性が若干足りない印象もあるうえ、トレッドに太めのストレートグルーブが4本刻まれていて、それが直進時や微少舵をあてたときのフィーリングに影響しているのではないかと思われる。タイヤを交換することで走行感覚は少なからず変わることだろう。

 ご参考まで、V40 クロスカントリー T5 AWDの最小回転半径は5.4mとなっているが、これはタイヤサイズが細いV40 T4と同SEの5.2mよりは大きいが、V40 T5 R-DESIGNの5.7mよりはだいぶ小さい。実際にも、R-DESIGNのようにステアリング切れ角が足りないと感じることはあまりなかった。

充実した内容で決して割高ではない

 2015年モデルにおける共通の進化点として、まず非常に充実した内容を誇る先進安全運転支援機能「インテリセーフ10」の標準装備化が挙げられる。これは、世界的にも安全意識の高い日本市場に向けて、安全イメージの高いボルボとしてもその期待に応えるべく、より力を注いだ結果である。

 また、インフォテイメント装備の「SENSUS」はサプライヤーが変更され、ハードとソフトが刷新されたことも大きい。これにより、音声認識が可能になったりマップが自動更新されるようになるなど、さらに利便性が向上している。

車高は30mm、最低地上高は10mmアップ。ホイールベースは2645mmで最小回転半径は5.4m
撮影車両で唯一のオプションアイテムとなる「サイドスカッフプレート」(8万7900円高)

 V40 クロスカントリー T5 AWDの価格は439万円で、撮影車両の価格は447万7900円。いろいろと付いているように見えるが、オプション装着されているのは「サイドスカッフプレート」(8万7900円高)のみ。価格は一見高いように感じるものの、内容を理解すると決して割高ではないことが分かる。

 V40ファミリーのなかでももっとも個性が際立つV40 クロスカントリー T5 AWD。そんな同モデルにも、ボルボが誇る最新のパワートレーンが与えられ、よりドライブフィールが洗練されたことを歓迎したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一