インプレッション

ボルボ「V40クロスカントリー T4ノルディック」

T4パワートレーンとV40クロスカントリーの初組み合わせ

 2013年度の日本の輸入車市場で、ボルボは日本のメーカーを含めて6番目に多い台数を販売した。その原動力となったのが、発売以来ずっと好調な販売を続けている「V40」だ。8割以上をドイツ車が占める日本の輸入車市場において車名別でも唯一、トップ10に食い込んだ。

 そんな日本でも人気の高いV40の中でも、ルーフレールや高めの地上高、専用のフロントグリル、グラファイトカラーのコントラストが映えるバンパーなどが与えられた「V40クロスカントリー」は異彩を放つ存在である。

 そのV40クロスカントリーは、これまで日本国内では上級の「T5 AWD」のみの設定だったところ、「T4ノルディック」という特別限定車が4月に200台限定で発売された。「ノルディック」というサブネームには、自然を愛し、共生することを大事にする北欧の価値観がメッセージとして込められている。

200台限定のV40クロスカントリー T4ノルディック。撮影車のボディーカラーはロウカッパーメタリックで、ブラックサファイヤメタリック、アイスホワイト、クリスタルホワイトパールも用意。ボディーサイズは4370×1800×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2645mm

 同モデルは、直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジンにDCTを組み合わせた「T4」パワートレーンを搭載し、駆動方式が2WD(FF)となるところが大きな特徴である。これにより直列5気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載し、4WDであるT5 AWDに対して車両重量は140kgも軽くなり、JC08モード燃費もT5 AWDの12.4km/Lに対し16.2km/Lと約30%も向上しており、CO2排出量は24%低減。80%エコカー減税を実現した。

 「セーフティ・パッケージ」は標準装備で、価格は380万円とT5 AWDとほぼ同額ながら、HDDナビゲーションや助手席パワーシートなど上級装備が付き、前述の低燃費や減税も含め経済的なメリットも大きいモデルとなる。

 エクステリアはT5 AWDと基本的に同じで、アルミホイールのみが異なり、専用の17インチホイール“Larenta”が装着される。インテリアは、チャコールカラーで統一した中に配されたステッチが見せるコントラストが印象的。「T-Tec」というハイテク素材を用いた、滑りにくく見た目にもカジュアルなテキスタイルシートが与えられている。「カッパードーン」のセンタースタックも新鮮だ。

エクステリアデザインは基本的にV40 クロスカントリー T5 AWDと共通となる
シルバー仕上げの17インチアルミホイール「Larenta」(タイヤサイズ:225/50 R17)は専用装備
レール部がシルバーカラーとなるルーフレールを標準装備
スキッドプレート付きのリアバンパーを採用。スキッドプレートには「CROSS COUNTRY」の文字が刻まれる
最高出力132kW(180PS)/5700rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジン
チャコールカラーで統一されたインテリア。センタースタックはカッパードーンアルミニウムパネルを採用
本革巻きのステアリングホイール
V40クロスカントリー T4ノルディックでは、運転席に加え助手席も8ウェイパワーシートを標準装備

十分な動力性能と軽快なドライブフィール

 「T4」パワートレーンは、ボルボの多くのモデルに採用されているものと同じで、V40クロスカントリーにも本国等ではすでに設定があった。日本に導入されるV40クロスカントリーについては、SUVテイストを訴求したキャラクターに合わせてか4WDモデルのみが導入されていた。今回のT4ノルディックは、このスタイルを好みながらも、4WDは必要ないとか、経済性を重視するユーザーに向けて、より手軽にこのクルマの雰囲気を楽しめるように導入されたものと受け取ればよいだろう。

 最高出力132kW(180PS)、最大トルク240Nm(24.5kgm)を発生する1.6リッターの直噴ターボエンジンにDCTを備えた「T4」パワートレーンが十分な動力性能を備えていることは、すでに他のモデルでも確認済み。また、トルコンATほどではないにせよ、湿式デュアルクラッチを備えたDCTは、世にあるDCTの中ではもともと扱いやすいほうであり、あまり気になるところもなかったが、クラッチのつながりの滑らかさなど時間の経過とともにより制御が進化しているように感じられた。

 また、T5 AWDに対して140kgも軽い車両重量が効いて、運転感覚はより軽快なものとなっている。通常のV40に対しては、地上高を高めたことでサスペンションのストローク感が増しており、乗り心地の快適性にも優れる。軽量かつ地上高が高めという設定は執筆時点では同限定車のみで、その意味ではもっとも乗り心地のよいV40ということになりそうだ。

 ご参考まで、最小回転半径は同じサイズのタイヤを履く通常のV40の「T4 SE」では5.7mのところ、V40クロスカントリーは5.4mとなり、ステアリングの切れ角にあまり不足を感じさせないところもよい。

 もっとSUVテイストが強調されるほうがよいという向きもあるだろうが、これぐらいのテイストにとどめたことで、より幅広い層がターゲットになるはず。そこは同モデルが「XC40」ではなく「V40クロスカントリー」と名乗る所以でもある。そのライトなSUV感覚にマッチするのが、今回の限定車といえそうだ。わずか200台の限定販売ということで、あっという間に売り切れてしまいそうだが、こうしたV40クロスカントリーを待っていた人は少なくないことに違いない。

もう1台のV40の限定車

サイド/リアアンダースポイラーにレッドストライプをあしらったV40 T4スポーツ

 同時に、V40のもう1台の限定車「V40 T4スポーツ」が、ほぼ同価格の379万円で発売された。

 こちらはV40の上級グレードである「V40 SE」をベースに、名前のとおり、スポーツアクティビティをエンジョイするための数々の装備が与えられる。モノトーンのボディーの各部に配された赤いストライプのアクセントが印象深い。シートはこちらもT-Tec素材で、センターコートアルミニウム・パネルが与えられる。

 もう1つの大きな特徴が、ボルボ車として初めて純正のアルミ鍛造ホイールが与えられたことだ。鍛造だからこそ実現した繊細なスポークデザインは、北欧神話に出てくる巨人を意味する「Ymir」というネーミングで、18インチながら実際よりも大径に見える。見た目はもちろん、軽量で強度に優れる鍛造ホイールの採用は、ハンドリングの向上にも貢献することに違いない。

 残念ながら今回は試乗できなかったが、V40が持つスポーティさをより高めた、興味深いモデルである。

スポーティさを強調するレッドストライプがあしらわれるのがV40 T4スポーツの特長
ライトグレーカラーの18インチ軽量鍛造ホイール「Ymir」(タイヤサイズ:225/40 R18)
パワートレーンはV40クロスカントリー T4ノルディックと共通
V40 T4スポーツのインテリア。センターコンソールにレッドストライプとシルバーのアクセントが入る

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