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進化し続けるトヨタのハイブリッド、最新世代であるトヨタ第5世代ハイブリッドについて開発担当者に聞く

進化を続けるトヨタのハイブリッドシステム、最新世代となるトヨタ第5世代ハイブリッドについてトヨタ自動車株式会社 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 FFプロジェクト企画グループ 主査 佐藤哲氏(左)と、同 パワートレーン製品企画部 主査 菊地隆二氏(右)に話をうかがった

トヨタの最新ハイブリッドシステムとなる第5世代ハイブリッド

 ハイブリッド車の量産車を世界で初めて実現したトヨタ自動車。1997年に登場した初代「プリウス」以来、コツコツと進化を積み重ね、現時点でも世界有数のハイブリッドシステムとして知られているほか、そのシステムや考え方を他社に供給することもある。

 トヨタの最新の発表(2025年3月期第3四半期決算)によると、2025年4月~12月のトヨタ販売台数に占めるハイブリッド車の割合は約42%、ハイブリッド車+プラグインハイブリッド車の割合は約44%と、対前年比で10%近く向上している。これはトヨタが積極的にハイブリッド車を生産したというより、市場ニーズがハイブリッド車を求めており、それをトヨタがグローバルで供給し続けていることを現わしている。

トヨタのハイブリッド技術を象徴する新型プリウス。5代目プリウスは第5世代ハイブリッドシステムを搭載している

 車両のパッケージングもあるが、街中燃費に優れ、高速燃費にも優れるトヨタのハイブリッドシステムが、広く一般のユーザーに支持された結果とも言える。

 そんなトヨタの最新ハイブリッドシステムが、シリーズパラレルハイブリッドの第5世代システム。新型ノア・ヴォクシーから採用が始まり、新型プリウス、カローラ(2022年に一部改良した現行モデル)など、TNGAのGA-Cプラットフォームから採用が始まっている。海外のみとはなるが、新型カムリにも採用されており、一クラス大きなGA-Kプラットフォームへの採用も進みつつある。

熱効率41%を達成した直列4気筒 DOHC 2.0リッターのM20A-FXS型エンジン。ハイブリッド用としてアトキンソンサイクルで動作している

 このトヨタの第5世代ハイブリッドシステムは、これまでのTHS(TOYOTA Hybrid System)と比べて、どこが進化しているのだろう。その点について、トヨタハイブリッドの開発に携わるトヨタ自動車 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 FFプロジェクト企画グループ 主査 佐藤哲氏と、同 パワートレーン製品企画部 主査 菊地隆二氏に話をうかがった。

革新的なデザインが大きな話題を呼んだ新型プリウス。先代の4代目プリウスからクルマ全体で約10%の燃費改善を実現している
新型プリウスのリアまわり。この5代目プリウスからハイブリッドはHEV表記となり、電動車の一環であることを示している

1997年に登場した世界初の量産ハイブリッドシステム

 前述したように、トヨタのハイブリッドシステムが初めて世の中に登場したのが1997年に登場した初代「プリウス」。その後、2003年の2代目「プリウス」でEV走行も可能なTHS IIとなり、ハイブリッドの効率もアップ。この2代目からは燃費に優れるクルマとしてベストセラーカーの地位を確立した。

 そして、2009年には10・15モードで38.0km/Lという驚異的な燃費を達成した3代目「プリウス」を発表。この3代目では、エンジンが直列4気筒DOHC 1.5リッター「1NZ-FXE型」から1.8リッター「2ZR-FXE型」となり排気量アップ。ハイブリッドトランスミッションにはリダクションギヤが装備され、エンジン駆動・発電用のモーターであるMG1を小型化。第3世代のシステムとして「リダクションギヤ付きTHS II」と表記されるようになった。

 仕組みとしてはデビュー時同様にシリーズパラレルハイブリッドで、今と同じ機構を持っている。

 エンジン、発電・エンジン起動用モーターのMG1、駆動・回生モーターのMG2という構成は同じで、3つの動力軸を合成・分配可能な遊星歯車(プラネタリギヤ)にそれぞれ接続。エンジンはプラネタリキャリアに、MG1はサンギヤに、MG2はリングギヤにつながり、最終的にファイナルギヤ経由で駆動・回生を行なっている。

