試乗レポート
トヨタ「カローラ」シリーズイッキ乗り【カローラ・カローラ スポーツ編】
2023年1月3日 09:00
カローラ(セダン)
試乗したカローラ セダンのガソリン車は1.5リッターのダイナミックフォースエンジンに統一された。ヤリスの1.5リッターと基本的に同じものだが、ヤリスに比べてCプラットフォームで重量のあるカローラに合わせてパワートレーン全体でチューニングされている。そのエンジン、M15A-FKSの直列3気筒はオーバースクエアの1.5リッターで88kW/145Nmの出力となり、従来は2ZR型1.8リッターの直列4気筒(103kW/170Nm)だったので出力は15kW/25Nm下がっているものの、車両重量は20kg軽い1280kgで低速トルクの強いエンジン特性もあり、ドライバビリティは変わらないとなっている。
サスペンションもフロントはストラット。リアはダブルウィッシュボーンからトーションビームに変更されており、エンジンを含めて実は大きなマイナーチェンジだ。
試乗車は1.5リッターのガソリン車で上級グレードのW×B。内装もしっかり作りこまれ、パーキングブレーキも電動式で、メーターディスプレイも他上級グレードと共通となっている。ステッチを巧みに織り込んだインテリアはクラスを超えた質感を備える。
装着タイヤもハイブリッドと同じサイズの215/45R17で、横浜ゴムのBluEarth-GTを履く。エンジンを始動すると3気筒エンジンの振動は感じるものの十分に許容範囲。何も言われなければ3気筒エンジンとは気が付かないだろう。騒音も耳障りな音はカットされており、1.5リッターとはいえCセグメントカローラの車格にあった遮音性だ。
加速力は市街地では従来型と同じ加速をするとやや回転が上がるが過不足がない。もう少し力が欲しいと思うのは坂道を力強く加速したい時、そして高速道路の合流などだが、その場合もアクセルを強めに踏み込めば本線の流れに合わせられる。ドライバビリティで不便はない。
追い越しもアクセルに反応してグイと前に出てくれる。余力たっぷりではないが必要にして十分だ。排気量が小さいので乗員の数や積載物の重さはダイレクトに影響を受けるが、それでも実用車、カローラに搭載されるエンジンとして柔軟で粘り強い出力特性を備えている点で従来の1.8リッターエンジンに比して遜色ない。
注目のトーションビームになったリアサスペンションはカローラ クロスのFFで採用されたものだが、カローラ クロスはシリーズの中でもワイド版なので共通のトーションビームの形状もカローラに合わせられている。
トーションビームはシンプルな構造で部品点数も少なく生産性も高いメリットがある。カローラ セダンはカローラ クロスに比較して全高が低いこともあり、カローラ クロスよりもバランスがよい。リアの接地感も高く、コーナーでも無理な姿勢にならず自然だ。ダブルウィッシュボーンのしっとりした味ではないものの、上下収束も少なく納得いく振動収束だ。
後席ではザラメ路ではざわついた音が入ってくるが、高周波音はカットされているので煩わしさはあまり感じない。突き上げの少なさも好印象で、ファミリーカーとして家族を乗せても、カンパニーカーとしての使用でも歓迎されるだろう。
上級のW×Bグレードではインテリアにステッチ入りのダッシュボードや、本革ステアリングなどが奢られている。
安全対応ではツーリングやスポーツと変わらず、Toyota Safety Senseもアップグレードされており、バックガイドモニターと前方ドライブレコーダーもXグレードを除いて標準装備となる。全車速ACCも停止まで可能で、渋滞での使用にあたっても機能性は向上している。
T-Connectとディスプレイオーディオを連携させたマルチメディアも装備され、Apple CarPlayとBluetoothによってワイヤレスで連携できるほか、車内Wi-Fi(オプション)も用意される。カローラはいち早くディスプレイオーディオに取り組んでいたが、使いやすくなって本格的に使えるようになった。
