人とくるまのテクノロジー展 2023

新型「プリウス」開発責任者の大矢賢樹氏が“デザインと走り”を解説

トヨタ自動車株式会社 TC製品企画 主査 大矢賢樹氏

 自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」が5月24日~26日の会期で行なわれた。会期中はパシフィコ横浜の展示ホールで参加企業による製品展示を行なわれたが、自動車技術に関連する各種講演、ワークショップなども行なわれた。

 本稿では開催初日の5月24日に実施された「新車開発講演:新型プリウス デザインと走りの実現に向けて」の内容について紹介する。

ハイブリッドカー普及を促進したプリウスの役割はすでに完遂

「新型プリウス デザインと走りの実現に向けて」

 登壇したのは新型「プリウス」の開発責任者を務めるトヨタ自動車 TC製品企画 主査 大矢賢樹氏。大矢氏は自らが開発を手がけた5代目プリウスについての解説に先駆け、まずはこれまでプリウスが歩んできた歴史についてふり返った。

 プリウスはトヨタの社内で1995年に発足した「G21プロジェクト」がきっかけとなったモデルで、「21世紀に必要とされるクルマを作る」という目標を掲げて開発がスタート。当時、気候変動枠組条約の第1回締約国会議(COP1)が開催され、世界的に気候変動に対する問題意識が高まりつつあるタイミングで、G21プロジェクトでもクルマ社会で問題になってきていた資源問題、環境問題について取り組むため、「圧倒的な燃費性能」の実現を大きな開発目標とした。

 多くの課題を乗り越えて1997年12月に「世界初の量産ハイブリッド車」として初代プリウスがデビュー。プリウスという車名には「先駆け、先駆者」という意味が込められており、開発時には試作車ができあがってから初めて動き出すまで49日もかかり、「先輩たちが大変な苦労を重ねて開発し、世に送り出したクルマです」と紹介した。

 初代プリウスの燃費は10・15モード計測で28.0km/Lとなっており、この数値は同じ排気量のエンジンを搭載する「カローラ」の19.0km/Lから約1.5倍と大幅な燃費向上を達成したと説明。続いて2003年9月に登場した2代目プリウスは、ハイブリッドカーのさらなる普及を目的に開発を実施。進化を遂げたパワートレーンである「THS II」を採用して燃費性能、走行性能を向上。燃費は10・15モード計測で35.5km/Lまでアップしており、今では一般化した「シフト バイ ワイヤ」「プッシュ式スタートボタン」といった装備をいち早く採用している。

 これに加え、2代目ではボディ形状がトランクを備えるセダンから「トライアングルモノフォルム」と呼ばれるハッチバックに変化。ここで手に入れたシルエットについて「今ではプリウスが持つアイコンの1つになっている」と評した。また、このモデルは多くのハリウッドアクターが所有していたことが話題となり、それまで以上に多くの人から注目されることになったというエピソードも紹介した。

初代プリウスは1997年12月に発売
2代目プリウスは2003年9月に発売

 2009年5月に発売された3代目プリウスでは、エンジン排気量を1.5リッターから1.8リッターに高めて動力性能を強化し、燃費性能も向上。燃費は10・15モード計測で38.0km/L、JC08モード計測で32.6km/Lとなっており、装備では「ソーラー換気システム」「リモートエアコンシステム」といったアイテムを備え、居住性も進化させている。

 販売面ではハイブリッドカーを「特別な存在」から「当たり前」のクルマにするべく、トヨタ車として初めて全チャネル(販売系列)販売を実施。さらに2012年1月からはPHEV(プラグインハイブリッド)モデル「プリウス PHV」もラインアップに追加され、EV走行距離は26.4km。

 先代モデルになる4代目プリウスは2015年12月に発売され、燃費性能はJC08モード計測で40.8km/Lまで磨き上げられ、さらにTNGA(Toyota New Global Architecture)の採用で走りの質感を向上。安心・安全を生み出す「Toyota Safety Sense P」や、北海道や東北地方などの降雪地域でとくに強く要望されていたリアモーター採用による電気式4WDシステム「E-Four」の追加が行なわれ、2017年2月にはEV走行距離を68.2kmまで延伸した2代目のプリウス PHVも登場している。

3代目プリウスは2009年5月に発売。2012年1月には「プリウス PHV」も追加
4代目プリウスは2015年12月に発売。2017年2月には2代目のプリウス PHVも追加