 そして2015年には、4代目「プリウス」がデビュー。この4代目プリウスでは、エンジン形式は同じ1.8リッター「2ZR-FXE型」ながら、さまざまな改良で熱効率を38.5%から40%へと改善。ハイブリッドトランスミッションのリダクションギヤも遊星歯車から平行軸の複軸配置となり、全長を47mm短縮するとともに、約20%の機械損失低減が図られ、さらなるコンパクト化と効率向上が図られていた。その結果は、当時の10・15モード燃費で40.8km/Lという燃費値に現われ、1.8リッターハイブリッドでありながら40.0km/Lを超えるものだった。

 そして2022年に発売された新型「ノア」「ヴォクシー」から採用されたのが第5世代となる。

初代プリウスのパワートレーン
初代プリウスの駆動用バッテリ
バッテリセルは円筒型のニッケル水素
2代目プリウスのパワートレーン。EV走行も可能なTHS IIとなる
2代目プリウスの駆動用バッテリ。初代から大幅に改善され、セルによるモジュール方式となった
バッテリセルはニッケル水素、角形のセルとなった
3代目プリウスのパワートレーン。リダクションギヤが導入されたTHS II
3代目プリウスの駆動用バッテリ。セルは先代と同じニッケル水素、搭載方法を工夫し密度をアップ
3代目プリウスのニッケル水素バッテリセル
4代目プリウスのパワートレーン。複軸配置の平行軸歯車がリダクションギヤとして採用され、よりコンパクトなトランスミッションとなる
複軸配置の平行歯車となったリダクションギヤ部
4代目プリウスの駆動用バッテリ。プリウスではここからリチウムイオンとなった。プリウスαでリチウムイオンが先行採用されていた
4代目プリウスのリチウムイオンバッテリセル
5代目プリウスに搭載されており、トヨタの第5世代ハイブリッドを象徴するダイナミックフォースの2.0リッター「M20A-FXS型」エンジン。熱効率は41%を達成
第4世代よりコンパクトになった、複軸配置の第5世代トランスミッション。軸間距離の短縮などが図られている
第5世代ハイブリッドではE-Fourも進化。リアにより大きな駆動モーターを搭載し、走りの面においても積極的な駆動を行なう
第5世代ハイブリッドのPCU(Power Control Unit)。パワー半導体にRC-IGBT(Reverse Conductive-Insulated Gate Bipolar Transistor)を採用し、よりコンパクトに
第5世代ハイブリッドの駆動用バッテリ
第5世代ハイブリッドのリチウムイオンバッテリセル

トヨタのハイブリッドがこだわってきたのは燃費

トヨタ自動車株式会社 パワートレーン製品企画部 主査 菊地隆二氏

 菊地主査は、第1世代から第2世代~第5世代への進化で一番こだわってきたのが燃費になるという。「 進化の歴史で一番こだわってきたのが燃費をよくするということです。ユニットの低損失技術を積み上げる。そして、小型・軽量化を図る。3つ目はお客さまにお求めいただきやすい価格を目指し、低コスト化。その3本の柱を中心に技術の開発を進めてきました。 駆動ユニットの機械損失を低減する技術や、モーターでは電気損失低減のために低損失電磁鋼板の採用など損失低減技術開発に取り組みつつ、ユニットの出力密度を高めることも進めています」「インバータなどの電力変換器では、半導体と冷却技術の進化を中心に取り組んできました。半導体の低損失化や冷却性能向上に取り組みながら、少ない半導体チップで大電流を流せるようにし、ユニットの小型化を進めてきました」(菊地氏)と語り、さまざまな改良を重ねてトヨタのハイブリッド技術は進化してきたという。

第5世代ハイブリッドのモーター部。モーターのステータ部に密度の高い電磁鋼板が使われている

 ハイブリッドなどの電動化技術ではバッテリも注目されるところだが、トヨタハイブリッドの駆動用バッテリはニッケル水素から始まり、リチウムイオンと使われてきている。現在は、バイポーラ型のニッケル水素と新開発のリチウムイオン電池が主に使われている。

