試乗レポート

BYDの新型EV「ATTO 3」が日本上陸 ミドルサイズSUVの仕上がりやいかに?

ミドルサイズSUVの「ATTO 3」に試乗

BYD車のトップバッター登場

 中国は電気自動車を積極的に支援しておりBEV(バッテリ電気自動車)のメーカーも多い。その中でも最大手となるBYDが日本にやってきた。今後続々と登場するBYD車の中でトップバッターはミドルサイズSUVの「ATTO 3」だ。

 ボディサイズは4455×1875×1615mm(全長×全幅×全高)で全幅は広いが、数字よりも運転しやすく日本の道でも扱いやすいのが第一印象だ。58.56kWhのリチウムイオン電池はBEVの常で床下に置かれている。しかしフロア高が抑えられているので乗降性が良く、何の違和感なく自然なドライビングポジションが取れるのはBYD自社開発のブレードバッテリとBEV専用のプラットフォームの相乗効果によるもの。実際に直前視界も外観から想像するよりも見下ろし感があり爽快だ。シートも適度なクッションストロークと硬さがあり、クルマを作り慣れている感触だ。

 ホイールべースは2720mmで、前後トレッドは1575/1580mm、サスペンションはフロントがストラット、リアがマルチリンクを採用する。乗り心地は意外なほどソフトだ。バッテリ重量が重いBEVにおいてこのクラスでは2t近くなることも珍しくないが、ATTO 3では1750㎏という軽さに仕上がっている。

2023年1月31日に発売されるBYDの新型BEV「ATTO 3」(440万円)。このATTO 3に続き、コンパクトモデルのBEV「DOLPHIN」を2023年中頃に、セダンモデルのBEV「SEAL」を2023年下半期に日本で販売することも予告されている。ATTO 3はBYDが独自開発したブレードバッテリを搭載したEV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、ボディサイズは4455×1875×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールべースは2720mm
BYDの乗用車のデザインについては、アルファロメオやアウディなどでデザイナーを務めたヴォルフガング・エッガー氏がデザイン・ダイレクターを務めるなど、プレミアムブランド出身のデザイナーたちが率いる世界トップクラスのチームによって開発。ATTO 3のエクステリアではスポーティで精悍なフロントフェイス、ダイナミックでシャープなウエストラインなどを特徴とし、このウエストラインはBYDグループの一員であるTATEBAYASHI MOULDINGが持つ熟練の金型技術によって実現したという。足下は18インチアルミホイールにコンチネンタル「EcoContact 6 Q」をセット

行動半径は想像以上に大きい

 車両重量はクルマの性格に大きな影響を与えるが、乗り心地も意外なほど柔らかい。凹凸のある路面でも角のあるショックを感じることはなく適度にいなしてくれる。大きなギャップ、特に凹凸の凸ではサスペンションが追従できない部分もあるものの、平均以上のレベルを維持しているのは感心した。

 乗り心地のもう1つの要素である振動騒音に関しては、高周波の振動はほとんど感じることはなくBEVの大きな強みだ。また静粛性はノイズの発生源であるエンジンがないので静かなものだ。ただ必要以上に遮音している感じではなく、インバーターやモーター、パターンノイズなどの透過音は大きい方だ。ドアミラーからの風切り音が少し耳についたが試乗車はプロトタイプで、実際の発売時にはリファインされていると感じている。

 ハンドリングは軽いフットワークが持ち味。特にスポーティでもロールが小さいわけでもないが、普通のセダンのように気安く運転できるのが特徴だ。ハンドルを左右に切り返す場面でも反応が遅れることなく、追従性が高いが、それと気づかせないほどたくみなサスペンションセッティングがされている。操舵力も適度な重さで市街地から山道まで軽めで操作しやすい。高速直進性も平均的なもの。欲を言えばドッシリとした味付けになるとさらに素晴らしい。ハンドリングはザクっと言えば日本車に似た感触だった。わずか10余年の歴史のメーカーとしては驚くほど完成度は高い。

 動力性能では150kW/310Nmの出力を持つモーターで前輪を駆動し、アクセルのゲインも自然だ。爆発的な加速力ではないが十分に速く、しかも姿勢変化が小さいために自然に速度が乗っている印象だ。高速道路での伸びはBEVらしい限界を感じさせるが、通常の使用範囲では必要十分だと思う。

