試乗インプレッション

フォルクスワーゲン「ポロ」の新グレード「TSI R-Line」、スポーティさはGTIよりも上?

150PS/250Nmの新エンジン“1.5 TSI Evo”はサウンドもよく上質

現行ポロ初のR-Lineモデル

 2018年3月の日本導入から同年内に累計約1万台が販売されたという現行「ポロ」に、気になるニューモデルが加わった。標準モデルの上級グレードとなる「TSI Highline」と「GTI」の間を埋める、現行ポロとしては初のR-Lineモデルとなる「TSI R-Line」である。

 最大の特徴は、1.5リッター直列4気筒の新エンジン“1.5 TSI Evo”の搭載だ。その1.5リッターという排気量をはじめ、150PS/250Nmというエンジンスペック、298万円という車両価格とも、まさしく件の両車のほぼ中間という位置付けとなり、R-Lineモデルらしくすべてがスポーティに味付けされている。

 専用パーツを組み合わせたR-Lineパッケージを採用し、足下にGTIと同じ215/45 R17サイズのタイヤを組み合わせた専用アルミホイールを履いた外観は、見るからにスポーティな装いとなる。見てのとおり、標準モデルのHighlineなどとはかなり違った雰囲気を漂わせていて、さりげなくGTIにも負けない存在感をアピールしている。

今回試乗したのは1月に「ポロ」の新グレードとして追加された「TSI R-Line」。直列3気筒DOHC 1.0リッターターボエンジン(95PS/175Nm)を搭載する「TSI Highline」と直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジン(200PS/320Nm)を搭載する「GTI」の間を埋めるモデルで、価格はTSI Highlineが267万9000円、TSI R-Lineが298万円、GTIが348万円となっている。ボディサイズは4075×1750×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm
エクステリアでは専用デザインとなる5スポークデザインの17インチアルミホイール(タイヤサイズ:215/45 R17)やツインエキゾーストフィニッシャーを採用するとともに、専用のバンパー(前後)、リップスポイラー&リアスポイラー、ブラックサイドスカートなどを装備。電子制御式デファレンシャルロック“XDS”、スポーツサスペンションなども用いて走行性能を高めているのも特徴の1つになる。ボディカラーは「ピュアホワイト」「ディープブラックパールエフェクト」とともに、有償オプションの「エナジェティックオレンジメタリック」「リーフブルーメタリック」という計4色設定

 インテリアの装備は基本的にはTSI Highlineに順じるが、ステアリングにパドルシフトが付くほか、ドライビングプロファイル機能を搭載したり、着座感に優れるスポーツコンフォートシートのシートファブリックのラインがボディカラーと同色となるなど、若干の差別化が図られている。TSI Highlineと同じく、ボディカラーによってはダッシュパッドとセンターコンソールも同色となる。

TSI R-Lineのインテリアではステアリングにパドルシフトを標準装備するほか、走行モードとして「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」の4パターンを用意。ボディカラーで有償オプション色を選択すると、インテリアのインパネ加飾とセンターコンソールがボディカラーと同じ色になるとともに、シート表皮にボディカラーと同色のラインがデザインされる

上々のエンジンフィール

“1.5 TSI Evo”と呼ぶ新しいエンジンには、壁面にミクロン単位のくぼみをつけオイルを保持することで、より低摩擦かつコンプレッションの維持を図るとともに放熱性も向上させるというプラズマコーティングシリンダーライナーをはじめ、350barのコモンレール燃料噴射、エンジンサーマルマネジメントシステム、ACT気筒休止システムといった新技術が用いられている。

 エンジンフィールは上々だ。いまや世の中の1.5リッタークラスまでのエンジンは急速に3気筒化が進んでいて、ポロの場合も主力エンジンとして1.0リッター3気筒を据えているが、やはり4気筒は圧倒的に音がよくて上質だ。3気筒では少々気になった低回転域でのガラガラする印象もなく、やや低く響くエキゾーストサウンドが心地よい。

直列4気筒DOHC 1.5リッターターボ「1.5 TSI Evo」エンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpmを発生。なお、JC08モード燃費はTSI Highlineが19.1km/L、TSI R-Lineが17.8km/L、GTIが16.1km/L。いずれも燃料タンク容量は40Lとなっている

 GTIほどではないにせよ、加速感もパンチが効いていてなかなか力強く、瞬発力もある。さらにはコーティングなどいろいろ採り入れた新しい技術も効いて、吹け上がりが非常にスムーズであることも印象的だ。

 TSI Highlineと同じ2枚のクラッチを持つ乾式DSGの宿命で、発進や細かい動きではやや飛び出しやジャダーを感じるのは否めず、そこは湿式多板クラッチのDSGが与えられるGTIとの違いを感じる部分ではあるものの、走り出してしまえばパドルシフトを操りDSGの醍醐味である歯切れのよいマニュアルシフトを楽しむことができる。

 このエンジンは気筒休止機構を備えているのもポイントだが、かつてのように2気筒になったときに重々しい音になることもなく、変化はとくに感じられない。そうした部分も進化している。また、ECOモードを選び、条件が揃うとコースティングを行なうのも特徴だ。今回は正確には計測していないが、感触としては実走燃費もかなりよさそうだったこともお伝えしておこう。

刺激的なフットワーク

 専用のスポーツサスペンションやGTI譲りの電子制御式デファレンシャルロック“XDS”が与えられるフットワークもなかなか刺激的で、ドライブしていてとても楽しい。もともとポロの美点である精度が高く一体感のあるハンドリングにもさらに磨きがかけられていて、操舵に対して応答遅れを感じさせることなくノーズが向きを変え、XDSも効いてか、そのまま狙ったとおりにラインをトレースしていける。その寸分違わぬ正確性には感心せずにいられない。

“Sport Select”シャシー付スポーツパフォーマンスキットは、ノーマルモードでもかなり引き締まっているところ、スポーツモードを選ぶとよりステアリングの手応えが増し、姿勢変化が小さくなる。

 かたや可変ダンパーのDCCを備えたGTIの現行型は、兄貴分の「ゴルフ GTI」に通じる上質さや洗練度を追求したように思われ、DCCゆえコンフォートモードも選択可能であるのに対して、動力性能では及ばないにせよ、むしろR-Lineのほうがスポーティさでは上まわるように感じられたほどだ。

 ただし、リアシートにも乗ってみたところ、硬めの足まわりながら跳ねや突き上げがそれほど気にならなかったフロントとは大なり小なり印象が違って、路面への感度が高く、それなりに感じるものはあった。後席に座る同乗者には少々配慮する必要があることはお伝えしておこう。

「GTIに次ぐスポーティな走りを実現したモデル」との説明もあったが、全体としてはGTIと同じ路線でその下に位置するというよりも、方向性が少なからず異なる印象を受けた。今、最もハイレベルなコンパクトカーだと常々感じている現行ポロに加わったTSI R-Lineは、見た目も走りも自身が持つスポーティな側面を思いっきり高めた、なかなか魅力的なニューモデルであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