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【インタビュー】メルセデス・ベンツ「S 450」に搭載する直6エンジンの統括シニアマネージャー、ラルフ・ヴェッラー氏に聞く

直6エンジンやISGシステム、48V電気システムなどその特徴は?

2018年3月1日 開催

新型「S 450」に搭載される直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「M256」エンジンおよびV型ガソリンエンジンの統括シニアマネージャーを務める、独ダイムラーのラルフ・ヴェッラー氏に話をうかがった

 メルセデス・ベンツ日本は、3月1日に新型「S 450」の予約受注を開始するとともに、同モデルの発表会を都内で開催した。新型S 450の価格はベースの「S 450」が1147万円、装備を充実させた「S 450 エクスクルーシブ」が1363万円、全長を130mm長くして後席の空間を広げた「S 450 ロング」が1473万円。

 新型S 450は、同社として1997年の「M104」エンジンの生産中止以来、約20年ぶりの採用となる直列6気筒エンジン「M256」を採用するとともに、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、電動スーパーチャージャー、メルセデス初採用の48V電気システムなど、さまざまな技術を組み合わせたモデル。

最高出力270kW(367PS)/5500-6100rpm、最大トルク500Nm(51.0kgm)/1600-4000rpmを発生する直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「M256」エンジン

 この直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「M256」エンジンは電動化を前提にして設計された初めてのパワーユニットとなり、直列エンジンの採用によって車両前方から見て左側にターボチャージャー、右側に電動スーパーチャージャーを配置するなどエンジン左右のスペースに補器類を配置することが可能になった。また、滑らかな回転上昇や上質なエンジンフィールといった直6エンジン自体の魅力に加え、ウォーターポンプやエアコンプレッサーなどを電動とするベルトレス化によって、エンジン全長の短縮も実現しているのが特徴になっている。

 ISGはエンジンとトランスミッションの間に配置された電気モーター(最高出力16kW、最大トルク250Nm)で、オルタネーターとスターターの機能も兼ねる。この電気モーターと48V電気システムにより、従来のハイブリッド車のような回生ブレーキによる発電を行ない、約1kWhの容量のリチウムイオンバッテリーに充電。エンジンが低回転の時にはその電力を利用して動力補助を行なう。

 また、ターボチャージャーによる効果を得にくい低回転域では電動スーパーチャージャーが過給を行なってターボラグを解消するなど、車両のスタート時は電気モーターが、低回転時は電動スーパーチャージャーが、高回転時はターボチャージャーが動力を補助するという複雑なギミックを持つ。

S 450のボディサイズは5125×1899×1493mm(全長×全幅×全高。スペックは欧州参考値)、ホイールベースは3035mm。車両概要については発表会レポートを参照いただきたい

 そんなS 450について、独ダイムラーのラルフ・ヴェッラー氏にインタビューする機会を得たので、その模様をレポートする。


独ダイムラーでM256エンジンおよびV型ガソリンエンジンの統括シニアマネージャーを務めるラルフ・ヴェッラー氏

――今回のS 450では直列6気筒エンジンを採用したとのことですが、そもそも4気筒エンジンではなく直列6気筒エンジンを採用した理由について教えてください。

ラルフ・ヴェッラー氏:今回はパワーのアウトプットというところに着眼しまして、やはりパワーのアウトプットを高めていくとなると気筒数が多くなければならない。パワーを出しつつ効率というものを考えるとシリンダー数がより必要になる。その答えが6気筒でした。目標値が300kWになりますとかつては8気筒でしたが、今回の直列6気筒エンジンはひと昔前の8気筒エンジン並みの出力を出しています。

――今回V型から直列に変更した理由をもう少し詳しく教えてください。

ラルフ・ヴェッラー氏:V型をやめて直列化した理由としては、エンジン近接型の触媒を採用したかったということ。V型では2つの触媒が必要になり、これではエンジン近接型の触媒を採用するのは難しいのです。また、エンジンを生産するうえで柔軟性を高めることができます。同一の生産ラインのなかで6気筒と4気筒エンジンを生産することが可能になっており、V型になると専用のV型エンジン生産工場が必要になるのです。現状では生産面でも柔軟な対応ができているということです。加えて6気筒、4気筒ともにかなり多くの部品が共通化されており、これによって6気筒エンジンでも安価に提供できるというメリットもあります。