 ドライブモードはNORMAL、SPORT、ECOの3モードがあり、NORMALが万能でアクセル操作も使いやすい。逆にSPORTでもそれほど劇的な変化はないので素早い反応を好むドライバーにはもの足りないかもしれない。

 回生ブレーキの強度も2段階で変えられる。HiとSTANDARDを選べるが、Hiでもいわゆるワンペダルドライブほどの回生力はなく、少し強めに設定されているという印象。使っているうちにさらにいろいろな使い方が出てくると思われ、ファーストインプレッションとしては誰でも使いやすい設定にしているように見え良心的だった。そして航続距離はWLTCモードで485km。行動半径は想像以上に大きい。

 ボンネットを開けてびっくり。インバーター、モーター、コントロールユニットがコンパクトにまとまって一体型で低い位置に収まっている。一体型で効率を高めることで反応速度が従来タイプの10分の1になっているためにアクセル、ブレーキなどのレスポンスが早いのもBYDの特徴となっている。

ATTO 3のボンネットフード下のレイアウト

 バッテリの話に戻ると三元系に比べるとセルからモジュールのブロックを作り、これを幾つも集めてパックとするのが普通だが、BYDのブレードバッテリではブレード1枚がセルの役割となり、それがパックを作るのでシンプルで軽く安全性の高いバッテリを形成している。重い高圧ケーブルを配置することもなく、さらに冷却ユニットも熱伝導の高いシートパックを使っている点がポイントで、エアコンのヒートポンプシステムの冷媒を使って最適な温度に保っている。こちらも一体化することで軽量コンパクトに仕上げている。

BYDが独自開発した「ブレードバッテリ」と8つのモジュールを集約した「8in1 パワーシステムアッセンブリー」を搭載したEV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用。58.56kWhのバッテリと150kW/310Nmのモーターを搭載し、485km(WLTC値自社調べ)の航続距離を実現。バッテリについては熱安定性の高いリン酸鉄リチウムイオン電池を使用するという

タイヤとワイパーを除いてすべて自社開発

 インテリアもユニークだ。最近の流れとは違った曲面を多用したダッシュボードなど新興メーカーらしいデザインだ。面白いアイデアはセンターディスプレイが回転可能で縦型にも横型になる点だ。例えばナビゲーションなどノーズアップなどで使った場合は先行きが分かりやすい。またオーディオなどの直観的に操作する必要があるスイッチはダッシュボードにアナログスイッチで配置されているので親切だ。

 一方のドライバー正面の液晶ディスプレイは小型で、ドライバーが必要とするものが表示される。速度、パワー、電気残量などがコンパクトに見やすくレイアウトされており派手さはないが実用的だ。キャビンは広い。フロアもフラットだが、リアシートのレッグルームも十分な広さがある一方、適度な包まれ感もあってクルマ作りに手慣れた様子がうかがえる。

インテリアは“フィットネスジム×音楽”をモチーフにデザイン。トレッドミルに着想を得たセンターアームレスト、ハンドグリップを想起させるドアハンドルのほか、弦を弾くと音を奏でるドアトリムなどユニークなデザインが随所に散りばめられた。また、シェード付パノラマルーフやPM2.5 空気清浄システム、シートヒーター(運転席/助手席)、BYD E-CALL(事故自動緊急通報装置)、Apple CarPlayとAndroid Autoにも対応するナビゲーションなども標準装備。ウインカーレバーは右側に設定される
ラゲッジスペースのレイアウト例

 そう、新興メーカーとはいえタイヤとワイパーを除いてすべて自社開発。だからこそシンプルなモノづくりが可能だったのかもしれない。耐久性、信頼性などはこれからの市場からのフィードバックになると思うが、440万円というプライスは助成金を入れると限りなく300万円に近くなり、月々4万4000円というサブスクもBEVの中で強い存在感を持つことが予想される。基本的な販売方式は最終的には全国100店舗を目指すディーラー網(2022年12月現在では20店舗)で販売、サービスが行なわれれる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