インプレッション
日産「4WDモデル雪上ラインアップ試乗」
Text by 橋本洋平(2016/4/5 08:50)
その気になればアクセルで向きを変えてコーナーを脱出することができる。これぞ日産自動車が生み出す4WD、そしてFRの世界だと常日頃から感じている。ときにそれは乗り手を選びそうなものだが、「VDC(ビークルダイナミクスコントロール)」と名付けられた横滑り防止装置によって安定性も確保。今ではどんな路面でも安心して走れる姿を手に入れている。
だが、それを実現する手法はラインアップ各車でさまざまなアプローチを行なっているところが興味深い。簡素な「パートタイム4WD」を採用する「NV350キャラバン」にはじまり、スプリットμ路面でも安定したトラクションを確保する「ALL MODE 4×4-i」を採用する「エクストレイル」、リアの外輪に大きくトルクを与えることでヨーモーメントを発生させることが可能な「ALL MODE 4×4-i(トルクベクトル付)」をチョイスした「ジューク」、そして重量バランスまで配慮した「トランスアクスル4WD」を採用する「GT-R」までを用意。クルマのキャラクターに分けて細分化された駆動システムがあることも、きっと前述した走りに影響を及ぼしているに違いない。
日産自動車の車両実験部に所属する西端政宏さんは、自社の4WDシステムに対する考え方について「4WDはなにがいいかといえば、駆動力が得られて安心感があることなんですよ。その上で、曲がるときに思いどおりに曲がり、けれども曲がり過ぎないことにも気を遣って開発を行なっています」と語る。すなわち、どんな車両でも極限状態では同じように走れるようにすることを心掛けているわけである。だからこそ、日産車ならではの走りの世界観があるのだろう。
そんな中でも興味深かったのはジュークである。今回はオンロード指向が強いNISMO仕様にも乗ったのだが、やはりそこはコンプリートモデル。悪条件となる雪道であっても、クセなくきちんと走破するところはさすがだと感じた。だが、最も興味深かったのは、やはりトルクベクトル付きのALL MODE 4×4-iである。アクセルを入れれば即座にリアの外輪にトルクが移行し、さほどステアリングを切らずしてコーナーを駆け抜けてしまうのだ。FR以上にアクセルで曲がるその感覚は、クセになりそうなくらい面白い。
けれども、そんなトルクベクトルを解除して静かに走ることも可能。せっかくのトルクベクトル付きの4WDを否定するようなスイッチを備えていることに疑問を感じたが、西端氏によれば「トルクベクトル付きは思いどおりに曲がる半面、ドライバーが疲れてしまうことも考えられます。だから、一般的な4WDと同じようにも走れるようにしているんです」とのこと。一般的に4WDの駆動切り替えといえば、2WDにして駆動ロスをなくし、少しでも燃費を高めるという考えが一般的。しかし、ジュークの場合はそうではなく、キビキビともユルくとも走れるようにと、わざわざスイッチを備えるあたりが日産らしさ。走りへの拘りはハンパじゃない。
そういう意味では、エクストレイルのほどよいサジ加減はなかなかのもの。トルクベクトル付きではないため、アクセルONでヨーが発生するような積極的な動きがない半面、常に安定した走りが可能になっている。今回は片側が舗装路、もう片方は雪道という左右輪でμが異なるスプリット路面も走ったが、そんな状況でもフラつくことなく安定して走破してくれるところが魅力的。スキーやスノボを楽しみに出かけるためのツールとしてエクストレイルが人気のようだが、それも納得できる仕上がりだ。
走りの究極を語るなら、やはりGT-Rだろう。VDCをフル解除すればアクセルでどうにでもスライドコントロールを可能にし、その気になれば定常円旋回をいくらでも続けられる「アテーサ ET-S」。その考え方はR32 GT-Rのころと相変わらずといった感覚であり、FR的な動きを可能にするところが好感触。それだけで終わらず、一般的な走りをすればドッシリ安定しながら、雪道でも強烈なトラクションを確保する。もちろん、VDCを復帰させれば恐怖感を一切持たずにニュートラルに走ってくれるのだ。車両重量も1.7tオーバーで速さもピカイチだから、速度はシッカリと落としてからコーナーにアプローチする必要はあるが、それさえ守ればいつでもどこでも安心。サーキットから雪道までなんでもござれのオールマイティさは、さすがはGT-Rだと感心してしまう。
ただ、GT-Rも登場から間もなく10年ということもあるから、そろそろ次への進化も期待したい。例えばジュークが持つシステムをGT-Rに入れたらどうなるだろう? まだまだ求めれば出てきそうな日産だけに、そんな要求も一応しておこう(笑)。その気になればどんな引き出しでもありそうなことは、今回の雪上試乗で見えたのだから。