 販売台数の面から見ると、4代目プリウスが発売された2015年以降、グローバルの電動車販売台数における比率ではプリウスの占める割合が減少傾向となっている。これは同じトヨタの「アクア」などに加え、他メーカーからも数多くのハイブリッドカーが登場したことを受けた結果で、同時に電動車の販売台数が大幅に増加しており、プリウスがアイコンとなってハイブリッドカーの普及を促進してきた役割はすでに完遂していると大矢氏は分析。その一方で、2022年時点でハイブリッドカーのグローバル販売台数は2030万台に到達しており、このうちプリウスは577万台を販売。これにより、累計で1億6200万tのCO2を排出削減していることも強調した。

 また、国別で見たCO2排出量のデータも紹介。2001年を100として設定した保有する自動車全体のCO2排出量で、日本はこの20年でCO2排出量を23%削減しているという。これは欧米諸国と比較して高い数値であり、実質的なCO2削減に歴代プリウスが大きく貢献してきたとしつつ、それ以上に「ガソリン車かディーゼル車か」というクルマ選びにおける選択肢に、ハイブリッドカーという現実的な新しい選択肢を生み出したことが、環境に対する貢献でプリウスが果たした役割でより大きいものになるのではないかという考えを示した。

グローバル電動車販売台数とプリウスの比率
2001年からの20年で日本は自動車から排出するCO2を23%削減した

「一目惚れするデザイン」「虜にさせる走り」がセリングポイント

新型プリウスの開発初期に描かれたデザインスケッチ

 こういった変遷を持つプリウスを5代目にモデルチェンジするにあたり、大矢氏は「プリウスはどうしても残していかなければいけないクルマであり、今後もみんなの手に届くエコカーとして存在し続けることが役割になる」と考えたものの、具体的な方針についてどうすればいいか悩んでいたところ、豊田章男社長(当時)から「タクシー専用車でいいのでは?」とも提案されたとのエピソードを明かした。

 この真意は、トヨタが目指す「普及してこそ環境に貢献する」という方針を実現するため、タクシーのようなコモディティ化したクルマにすることで販売台数を確保し、走行距離を稼ぐような方向性を示唆するものであり、プリウスが担うべき真の役割を模索する本質的な問いかけだったと振り返り、これに対してすぐに答えることはできなかったという。

 このため開発チームでは「かっこいいクルマを描いてほしい」とデザイナーに依頼。この言葉を受けて生み出されたデザインスケッチをスライド資料でも紹介して、非常にスポーティでこれまでのプリウスが持っていたイメージとはまったくことなるものになっていたが、見た時に「このスケッチを実現したい」と強く感じ、この実現を軸として新型プリウスの企画検討をスタート。豊田社長から提案されたコモディティ化されたクルマとは正反対の、手に入れたユーザーにとって愛車になるようなクルマを目指して開発が進められていった。

豊田章男社長(当時)は「タクシー専用車でいいのでは?」と提案

 この実現のため、デザインに加えて走行性能にもとことんこだわり、エモーショナル感を付与して1人でも多くの人に選んでもらえる、長く乗り続けてもらえる妥協のないクルマに生まれ変わらせていくことを目標として設定。とくに「一目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」の2点がセリングポイントになっている。

 しかし、こうした新型プリウスが目指す方向性は、これまでプリウスが持っていたエコカーとしての環境イメージとは大きく異なるもので、開発チーム内で受け止め方に差が出てしまうのではないかとの危惧から、企画側が抱いている思いや考えをメンバー全体で共有するため、直接的に開発に携わるメンバーに加え、製造、営業、サービスといった広範囲の関係者に参加を呼びかけて新型プリウスの企画について考える合宿が開催された。

 このような取り組みは新車開発として初めてだったが、参加した多方面のメンバーと活発に意見交換することでプリウスが果たしてきた役割について再確認し、これまでの延長線上にあるモデルチェンジではいけないとの危機感を持って、新しいプリウスを「攻め」と「守り」の両立させる企画にしていく意気込みを共有できたという。

新型プリウスに関わるさまざまなメンバーを集めて合宿を実施。企画側が抱いている思いや考えをメンバー全体で共有した

強く傾斜したAピラーの視界や乗降性への影響も入念に確認

新型プリウスの外観デザインにおける注目ポイント

 具体的な開発内容の説明では、まず「一目惚れするデザイン」を実現させるため、開発のスタート地点にもなっているデザインスケッチの具現化に向けた課題の克服を進めていった。通常のデザイン開発では設計者とデザイナーが中心となり、設計者との情報共有で「成立性検討」を進めていくが、今回はかなり“攻めた”デザインを目指していることから、実際に生産された車両まで想定して品質を確保して安定したもの作りが行なえるか、購入したオーナーの手に渡ったあとで満足してもらえるかといった観点からの検討も初期段階から並行して進めていったという。

