インプレッション

ルノーのCセグメントSUV新型「カジャー」(車両型式:ABA-HEH5F)、1.2リッターターボ+DCTでキビキビ走る

19インチホイールはやや過大サイズ?

新型SUVが日本デビュー

“KADJAR”と書いて「カジャー」と読ませる、そんな摩訶不思議(?)なネーミングの最新ルノー車が上陸した。「最新」とは言っても、初披露が行なわれたのは2015年春のジュネーブ・モーターショーだから、実はデビューから丸3年という時間をかけての正式な来日。

 もっとも、日本では2017年8月にわずか100台の限定車「カジャー Bose」が販売された実績がある。そんな“試験販売”風のセールスが行なわれたのには、従来型「メガーヌ」が生産終了となった後に新型が上陸するまでの空白期間を補完するという意味合いもあったようだ。

 ルノー・日産のアライアンスによって生み出された、現行「エクストレイル」などにも用いられる「CMF」と呼ばれるボディ骨格を採用するカジャーのボディサイズは、4455×1835×1610mm(全長×全幅×全高)というもの。

 とかく大柄に過ぎる印象が強いドイツやアメリカ産の多くのSUVに比べると、5.6mという最小回転半径値も含めて、いかにも取り回しがよさそうな強い“身の丈感”が漂うそんなディメンションが、まずは好印象ではある。

 立体感の強い大きな菱形のエンブレムを中央に据えたフロントマスクはなかなかに大胆な造形だが、ボディのプロポーションそのものは意外にもシンプル。選べるボディ色がわずか4色と、欧州仕様に比べ半減してしまっているのは残念だが、恐らくはさほど多くないであろう日本での想定販売台数を考慮するとやむを得ない、というところではないだろうか。やはり想定をされる販売台数の絡みもあってか、導入されるのは「インテンス」というモノグレードのみ。

4月12日に発売されたCセグメントの新型SUV「カジャー」(347万円)。2017年8月に100台限定で「カジャー Bose」が導入されたが、今回はカタログモデルとして登場。ボディサイズは4455×1835×1610mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2645mm。最低地上高は200mm、アプローチアングルは18度、デパーチャーアングルは28度とアナウンスされている
エクステリアではヘッドライトとリアコンビネーションランプにLEDを採用したほか、ルノーモデルの新しいデザインアイコンとなっているLEDの“Cシェイプ”デイタイムランニングライトを標準装備。足下は19インチアロイホイールに225/45 R19タイヤの組み合わせ

 フロントヒーター付きのレザーシートや自動防眩式ルームミラー、19インチのシューズなどに加え、衝突被害軽減ブレーキやドアミラーの死角ワーニング、さらにはオートハイビームや車線逸脱ワーニングなども標準装備と、実は思いのほか安全デバイスが充実しているのもこのモデルの特徴。いずれにしても、本国では最上級仕様に相当するのが日本のカジャーと考えられる。

 その一方で、ブラック基調のインテリアはいささかビジネスライクな感覚が強く、「せっかくのフランス車なのに“華”に欠ける」という印象も。ただし、基本は実用本位で考えられるフランスの作品ゆえか、上部に小物入れも備えた深いセンターコンソールボックスや、6:4分割はもとより、フレキシブル・フロアボードのアレンジによってさまざまな仕分けが可能になる最大容量が1478Lに達するラゲッジスペースなど、ユーティリティ性の高さは感心できる水準だ。

インテリアではフルレザーシート(前席シートヒーター付)をはじめ、ナパレザーを表皮に使うステアリング&シフトセレクター、エアコンルーバーなどの外周に採用されるシルバーベゼル、センタコンソールに施されたサテンクローム加飾などで上質な空間を演出。センターコンソールの7インチマルチファンクションタッチスクリーンを用いる「ルノー R-Link2」は「Android Auto」「Apple CarPlay」に対応するとともに、ハンズフリー通話や車両設定の変更などが行なえる
ラゲッジスペースの容量は527Lで、後席バックレストを前倒しすることで1478Lまで拡大可能。フレキシブルトノカバーは使わないときはラゲッジスペースの奥に収納できる設計。ラゲッジスペースの側面にはリアシートのシートバックを前方に倒す格納用ハンドルを設置して利便性を高めている