「かつての8気筒並みの出力を誇る」とM256エンジンについて語るラルフ・ヴェッラー氏

――今後V型エンジンの開発は行なわないのでしょうか。

ラルフ・ヴェッラー氏:V6についてはこれで開発を進めることはありません。V8に関しては生産も開発も続行中ですが、V6の開発はこれでやめます。

――ISG搭載に伴い軽量化は行なったのでしょうか。

ラルフ・ヴェッラー氏:ウォーターポンプやエアコンプレッサーなどの補機類をベルトレス化したのは軽量化を狙ったものではなく、(エンジン自体を)コンパクト化することを目的にしたものです。結果としてエンジンの軽量化が図られたわけですが、構造なども最適化することによってエンジン重量は軽くなりました。

――ISGの採用により、燃費とCO2の削減効果というのはどのくらいでしょうか。

ラルフ・ヴェッラー氏:約8%貢献しています。

エンジンヘッドカバーを外したところ。向かって直列6気筒エンジンの左側にタービンを、右側に電動スーパーチャージャーを配置

――直6化ということでエンジンの全長が伸びて開発は大変だったと思いますが、クルマに収めていく中で苦労した点などを教えてください。

ラルフ・ヴェッラー氏:エンジンを収めるために、まずベルトの全廃を行ないました。それからチェーンドライブはエンジンの後ろ側(バルクヘッド側)に置いています。それから各シリンダー間のスペースですが、従来では106mmだったものを90mmに変更しました。ボア×ストロークは83.0×92.0mmで、排気量は3.0リッター。チェーンドライブをエンジンの後ろ側に持っていったのはスペースの問題でやりました。車両の形状を考えますと、エンジンの前側(フロントバンパー側)が下がっているので、エンジンの位置を低くしなければならない。そのためエンジンの後ろ側に収める工夫をしています。

――48V電気システムについて、ウォーターポンプやエアコン、ターボなどはすべて48Vを電源に動いているのでしょうか。

ラルフ・ヴェッラー氏:はい、その通りです。なのでエンジンではベルト駆動を廃止しています。

――12Vのバッテリーも搭載していますか?

ラルフ・ヴェッラー氏:はい、搭載しています。

――今までのハイブリッド車ですと、12Vのバッテリーがバッテリー上がりを起こすと始動できないというのが一般的ですが、今回のモデルではいかがでしょうか。

ラルフ・ヴェッラー氏:12Vのバッテリーと48V電気システムの間で電気の融通ができまして、12Vのバッテリーが上がってしまった場合は電源は48Vの方から供給されます。

S 450の発表会で車両概要について語るラルフ・ヴェッラー氏

――このシステムの話を聞いていると、スタート・ストップの多い東京のような市街地とのマッチングがよさそうですが、例えば日本の高速道路で100km/h程度でクルーズしているとき、このシステムのメリットはどのような場面で得られますか?

ラルフ・ヴェッラー氏:ISGシステムから得られるメリットとして、一番大きいのはやはりダイナミックなドライビングを行なっているときです。一定のスピードでクルージングしているときは、エンジンが停止するグライディングモード(燃料節約を目的にコースティング走行するモード)で経済的メリットを得られるでしょう。やはり燃焼の最適化を行なうというのは非常に大事なことで、そのために摩擦損失の低減に努力し、また燃焼プロセスといった点でも努力を重ねてまいりました。それによって燃料効率も上がってきているのです。

――ドイツなど、街の中で内燃機関のクルマを規制しようという動きがあると思いますが、例えば最高速30km/h、距離にして2~3km程度だけでもモーターのみで走行することは今回のシステムで可能でしょうか?

ラルフ・ヴェッラー氏:ドイツなどヨーロッパで内燃機関のクルマが街中に入ってくることを禁止する規制というのが導入されるというのは聞いてはいないのですが、このシステムでおっしゃったようなことは不可能になっています。と言うのもISGはエンジンとつながっているからで、もしおっしゃったようなことを可能にするのであれば、おそらく高電圧のハイブリッド、それから追加のクラッチが必要になります。エンジンとドライブラインの間を切り離すような追加のクラッチが必要ですね。48V電気システムではクラッチが必要なのと、大容量のバッテリーが必要になるかと思われます。