 車両パッケージでは、デザイン優先の考えでルーフのピーク位置を車両後方側に移動させ、プリウスのアイコンとなっているモノフォルムデザインを強調。よりスポーティなシルエットを目指した。ルーフピークの後方移動が空力性能に大きく影響を与えることは重々承知だったものの、初期のデザインスケッチ実現を優先して実施している。また、「乗員位置の低配置化」のためにリアシート下に配置されている燃料タンクと駆動用バッテリのレイアウトを変更し、デザインスケッチでも強調されているタイヤの存在感を高めるためタイヤサイズを大径化して、デザインと燃費を両立させるため「細幅大径タイヤの採用」を行なった。

ルーフのピーク位置を車両後方側に移動してモノフォルムデザインを強調

 また、従来型では差別化を目的に通常モデルとPHEVで異なる外観を採用しており、サイズの大きな駆動用バッテリがラゲッジスペースを圧迫することになってきたが、新型プリウルでは共通化を実施。これまでリアシート下に置かれていた燃料タンクを後方に動かし、空いたスペースに高容量化した駆動用バッテリをレイアウトして通常モデルとPHEVのパッケージ共通化を果たしている。重量の大きい駆動用バッテリの床下配置は走行性能にも大きな影響を与え、低重心化によってPHEVの走りの質感を大きく高めているという。

 デザインスケッチの具現化で強く傾斜したAピラーを持つことから、視界の確保や乗降性も入念に確認。デジタルモデルでのチェックに加え、従来型のPHEVをベースに擬装を施して改造した試験車両を用意。それだけ新型プリウスが前例がないほどAピラーが傾斜したクルマとなっており、実際の試験車両を運転して確認する必要があると感じさせるデザインを採用していることを示している。この車両には多くの開発メンバーが乗り込んでチェックを行ない、洗い出された課題を1つひとつしっかりとクリアして最終的なデザインが実現されているという。

駆動用バッテリの搭載位置変更でラゲッジスペース容量も拡大
従来型PHEVをベースにした試験車両を用意して、リアルワールドで視界や乗降性への影響を確認

 インテリアでは「圧迫感のない広々とした空間と運転に集中しやすいコックピットの両立」を目指し、「アイランドアーキテクチャ-」コンセプトに採用。見るものは遠く、操作するものは近くに配置するレイアウトとしている。これにより、メーターは小径ステアリングとの組み合わせによる「トップマウントメーター」となり、運転中の視線移動を減らして運転に集中しやすい環境作りを進めている。さらにインパネ中央にある12.3インチの「マルチメディアディスプレイ」、操作しやすい位置に置いたシフトレバーなどにより、操作性にもこだわっているという。

 安心してドライブできるこだわりアイテムとして搭載した「イルミネーション通知システム」についても説明。光によって車内空間を演出するイルミネーションを点滅させることで通知に利用する機能となり、信号待ちの停車状態で先行車両が発進したあとも再スタートしないとき、車両が周囲の歩行者を検知したときなどに、メーター内の表示やアラームなどで知らせる前段階としてイルミネーションが点滅してドライバーに優しく注意喚起する。点滅していることが分かりやすいよう、発行時の明るさを通常時の約30倍に高め、導光レンズによる配光設計を工夫して光に指向性を与え、昼間でもドライバーが点滅していることを認識しやすい設計にしている。

インテリアのコンセプトは「アイランドアーキテクチャ-」
先行車発進などをイルミネーションの点滅でドライバーに優しく注意喚起

第2世代に進化したTNGAプラットフォームが「虜にさせる走り」に貢献

先代プリウスで登場したTNGAが新型プリウスから第2世代に進化

「虜にさせる走り」では、デザインスケッチを見たときの感想として、かっこよさに加えて「走りがよさそう」と感じさせるものだったことから、そんなイメージどおりの走りを実現させたいと考えて開発に取り組んだという。

 一方、やはりプリウスはエコカーで「プリウス=燃費・環境」というイメージも根強く、これを覆して走りのこだわりを実現するため、早い段階から動的性能の開発スタッフにデザイン案を見てもらい、自分たちが目指している新しいプリウスがどんなクルマなのかというイメージを共有。このかっこいいデザインに負けない走りをどのように実現するか、そもそも「虜にさせる走り」とはどんなものなのかを共に考えていった。

