インプレッション

ボルボ「S60 T3」「S60 T6」

60シリーズに新しい「T6」が設定され、「T3」が追加

 ボルボが“今後はエンジンを2.0リッター以下、4気筒以下のみとしていく”と公言して世に送り出した、「Drive-E(ドライブ・イー)」と呼ぶ次世代パワートレーン戦略も、順調に進んでいるようだ。2015年7月にはクリーンディーゼル搭載車を一気に5車種も投入したことが記憶に新しいが、ガソリンのほうもますます盛んで、新しい製品を矢継ぎ早に市場投入している。

 そしてこのほど、「S60」「V60」「XC60」の“60シリーズ”にも、「XC90」で初めて採用された2.0リッターの直列4気筒DOHC スーパーチャージャー&直噴ターボの新しい「T6」が設定されるとともに、すでに「V40」に搭載されている1.5リッター直列4気筒直噴ターボの「T3」が追加された。

 なお、これによってS60とV60のベーシックグレード向けに設定されていた「T4」は、出力レベルが「D4」に相当し、より燃費性能に優れる「T3」に置き換わることになる。60シリーズではあいかわらず「T5」や「D4」が主力であることに変わりはないだろうが、選択肢のバリエーションで上と下がリニューアルされた形となる。

「S60 T3 SE」。ボディサイズは4635×1845×1480mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2775mm。ボディカラーはメーカーオプションの「マジックブルーメタリック」
タイヤ銘柄はミシュランの「プライマシー3」で、サイズは215/50 R17

 思えば、表記が「DRIVe」から「Drive-E」になってから、同じ名前でも意味するものも変わったり、少し前でも同じ「T4」と呼ぶモデルで、PAG(プレミア オート グループ)時代の置き土産と新しい製品が混在し、例えばトランスミッションにはDCTとATがあるなどやや混乱気味だったDrive-Eだが、ようやく整理されてきた印象だ。

 XC60の「T6」については、3月に誌面掲載した東京~新潟を往復するロングドライブ試乗でお伝えしたとおり。今回はセダンのS60の「T3」と「T6」についてリポートする。

スーッと車速が伸びていく「T3」

純正仕様のインテリアはチャコール色のT-TSC/テキスタイルだが、レザー・パッケージオプションを装着する試乗車は、オフブラック色の本革シートとなっている

「T3」の設定があるのはS60とV60の「SE」グレードのみで、R-DESIGNの設定はなく、60シリーズでもXC60には「T3」の設定がない。

 S60 T3 SEの車両価格は434万円で、本革シートやメタリックペイントなどいくつかのオプションを付け加えた試乗車の価格は476万4000円となる。いわゆる「廉価版」という印象ではなく、標準装備が充実しているので、エントリーモデルと言えどもそれほど多くのオプション追加を要しないのもボルボの美点だ。

 エンジンは2.0リッターが主体となっていた既存モデルに対し、「T3」はショートストローク化により排気量を1.5リッター化。これに従来の「T4」で用いていた6速ATや、他モデルに搭載される8速ATに対して小型でかつ約16%軽量という新開発の6速ATが組み合わされる。

パドルシフトを備える本革巻/シルクメタル仕上げのステアリングは全車標準装備。変速操作はパドルに加え、シフトセレクターでも可能
パーキングブレーキは電動式で、足下は2ペダルとなる
センターコンソールの加飾パネルはシマーグラファイトアルミニウム・パネル
デジタル液晶メーターパネルは「パフォーマンス」「エコ」「エレガンス」の3テーマ選択式

 走り出すと、1.5リッターながらアクセル開度の小さい領域からしっかりトルクが立ち上がり、スーッと軽やかに車速が伸びていくことが好印象だ。市街地や郊外で乗るぶんにはとくに不満は感じない。

 もう少し速度域の高い、例えば高速道路での合流や再加速といった状況ではさすがに線の細さを感じることもあり、そこはやはり2.0リッターの「T4」や「T5」には敵わないものの、ごく普通に走るにはこれで十分と言える性能を備えている。

 新しいATの制御も、トルコンが賢く機能してエンジントルクの薄い領域を補っているし、変速制御は滑らかながら適度にダイレクト感もあってフィーリングは上々。ATのほうも着実に進化しているようだ。

