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【インタビュー】フォルクスワーゲン、先進ディーゼルエンジン開発部長のポット博士が将来について返答

もしディーゼルが禁止されてしまうとCO2低減の目標実現が今以上に難しくなる

2018年2月15日 実施

フォルクスワーゲンAG 先進ディーゼルエンジン開発部長のエッケハルト・ポット氏

 フォルクスワーゲン グループ ジャパンは「パサート TDI」「パサート ヴァリアント TDI」の日本導入に際して、ドイツからフォルクスワーゲンAG 先進ディーゼルエンジン開発部長のDr. エッケハルト・ポット氏が来日した。報道機関の共同インタビューに応えたので、その様子を紹介する

 ポット氏はフォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの特徴や今回の日本仕様のエンジンに始まり、今後のディーゼルを含めたハイブリッドの可能性、さらに欧州での規制などについて応えた。


――フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの特徴はなにか?

ポット氏:いくつかの要素があるが、エンジンのサイズ、設計、ターボチャージャーのシステムの間に相互作用があり、そのあたりがパフォーマンスに重要な影響がある。ターボチャージャーのレイアウトはサプライヤーのものではなくフォルクスワーゲン独自のレイアウトなので、高トルクといったバランスが取れたものになっている。

 燃焼プロセスにおいては、インジェクションの部分はパートナーのボッシュが手がけているが、フォルクスワーゲン独自設計で、インテークマニホールド、インタークーラーが一体化しているので、後処理後の排圧の低減が最小限に抑えられている。

 その結果、トランスミッションのDSGとエンジンの最適化が図られ、CO2の低減や有害物質の全体的な低減を図るところが優れている。クルマを運転してもらうと、「これはフォルクスワーゲン」と感じていただけるようになっている。

――フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの先進的なところはどこか?

ポット氏:ターボチャージャーに関しては、タービンのコンプレッサーの設計部分が挙げられる。排ガスはすべてターボチャージャーの中を通るが、高度な部分はシステムレイアウトにある。後処理部分がエンジンと一体化し、水冷のマニホールドの部分も統合化が図られている。それに加えてデュアルEGRシステムも優れていると言える。

 システム全体がコンパクトにできている一方で、インタークーラー、EGRシステムは我が社独自のもの。水冷式のインタークーラーを最初に市場に出したのもフォルクスワーゲンだが、チャージされたエアーの冷却がこれによって大きく変わる。また、冷却の水を止めて冷間始動を行なうとその熱を触媒の効率化に使うことができる。

 排気の後処理システムについても、1つのパッケージにまとめることに成功。DPFシステムにおいても、一方でディーゼルフィルターがあり、もう一方ではNOx低減が効果的に行なえるようになっている。

エンジンと後処理システムのレイアウト(2月14日のイベントより)

――日本向けのディーゼルエンジンはドイツ向けとは違うものなのか?

ポット氏:ベースアーキテクチャは共通。日本仕様のエンジンは実はハードウェアにしてもキャリブレーションにしても、ヨーロッパのものと100%同じもの。型式認定に関しては若干違う仕様としているが、基本的には同じ。排ガス規制のために触媒を変えたりする必要もなかった。

 欧州向けと日本向けのエンジンのキャリブレーションが全く同一ということは、もし、日本市場においてディーゼルの需要が急激に立ち上がった場合、それに対してエンジンの種類を増やすなど、供給を増やすことに技術的な障害はないことになる。

――ディーゼルは大型トラックでダウンサイジングが進んでいる。フォルクスワーゲンのディーゼルでダウンサイジングは進むのか?

ポット氏:ガソリンエンジンでダウンサイジングが進んだのは自然吸気からターボの過給へと変化があったからだ。ディーゼルエンジンのターボチャージはそれよりも10年~15年くらい前に始まっていて、1990年代半ばにはディーゼルは100%ターボチャージになっていた。

 将来に向けての課題ということではディーゼルエンジンのエミッションが重要で、排ガスの後処理行程の効率を上げていくことと同じくらいの重要性を持っている。そのため、エンジンアウトのエミッション部分には小さ過ぎないエンジンのメリットがある。また、ターボラグを減らすという意味では、エンジンの排気量は大きめのほうがスムーズな走りが実現できる。


――排出ガス規制の将来についてはどういう対策をしているか? 仮に“ユーロ7”になったらディーゼルエンジンは規制をクリアできないのではないか?

