インプレッション

ボルボ「V40 クロスカントリー T5 AWD」

 販売好調なボルボ「V40」にクロスカントリーモデル「V40 クロスカントリー T5 AWD」が追加された。

 つい先ごろV40にはRデザインモデルも追加されたのだが、矢継ぎ早に今度はいわゆるクロスオーバーモデルの追加。メルセデス・ベンツ「Aクラス」を筆頭とする輸入コンパクトに対して先制攻撃とも言える導入だ。さらに、もうすぐ控えるこのクラスの王様であるフォルクスワーゲン「ゴルフ」のデビュー前に販売する必要に迫られているのかもしれない。

スマートな逞しさを持ったオールローダーなV40

 今回、V40モデルはRデザインとクロスカントリーの3モデルが出そろったわけで、ボルボではこの3車種のうちV40をボルボブランドへのエントリーモデルと位置付け、V40 RデザインはもっともスポーティなV40、そして今回発表されたV40クロスカントリーは「スマートな逞しさを持ったオールローダーなV40」と説明している。

 軽井沢で行われた報道陣向けの試乗会には、開発総指揮を取ったホーカン・アブラハムソン氏がはるばる出席してプレゼンテーションを行うという熱の入れよう。それもそのはずで、V40の登場で日本はボルボにとって主要なマーケットの1つになりつつあるのだ。

V40 クロスカントリー T5 AWDのボディーサイズは4370×1800×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2645mm

 ではV40クロスカントリーの詳細をお届けしよう。まずはワイドなグリル、そして往年の名車「P1800」のデザインを取り入れたショルダーラインが精悍さを増す。基本、V40のデザインをそのまま踏襲しているのだが、クロスカントリー独自デザインとしてはフロントグリルがせり出すような形状をしている。V40はグリル全体が寝た形状なのだが、クロスカントリーではほぼ垂直に立っている。ここもP1800からインスパイアしているのだと言う。

 そのグリル自体はハニカムメッシュ仕上げで個性的に仕上げられている。ほかにも、ドアミラーカバーは車体色に係わらずブラックで統一。サイドウィンドーフレームもブラック仕上げとなっている。ちなみにこのウィンドフレームだがV40はクローム、Rデザインはシルクメタルというように差別化されている。フロントバンパーはグリルより下方をブラックで仕上げ、ボディー同色部分を少なくすることでSUVっぽい車高感を演出しているのだ。

 さらにルーフレールは標準装備。全体に専用のエクステリア・スタイリングキットが組み込まれているのだが、特に目を引くのがリア・スキッドプレートを持つリアバンパーだろう。マフラーカッターのホールを組み入れたデザインは、デパーチャーアングルをも考慮したオフローダーっぽい筋肉質なものだ。やはり、SUVとしてのオフロード性能を意識しているのか、エクステリア上で一番の違いは車高で標準のV40よりも30mm高くなっている。ただし、最低地上高は10mm高に留められている。

 これについては後述することとするが、ボルボはXCというグレードをSUVとしてラインアップするが、敢えてクロスオーバーと銘打っているのはオンロード重視だから。つまりSUVのファッションを身に付けた“AWDロードランナー”と言っても過言ではないだろう。

車高は標準のV40よりも30mm高くなっているが、最低地上高は10mm高に留められている。エクステリアでは「P1800」のデザインを取り入れたショルダーラインなどを採用した

 インテリアも基本V40と同じだが、専用ステッチが施された本革シートはクロスカントリー専用のものでシートポジションが30mm高くなっている。

 搭載されるエンジンは直列5気筒2リッターターボ。ボルボは1990年代に850に直列5気筒2.5リッターエンジンを開発して2WD(FF)として横置きに搭載している。いわゆるT5、直5エンジンの始まりはこのころに遡るわけだが、今回搭載される直5エンジンは現行C70にも搭載される2.5リッターではなく2リッターターボになり、Rデザインと共通で日本へは初導入となる。

 エンジンそのものは直列4気筒1.6リッターターボエンジンのように直噴システムは採用していないが、アイドリングストップシステムは採用されている。また、直列4気筒1.6リッターモデルにはツインクラッチのトランスミッションが採用されているが、V40 クロスカントリーにドッキングされるのは6速ATとなる。

専用ステッチが施された本革シートはクロスカントリー専用。デジタル液晶メーターパネルは好みや目的に応じて「エレガンス」「エコ」「パフォーマンス」の3種類のテーマから表示を切り替えることができる。パノラマ・ガラスサンルーフは電動スライドカーテン機能が備わる

高回転域のキレは2リッタークラスと思えないほど軽いピックアップ

 ではまずエンジンのフィーリングからお話しよう。5気筒エンジンは4気筒のエコ性能と6気筒のスムーズさのよいとこ取りの目的で開発されたエンジンだ。もともとボルボが採用するエンジンはフォード系のもので、現行「クーガ」には直列5気筒2.5リッターターボエンジンが搭載されている。ただしこの直列5気筒2.5リッターターボエンジンとはボア&ストロークともに共通性はなく、V40 クロスカントリーとは別設計の最新型エンジンと考えてよいだろう。しかし、スムーズで振動感の低さは共通事項だ。

