インプレッション

日産「4WDモデル雪上ラインアップ試乗」

 その気になればアクセルで向きを変えてコーナーを脱出することができる。これぞ日産自動車が生み出す4WD、そしてFRの世界だと常日頃から感じている。ときにそれは乗り手を選びそうなものだが、「VDC(ビークルダイナミクスコントロール)」と名付けられた横滑り防止装置によって安定性も確保。今ではどんな路面でも安心して走れる姿を手に入れている。

 だが、それを実現する手法はラインアップ各車でさまざまなアプローチを行なっているところが興味深い。簡素な「パートタイム4WD」を採用する「NV350キャラバン」にはじまり、スプリットμ路面でも安定したトラクションを確保する「ALL MODE 4×4-i」を採用する「エクストレイル」、リアの外輪に大きくトルクを与えることでヨーモーメントを発生させることが可能な「ALL MODE 4×4-i(トルクベクトル付)」をチョイスした「ジューク」、そして重量バランスまで配慮した「トランスアクスル4WD」を採用する「GT-R」までを用意。クルマのキャラクターに分けて細分化された駆動システムがあることも、きっと前述した走りに影響を及ぼしているに違いない。

80km/h以下の走行中にスイッチ操作で2WDと4WDの切り替えが可能な「パートタイム4WD」を採用する「NV350キャラバン」(試乗車のグレードはプレミアムGX)
試乗会場にはNISMO RSとの比較用として「ジューク 16GT FOUR」も用意されていた。タイヤサイズが215/55 R17になり、CVTのマニュアルモードが7速になるほかエンジンセッティングも異なる
日産自動車株式会社 車両実験部 西端政宏氏

 日産自動車の車両実験部に所属する西端政宏さんは、自社の4WDシステムに対する考え方について「4WDはなにがいいかといえば、駆動力が得られて安心感があることなんですよ。その上で、曲がるときに思いどおりに曲がり、けれども曲がり過ぎないことにも気を遣って開発を行なっています」と語る。すなわち、どんな車両でも極限状態では同じように走れるようにすることを心掛けているわけである。だからこそ、日産車ならではの走りの世界観があるのだろう。

「曲がるときに思いどおりに曲がり、けれども曲がり過ぎないことにも気を遣って開発している」と話す西端氏

 そんな中でも興味深かったのはジュークである。今回はオンロード指向が強いNISMO仕様にも乗ったのだが、やはりそこはコンプリートモデル。悪条件となる雪道であっても、クセなくきちんと走破するところはさすがだと感じた。だが、最も興味深かったのは、やはりトルクベクトル付きのALL MODE 4×4-iである。アクセルを入れれば即座にリアの外輪にトルクが移行し、さほどステアリングを切らずしてコーナーを駆け抜けてしまうのだ。FR以上にアクセルで曲がるその感覚は、クセになりそうなくらい面白い。

2014年11月に発売された「ジューク NISMO RS」。ジュークのNISMO仕様モデルは全車4WD

 けれども、そんなトルクベクトルを解除して静かに走ることも可能。せっかくのトルクベクトル付きの4WDを否定するようなスイッチを備えていることに疑問を感じたが、西端氏によれば「トルクベクトル付きは思いどおりに曲がる半面、ドライバーが疲れてしまうことも考えられます。だから、一般的な4WDと同じようにも走れるようにしているんです」とのこと。一般的に4WDの駆動切り替えといえば、2WDにして駆動ロスをなくし、少しでも燃費を高めるという考えが一般的。しかし、ジュークの場合はそうではなく、キビキビともユルくとも走れるようにと、わざわざスイッチを備えるあたりが日産らしさ。走りへの拘りはハンパじゃない。

エンジンの専用チューニングに加え、各種ボディ補強、ブレーキや足まわりの強化、レカロと共同開発したスポーツシートの採用といった基本性能の改良は雪道の走行時も高い安定感として実感。トルクベクトルによる「アクセルで曲がる感覚」と合わせて走りを面白くしてくれている
試乗したのは「エクストレイル ハイブリッド」の「20X エマージェンシーブレーキパッケージ」

 そういう意味では、エクストレイルのほどよいサジ加減はなかなかのもの。トルクベクトル付きではないため、アクセルONでヨーが発生するような積極的な動きがない半面、常に安定した走りが可能になっている。今回は片側が舗装路、もう片方は雪道という左右輪でμが異なるスプリット路面も走ったが、そんな状況でもフラつくことなく安定して走破してくれるところが魅力的。スキーやスノボを楽しみに出かけるためのツールとしてエクストレイルが人気のようだが、それも納得できる仕上がりだ。

安定感とスポーティさのサジ加減がほどよいエクストレイル ハイブリッド。雪道での走行では195mmの最低地上高も頼もしい

 走りの究極を語るなら、やはりGT-Rだろう。VDCをフル解除すればアクセルでどうにでもスライドコントロールを可能にし、その気になれば定常円旋回をいくらでも続けられる「アテーサ ET-S」。その考え方はR32 GT-Rのころと相変わらずといった感覚であり、FR的な動きを可能にするところが好感触。それだけで終わらず、一般的な走りをすればドッシリ安定しながら、雪道でも強烈なトラクションを確保する。もちろん、VDCを復帰させれば恐怖感を一切持たずにニュートラルに走ってくれるのだ。車両重量も1.7tオーバーで速さもピカイチだから、速度はシッカリと落としてからコーナーにアプローチする必要はあるが、それさえ守ればいつでもどこでも安心。サーキットから雪道までなんでもござれのオールマイティさは、さすがはGT-Rだと感心してしまう。

今夏に“2017年モデル”が発売されることが発表されたばかりのGT-R。今回の雪上試乗で用意されたのは、当然ながら“2015年モデル”と呼ばれる現行型モデルの「GT-R Premium edition」
VDCをフル解除すればアクセルワークで自由自在。トランスアクスルによる重量バランスと伝統あるアテーサ ET-Sの組み合わせは路面を選ばないオールマイティさを見せる

 ただ、GT-Rも登場から間もなく10年ということもあるから、そろそろ次への進化も期待したい。例えばジュークが持つシステムをGT-Rに入れたらどうなるだろう? まだまだ求めれば出てきそうな日産だけに、そんな要求も一応しておこう(笑)。その気になればどんな引き出しでもありそうなことは、今回の雪上試乗で見えたのだから。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:高橋 学