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フォルクスワーゲン、新ディーゼルエンジン日本導入記念イベント開催。先進ディーゼルエンジン開発部長のエッケハルト・ポット博士による基調講演

開発プロセスが変わったことで「2015年のディーゼル不祥事のようなことは起こらない」

2018年2月14日 開催

フォルクスワーゲンAG 先進ディーゼルエンジン開発部長のエッケハルト・ポット氏

 フォルクスワーゲン グループ ジャパンは2月14日、同日に発売した「パサート TDI」「パサート ヴァリアント TDI」の日本導入記念イベントとして、都内でディーゼルエンジンに主眼を置いたトークショーを開催。先立って行なわれた国際モータージャーナリストの清水和夫氏による基調講演の模様は別記事で掲載したが、本稿ではドイツから来日したフォルクスワーゲンAG 先進ディーゼルエンジン開発部長のエッケハルト・ポット氏の基調講演を紹介する。

 ポット氏はパサート TDIシリーズに搭載する「EA288」型エンジンについての排出ガス浄化システムの説明を行なったほか、フォルクスワーゲンのパワートレーン戦略についても説明。ユーザーの利用形態に合わせたパワートレーンの選択肢を提供し、そのなかの1つとしてディーゼルエンジンも長期的に必要なものとして改良を続けると明言した。

先進ディーゼルエンジン開発部長のポット氏が説明

 ポット氏は1991年にフォルクスワーゲングループに入り、エンジン開発に携わってきており、先進ガソリンエンジン開発部部長、軽商用車向けディーゼルエンジン開発部長を歴任し、2017年1月から先進ディーゼルエンジン開発部長に就任している。

 ポット氏はまず、ディーゼルエンジンについて「出力とトルクの特性をガソリンとディーゼルで比較すると、最終的に出力は同じだが、ディーゼルエンジンは大変強いトルクを1000rpmから3500rpmくらいの低回転から発生している。ファン・トゥ・ドライブで、特に混雑した状況や、都市部における状況では感じていただけると思う」と説明した。

 そして「長所として、なぜディーゼルを世界的に訴求しているかというと、やはり燃費に優れているから」とディーゼルエンジンの魅力の1つに燃費を挙げ、「ドイツのインターネットサイトでドライバーが燃費を公開しているサイトがあるが、ディーゼルとガソリン、同じパワーで比較するとディーゼルは20%ほど高く(よく)なっている」と解説。

ディーゼルとガソリンの燃費比較
エンジンの基本構造
高圧、低圧の2つのEGR
低負荷、冷間時は高圧EGRを使う
エンジンが暖まってくると2つのEGRを使う
高負荷になると低圧EGRを使う

 新型パサートが搭載する「EA288」型ディーゼルエンジンについては、「現行世代では低燃費、運転する楽しさ、低排出ガスレベルの3つを実現。基本構造は2本のバランサーシャフト付きのベースエンジン、バルブ駆動系モジュールを組み込んだシリンダーヘッド、吸気では新しい吸気システムと組み込まれたインタークーラー、高効率な排出ガス後処理システムを備えている」とした。

シリンダー圧力制御も世代で変化している

 特徴的なEGRシステムについては低圧用と高圧用の2組を搭載しており、冷間時には高圧EGRの比率を高め、エンジンが暖まってくると低圧EGRのみとし、冷間時、高温時ともエミッションとCO2削減を行なったという。

 また、シリンダー圧力制御については「エミッションを抑え、燃費を向上させるためには、燃焼行程中のシリンダー圧力を制御する方法が有効。これは、私たちのすべてのディーゼルエンジンで実現している。第1世代では4つの圧力センサーを使って燃焼制御を行なっていたが、第2世代では戦略を若干変え、エンジンスピードセンサーを使うようになった」と説明する。

 その一方で、エンジンから出た排出ガスの後処理も必要。酸化触媒でハイドロカーボンとCOの変換を行ない、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)で微粒子とNOxを低減する際、アドブルーの噴射が必要となる。

 ポット氏は「NOx低減の効率を最大化するのはSCRのシステムの上流でとても緻密なアドブルーの均一性が求められる」とし、「従来のアドブルー噴射モジュールではその均一性が満足できなかったので、ツインジェット噴射モジュールを開発。均一性を達成できただけでなく、燃料消費とエンジン性能を達成できた」と説明した。

SCR排ガス処理システムのレイアウト
アドブルーを噴射する
酸化触媒(NSC)/SCR併用システムのレイアウト
SCRシステムの作動範囲
酸化触媒(NSC)/SCR併用システムのメリット
床下SCR触媒(ツイン噴射)で排出物を低減

あってはならないことから多くを学び、将来の規制強化の準備も進める

 次に、2015年に発生した「EA189」型ディーゼルエンジンの不正問題にも触れ、「この数年間、あってはならないことから多くを学んだ。エンジンECUを改造することなく、最も厳しい排ガス基準を満たすことができることを証明する。日本をはじめとした国々の厳しい基準を満たし、お客様の期待に応える」と説明した。

 フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンがどう変化したのかについては、ADAC(ドイツ自動車連盟)のRDE測定を示し、「2017年の夏、ADACが自動走行状態での排ガステスト結果を公表した。フォルクスワーゲングループは上位3メーカーの一角を占め、テストベンチでも実働走行でも強い」と強調した。

ADAC(ドイツ自動車連盟)によるRDE測定
ADACによるメーカー別のNOx平均排出量

 また、ポット氏は今後の規制の見通しについても触れ、「世界の大都市の大気の状態はこの数年間あまり改善されていない。クルマの増加によって各車両の削減効果が相殺されているから」とし、「長期的には大幅な排出量の削減規制が実施されると予測している。当局による確定はしていないものの、今後10年以内に実施されるであろうシナリオに対する準備を進めている」と自信を見せた。

今後の排ガス後処理の可能性

電動車比率が上がっても内燃エンジンの開発は不可欠

 一方で、フォルクスワーゲンは2025年にEV(電気自動車)の比率を25%にするという目標を掲げている。ポット氏は内燃エンジンの開発を続けるかという問いには「Yes」と答えている。その理由として「EVが25%ということは、内燃エンジンのパワートレーンが75%ということ。そのなかにはハイブリッド車も含まれるが、75%という数字は内燃エンジンのさらなる開発が不可欠ということを明確に示している」とした。

2025年のフォルクスワーゲンのパワートレーンラインアップ

 さらに「重量の重いSUVや商用車、長距離を走るクルマにとっては、ディーゼルエンジンがもっとも費用対効果の高いドライブトレーンと言える」と加え、「フォルクスワーゲンは長期的視野に立って、お客様のご要望に応え、同時に法的要件を満たしていくためにも、ディーゼルエンジンの開発を続けていく」と、引き続き開発を続けていくことを明言した。

CO2ニュートラルな燃料の可能性もあり、ディーゼルエンジンはフォルクスワーゲンのパワートレーン戦略で重要な一部

 また、化石燃料を使わないCO2のニュートラルな燃料の可能性も解説した。電力は製造と同時に消費することが理想で、途中、蓄電池などで大量に貯めこむのは難しい。そこで太陽光発電、風力発電、水力発電といった再生可能電力から水素を作り、水素としてエネルギーを保存する方法をさらに進めてe-Diesel、e-Petrol、e-gasといった再生可能電力を元にした燃料である「合成燃料」を製造する方法が考えられている。

フォルクスワーゲンの燃料戦略
CO2ニュートラルな再生可能燃料の生産行程

 このことについて、ポット氏は「CO2を出さないモビリティを実現するという長期的な目標を考えると、化石燃料やそれで発電した電気を用いることは今後10年でより厳しく制限されることになる。再生可能な燃料や合成燃料の利用増加は、CO2を減らす第2の策としてe-モビリティ戦略の有効な手段となる」と説明。CO2ニュートラルで製造したe-Diesel、e-Petrol、e-gasは「これらの燃料はソフトやハードを変えることなく、そのまま、あるいは混合燃料として使うことになる」と説明した。

 講演の最後に、ポット氏はまとめとして「現行のフォルクワーゲンのディーゼルエンジン車は競争力のある技術コンセプトを提供」「独立機関の排ガス測定で上位ランクを占め、NGOも高く評価」「さらなる排ガスの削減レベル達成に向けたコンセプトや手法を開発し、いかなる厳しい開発目標に対しても開発の手を緩めない」とし、「ディーゼルエンジンはフォルクスワーゲンのパワートレーン戦略で長期計画の重要な一部であり続ける」と述べて講演を終了した。

ポット氏の講演まとめ

2015年のようなことは起こらない。開発プロセスが変わったから

 ポット氏の講演の後は、国際モータージャーナリスト・清水和夫氏とモータージャーナリストの石井昌道氏を交えてトークセッションが行なわれた。

 そのなかで、ポット氏は2015年に起こったディーゼルエンジンに関する不正問題について、「テクノロジーは大きく開発された。2015年のディーゼル不祥事のようなことは起こらない。フォルクスワーゲンの開発プロセスそのものが変わったから」と説明するとともに、「独立のNGOが、何が現実の世界のドライブで起こっているかをモニタリングしている」と第三者の監視があることを強調し、モバイルデバイスの普及などにより小さなNGOでもテストを低コストで実施できるようになったことが3年前とは違う点とした。

 トークセッションの最後には、ポット氏から「ディーゼルエンジンを運転を楽しんでいただきたい。日本のお客様のフィードバックをよいものでもわるいものでもお聞きしたい。さらにお客様の満足に向けて改善していきたい」と、日本のユーザーにメッセージが発せられた。

トークショーでのフォルクスワーゲンAG 先進ディーゼルエンジン開発部長 エッケハルト・ポット氏
国際モータージャーナリストの清水和夫氏
モータージャーナリストの石井昌道氏