 ここについても菊地主査は、「ニッケルから始まって小さな体積で出力を高め、回生側ではバッテリでより回収できるようにするかというセルの技術進化があります。また、旧世代のバッテリでは電池パック体積も大きくトランクに置いていた時代もありました。荷室スペースを改善するためにパック内の機器部品の小型化も進めながら、現在では大半のクルマでリアシート下への搭載が可能になっています。ミニバンでは2ndシート下に搭載していますが。初代からこのような改良を進めながら、さまざまな技術を織り込むことでクルマの性能向上やお客さまの利便性を高めることを積み上げてきたことが、第1世代から第5世代までのシリーズパラレルハイブリッドの進化になります」とし、材料面の進化もあるが、搭載の工夫などによる効率化も大きいという。

 それぞれの小さな改良の積み重ねが効率の向上につながっているのだが、新型プリウスにおいては「 第4世代と第5世代の大きな違いは出力にある 」と佐藤主査は語る。

トヨタ自動車株式会社 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 FFプロジェクト企画グループ 主査 佐藤哲氏
HEVパワートレーン主要諸元一覧4代目プリウス5代目プリウス 1.8リッター5代目プリウス 2.0リッター5代目プリウス PHEV
HEVシステム第4世代第5世代第5世代第5世代
システム出力 2WD90kW(122PS)103kW(140PS)144kW(196PS)164kW(223PS)
燃費 2WD(WLTC)27.2~32.1km/L32.6km/L28.6~31.5km/L28.0km/L
システム出力 4WD90kW(122PS)103kW(140PS)146kW(199PS)
燃費 4WD(WLTC)25.4~28.3km/L30.7km/L26.7~29.2lkm/L
エンジン(排気量)2ZR-FXE(1.8リッター)2ZR-FXE(1.8リッター)M20A-FXS(2.0リッター)M20A-FXS(2.0リッター)
最高出力72kW(98PS)72kW(98PS)112kW(152PS)111kW(151PS)
最大トルク142Nm142Nm188Nm188Nm
フロントモーター最高出力53kW70kW83kW120kW
フロントモーター最大トルク163Nm185Nm206Nm208Nm
リアモーター最高出力5.3kW30kW30kW
リアモーター最大トルク55Nm84Nm84Nm

 同じ1.8リッターシステム同士ではシステム出力が約1.1倍になり、新しく追加された2.0リッター「M20A-FXS型」エンジンを搭載したシステムでは約1.6倍のシステム出力を達成。でありながら燃費は同等となっており、燃費を重視するなら1.8リッターモデルを、より走りを重視するなら2.0リッターモデルを選べるようになっている。

 特に2.0リッターHEVシステムでは、エンジンがダイナミックフォースエンジンとなり、ハイブリッド用にアトキンソンサイクルを採用したM20A-FXS型では、熱効率を41%と改善。レーザーピットスカートピストンを初採用するなど、さまざまな部分で損失低減。ダイナミックフォースエンジンでは、高速燃焼技術やエンジン冷却の考え方も新しいものとしている。

 何より従来の2ZR-FXE型ではボア×ストロークが80.5×88.3mmと、ボアストローク比が約1.1であったのに対し、80.5×97.6mmの約1.21へとロングストローク化。2.5リッターダイナミックフォースエンジンと同様の燃焼コンセプトを実現するTNGAエンジンとなっている。

 バッテリも新開発のリチウムイオン電池セルへと改良。材料などを見直し、出力密度を16%向上させている。電池パック筐体を工夫したほか、配線面でも電圧検出回路にFPC(Flexible Printed Circuits)と称するフレキシブルな配線を採用し、パックの小型化を実現。2.0リッターHEV用のバッテリパックでは、同等の質量で約25%の小型化を実現した。

駆動用バッテリの中央に見えるオレンジ色のフィルム状のものがFPC(Flexible Printed Circuits)。小型化に貢献している
駆動用バッテリ5代目プリウス 1.8リッター5代目プリウス 2.0リッター5代目プリウス PHEV
電池タイプリチウムイオン電池リチウムイオン電池リチウムイオン電池
電圧(V)3.73.73.7
セル数(個)566072
総電圧(V)207.2222266.4
容量(Ah)4.084.0851

 ハイブリッド用トランスミッションももちろん改良されている。先代のプリウスで採用された平行軸の複軸配置における軸間距離を短縮。先代(1.8リッターシステム)の197mmから、1.8リッターシステムでは185mmへと縮めることに成功。また、2.0リッターでは204mmとした。1.8リッター、2.0リッターそれぞれにハイブリッドトランスミッションを作り分けているのも効率化のためになる。

