試乗インプレッション

ボルボ「XC40」はカジュアルな内外装と軽快な走りを持つ“10点満点”のコンパクトSUV

 SUV人気が高まる中でもひときわ光っているように見えるのが、ボルボの最もコンパクトな「XC40」だ。ボルボはその上に「XC60」、そして「XC90」をラインアップしているが、それらが生み出す世界観とはまったく異なる道を歩むことで独自性を持たせ、コンパクトであっても引け目を感じない仕上がりを展開したところに価値を感じる。XC40はそれだけで終わらず、グレード別に異なるテイストを与え、たとえ下のグレードを選んだとしても「値段じゃなく内容でそっちを選んだ」と納得できるのがよいところ。ヒエラルキーを排除したかに思えるその造りに共感し、僕は2018年の「2018-2019 日本カー・オブ・ザ・イヤー」で最高得点の10点を投じた。

 今回はそんなXC40の中でもベーシックに近いグレード、「T4 AWD MOMENTUM」を徹底的に味わうために、北海道 函館までロングドライブを行なう。実車を改めて目の当たりにすると、ちょっとオジサンには気恥ずかしいような気がするほどカジュアルな感覚がある。アマゾンブルーをベースとするボディは、ルーフやホイールはオプションではあるがホワイトカラーに変更。インテリアは革シートではなくファブリック表皮となるのだが、その色合いがまたうまい。すべてがチープに感じさせることはなく、小洒落たカフェのようなイメージに仕立てられている。きっと若者や女性のほうがマッチしているようにも思えるのだが、とはいえこれなら遊びに出掛けるのも、もとい、ロングツーリングに向かう気分も高まるというものだ。

目的地である北海道 函館に渡るフェリーターミナルでの1枚。吹雪のように舞い散る雪で判別しにくいが、試乗車のボルボ「XC40」と筆者
試乗車の「XC40 T4 AWD MOMENTUM」。ボディサイズは4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。試乗車はオプションの電動パノラマ・ガラスサンルーフ(20kg増)を装着して車両重量は1690kg
オプションの「ホワイトカラールーフ」は6万6000円高。ドアミラーも同じくホワイト塗装だが、これはタイヤ&ホイールとのセットオプション
リアハッチに「T4」などのバッヂを装着
ボンネットに樹脂製のスウェーデン国旗のアクセサリーを設定
オプションの19インチ“5スポーク”ホワイト/ブラックアルミホイール(9万円高)を装備。タイヤサイズは235/50 R19で、試乗車はコンチネンタルタイヤ製のスタッドレスタイヤ「バイキング・コンタクト 7」を装着していた
ラゲッジスペースは6:4分割可倒リアシートを前方に倒して拡大可能。ラゲッジスペース右側に格納ボタンを設定
先進安全・運転支援技術の「IntelliSafe(インテリセーフ)」を全車標準装備

 都内を走り出すとコンパクトカーのように軽快に動いてくれるから心地いい。上級グレードのT5エンジンのようにパワフルというわけではないが、8速ATが見事に変速を続け、必要十分に加速をしてくれる感覚もある。ボルボのコンパクトクラスとはいえ全幅1875mmはどうかとも思ったが、都内の路地裏における取りまわしもしやすく、そこにネガを感じるようなことはなかった。また、ドリンクホルダーやボックスティッシュ、そしてゴミ箱から携帯のワイヤレス充電器までをセンターコンソールに備えている使いやすさもありがたい。これならロングドライブも快適だろう。

最高出力140kW(190PS)/4700rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1400-4000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ“T4”エンジン
本革巻/シルクメタル・ステアリングホイールを標準装備
XC40全車で12.3インチ・デジタル液晶ドライバー・ディスプレイを標準装備する
本革巻のシフトセレクター。ATのマニュアル変速はシフトセレクターで行なう
5種類のモード変更で走行性能を変更可能な「ドライブモード」を備える

適度なパワーで雪上走行も操りやすい

 東北自動車道をひたすら北上する今回のルートは、とにかくひたすら真っすぐに続く道から関東北部や仙台手前のワインディングなど、高速道路とはいえ曲がりくねり、しかも登板路が多く存在する。だが、あらゆるシーンでXC40 T4 AWD MOMENTUMは満足に駆け抜けてくれる。真っすぐが続く道ではステアリングもサポートしてくれる「レーン・キーピング・エイド」や「アダプティブ・オートクルーズ・コントロール」が疲れを軽減してくれる。先ほどヒエラルキーを排除した造りと書いたが、安全装備に対してもきちんと備えているところがえらい。もちろん、T4エンジンということもあり、勾配がきつくなればアクセルを積極的に踏み込まねばならないシーンはあるのだが、力不足というわけではない。ATをマニュアルモードにしてダウンシフトしたくなるシーンも多少はあったという程度の話だった。

東北自動車道をひたすら北上。視点が高く、高速道路のロングドライブでも速度感による疲労が少ない

 盛岡で高速道路を降りて近くのワインディングロードを走ってみたが、そこでも軽快な乗り味はなかなかだった。19インチのスタッドレスタイヤを装着しているということを差し引いても十分に舗装路をこなしている。そのワインディングには所々でスノー路面があり、その際には車両姿勢が乱れるのだが、先読みしやすい動きと、手の内に収めやすいコントロール性もあり、恐怖感は一切ない。さすがは北欧育ちといったところだろうか。この先の道中で訪れる本格的な雪道も、これなら心配がないかもしれない。

 再び高速道路に戻ったところで、ロングドライブということもあり運転を交代してもらう。ここでリアシートに移動した。決して広大なスペースというわけではないリアではあるのだが、オプションのパノラマ・ガラスサンルーフが与えられていたおかげで、圧迫感があまりないところが心地よかった。乗り心地についても穏やか。ちょっと疲れたので、ここで仮眠させてもらったが、そこでも嫌な衝撃で起きるようなこともなく、かなり平和だったことを思い出す。

 その後、青森県内に入ったところでいよいよ本格的なスノー路面に突入。そこで再びステアリングを握ってみる。すると、軽快な走り味とパワフルすぎないエンジンが、そんなシーンで実に操りやすいことを知った。路面を的確にとらえ、必要なトラクションをきちんと路面に伝えるその走りは、ホットハッチかと思えるほどの一体感を生み出し、雪深くなってきても不安感は一切ない。パワフルすぎておっかなびっくり操るよりは雪道にマッチしている。このようにXC40 T4 AWD MOMENTUMは、扱いやすく仕上がっていたのだ。

青森県内に入ると、除雪車が出動するほどの本格的なスノー路面に
青森港からフェリーに乗船。3時間ほどの船旅を経て無事に函館に到着した

 もちろん、コンパクトなSUVということもあり、燃料タンクが小さいため北海道に到着するまでには2回の給油が必要になってしまったが、それ以外には物足りなさは感じることがなかった。カジュアルな仕上がりをしながらも、北海道までストレスなく走れたその仕上がりは、改めて共感できる世界観だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