インプレッション

約20年ぶりの直6復活劇! メルセデス・ベンツ「S 450」に公道で乗った

直6ターボ、ISG、電動スーパーチャージャーのマッチングはいかに

チャレンジングな直6エンジン

 あらためて数えてみると、これまで筆者が25台の愛車を乗り継いできたうち10台が直6エンジンであることに気づいた。実に5分の2の比率。自分でもちょっと驚いた。内訳はトヨタ自動車が4台、メルセデス・ベンツが3台、BMWが2台、日産自動車が1台なのだが、すでにトヨタも日産も直6を作っておらず、BMWもすっかり4気筒がメインとなっているのはご存知のとおりだ。

 思えば直6を持つメーカーは、いまやV12を持つメーカーよりもはるかに少ない。とはいえ直6を好む人は少なくない。にもかかわらず、世の中からどんどん直6が消えていくにつれ、もてはやされているものをなぜやめるのか? という思いはずっとあった。

 そんな中での、もうないものと思っていたメルセデスの約20年ぶりの直6復活劇が大いに話題となっているようだ。なぜメルセデスが再び直6を手がけたのかを報じた過去記事もかなり読まれたらしく、それも「直6」というものに特別な何かを感じている人がいかに多いかの表れに違いない。

 とはいえ、当のメルセデスにとってはBMWのように“駆けぬける歓び”を追求する一環として直6を選んだというよりも、つまるところ吸排気レイアウトをシンプルにできるという利点を重視したことが最大の理由と、はなはだ冷静な様子なのだが、カタログなどを見ると走りを匂わせる表現も見受けられ、そのあたりは大いに気になるところだ。

今回試乗したのは1997年の「M104」エンジンの生産中止以来、約20年ぶりの採用となる直列6気筒エンジンに、三菱電機と共同開発したエンジン出力軸直結型のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、電動スーパーチャージャー、メルセデス初採用の48V電気システムなどを組み合わせた「S 450」。撮影車は中間グレードの「S 450 エクスクルーシブ」(1363万円)で、ボディサイズは5125×1899×1493mm(全長×全幅×全高。スペックは欧州参考値)、ホイールベースは3035mm
エクステリアではツインルーバーのフロントグリルやワイドなエアインテークを採用。リアバンパー下部のデザインも変更され、左右のエグゾーストエンドを結ぶワイドなクロームトリムを採用している
ブラックを基調にしたインテリア。デザインなどで他のSクラスと大きな違いはない

 このパワートレーンは非常にチャレンジングなもので、直6であることに加えて、スターターと発電機を兼ねた「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」をはじめ、48V電気システムや電動スーパーチャージャーを搭載するなど、先進技術に関心のある人にとっても目を向けるべき要素が多々ある。

 ボンネットフードを開けてエンジンカバーを外すと、事前に聞いていたとおり、補機類のベルトがないことと、エンジンがとてもコンパクトなことが確認できる。排気側には1基のターボチャージャーが付くが、触媒やカムシャフトなどV型エンジンであれば各バンクに2個ずつ必要となる諸々のパーツが1個で済むのも、言うまでもなく直列エンジンのメリットであり、それも今回メルセデスが直6を選んだ理由のうちだという。

S 450が搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「M256」エンジン。最高出力は270kW(367PS)/5500-6100rpm、最大トルクは500N・m(51.0kgf・m)/1600-4000rpmを発生。エンジンの直列化により、エンジン左右のスペースに補器類を配置することが可能になったことに加え、従来はエンジン回転を動力源としていたエアコンディショナー、ウォーターポンプなども電動化されたことから、エンジン前部のベルト駆動装置が不要となりコンパクト化に成功している。なお、V型エンジンの開発について、V8に関しては生産も開発も引き続き行なわれるが、V6の開発は終了するとのこと

レスポンスがよく力強い

 今回は東京 六本木をスタートして少し一般道を走り、首都高速道路に乗って東京湾アクアラインを経由して房総半島に渡るというルートを往復した。

 エンジンとATの間でオルタネーターとスターターの機能を兼ねるISGがもたらす恩恵は、エンジンスタート時から早くも始まる。エンジンがかかるまでに要する時間が短く、静かで振動もなくスムーズに目覚める。同様にアイドリングストップからの再始動も素早くスムーズで、アイドリング時のエンジン回転数を520rpmと低く抑えることができるのも、このシステムの特徴だ。

往路(六本木~房総半島)はV型8気筒DOHC 4.0リッター直噴ツインターボエンジンを搭載する「S 560 4MATIC long」に試乗。ボディサイズは5255×1900×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3165mm。価格は1699万円

 さらには、16kWの最高出力と250Nmの最大トルクを生み出すISGによるブースト機能と、ターボチャージャーによる過給が十分に得られるまでの領域を担う電動スーパーチャージャーのおかげで、ターボラグを感じさせることもなく、発進から流れに乗るまでの時間も短くて済む。アクセル開度が小さくてもより力強く加速が立ち上がり、踏み込めば瞬発力のある加速を示す。これには48Vに高められた電気システムのおかげで、より瞬時に高い出力を得ることができるのも効いているに違いない。

 一方でアイドリングストップについて、2秒以下のエンジン停止ではかえって燃料消費を悪化させることから、走行データやレーダーセンサーの情報をもとに、エンジンが2秒以上停止しないと予測した場合には、あえてエンジンを停止しない設定とされているのも特徴だ。

 アクセルの踏み込みに連動してメーター内にある「E-POWER」の表示も動き、アクセルOFFにするだけでも大きくチャージ側に振れる。ちょっと気になったのは、低速域での緩加減速時にときおり若干のカクカク感があることだ。おそらくスーパーチャージャーのON/OFFや回生ブレーキによるものと思われるが、パーシャルスロットルで20~30km/h程度でおとなしく走っている状態からごくわずかに踏んでもグンと飛び出し感をともなうことがある。むしろゼロスタートのほうが気にならない。このあたりの制御は難しいのだろうか。おそらくそのうち改善されるものと思われるが、現状こうした症状が見受けられることもお伝えしておこう。

直6ならではのフィーリング

 肝心のエンジンフィールは上々だ。新開発のM256型のエンジン単体でのスペックは最高出力270kW(367PS)、最大トルク500N・mと、従来のエントリーモデル「S 400」に搭載されていた276M30型と同値で、最高出力の発生回転域が微妙に異なる。

 レッドゾーンは6300rpmから。Sクラスのような性格のクルマだと高回転まで回すこともそうないと思うが、ブーストがかかり中速域から力強く伸びやかに加速していくさまは、なかなか快感だ。このとき静粛性が高い中にも微妙に聞こえるエンジンサウンドは、まさしく直6ならでは。吹け上がりは極めてスムーズで振動が小さく、音質も澄んでいる。これにはフリクションロス低減のため、エンジンのオフセット搭載やシリンダーウォールへの摩擦低減加工などが効いているのだろう。メルセデスの直6を3台乗った筆者にとっても、このフィーリングには懐かしさとともに、20年分の進化を感じた次第である。

 フットワークの印象も、Sクラス自体がマイナーチェンジで洗練度を深めたことはすでに確認済みだが、心なしかさらによくなったように感じられた。V6の276M30型に対して部品点数の減少によりエンジン単体の重量は軽くなっているはずで、それが効いているようだ。

 直6の復活を喜ばしく思うのはもとより、メルセデスが送り出した画期的なシステムの先進性と実力は非常に注目に値するものであり、今後の展開にも大いに期待したいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