インプレッション

ボルボ「V40 T5 R-DESIGN」

 ボルボ「V40」の上陸は、輸入車業界にあらゆる意味で衝撃を与えた。特に269万円という価格は、もちろんこの時勢にしても信じられないお買い得値段。その安い価格という話題だけが先行しないのは、V40というクルマの完成度の高さが、評価されているからである。

 コンパクトサイズのワゴンであり、クーペのように流麗なスタイリングのハッチバックとも言えるV40の登場により、ボルボのデザインは、さらに多くのユーザーの手に渡り認知されるだろう。手頃なサイズであることも注目される理由だが、同時にボルボ神話である高い安全性と、上級モデルと同様の予防安全制御を満載したことで、乗員はもちろん、歩行者を護るということが結果としてユーザーが歩行者の立場になった場合に、自身を護ってくれる事で返ってくる。

 国産車もそうだが、予防安全のための制御を持つクルマが増えることこそ、事故による被害の低減につながる現状最善の策である。

 さて、ファミリーのためのコンパクトワゴンであり、スポーツハッチバックとも解釈できるV40は、今年2月の上陸以来、人気と注文は急激に伸び続け、グレードによっては納車待ち3~5カ月に達している。

 人気の理由は、言うまでもなく流れるように美しいスタイリングがまずはひとつ。そのカタチに加えて、いまや魔法の装置のように誤解を受けるが「ぶつからない(ぶつかりにくい)」充実の安全装備に加えて、世界初の歩行者エアバッグを搭載。それらを取り付け可能なもっともお買い得な「T4」グレードが269万円でスタートしたものだから輸入車業界は“ひっくり返った”。それもディーラーに足を向けさせる吸引力=集客力に貢献した事は間違いない。

 T4と、装備を充実させた「T4 SE」がすでに上陸済みだが、V40のモデル攻勢は、これから畳み掛けるように続く。その第1弾は、スポーツモデルの「V40 T5 R-DESIGN」である。

余裕の直列5気筒エンジン

 直列4気筒1.6リッター直噴ターボの「T4」との最大の違いは、数値が気筒数を示すとおり「T5」つまり直列5気筒2リッターターボを搭載する。ボルボといえば5気筒がメインの時代もあった。が、新型は従来の2.5リッターから時流も考慮してダウンサイジング。パワー/トルクは213PS/30.6kgmで、トルコンの6速ATにより前輪を駆動する。

 V40の内外装含むすべての質感や手触り、操作感、乗り味のプレミアム感は、上級ボルボのパーツをV40という量販モデルにも流用することで得ている。コストの問題を抜きにすれば同じパーツが使われることの量産効果は大きい。何よりもいいのは、クルマそのものの走りの質感が高まることだ。

 しかしT5の魅力は当然のように、直列5気筒のパフォーマンスにある。T4の180PS/24.5kgmに対して、余裕というか重厚感のあるエンジン特性を持ち、力強い。つまりゼロスタートから、アクセルを踏む量が少なくても余裕で滑るように進む。

 3000rpmを越えるあたりから4気筒とも6気筒とも違う、くぐもった共鳴音の5気筒サウンドを奏でるが、それが何とも言えないいい音色だ。最新のエンジンらしく5気筒独特の振動も音色も低く抑えられて、知らずに乗ると、このパワーユニットが何かを一発で当てる事は難しい。

 アクセルを床まで踏み込むと、4500rpmあたりからさらに高周波で、いかにもその気にさせるビートに変わる。Dレンジでフル加速するとリミットは6000rpmを越えて6200rpmまで回る。

 DからS、スポーツモードを選択すると、Sに入れた瞬間にアクセルの踏み込み量は変えなくても、エンジンの回転数が上がる。つまりそれまでは燃費を考慮して、アクセルに対してスロットル開度を抑え気味の、環境にやさしいファジー制御したいわゆるエコモード(とは書かれていないが)だったのだ。

 Sモードこそがアクセルとスロットルがリニアに同調して、T5のパフォーマンスをダイレクトに純粋に引き出す仕様。峠の加減速には、Sモードがアクセルとブレーキが足の裏側で直結したような感覚が心地いい。リミットまで引き上げると勢いよく6500rpmに飛び込み回転リミッターが働く。コーナーから次のコーナーまでを5気筒の快音とともに猛然とダッシュして、強力なブレーキがその勢いを一撃で沈めてコーナーに吸込まれていく。

ひとクラス上の存在感

 コーナリングはT4と明確に違う特性を示した。フロントで10%、リヤで7%剛性を高めたスプリングと、それに合わせた強化ダンパーと、225/40 ZR18のグリップ力も関係して、コーナーの進入からして、リヤが粘る。つまりステアリングで曲げようとするのに対して、リヤはまだ直進しようとする。一瞬、これはAWDか? と思わせるほど強い直進性を示す。もちろんその直後にコーナリングを始めるが、常にリヤの接地安定性を強く感じながら曲がる。

 アンダーステアというほど強くはないが、エンジン重量分だろう、終始穏やかな特性で峠道を正確に安定してトレースして行く。というハンドリングと安定性を持つ。

 踏めばトルクで押し出し、パワーでリミットまで引き上げる痛快な加速感は、日常走行でも扱いやすい。と同時に直進性の高さとこのエンジンパフォーマンスは、高速走行でこそ本当の実力が発揮できる。V40に重厚なプレミアム感を与えるエンジン。T5のエンジン特性はクルマの性格を変え、ひとクラス上の大人の存在感に変えてしまう。そう言う個性の持ち主で、欧米の走行状況に似合うが、日本ではゆったり、余裕を楽しみ、高速を速く移動する派に向いている(ならば同じか!?)。R-DESIGNらしいエアロパーツによる外装の違いも、すべては高速走行でこそ活きてくる。

 T5のこの特性は、個人的には「V60」がお似合いだと思う。V40はやはりT4のように小気味いいシャープさが感じられることこそ重要だと思うし、そのほうが実際軽快で楽しい。ライバルと同様に、スポーツモデルは4気筒で勝負する直接対決こそ気になってしまう。

 T5は上級スポーツの印象である。もちろん安全デバイスの数々は標準とセーフティーパッケージも含めて用意され、それは只今無償提供!! と、ここでも衝撃を与えているボルボであった。

桂伸一

Photo:安田 剛