 これまでの開発では各機能ごとに目標設定して、仕上がった要素を組み合わせてクルマとして評価していた。この方法では個々の性能はしっかりと目標に届いていても、1台のクルマになった場合に気持ちのいい走りを実現できるとは限らなかったと説明。そこで新型プリウスの開発では、デザインから想定される走行シーンを具体的にイメージして、このイメージを試作車で実現するスタイルを採用した。

 具体的には、これまではアクセルやブレーキ、ショックアブソーバーなど分野ごとに分業して開発しており、これによって制御同士の調和が難しくなる面があった。新型プリウスの開発では具体的な走行シーンを設定し、状況に応じた車両挙動や操作のつながりを意識してチームで取り組んだという。減速からの旋回というシーンでは、操作のつながりを追求して場面ごとに車両をどのように制御するかを考えて「虜にさせる走り」を実現していった。また、走行性能のベースとなるTNGAも、先代プリウスからスタートしてカローラシリーズなどの開発で熟成が進み、新型プリウスから第2世代に進化を遂げているとアピールしている。

つながりを意識してチームで開発する新たなスタイルで「虜にさせる走り」を実現

「虜にさせる走り」を実現する具体策として「軽快な加速感」「スムーズな制動性能」「意のままに操れるハンドリング」「高い静粛性」という4つの目標を設定。

「軽快な加速感」ではパワートレーンを第5世代に進化。エンジン排気量は従来からある1.8リッターに加えて2.0リッターを設定し、2.0リッターエンジンでシステム出力144kWの通常モデルは0-100km/h加速が7.5秒、さらに高出力なシステム出力164kWを発生するPHEVは0-100km/h加速が6.7秒を実現する。また、排気量が変わっていない1.8リッターの通常モデルも電動モジュールの刷新でシステム出力が103kWに向上。0-100km/h加速9.3秒とWLTC燃費32.6km/Lを両立させている。

 さらに軽快な加速感を体感してもらえるよう、加速時に発生するエンジン音についてもチューニングを実施。例としてエンジンが3000~6000rpmで作動している状況での周波数バランスを取り上げ、周波数が200~600Hzになる高音領域で音圧を低減。低音を強調した迫力あるエンジン音が響くようにしている。

2.0リッターエンジンの追加など、パワートレーンは第5世代に進化している
エンジンサウンドの低音を強調して聴覚でも軽快な加速感を体感してもらえるようにした

「スムーズな制動性能」では、動力性能の向上に合わせてブレーキシステムを刷新。先代モデルではアキュムレーターを使用する蓄圧タイプを採用していたが、新型ではギヤポンプで発生させた油圧をブレーキに直接伝えるオンデマンド ポンプ加圧タイプに変更。リニアな圧力発生によって常用域では自然なペダル踏み替えを、高G領域では剛性感あるコントロール性を実現している。

 前後加速度を使ったグラフも使い、減速開始から停止までに発生する車体の動きを紹介。先代と比較して新型は停止後に発生する前後加速の揺れが小さく、姿勢が安定したまま停止しているとの分析を示し、赤信号などでの停止時などもドライバーが安心して運転できるようになっているとした。

ブレーキではオンデマンド ポンプ加圧タイプを採用
停止時の前後揺り返しを抑えて安心感を高めた

「意のままに操れるハンドリング」を実現するため、第2世代に進化したTNGAプラットフォームの鍛え抜かれた高剛性ボディを軸に、サスペンションジオメトリーやショックアブソーバーの減衰力などを最適化して進化させた足まわりを採用。これによってコーナーリング中の車両姿勢を安定させ、ステアリングからタイヤの手応えがしっかりドライバーに伝わるよう造り込んでいるという。

 また、意のままに操れると感じてもらうため、ステアリングを切り始めた瞬間からスムーズにコーナー侵入ができ、狙った走行ラインを走れるといった操作性をイメージ。この実現に向けて、まずはステアリング操作初期の挙動に着目。ステアリング操作の直後にはボディの車両前方に横曲げ変形が発生する。ステアリング操作から遅れることなく車両を反応させる高いボディ剛性を実現するため、フロントまわりの構造見直しを行なって横曲げ剛性を15%強化。車両の応答性を高め、コーナーリング中に狙った走行ラインを走れるようにしている。

高剛性ボディと足まわりの進化で「意のままに操れるハンドリング」を実現
俊敏な応答性を得るため、フロントまわりの横曲げ剛性を15%強化

「高い静粛性」は第2世代のTNGAが持つ高いボディ剛性に加え、ボディの周囲に流れる風をコントロールすることで実現。Aピラーの付け根部分とドアの段差縮小、Bピラーのシール構造見直し、大型フロアサイレンサーの採用などの技術によって静かで快適なキャビンを手に入れている。

