インプレッション

マツダ「CX-5」(2016年フルモデルチェンジ/公道試乗)

進化した「魂動デザイン」

 あれからもう5年も経ったわけだ。独自のスカイアクティブテクノロジーを初めてフルに搭載するとともに、「魂動デザイン」を初めて採用するなど、すべてに新しいものを織り込んで登場した第1弾の市販車が初代「CX-5」だった。その後のマツダの躍進はご存知のとおり。マツダ自身にとっても、これほど充実した5年間となるとは予想を超えていたことだろう。そして初代の登場から5年が経過し、そのすべてをアップデートした2代目がバトンを受け継ぐ。

 新旧どちらもスタイリッシュであることには変わりないが、デザインのテイストは少なからず異なり、よりノーズが長く見えるプロポーションや、車格が上がったかのように見える立体的なフロントのデザイン、キャラクターラインではなく抑揚で造形美を表現したボディパネルなど、2代目は「スタイリッシュ」という言葉がさらに似合うようになったと感じさせる。初代も好みだったが、2代目はもっと筆者にとって好みだ。これまでの「ソウルレッドプレミアムメタリック」の発展版となる新色の「ソウルレッドクリスタルメタリック」も、もともと評判のよい“マツダの赤”がさらなる高みに達したことは実車を見るとよく分かる。

 インテリアの雰囲気もずいぶんと上質になった。ドライビングポジションやペダルレイアウトなどに徹底的にこだわった人間中心の設計により、座った瞬間からしっくりくるのも、最近のマツダ車が共通して持つ美点の1つ。それは日本製の競合車に対しても当てはまり、とりわけ右ハンドル仕様だとそのあたりがおざなりな印象の強い欧州勢に対して、より大きな優位性を感じさせる部分でもある。加えてドア開閉時の音も、ドイツ車を超えたのではと思うほどよくなっていることも印象的だった。また、リアシートにリクライニング機構が付いたり、ラゲッジルームの側面にも緩衝材が配されてキズをつける心配が減ったりと、使い勝手が向上しているのもありがたい。

今回の試乗会ではガソリンとディーゼルそれぞれ試乗することができた。写真は直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンを搭載する「20S PROACTIVE」(ソウルレッドクリスタルメタリック)。ボディサイズは4545×1840×1690mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm
直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンの最高出力は114kW(155PS)/6000rpm、最大トルクは196Nm(20.0kgm)/4000rpm。JC08モード燃費は16.0km/L
インテリアではドライバーを中心に操作機器や計器類を左右対称に配置した、ドライバーとの一体感を高めるコクピットデザインを採用。ステアリングホイールのセンターからインストルメントパネル加飾、左右の空調ルーバーへと連なる要素の配置を同じ高さに揃え、ドアトリム加飾も水平基調の造形とすることで、ドライバーが運転に集中できる心地よい緊張感と横方向への広がりのある空間を表現。また、センターコンソールを先代モデルよりも約60mm上方に配置して高くワイドなプロポーションとしたほか、シートや加飾部分の造形では、SUVらしい力強さと上質さを融合させたフォルムを追求している
2代目CX-5の美点の1つに、ドライビングポジションやペダルレイアウトなどに徹底的にこだわったことが挙げられる
後席は基本状態の後席トルソー角度を初代から2度拡大して24度に設定。そのうえで28度までシートバックを後傾できる2段式のリクライニング機構を採用
ラゲッジスペースは505Lと、先代モデル(500L。サブトランク含む)と同等の容量を確保。そのほか2代目ではラゲッジスペースの両サイドのカバーが、フロアボードと同様の起毛仕様となって高級感が増した
こちらは直列4気筒DOHC 2.2リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載する「XD L Package」(2WD)。同エンジンでは緻密な燃料噴射を可能とするマルチホールピエゾインジェクター、理想的な燃焼を支えるというエッグシェイプピストンなどの技術を採用し、世界一の低圧縮比を謳う14.0を達成。さらに「DE精密過給制御」「ナチュラル・サウンド・スムーザー」「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」の3技術も搭載する。最高出力は129kW(175PS)/4500rpm、最大トルクは420Nm(42.8kgm)/2000rpm。JC08モード燃費は18.0km/L。タイヤサイズは225/55 R19