 ただ、もともとこの5気筒エンジンの開発にはポルシェが関与したという噂もある。ところでクーガのエンジンは極低速域からターボのブースト圧が高まり力強さを発揮するが、V40 クロスカントリーは排気量が0.5リッター小さい分、それなりにスムーズだ。しかし、中高速域では1580kg(パノラマグラスルーフ装着車は10kg増)の車重をグイグイ加速させる。スペック上は2700rpmから最大トルクの300Nmを発生させているが、そのデータが示すように3000rpmあたりから力強さが増す。そこから高回転域のキレは2リッタークラスと思えないほど軽いピックアップだ。V40の直列4気筒1.6リッターターボに比べて上品でありながら力強いというのがトータルの印象。

 そして組み合わされるトランスミッションはシーケンシャルのスポーツモードが付いたギヤトロニック6速AT。つまりトルコンのATだ。しかし、言われないとデュアルクラッチトランスミッションと勘違いするほどにシフトにダイレクト感がある。特に市街地走行レベルではシフトアップダウンが小まめで早い。これは、マツダのスカイアクティブテクノロジーに共通するシフトプログラムだ。さらにロックアップも早めである。

 アイドリングストップもストップ&スタートに違和感が小さく、このシフトプログラムとのコラボでJC08モード燃費は12.4km/Lとなかなかの好燃費。べつにデュアルクラッチトランスミッションでなくても十分にスポーティーな仕上がりになっているが、V40 クロスカントリーがATを採用する本当の理由はV40シリーズの中で唯一のAWD(4WD)モデルだからだ。AWD用のデュアルクラッチトランスミッションは現在開発中とのことである。

 さらにボルボではエンジンも自社開発中という情報がある。フォード傘下から中国企業へと海を渡ったボルボは、次第にオリジナリティを取り戻しつつある。今後に目が離せないのだ。そのAWDシステムは他の大型ボルボモデル同様のオンデマンド式で最新のハルデックス(第5世代)が採用されている。

ハンドリングは標準のV40よりも動きのある大人っぽい仕上がり

 ではハンドリングなどクロスカントリーの世界について話そう。標準のV40との最大相違点に悪路走破性を重視した車高があるが、前述したように30mm高くなっている。しかし、フロア下の最低地上高は10mm高に留まっている。これは、車体は30mm高くなってはいるもののサブフレームを20mm低くしたことにより、車高の計測点であるアンダーカバーも同様に低くなったためである。この処置はAWDシステム導入によるものなのだ。

 これが何を意味するのかというと、ベースがセダンのモデルをSUVに変更する場合、車高を30mm前後高くする。そうするとサスペンションアーム類は逆バンザイの位置へと下がるのだ。これによって何が変わるのかというと、ロールセンターを含むロール軸が変わる。トレッド変化も起きる。サスペンション取り付け部への入力方向も変化するのだ。

 つまり入力方向変化によるコンプライアンスの変化とボディー剛性の問題も出てくるし、もちろんNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュ)にも影響することが考えられるのだ。しかし、サブフレームを20mm下げることによって実質的にサスペンションでの車高変化はプラス10mmレベルに抑えられているのだ。つまり、ジオメトリー変化は最小限に留められているということである。

 これらAWD専用のサスペンションキットの採用と車高変化によって、ハンドリングは標準のV40よりも動きのある大人っぽいものになっている。フロントサブフレームのラバーマウンティングも変更された(+20mm)こともあり、走行中のロードノイズが大きく低減している。車重が100kg以上増えていることもあり、サスペンションがよく動きしなやかで大人っぽいコーナーリングを見せる。電動パワーステアリングのフィーリングはニュートラル域でオフロード走行を念頭に入れた締まりの強さを感じさせるが、微小舵以上の切れ角ではダイレクト感がある。ダンパーはビルシュタインなどが採用するスポーツ用で高級なモノチューブ構造をリアに採用している。一般的なツインチューブ構造に比べて放熱性が高いので熱ダレしにくく、径が太いので剛性が高い。短所は低速時の乗り心地がわるいことだ。

 7.0J幅の17インチアルミホイールには50%扁平の225幅タイヤが装着され、Rデザインと同じ大径320mmのフロントベンチレーテッドディスク&キャリパーが装着されている。実際、高速域からの急ブレーキングでも頼もしい制動力と安定した制動姿勢が印象的だった。

“走ること”と“所有すること”の両方に満足感の高いモデル

 安全装備に関してもV40と共通だが軽く説明すると、標準装備である速度差15km/h以下で衝突を避けるシティーセーフティは作動速度を50km/h以下に引き上げ安全性を増している。さらに、V40と同じ20万円のオプションであるセーフティパッケージは現在無償提供キャンペーン中なので、これを入れない手はない。

 特にこちらは両サイドにいる車両の警告を行うBLISのセンサーを、カメラからレーダー式に変更し、さらに取り付け位置をリアバンパーに移すことで、リバースで通りに出て行くときなどの後方警告(CTA)などの機能が新たに追加されている。ここまでがV40と共通で、ほかに1つだけV40 クロスカントリーに追加されている安全機能としては、下り坂で1速もしくはリバースギアで自動的に速度を10km/h以下にキープしてくれるヒルディセントコントロールがある。降雪時やぬかるんだ急坂で威力を発揮するAWD専用のオフロード機能だ。

 都会的でスタイリッシュなエクステリア、大人っぽい乗り味。ギヤをS(スポーツ)モードにセレクトすれば中高回転域を維持し、コーナーリングではシフトチェンジしなくなるようプログラムされていて、街乗りの快適性と走りの両立性が嬉しい。V40 クロスカントリーは走ることと所有することの両方に満足感の高いモデルと言えるだろう。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/