ボディの周囲に流れる風のコントロールなどで静粛性を高めている

アップグレードで進化するクルマ造りにチャレンジ

クルマを乗り替えることなく新技術の恩恵を受けてもらう新たなチャレンジ

 新型プリウスでは新たなチャレンジとして、「アップグレードで進化するクルマ造り」にも取り組んでいる。クルマの先進安全技術などは日進月歩で進化しているが、一方でユーザーが新技術の恩恵を受けるためには、それまで乗っていたクルマを買い替える必要がある。

 この問題を解消するため、技術の進化に合わせて販売後の車両も進化するようなクルマ造りができないかと考え、新型プリウスに盛り込んだ新しいアイデアが「アップグレードレディ設計」となる。1度ユーザーに引き渡したクルマを将来的にアップグレードできるよう、追加したい機能ごとに必要となる施工作業の内容、作業時間の洗い出しを実施。この結果、施工作業の大部分を事前に車両に施しておくことで必要となる作業を簡素化できるとの着想を得て、新型プリウスに採用している。

 このサービスを実現するためには車両設計や生産手順に変更を行なうだけでなく、販売店での対応や部品流通、サービスメニューの設定など多岐にわたる用意が必要で、車両を生産するトヨタ、サービスを提供するKINTO、実際にユーザーの車両に施工する販売店の3社を巻き込む新しいチャレンジとなったが、試行錯誤を続けて協力してもらい、検討を進めていったという。

 このアイデアに、「Toyota Safety Sense」のソフトウェアをOTA(Over-the-Air)アップグレードするサービスを組み合わせたKINTOの新プラン「KINTO Unlimited」として新型プリウスから提供を開始。「KINTO Unlimited」はまだスタートしたばかりで、さらにユーザーに喜んでもらえるサービスとして進化するため多くの関係者と力を合わせて育てていく必要があるとしつつ、購入者にもっと安心に、より経済的にクルマに乗ってもらえるような世界を引き続き目指していくと意気込みを語った。

将来的なアップグレードで必要になるワイヤーハーネスや取り付け用のブラケットなどを車両生産時に用意しておく「アップグレードレディ設計」を採用
新プラン「KINTO Unlimited」を新型プリウスからスタート

 最後の締めくくりとして大矢氏は、「100年に1度の大変革と言われている急激な環境変化が起きている今、プリウスが果たすべき本質的な役割はどんなものなのかといった問いかけから開発がスタートし、1枚のスケッチから目指すべき方向が定まってからは実現に向けて開発に邁進してきました。しかし、開発を進める中では予想もできなかった多くの困難もあり、皆さんも同じだとは思いますが、その1つがコロナ禍です。この期間にはメンバー同士が直接会って、一緒に見て、悩み、考えるといったこれまでは当たり前だった開発作業ができなくなりました。それでも、もの作りの世界ではやはり現場が大事だと考えて、現場とのつながりを模索しながら進めてきましたが、正直なところ、苦しいところも多々ありました。そのような状況でしたが、こだわったデザインと走り、そして新しいチャレンジの達成に向けて進み続けることができたのは、同じ目標を持って苦しい時期を一緒に過ごして乗り越えてきた多くの仲間が『チーム プリウス』になれたからではないかと思います。そんなチームメンバー全員の思いが形になったものが新しいプリウスだと思っています」。

「一方で『いつまでハイブリッドを作り続けるんだ』という言葉も多く耳にします。カーボンニュートラルの達成という大きな目標に向かっていくためには、この多様化した世界には多様な選択肢が必要であり、世界中のみんなで協力しなければならないからこそ、手の届くエコカーが必要だという考えを持ち続けてきました。プリウスが手の届くエコカーであり続けるために、今すぐにCO2を削減できる現実的でプラクティカルな技術としてハイブリッドとPHEVにこだわってきました。われわれの思いが詰まったこの新しいプリウスが、1人でも多くのお客さまの選択肢になるよう、そしてお客さまにとっての愛車になれるように、開発に関わったメンバーと一緒に育てていきたいと思っております。その結果として、カーボンニュートラルの達成に貢献できればと考えています」と、新型プリウスに込めた思いを語った。

 なお、この講演内容は人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMAのオンライン会場で2023年5月24日~6月7日の期間に見逃し配信を実施予定となっている。

佐久間 秀