 さらに、駆動用バッテリの電力を三相交流に変換するPCU(Power Control Unit)の電力変換回路も改良。駆動用バッテリの直流を、モーターで使う交流(三相交流)に変換するには何らかの電力変換回路が必要になる。一般的にこの回路に用いられる半導体は、高電圧、大電流に耐える半導体であるためパワー半導体と呼ばれ、多くの電動モビリティで使われる重要部品となっている。

 第4世代ハイブリッドでは、その電子回路にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)とダイオードを別体で使用していたが、第5世代ハイブリッドでは新開発の低損失パワー半導体であるRC-IGBT(Reverse Conductive-Insulated Gate Bipolar Transistor、逆導通IGBT)を採用。RCと名付けられているように逆導通のためのダイオードが一体化されており、内部導通のためのインダクタンス低減(インダクタンスは、交流においては抵抗とも捉えられる)を図りスイッチング速度を向上(つまり、直流から交流への変換効率を改善)。第4世代に比べ、電気損失を約16%改善した。

 また、動力面の話に戻ってしまうが、第5世代ハイブリッドでは電気式の4WDシステムであるE-Fourも、より積極的なドライビングが実現できるように変更。具体的にはリアモーターの最高出力や最大トルクがパワフルになり、駆動できる速度域も拡大。発進時だけでなく、走行時もリアが積極的に走りをサポートするようになった。

 佐藤主査は、「 動力性能、燃費性能というところを、高次元でさらに進化させるというのが第4世代と第5世代の大きな違いになります 」といい、第4世代の1.8リッターと第5世代の2.0リッターを比べると、システム出力で約1.6倍と向上したが、「車両全体で約10%燃費改善をし、そのうち2%は第5世代システムによるもの、そのほかは空気抵抗やタイヤ改良等によるもの」と、燃費改善の内訳を語った。

 菊地主査は、その約2%の燃費改善を、「エンジンの熱効率改善で0.5%、機械損失の低減で0.5%、電気損失の低減で0.5%、制御ロジックの改良で0.5%」になると解説してくれ、本当に細かい改善を積み重ねて大きな違いにつなげている。

「私たちは今までプリウスを中心に世代進化という階段を昇り続けてきました。技術進化は時系列で流れております。あるタイミングでは世代進化のように階段的に性能向上をさせていくこともありますが、よい技術があれば先取りして積極的に採用していきます。例えば同じ世代の中でも先頭で出したシステムと後発では、織り込んでいる技術も時間の推移とともに進化させていきます」「部品単位でネガな部分を捜し、3本の柱(燃費向上のための低損失技術、小型・軽量化、お求めやすい価格で低コスト)を狙い、損失低減やシステムの省資源化・小型化をしていきます。世代進化の過程では技術を織り込みながら、地道に積み重ねていくことが重要だと思っています。ハイブリッドシステムがお客さまの利便性向上も含めてクルマの性能向上に大きく貢献できた時が世代進化だと思います」(菊地主査)と、技術の積み上げをクルマを含めてパッケージで提供できたときに、世代という進化になると解説してくれた。

 ちなみにお客さまの使い勝手の改善例としては、直流から交流に変換するインバータから出る高周波音の対策を行ない、RC-IGBTを使用した第5世代PCUでは高周波音を可聴帯域以上に引き上げているという。

 1997年に登場した初代プリウスに搭載された最初のハイブリッドシステム以降、小さな技術の積み重ねをたゆまなく続けてきたことが、現在、市街地燃費や高速道路燃費を含め、世界的に高く評価されているトヨタのハイブリッドシステムの完成度につながっている。

 菊地主査や佐藤主査が言うように、トヨタのハイブリッドは小さな改良を積み重ねながら今後も進化していき、効率をさらに高くしていく。クルマごとに最適なハイブリッド技術を常に投入しており、その時点における最良のハイブリッドシステムを搭載し、クルマというパッケージにまとめあげているとのことだ。