直列4気筒DOHC 1.5リッターターボの「B4154T」エンジンは、最高出力112kW(152PS)/5000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1700-4000rpmを発生。JC08モード燃費は16.5km/L
リアシートはセンターアームレストを備える6:4分割可倒式シートバック
フロントシートにはレザー・パッケージオプションのセットオプションとして「フロント・シートヒーター」「助手席8ウェイパワーシート」を装備する

 静粛性も十分に高く、上まで回してもそれほど騒々しくならない。1.5リッターという排気量では3気筒エンジンも増えているところだが、“40シリーズ”ならまだしも、60シリーズには3気筒だといささか不似合いかと思う。その点でも4気筒の「T3」は、60シリーズに積むにもふさわしい質感を備えていると言える。

 ハナ先が軽く、車両重量も1.6t弱とあまり重くないのでフットワークが身軽であることもこのクルマの特徴だ。これはディーゼルでややフロントヘビー傾向の「D4」に対して、敢えてこちらを選ぶ大きな理由にもなる。

 またガソリンで比べると、従来の「T4」や現在の「T5」のJC08モード燃費が15.0km/Lにわずかに達していないことに対し、「T3」は16.5km/Lを実現しており、維持費の面でもメリットがある。いずれにしても、エントリーモデルとしてこうした選択肢が加わったことは歓迎だ。

やみつきになりそうな「T6」の加速フィール

 一方の「T6」は、すでにXC60やXC90でもリポートしているが、セダンのS60に搭載されてどういった印象になるのかも興味深いところだ。なお、60シリーズの「T6」はAWDのみで、R-DESIGNとの組み合わせとなる。また、XC90の「T6」とは細部の仕様や静粛性への対策などが異なり、最高出力もXC90の320PSに対して306PSとやや下まわるものの、いずれにしても動力性能は強力そのものだ。

 ドライブすると、アクセルの踏み込みに対して遅れなく応答するスーパーチャージャーならではのレスポンスがまず快感だ。踏み始めからクラッチの切れてスーパーチャージャーの作動が終わる3500rpmの少し手前まで、ドンと前に出る瞬発力はなかなかインパクトがある。

スーパーチャージャーとターボをともに装着する「B420」型の直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジン。最高出力225kW(306PS)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2100-4500rpmを発生し、8速ATと組み合わせてJC08モード燃費は13.6km/L

 初期ゲインが高めでやや唐突にトルクが立ち上がる傾向ではあるが、むしろそれを楽しみたい人に向けているのが「T6」だ。もちろん、ていねいなスロットルワークを心がければあまりギクシャクすることもない。

 そして3500rpmから上では、いかにも容量の大きいターボらしい伸びやかな加速を味わわせてくれる。8速ATもいい仕事をしている。同じT6でもXC60やXC90とはやや異質で、動力性能の高さをアピールしているような印象がある。このパワフルさみなぎる加速フィールはやみつきになりそうだ。

 少しだけミャーミャーというスーパーチャージャー特有の音が聞こえるものの、けっして不快なほどの音量ではない。車内に対するパワートレーン系の音の侵入については、クルマ自体の性格もあってかXC系のほうが抑えられているようだ。

R-DESIGN専用の本革/パーフォレーテッドレザー・コンビネーションシートを標準装備。ステアリングも専用形状に変更される
高級宝飾時計などで用いられる「ジュネーブ・ウェーブ」をセンターコンソールの加飾パネルに与え、精緻さや高級感を演出
トランクリッドに「A6」「AWD」のバッヂを装着

 フットワーク面でも、AWDらしい操縦安定性はもとより、従来の6気筒時代よりもノーズが軽くなり、スポーティな印象が高まったところもよい。

「T6」のエンジン性能とAWDのシャシー性能、R-DESIGN専用の内外装、充実の安全装備を併せ持つ、60シリーズの量販モデルにおける最上級グレードの世界が600万円台前半で手に入るというのはなかなか魅力的な話ではないだろうか。とりわけこの動力性能をドイツの“プレミアム御三家”で手に入れるとなると、さらに200万円~300万円ほどの出費が必要になる。そう思うと、「T6」はますます買い得感も高いように思えてくるのだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