インプレッション

フォルクスワーゲンの新世代ディーゼル搭載車「パサート TDI」(車両型式:LDA-3CDFC)が上陸。その仕上がりは?

街中から高速までどこでも気持ちよく走れる万能選手

最新のディーゼルエンジンが日本上陸

 1970年代に、コンパクトカー市場を騒然とさせたクルマがあった。1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載したフォルクスワーゲン「ゴルフ」である。そのディーゼルエンジンは、構成パーツの90%以上をガソリンエンジンと共用し、重量差をわずか15kgに抑え、騒音や振動といったディーゼルエンジンの弱点を克服したもので、それまでコンパクトカーには不向きと思われていた概念を見事に打ち崩したものだったという。経済性や整備性に優れたディーゼルエンジンはユーザーにも歓迎され、当時は「パサート」や「LTシリーズ」といった多くのモデルに、続々とディーゼルエンジン搭載仕様が加わっていった。

 それから半世紀近くの時を経て、フォルクスワーゲン最新のディーゼルエンジンが、ようやく日本導入を果たした。2012年からフォルクスワーゲンが進めてきた生産モジュール「MQB」に基づいて開発された、「MDB(モジュラーディーゼルエンジンシステム)」の基幹ユニットとなる「TDI」である。その日本導入の先陣を切ったのは、2.0リッターのターボディーゼルエンジンを搭載した「パサート」および「パサート ヴァリアント」。

 なぜゴルフではないのか? という問いに対し、フォルクスワーゲン グループ ジャパンは日本の輸入ディーゼル車市場の動向を理由の1つに挙げている。2012年以降、日本のディーゼル乗用車販売は拡大傾向にあり、輸入車も年間総販売台数の2割を超えるまでにシェアが伸びているという。中でも、パサート/パサート ヴァリアントが属するミッドサイズセダン/ワゴンクラスが最もディーゼル車が多く揃う。そうしたユーザーの要望に応えるとともに、これまでのガソリンターボエンジン「TSI」、プラグインハイブリッド「GTE」にディーゼルターボエンジン「TDI」を加えることで、パサートシリーズ全体の魅力アップを図っていくのが狙いだ。

今回試乗したのは、2月14日に日本初導入となった新世代のターボディーゼルエンジンを搭載するミッドサイズセダン「パサート TDI」。写真は上級グレードの「パサート TDI ハイライン」(489万9000円)で、ボディサイズは4785×1830×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2790mm
セダン、ヴァリアントともにTDIではLEDヘッドライト/LEDテールランプを標準装備。ACC(アダプティブクルーズコントロール、全車速追従機能付)、レーンキープアシストシステム「Lane Assist」、渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」、レーンチェンジアシストシステム「Side Assist Plus」、プリクラッシュブレーキシステム「Front Assist」といった先進の安全装備も全グレードに備わる
ハイラインのインテリアでは、9.2インチの大型ディスプレイを採用する「Discover Pro」を標準装備。撮影車はデジタルメータークラスター「Active Info Display」、アラウンドビューカメラ「Area View」、電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」などをパッケージ化したオプション設定の「テクノロジーパッケージ」を装着
「Discover Pro」の表示例。ナビゲーション表示に加え走行モードの選択なども行なえる
トランク側から後席を倒せるトランクスルー機能が備わる

 現行パサートは、2015年に8代目モデルとして日本デビューした。2017年の「アルテオン」の登場でフラグシップの座は譲ったものの、フォルクスワーゲンらしい落ち着いたデザインや、丁寧で上質な走りと装備の数々は満足度が高く、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2015を受賞しているモデルである。そこに最新のディーゼルターボエンジンが組み合わさると、いったいどうなるのか。興味津々で試乗をスタートした。

直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力140kW(190PS)/3500-4000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpmを発生。NOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)の削減技術として、約2000barもの超高圧で燃料の軽油を燃焼室内に直接噴射する「電子制御式コモンレールシステム」や、排気ガス中のPMを吸着する「DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)」、尿素水溶液「AdBlue」を使用して排気ガスを窒素(N2)と水(H2O)に還元する「SCR(選択触媒還元)システム」などを採用し、日本の環境基準であるポスト新長期排ガス規制に適合する

余裕や上質感が常に味わえる万能選手

 まず驚いたのは、その静かさ。ディーゼル特有の大きな音は、車内にいればほとんど気にならないモデルも多い中、パサート TDIは車内はもちろんのこと、車外で聞いていてもそれほど耳障りにならないほどに抑えられている。そしてブルブルという振動も気にならず、このクラスのセダンにふさわしい優雅な空間が保たれていた。

 そして走り出すと、アクセルワークに忠実に引き出される加速フィールはとても紳士的なものだった。わずか1900rpmで400Nmという強大なトルクを引き出すスペックだが、こちらの意思に反してグワッと前のめりになることがなく、悠々とした余裕を感じさせながらもあくまで滑らか。加速するたびにとても満たされた気持ちになる。

 TDIのターボチャージャーには、可動式ガイドベーンという排気ガスの流れを制御する可変機構が採用されている。これは、エンジン回転数が低いときにはガイドベーンの開口面積を小さくし、排気の流速を上げて過給効率を高め、高回転になると開口面積を大きくして抵抗を減らし、排気圧力を下げて損失を抑えるというもの。つまり、ディーゼル特有の力強さを状況に合わせて最も効率よく導き出し、街中から高速、山道などまでどこでも気持ちよく走れるのが大きな魅力だ。

 とくに今回は、山梨のぶどう畑が連なる中を、クネクネと続く細い一般道を走る機会があったが、30~40km/hくらいで右へ左へとカーブを切るようなシーンでも、持て余すことがなくキビキビと走れることに感心した。そして高速道路に入れば、それほどエンジン回転を上げなくても、スルスルと伸びていくような爽快感が続く。一気に追い越しをかけたい瞬間的な加速では、背中を押されるほどの力強さも得られるし、それはちょっと官能的とも言えるほど。ガソリンやPHVのパサートでは見られなかった、新しいパサートを知ったようでドキドキしてしまったのだった。

 気になる燃費や排出ガス浄化システムについては、約2000barという超高圧で軽油を燃焼室内に直接噴射する電子制御式コモンレールシステム、排気ガス中のPMを吸着するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)、そしてデュアルサーキットEGR(排気再循環)システムと、AdBlueを使用するSCR(選択触媒還元)システムを採用。排気ガスに含まれるNOxやPMを徹底的に低減させて、世界で最も厳しいと言われる日本のポスト新長期排ガス規制をクリアしている。

 ちなみに乗り続けるにはAdBlueの補充というメンテナンスが必要となるが、13Lタンクから1000km走行ごとに1.5~2.0Lほどが消費されるというから、およそ6500km走行でカラになる計算。年間走行距離が2万kmを超える我が家では、年に3回は補充しなくてはならず、同じように走行距離が多い人にはちょっと面倒に感じるかもしれない。

 とはいえ、パサート TDIの走りは日本の道路事情にも合った扱いやすさに加え、余裕や上質感が常に味わえるという万能選手。同クラスのディーゼル車はややスポーティな味付けが強いモデルが多い中、優雅に乗れるディーゼルセダンとして、メンテナンスの手間を差し引いても強く惹かれる1台である。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:中野英幸