カローラ セダンは最新の安全対応を積極的に採用し、使いやすい装備も標準採用になって1.5リッターのXグレードでは200万円を切る価格を実現している。上田チーフエンジニアの「良品廉価」という言葉が深く身に染みた。
カローラ スポーツ
スポーティな性格を持つ4ドアハッチバックのカローラ スポーツもハイブリッドシステムが進化すると同時に、ガソリンエンジンも1.2リッターターボから2.0リッターNAに変更になった。M20A-FKS型のダイナミックフォースエンジンで出力は従来の1.2リッターターボの85kW(116PS)/185Nmから125kW(170PS)/202Nmに大幅な出力の向上となった。馬力荷重は従来型で11.55kg/PSだったのが新型では8.12kg/PSになったのでスポーティな性格に磨きをかけると同時に、燃費もWLTCモードで16.4km/Lから17.2km/Lに伸びている。出力は高く、燃費はよくが2.0リッターのダイナミックフォースの役割だ。
試乗車は2.0リッターNAエンジンを搭載した上級グレードのG“Z”。タイヤはダンロップのSP SPORT MAXX 050でサイズは225/40R18となる。
カローラスポーツはFFのみになるが、リアサスペンションはダブルウィッシュボーンで、従来型を踏襲する。
トランスミッションはダイレクトシフトCVTのみで、従来設定されていた6速MTはディスコン(廃止)となっている。
試乗車のシートは黒の本革とサイドサポートに赤を配色した刺激的なスポーツシートで、サイドサポート性も高いものだった。この配色はリアシートにも施されて4シータークーペのようだ。
乗り心地は路面の凹凸に対しても軽い衝撃で上手に収束し、特に路面に斜めに入った段差での追従性が優れており、しなやかに通過する。1.5リッターFFセダンのトーションビームサスペンションもクルマの性格との調和がとれているが、カローラ スポーツではしなやかさで違いが出る場面だ。
現行カローラは乗り心地とハンドリングのバランスのとれたクルマだが、カローラ スポーツはボディ形状からもキビキビした動きが特徴となっている。試乗車のダイナミックフォースエンジン車はハンドル操舵時の反応が正確で、かつ過敏ではないのが気持ちよく走れるポイントだ。コーナリング時の姿勢は前後のバランスがよく、若干の前荷重でライントレース性は高い。さらにショックアブソーバーは作動する微小域から反応し微妙な上下動も抑えている。ハンドル操舵の初期から路面のウネリや小さな凹凸にも過大な動きにならないのが好ましい。
乗り心地では小さい凹凸は前述のように追従性が高く、節度ある感触で疲労感は少ない。さらにもう少し大きな段差などの通過に際してもショックはよく抑えられており、質のよい乗り心地を楽しめる。
ダイナミックフォースエンジンはトルクも十分。これまでの1.2リッターターボもフラットなトルク特性で、どんな場面でも使いやすかったが、新しい2.0リッターエンジンは伸びやかでよりスポーティな印象だ。レスポンスもよいのが特徴で、踏み込んだ時は心地よいエンジンノートをあげて速度が乗ってゆく。トルクバンドの広さはハンドリングの柔軟性にも結び付き、なかなか面白い。欲を言えば回転落ちがシャープだとさらに好ましいが、CVTの特性もあり、現状では限界だろう。
10速のダイレクトシフトCVTは発進用ギヤを追加し、スタート時のダイレクト感が高く、CVT特有のラバーバンドフィールは少ない。アクセルを踏み込んだ時のエンジン回転の伸びは乾いた音とともに軽快に伸びていく。CVTが宿命的に持っていた“十分速いのに、エンジン回転に速度が追い付かない感触”はダイレクトシフトではかなり軽減された。マニュアルモードにしてパドルシフトを使うと面白く運転できるだけでなく、下りではエンジンブレーキも使えて有効だ。10速はちょっと多い気もするが……。
新しいカローラ スポーツ。これまでの1.2リッターターボも実用性が高くトルクフルだったが、2.0リッターNAエンジンは爽快な加速と正確なハンドリングでさらにカローラスポーツにふさわしい存在に変化した。
今回の改良でカローラシリーズそれぞれのキャラクターが明快になり、内容の濃い改良になっていた。