ポット氏:実は“ユーロ7”対応は個人的なミッションとなっている。まだ、どのくらい厳しい規制になるかは一切明らかにされていない。そこで、フォルクスワーゲングループはある程度自社で推定をしている。NOxレベルで5割減、中国の「国6」に近い数値を想定している。ただ、社内の想定に過ぎず、EUの公式見解はまだない。

 そして、将来の規制によって、ディーゼルをやめるということは考えられない。欧州の市場におけるディーゼルのシェアは大きく、やめる選択肢はない。技術的に、想定した“ユーロ7”対応は可能だと考えていて、後処理の最適化とエンジンアウトのエミッション低減、この両者を組み合わせたアプローチで対応できると思う。

――ディーゼルの騒音は小さくできないのか?

ポット氏:ここ数年、騒音の問題は大幅な改善をしていて、現行のディーゼルエンジンはフォルクスワーゲンがこれまで開発したなかで最も静音性能が高いものになっている。

 ただし、一般的にみてディーゼルエンジンの効率はどこから来ているか、燃焼のプロセスがガソリンエンジンに比べて若干ラフであるとか、ガソリンエンジンと同じようなスムーズな燃焼をするとなると、せっかくの効率を損なうことになる。

 音は燃焼プロセスそのものから発するものなので、ガソリンエンジンと同じように静かにした結果、燃焼効率もガソリンエンジンと同じになってしまうディーゼルエンジンなら作る意味はない。もちろん、技術的にできるだけ静かなエンジンを作るのも開発目標ではある。

――電動ターボの可能性はどうか?

ポット氏:電力をどれくらい必要とするかということになるので、110kWぐらいのエンジンであれば電動ターボの必要はない。もし、140kWといった高い出力を出す場合は条件を満たせる。電動ターボはテクノロジー的には面白いもので、適切に動かすためには48V電源が必要になる。

 そして、電動ターボは代替するものでなくアドオンとして使うものになる。従来型のターボも常に使っていくことになる。エンジンアウトのエミッションを低減することについては電動アシスト型のターボでよい結果が出ている。ただし、タービンを回すことに関して排ガスのパフォーマンスの影響は小さい。

――2025年にハイブリッド車が30%という目標があるが、ディーゼルハイブリッドはあるのか?

ポット氏:マイルドハイブリッドであれ、プラグインハイブリッドであれ、ディーゼルであれ、ハイブリッドの需要が市場で高まれば、技術的制約は何もない。メルセデスが春からヨーロッパで48Vハイブリッドシステムを使ったディーゼルハイブリッドを出すと発表したので、顧客がどのような反応をするのか注視したい。

 そして、ディーゼルの48V電源のマイルドハイブリッドの可能性ももちろん検討している。プラットフォーム上で48Vハイブリッドシステムの搭載ができるようになったらガソリンでもディーゼルでもできると思う。ディーゼルでもガソリンでも同じ48Vハイブリッドシステムを使えるからだ。

2025年のフォルクスワーゲンのエンジン比率(2月14日のイベントより)

――ディーゼル不正問題以後、ドイツでのディーゼルに対する意識の変化は?

ポット氏:この問題によるインパクトは短かった。最近になってディーゼルの需要の変化があるが、これはヨーロッパの環境ゾーンにおけるディーゼル車の利用禁止が実現するかどうかという不透明性が元になっているものだと思う。

――新しいパサートに対しては、車両の後方に「TDI」のバッヂがないのはなぜ?

ポット氏:それはデザインの問題で、私は重視していない。(フォルクスワーゲングループジャパンによると、ドイツ本国の決定で、今後、TDIだけでなくガソリン車のTSIのバッヂも付かないとのこと)

――ボルボがガソリンやディーゼルエンジンを廃止と言っているが、それについてはどう考えている?

ポット氏:ボルボのプレスリリースが具体性を欠くので調べたら、ニュアンスが違っていて、開発は進めるということ。新しいファミリーの開発はせずに現行のエンジンを進化させることは続けるということだ。それから、標準技術として48V電源のマイルドハイブリッドに移行すると言っている。


――ディーゼルは環境的に厳しい立場にあり、今後、政治的に潰される可能性はあるのか?

ポット氏:技術という側面から見ると、政治によって技術が捻じ曲げられることは妥当ではない。ディーゼルのよしあしや、EVがよいとか、ハイブリッドがよいとか、そういう話を政治的な議論ですべきではない。もっと大事なのは、できるだけ早い段階で、NOx低減をしようとかPM低減をしようとか、そういう話ではないだろうか。

 そのため、環境に対して重要な要素や、対応するためにいちばんよいテクノロジーを用意するべきで、もし、ディーゼルが禁止されてしまうとCO2低減の目標実現が今以上に難しくなると思う。