より洗練されたSKYACTIV-D

 2.2リッターディーゼル、2.5リッターと2.0リッターのガソリンというエンジンラインアップは初代と不変。その中で、やはりまず気になるのはマツダ独自の画期的な技術の数々を新たに採用したディーゼルの仕上がりだが、いざドライブすると新旧の違いは明らか。もともと初代もよかったところ、過給圧制御とノック音を抑える技術の採用により、さらにフィーリングがよくなっている。

 静粛性については車両自体の基礎的な実力も上がっているはずだが、そこに「ナチュラル・サウンド・スムーザー」と「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」が加わったことで、より静かになっている。ドライバビリティ面では、「DE精密過給制御」が効いて低回転域からリニアな出力特性になっている。半面、これまでのように軽く踏んでグンと加速する感覚がなりをひそめており、物足りなく感じる人もいるだろうが実際にはぜんぜんそんなことはない。踏めばこれまでどおり力強く加速するし、中間域でのコントロール性が向上している。この味付けのほうがずっと乗りやすく、燃費面でも有利なはず。まさしく「洗練された」という表現がふさわしい。

 一方のガソリンエンジンは、ディーゼルほど分かりやすい改良は行なわれていないが、むろん持ち前のガソリンならではのよさがある。ディーゼルほど直感できる力強さはないにせよ、ガソリンのほうが静かでスムーズであることは、あらためて言うまでもない。2.5リッターはパワフルさと伸びやかな回転フィールが身上。2.0リッターはやや線の細さを感じるものの、最終減速比が低くされており、市街地を普通に走るには大きな不満はない。ガソリン車には「SPORT」モードが設定されたのも新しく、選択すると低いギヤでひっぱれるので、ふだん乗りにはあまり適さないのだが、走りの印象は元気よくなりすぎるほどで、明らかにフィーリングが変わる。

 販売においては、初代もそうだったようにディーゼルが主体になることに違いなく、筆者も相談された際には「迷ったらディーゼル」と答えている。しかし、ガソリンが欲しいという人の背中を押してあげたいという気持ちは2代目でも変わることはない。やはりガソリンにはガソリンのよさがある。

GVCのメリットとデメリット

 シャシーも大きく進化した。最大の訴求点は「G-ベクタリング コントロール(GVC)」の採用にあるわけだが、それ以外にもフロントダンパーのピストン径の拡大および減衰性の最適化や、フロントロアアームへの液体封入式ブッシュ採用、フロントダンパー内へのリバウンドスプリング採用、さらにはコラム式電動パワーステアリングをリジッドマウント化するなど、多くの箇所に手が加えられている。

 実際のドライブフィールも、いろいろなものの相乗効果だろうが、初代とはだいぶ変わっている。初代も改良を重ねて後年にはかなり改善したものの、全体的にピッチングが気になったのは否めず、後席の乗り心地がいま1つだった。それが2代目ではずいぶん気にならなくなっている。バタつく印象のない、フラット感のある乗り味に仕上がっている。加えて出来のよいシートも、乗り心地のよさをより引き立てているように思えた。

 直進安定性に優れ、修正舵をあまり必要としないのは、まさしくGVCの効果。また、サスペンションチューニングの最適化も効いて、コーナリングでのロールが適度に抑えられていて、内輪がしっかり接地している感覚もある。素早く転舵したときの応答性もよく、グリップ感も高い。ただし、中立からわずかにステアリングを切る領域で、やや過敏に動きすぎる傾向が見受けられるのもGVCの特性の1つで、他のマツダ車に比べて車両重量が大きく重心高の高いCX-5では、よりそれが顕著に表れているような気もした。

 GVCが効果を発揮するシチュエーションが多々あるのも重々分かるし、全体としてはGVCの採用によるデメリットよりもメリットのほうがずっと大きいとは思うのだが、さらに全体のマッチングが図れると、より理想的な走りに近づくかと思う。また、初代ではディーゼルでフロントヘビーさを感じたものだが、2代目はガソリンとの差がいくぶん小さくなったように感じられた。全体としては、初代よりも洗練度が深まったと言えそうだ。

 また、安全装備がさらに進化したことも大きな価値の1つ。ブレーキに停車時に足を離しても停車状態が維持されるオートホールド機能が新たに採用されたのも大歓迎だ。

 ご存知のとおりCX-5は初代も評判がよく、かなりのヒット商品となったわけだが、デザイン、走り、装備のすべてがアップデートされた2代目もまた、非常に魅力的なクルマに仕上がっていたことには違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