 次章では、最新のパッケージの1つである新型プリウス ハイブリッド 2WDのインプレッションを、プリウスの進化を見続けてきた日下部保雄氏によりお届けする。

新型プリウス 2.0リッター ハイブリッド 2WD インプレッション by 日下部保雄

トヨタのハイブリッドシステムは、コロナに搭載されたプロトタイプから試乗経験のある日下部保雄氏。改めて、第5世代ハイブリッドシステムを搭載する新型プリウスに試乗していただいた

トヨタハイブリッドとの出会いはコロナに搭載されたプロトタイプ

 最初にTOYOTA Hybrid Systemに巡り会ったのはコロナに搭載されたプロトタイプだった。世界で初めての量産ハイブリッドシステムの陣頭指揮を執っていた内山田竹志さんがジャーナリストに開発途中のハイブリッド車を試乗させてくれたのだ。

 ドライバビリティの評価のためのテストドライブだが、これまでのガソリン車とはまったく異なるドライブフィールに驚くと同時に新しい時代を予感させるに十分だった。

 ジャーナリストたちは型に捕らわれないさまざまな乗り方をしたので開発陣はヒヤヒヤしたと思うが、真摯に耳を傾けてくれた。そして新しい技術の開放を決断したのは、今につながる技術への自信と信頼があったからこそだったといまさらながら感銘を受ける。

 その後ハイブリッド専用車として初代プリウスが誕生したのは1997年のこと。21世紀を目前にTOYOTA Hybrid Systemだけでなく、環境問題に対応した空力ボディやエアコンなど徹底していた。

 メカニズムの要点は巧妙な遊星歯車による動力分割機構で、駆動用(MG2)と発電用(MG1)の2つモーターとで、圧倒的に優れた燃費をもたらし、その優位性は今に至る。

 初代プリウスはシステム出力も限られており、登坂路が続くと駆動用バッテリのサポートを受けられなくなるためセンターメーターにカメさんマークが点灯した。遅くなるのだ。カメさんマークが見たくてアクセルを踏んだのも確かだが……。1.5リッターのアトキンソンサイクルエンジンは充電と駆動を同時に行ない、トラブルもなく最初の試乗会は終了した。

 第2世代のTHS IIに進化したのは、流れるデザインに変わった2代目プリウスだ。余談だが量販車に近いプロトタイプのお披露目会でリアヘッドクリアランスの不足を指摘されていたが、数か月後に発表された量産モデルでは修正されており実行力に驚いたものだ。

 THS IIのエポックメーキングなのは昇圧コンバータを採用して動力性能が大きく向上したことだ。未来的なデザインで大ヒットとなったモデルでもある。この時期からTHSは広く展開されるようになりFR用の中型車にも採用されるようになった。

 第3世代となったTHS IIを搭載した3代目プリウスでは、エンジンが1.8リッターに拡大され、リダクションギヤを採用。出力が向上したことで搭載範囲も広がり、採用車種もさらに増えた。

 第4世代ではリダクションギヤが複軸配置の平行歯車となりシステムがコンパクト化。エンジンの効率も上がるなど、順調に進化を遂げていた。

新型プリウスに搭載された、第5世代ハイブリッドシステム

 さて、今回試乗した新型プリウスに搭載されている第5世代ハイブリッドだが、なじみのあるTHSからシリーズパラレルハイブリッドと呼ばれるようになり、ノア/ヴォクシーでデビュー。カローラの一部改良版や、海外を見ると欧州でのC-HR、一回り大きなGA-Kプラットフォームの新型カムリにも搭載され、現在の中堅車種に展開されはじめている。

 遊星歯車を主軸にした2モーターシステムは共通で、逆に言えばそれだけが同じで、世代と言われるほど内容は変わっている。エンジンも4代目プリウスの1.8リッターに加え、2.0リッターも用意。2.0リッターのシステム出力は前世代の1.8リッターと比べ、90kW(2WD/4WD)から144kW(2WD)/146kW(4WD)となっているが、WLTC燃費は27.2~32.1km/Lから28.6~31.5km/L(2WD)/26.7~29.2km/L(4WD)と大筋で向上している。見事にドライバビリティとエコとの両立だ。

