インプレッション

ルノー「ルーテシア インテンス」(2016年2月マイナーチェンジ)

日本国内販売5082台の原動力

 ルノーのデザイナーであるローレンス・ヴァンデンアッカー氏による、人生の6つのライフステージを1つのサイクルと考えるデザイン戦略「サイクル・オブ・ライフ」の最初のステージである、「LOVE」(恋に落ちる)をテーマにしたのが「ルーテシア」だ。日本には2013年秋より導入されている。初めてこの現行ルーテシアの実車を目にしたときには、コンサバなイメージの強かったルノーのデザインが大胆になったことには驚きを覚えずにいられなかった。

 発売後もバリエーションの拡大を図りつつ現在にいたるルーテシアは、日本での販売も好調で、2015年には1800台以上を販売した。これまで「カングー」と「R.S.(ルノー・スポール)」系ばかりがもてはやされていた日本市場で、ようやく“色モノ”ではない普遍的なモデルが屋台骨となったわけだ。2001年の日本法人の設立以来、年間の登録台数が一時は2000台を大きく割り込んだこともあったルノーが、2014年にはそれまでからジャンプアップして4000台を大きく超え、2015年にはついに5000台をオーバーして5082台になったことも特筆できる。その原動力となっているのが、ほかならぬルーテシアだ。

 本場の欧州ではもっと勢いづいている。ハッチバック車全体の販売台数において、2014年は3位で、2015年は2位。Bセグメントに絞ると2014年は2位で、2015年は実に1位だ。ルーテシアしかり、キャプチャーしかり、よいものはやはり認められるのだと、今のルノーを見ているとつくづくそう思う。世界に数あるBセグ車の中でも、ルーテシアほど魅力的なものをいくつも身に着けたクルマはないように思う。

 内外装のデザインだけでも目を引くところ、使い勝手についてもいろいろと細やかな配慮が行き届いているし、走りも上々だ。欧州でベストセラーとなっていることも、それを証明している。

撮影車は「ルーテシア インテンス」(ルージュ フラム M)。ボディサイズは4095×1750×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2600mm。車両重量は1220kg。価格は239万9000円
インテンスでは17インチアロイホイールを標準装備(タイヤサイズ:205/45 R17)

中間加速が大きく改善

直列4気筒 1.2リッター直噴ターボエンジンは最高出力87kW(118PS)/5000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/2000rpmを発生。従来から最高出力は2PSダウンするも、最大トルクは15Nm向上。アイドリングストップ機能も搭載され、JC08モード燃費は17.4km/Lをマークする。使用燃料は無鉛プレミアムガソリン

 そして、登場からこれまでリリース等には表れない細かな改良もなされているのだが、今回の改良はドライバビリティにも関わる大きな変更だったため、急きょ試乗の機会が設けられた次第である。

 変更があったのは、まずエンジンおよびトランスミッション。さらには「インテンス」のインテリアデザインに手が加えられた。

 直列4気筒1.2リッター直噴ターボエンジンはトルク重視の特性とされ、最高出力は120PSから118PSにわずかに低下したものの、最大トルクは190Nmから205Nmへと向上している。各々の発生エンジン回転数に変化はない。エンジンは内部にも手が入れられたという。また、6速DCTのギヤ比が最適化され、変速比幅が5.58から6.60へと大幅に拡大された。

 JC08モード燃費については、これまでは日本で型式指定を受けていなかったため公表値がなかったのだが、今回は型式を取得。17.4km/Lと公表された。0-100km/h加速は10.1秒と1.2秒も短縮。中間加速についても、30~60km/h、50~80km/h、80~120km/hそれぞれにおいて平均で0.6秒も向上している。

 数字だけ見ても、改良前後の差は小さくないことがうかがえるが、実際にドライブしても出足がよくなり、中間加速で伸びやかになったように感じられる。むろん、1.2リッターゆえ多くは期待できないが、もともと1.2リッターという排気量のわりにはよく走る印象だったところ、より軽やかに加速するようになり、乗りやすくなったように思う。

 また、1.5リッターぐらいまでの排気量のエンジンでは、今では3気筒も増えており、ルーテシアにも0.9リッターの3気筒エンジンが用意されている。それはそれでいい味を出しているものの、やはり4気筒の方がスムーズであることをあらためて実感した。さらに今回、ストップ&スタート機能が新たに搭載されたこともニュースだ。

より個性の際立ったインテリア

ノワール/ルージュインテリア

 一方で、足まわりに関する変更は伝えられていないが、当初は心なしか硬さを感じたところ、しなやかさが増したように感じられた。これもリリース等には表れてこない部分で、何がしか手が加えられているのかもしれない。

 オーソドックスさと遊び心が共存した独創的なインテリアもルーテシアの魅力の1つで、現行ルーテシアが出たときにも、彩りの鮮やかなインテリアやシートに目を奪われたものだが、今回シートの両サイドにカラーラインが配されたり、「GT」のスポーティなステアリングホイールがインテンスにも与えられるなどして、さらに個性が際立った。シートはサイドにも赤が配されたことで、座っていても赤い部分が見えるようになったのもうれしい。また、パッと見では気づかないかもしれないが、やや不評の声もあったというダッシュのシボも、より上質な印象のものに変更された。

インテンスでは、シート両サイドにインテリアカラーに対応するカラーラインが入る新デザインに変更。ステアリングホイールはルーテシア GTと同形状のものが与えられた。そのほかセンターコンソールパネルには走行レポート、Ecoスコアリング、Ecoコーチングの3機能を持つ「ドライビングEco2機能」が追加されている

 現行ルーテシアが登場してからというもの、筆者がこのクラスのクルマを買うとしたらルーテシアがいいなとずっと思っていたのだが、今回その気持ちがますます強まった。今回は外観にはまったく手が加えられていないとはいえ、このルックスはやはり魅力的だし、インテリアや走りがさらによくなったからだ。

 ありきたりなハッチバックでは飽き足らず、とはいえ、たとえばMINIや500のようなキャラクター性の強いクルマも苦手という方はルーテシアはいかがだろう? 老若男女、誰が乗っても絵になるし、Cセグに負けない車格感があるところもよい。しかも今回、このように商品力が上がっていながら値下げとなったこともありがたい。

こちらは試乗会会場に展示してあったルーテシアの30台限定車「アイコニック」。インテンスをベースにパリのモードをアイコンとして取り入れたモデルとなっており、ルーフとドアミラーにクチュールの縫製をイメージした「クチュール デカール」を配した。インテリアでは白いステッチを採用するレザーシート、エアコンベゼル、ドアトリムフィニッシャーなどが専用となっている。価格は244万円

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一