インプレッション

ルノー「ルーテシア インテンス」(2017年2月マイナーチェンジ)

欧州Bセグのベストセラー

 日本でもよく見かけるようになったとは言え、本来の実力は全然そんなものじゃない。本国フランスで2016年(1月~12月)にもっとも売れたクルマとなっただけでなく、欧州27カ国でもフォルクスワーゲン「ゴルフ」と「ポロ」にはさまれる形で2位。すなわちBセグメントに限るとNo.1である。

 しかも、「ルーテシア」がすごいのは新車が登場してからしばらくすると販売台数が横ばいか減少するのが一般的なのに、時間の経過とともに数を増やし続けているところだ。合計すると2013年が33万1000台、2014年が36万8000台、2015年が39万7000台、2016年が40万8000台と、右肩上がりとなっているというから大したものだ。

 登場から4年が経過しても高い商品力を維持しているのは、デザインの評判が非常によいことと、ちょうどよいサイズ感であることが主な要因とルノーも分析している。Car Watchでも何度かお伝えしている、ルノーのデザイナーであるローレンス・ヴァンデンアッカー氏が手がけたデザイン戦略「サイクル・オブ・ライフ」は、大成功といってよいかと思う。

内外装がさらに魅力的に

 約1年前の商品改良では、見た目はあまり変わっていないものの乗るとだいぶ変わったことを確認できたのだが、今回のマイナーチェンジはまず見た目が変わったのが一目瞭然だ。もともとルーテシアのデザインは、個性的でありながら奇抜すぎることはなく、コンパクトカーらしい可愛らしさがあれば、小さいながらも存在感があるという、非常に優れたものだと思っていた。それが全体的にリフレッシュされて、より現代的でスポーティになり、持ち前の個性が際立ったように思える。「インテンス」ならアルミホイールもアフターマーケット品のように凝ったデザインとなる。

 主力グレードにLEDを用いた前後ランプが与えられたのも新しい。この日は見ることができなかったのだが、話によると暗闇の中でこれまでのルーテシアにはなかったインパクトのある姿を見せてくれるそうだ。

 インテリアではステアリングホイール、シフトレバー、ドアトリム、シートなどが変更された。「インテンス」の新しいシートは、Bセグでここまでやるのかと感じたほど見た目の質感も上々。すでに採用している特徴的なカラードダッシュボードも、ルーテシアならではである。

 価格は従来よりもすべて値下げとなった「インテンス」が229万円、「ゼン」が217万円、受注生産の「アクティフ」にいたってはついに200万円を切り199万円という設定になった。筆者はもともとルーテシアなら、「ゼン」とそれほど価格差が大きくないながらも魅力的な仕様となる「インテンス」の1択だと思っていたが、価格が下がったことで、さらにその思いが強くなった。

2月9日にマイナーチェンジした「ルーテシア」(「アクティフ」のみ3月23日発売)。撮影車は上級グレードとなる「インテンス」(229万円)で、ボディカラーはブルー アイロン M。ボディサイズは4095×1750×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2600mm
新型ルーテシアのエクステリアではワイド感を強調するフロントバンパーを採用したほか、インテンス&ゼングレードにはフルLEDヘッドライト(オートハイトコントロール)、Cシェイプランプ(スモールランプ兼用、常時点灯)を標準装備。ヘッドライトには開施錠時にCシェイプランプが点灯し、クルマの場所を知らせ、周囲を照らす機能(ウエルカムランプ、グッドバイランプ)や、暗がりでクルマから離れる際に便利な一定時間タイマー点灯させる機能(シーミーホーム)が装備される。リアもLEDランプを採用
直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボエンジンは最高出力87kW(118PS)/5000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/2000rpmを発生。JC08モード燃費は17.4km/L
ホイールも刷新され、インテンスのみ17インチアロイホイール(タイヤサイズ:205/45 R17)を標準装備
インテンスは新インテリアカラーを採用。ボディカラーのブルー アイロン Mに対してグリ(灰色)を組み合わせる
新型ルーテシアでは新デザインのシート&ドアトリムデザインが与えらえるほか、インテンスでは専用のファブリック×レザー調コンビシートを装着。さらにゼングレードを含め自動防眩式ルームミラーやLEDマップランプを採用している

 一方で、今回は試乗できなかったのだが、MTのルーテシアを待ち望む人に向けて直列3気筒DOHC 0.9リッターターボエンジンに5速MTを組み合わせた「S」が限定販売されたことをお伝えしておこう。

こちらは限定車「S」のインテリア。5速MTを採用するほか、ルーテシアシリーズで唯一直列3気筒DOHC 0.9リッターターボエンジンを搭載。最高出力は66kW(90PS)/5000rpm、最大トルク140Nm(14.3kgm)/2250rpmを発生する

ルノーではよくあること……?

 今回のマイナーチェンジにおける走りに関する変更は伝えられていないものの、ルノーではよくあることらしいのだが、心なしか全体的に微妙によくなっているように感じられた。正式にアナウンスされているわけではないながらも、よくなったと筆者が感じたポイントをいくつかお伝えしたい。

 まずパワートレーン。エンジン特性が変わった前回の改良でも、発進から中間加速のフィーリングがずいぶんよくなっていたが、今回さらにスムーズになったように感じられた。また、EDC(DCT)のシフトスケジュールも変わったのか、より適切なギヤが維持されて、意図しないシフトアップにより再加速したいときに煩わしい思いをする機会が減ったように思えた。さらにはギヤの噛み合う隙間が詰められたのか、これまでときおり見受けられたカラカラという感じがなくなった。全体として、よりスムーズにドライブできるようになった。

 足まわりは、適度に締まっていながらもしなやかにストロークする味付け。このクラスでは前席はまだしも、後席の乗り心地はそれなりという例が多いところ、ルーテシアは後席の快適性も高い。

 今回、減衰の制御がより緻密になったのか、ブレーキング時にノーズダイブする感覚が抑えられ、コーナリング時のロールの仕方もロール量は増えたのかもしれないがロール感は小さくなっていて、ステアリング舵角と横Gの高まりに応じてよりリニアにロールするようになったと感じられた。これに伴い、ステアリングフィールも一体感が増したように感じられたほどだ。このクラスの量販車でこれほど足まわりの仕上がりのよいクルマというのはほかに心当たりがない。

 日本でも順調に販売を伸ばしているルノー。2013年のルーテシアの現行モデルの導入時にも、日本ではルノー・スポール(R.S.)とカングーばかりが売れているが、ルーテシアをしっかり売れるようにしたいと関係者が述べていたが、本当にそうなってきた。むろんそれはクルマの実力あってのこと。欧州でベストセラーのルーテシアがより魅力的に進化したのはお伝えしたとおり。日本でも冒頭でお伝えしたような、時間の経過とともに右肩上がりに増えても不思議ではない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