 M20A-FXS型エンジンは⾼速燃焼と直噴化で熱効率を40%から41%に上げている。

 1.8リッター同士は同じかと思いきやフロントモーターの出力を上げ、ギヤトレーンの油流れの改良、磁石の配置を変更し小型化が図られた。同じ流れの技術でも世代によって後発の方が進化したものになっている。技術は時間で区切られるのではなく流れるように進化を続けるものだ。

 バッテリでは端子の進化、セルの効率向上など同じ体積でも出力が16%ほど大きくなっている。セルの小型化、接続構造の進化が大きい。

 さらに車体側の進化も大きい。燃費の改善にはタイヤの転がり抵抗低減、ボディデザインから分かるように空力の改善、機械抵抗の減少も貢献度は大きく、まさにちりも積もればの技術の積み重ねだ。

プリウス 2.0リッター ハイブリッド 2WDに試乗

美しいシルエットで走る新型プリウス

 さて改めて第5世代ハイブリッドを搭載した新型プリウスに試乗する。

 トヨタハイブリッドの進化は、パワートレーンだけではないのはこれまで触れてきたとおりだ。まるでデザインスケッチから抜け出たようなボンネットとフロントウィンドウが一体化したようなデザインは、新車発表時のアンベールで会場から歓声が漏れたほどだった。

 代々のプリウスは空力へのこだわりが強く一歩先を行くデザインだったが50型プリウスはそれを極めたものと言えるほど。視界は意外と広くドライバーの着座位置も、少しバックレストを寝かし気味のポジションになる。パワーユニットのコンパクトさが貢献しているのだろう。トヨタハイブリッドの歴史が始まって28年、高性能ハイブリッドシステムの進化をまざまざと示している。

 システム出力196PSを誇る2.0リッターの発進加速は滑らかで速い。特に発進ではEV走行の時間が長くキャビンはいたって静かだ。インバータノイズもよく抑えられており、聞こえるのはロードノイズのみ。それも195/50 R19という特異なタイヤサイズとパターンと構造で、驚くほど小さく抑えられており、転がり抵抗も小さいという新しいトレンドを作った。

 EV走行レンジが長くなったのに伴って、余分な音を抑えることは重要なテーマになる。

 EVモードでの走行は、登場したころは速度リミットがあったが、第4世代のころから特別なリミットは外されて、新型プリウスにも上限はない。たゆまない回生技術の進化がそれを可能にしており、懐かしいカメさんマークはメーターパネルから省かれている。

 ディスプレイに表示されるエネルギーモニタからは、繊細なエネルギーのやり取りをしているのが分かる。

 2.0リッターのアトキンソンサイクル、M20A-FXS型エンジンは始動時に力強い音が耳に入るがそれも要所に張られた遮音対策の効果で乗員にはわずらわしさを感じないレベルに抑えられた。

 かつてTHSの代名詞のように言われたエンジン回転と速度がマッチしないラバーバンドフィールは気にならなくなっているのにも驚き。加速時はエンジン回転と速度の上昇がバランスしてドライバーの感覚に合うスポーティフィールだ。

 静粛性の点でもエンジン回転が余分に上がらず、ハイブリッドを意識することはないだろう。

 郊外路の加減速のある走りでは、コースティング(惰性走行)と回生のバランスがよく、適度なエンジンブレーキがかかる印象で交通の流れに乗るのがうまい。

 さらに広い山道を走るようなコースでは減速時の回生ブレーキを積極的に使い、速度制御がうまく走りやすい。緩加速ではギヤ段を持たないハイブリッドとしては抜群のエンジン回転域となり、優れたドライバビリティを感じさせる。

 高速クルージングはさらにトヨタハイブリッドの真価を発揮する。動力分割する遊星歯車が効率よく働き、回生を取りながらコースティングを続け、エンジン回転の低いところを使いながらクルージングして燃費を伸ばしていく。

 これがトヨタハイブリッドの強みで、エンジンとモーターのよさを活かしたパワートレーンならではの走りを楽しめる。

 トヨタのハイブリッドシステムの根幹は、環境を最優先して目標を立てたことにある。すなわち燃費、軽量コンパクト化、そして普及するための価格。世代ごとのハイブリッドシステムはこの揺るがない哲学を堅持しながら発展してきた。技術に終点はない。進化し続けるトヨタのハイブリッドシステムに注目していきたい。

Photo:
佐藤安孝(Burner Images)
安田 剛
編集部