 もっともそうした中には、凹みの浅いカップホルダーに入れた背の高いペットボトルは走り始めて早々に倒れてしまうなど、日本では使い勝手に難ありという部分も。ちなみに、そんなカップホルダーに隣接した“謎の小穴”は、「コーヒーぐい飲み用の小さなプラスチックカップの大きさにピッタリ」とは、フランスの高速道路のPA(パーキングエリア)でそれが販売されているのを見掛けたことがあるという、ルノー・ジャポンスタッフの証言だ。

 かつてのフランス車といえば、ペダルが酷くオフセットしていたり、ブレーキのブースターが左ハンドル用と同一の場所に置かれ、ペダルタッチに明らかな違和感があったりと、確かに右ハンドル仕様軽視のスタンスが感じられるモデルも少なからず存在した。だが、さすがにそうした話題も今は昔。このモデルも、ドライビングポジションにまつわる違和感は「完全にゼロ」と言える。

 5つのカラーから選択が可能というギミックも備えたメーター表示は、スピードメーター優先、タコメーター優先などと、グラフィックの変更も可能なフルカラーTFT式。トランスミッションに7速DCTを採用しながらパドルシフトの用意がないのは、昨今のこの種のモデルとしてはむしろ少数派。本国ではMTの方が多数派ゆえ、そこまで面倒はみていられない(?)という割り切りなのかも知れない。

スピードメーター、タコメーター、オーディオ、ADAS(運転支援システム)などの表示が可能なフルカラーTFTメーターパネル。表示カラーはブラウン、パープル、ブルー、レッド、グリーンの5色から選択できる

 全長が4.4m級で、ホイールベースもエクストレイル比で-60mm。“コンパクト”という表現を使ってもよさそうなサイズの持ち主ゆえ、後席での足下空間は広々という印象ではない。それでも、大人がそれなりの長時間を過ごしてもさほど苦ではなさそうなのは、フロアに対してフロントシートが高い位置に置かれ、それゆえに足入れ性が極めて優れているという、SUVならではのメリットが生きているからだ。

 惜しいのは、リアドアの最大解放角度がさほど大きくない点。あと10度ほど余計に開いてくれれば、乗降時の足さばきはグンと楽になりそうなのだが。

フットワークのテイストはちょっと残念

 日本仕様の場合、前述の7速DCTと組み合わされるエンジンは、1.2リッターのターボ付き直噴4気筒ユニット。131PSの最高出力は、約1.4tの重量に対して「そこそこ」という感じだが、2000rpmにして205N・mを発する最大トルクと駆動力のダイレクトな伝達感が売りのDCTのお陰で、特に街乗りシーンでは「キビキビ走ってくれる」という印象がなかなか強い。

カジャーが搭載する直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボ「H5F」型エンジンは最高出力96kW(131PS)/5500rpm、最大トルク205N・m(20.9kgf・m)/2000rpmを発生

 ちょっと残念だったのはそのフットワークのテイストで、全般に突っ張り気味で路面凹凸を拾ってのハーシュネスも強めな感覚は、多くの人がフランス車に期待をするであろう「しなやかでよく動く脚」とは少しばかり乖離が大きい印象だ。路面変化に敏感に反応しがちで、粗粒路ではゴロゴロと大きなロードノイズも、そんな違和感に拍車を掛ける結果となっていた。

 確かに見栄えの点では優れているが、少なくとも走りの質感に対しては、どうもこのモデルに19インチホイールは過大という印象が拭えない。ヨーロッパでは16インチや17インチホイールも用意されるこのモデル。走りのチューニングは、そちらを基本に行なわれているのかも知れない。

 本来は実用車メーカーであるこのブランドの数ある作品群の中から、“舶来車好き”の琴線に触れる楽しいモデルを厳選して導入するという手腕にかけては、見事な才を発揮するルノー・ジャポン。その選りすぐりのラインアップの中にあっては、正直「ちょっと薄味」とも思えるこのブランニュー・モデルがどのような評価を受けるのか、興味が募るところでもある。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:安田 剛