インプレッション
メルセデス・ベンツ雪上試乗(GLCクラス)
2017年3月2日 00:00
4MATICがあれば……
メルセデス・ベンツに乗り始めて20年が経過した。最初は実家で所有していたCクラス(W202)で、駆動方式は後輪駆動のFR。次のモデルはW203でFR、そしてその次は1台目のS204で、これまたFRだ。今でこそ4輪駆動である4MATICを豊富に持つメルセデス・ベンツだが、日本市場向けにはSUVやSクラス、Eクラスなどのミディアムセダン以上に用意されていたものの、コンパクトなボディをまとうCクラスの4気筒モデルにはこれまで国内導入が見送られていた。それがこの2月、国内導入のCクラス4気筒モデルでは初めて(メルセデスAMG C43 4MATICは以前より設定あり)となる4MATICが導入されたのだ。
筆者は降雪量の少ない都市部に住んでいるが、多い時は年に20回以上降雪路面を走行する。しかしながら、取材やプライベートを通じて走行する雪上路面は除雪が行き届きているところが多く、スタッドレスタイヤ+優秀なトラクションコントロール機能、それにESPの助けもあり立ち往生してしまうことはなかった。しかし、この冬はいつもと勝手が違ったのである。この時期恒例となった長野県の仕事場へ向かう途中の峠道で、あわやスタックか、というほどの状況に見舞われてしまったからだ。
その日は曇天ながら季節外れの暖かさで根雪もじんわりと融け始めており、上り坂ではところどころアスファルトの地面が顔を出していた。それが一転、昼前には気温がグッと下がり雪がちらつきはじめる。厄介なのはその雪で、まるで春先を思わせるように水分を多く含んでいた。いわゆる都心部でも目にする“べちゃ雪”だ。発達している低気圧の影響で、融け始めた路面はあっという間に元通りの銀世界となり、ものの1時間で先ほどまでアスファルトだった道まで見事に雪化粧をまとった。
この様子から、なんとなく嫌な予感がしたので麓での仕事を切り上げ、峠の上にある宿泊施設まで戻ることにしたのだが、早くもここでカウンターパンチを食らう。なんと平地の駐車場での発進でトラクションコントロールの作動を示すアイコンが盛大に点滅しているのだ。もっともこれは、平坦に見えた駐車場にわずかな傾斜がついていたためなのだが、この先の峠道が思いやられた出来事であった。
気を取り直し、起伏の激しい峠道へ。するとなんのことはない、ものの数km走っただけで路面のμは大きく低下しはじめ、今度は速度の維持もままならなくなってきた。致し方なくESPをOFFにしてタイヤの空転を利用しながら、つきはじめた勢いを増幅させるように意図的に深めのアクセルワークで速度をなんとか維持する。その後の走行シーンは想像通りだ。車体が不安定にならないようアクセルの踏み込み過ぎに注意して、対向車や後続車はいないかなど、体中のセンサーを張りつめながら進む、まさに緊張の連続だ。しかし、この先1度でも登坂路の途中で停止してしまうと発進ができず、宿泊施設まで辿りつけなくなってしまうため早々に走行を断念。最寄のチェーン装着場所で後輪にチェーンを巻いて事なきを得た。
長年、宿泊施設に勤務するスタッフ曰く「今日は雨が降る予想だったので、除雪の準備が間に合いませんでした。また水分が多い雪だったうえに、急激に気温が下がったことで一気にシャーベットから部分的に氷雪路面に。地元の我々でもひときわ注意する路面状況ですよ」とのこと。なるほど、過去数十回、なにごともなく通行できたのは、道路管理者の方々による除雪作業と、天候に恵まれていただけなのだと痛感。同時に、我がCクラスが4MATICだったらなぁ~、と妄想をふくらませる。
現在、メルセデス・ベンツの各モデルには4MATICが用意されている。しかも朗報として、右ハンドルが数多くのモデルで選べるようになったことで4MATICがグンと身近になっていた。かくいう筆者も現愛車(S204の2台目)を入手する際、W204ベースのSUVである「GLK 4MATIC」と最後まで迷っていた。しかし日本導入モデルは左ハンドルしかなかったことから、泣く泣くあきらめた経緯がある。
最新の4MATICモデルが用意された雪上試乗会
そうしたなか、最新の4MATICモデルをクローズドコースで取材する機会をいただいた。試乗したのは現行CクラスのSUVである「GLC 250 4MATIC Sports」(本革仕様)だ。北海道・千歳市内に設けられた特設コースでは40~50cmほどの凹凸路面でのモーグル走行や、10%ほどの上り勾配での発進テスト、そしてフリーエリアでの走行と4MATICの性能を試すには絶好である。タイヤはもちろんスタッドレスタイヤで、ブリヂストン「BLIZZAK(ブリザック)DM-V2」と、横浜ゴム「iceGUARD(アイスガード)SUV G075」の2タイプが2台のGLCにそれぞれ装着されていた。
特設コースは立派だったが、取材前日に降った雨(しかも気温は高め!)と取材当日の寒波による影響で、路面コンディションは雪上というより氷上。部分的にアスファルトが出てしまっていたのだが、自然相手ときっぱりあきらめ、この環境で分かる範囲の情報を得ようと気持ちを切り替える。
慣熟走行の後、スタッドレスタイヤ2銘柄(サイズは同じ235/60 R18)の違いを探るため、2台を交互に乗り比べてみた。取材当日は寒波に加えて粉雪が舞い気温が低く、さらに強風。ちょっと間を置くと路面状況が変化してしまうため、なるべくこまめに2台を乗り換えてみた。
すると以前からのフィーリングどおり、氷上路面におけるブリヂストンの確かなグリップ力が実感できた。とくに減速しながら旋回するといったタイヤの摩擦円の限界を一気に超えそうな場面での情報量は多く、前後方向、左右方向のグリップが抜けていく、もしくはもう少し無理をすると抜けますよ、といった意思表示がシートやステアリングを通じて伝わってくる。とかく駆動力に勝る4MATICながら、曲がることにかけては車両重量相応であるわけで、その意味でも情報量が多いことはありがたい。
一方の横浜ゴムは終始乗り味がマイルドで、路面の凹凸を拾った際の突き上げも穏やかだ。この感覚は圧雪路面、氷上路面、いずれも同じ。また、何度も乗り換えていくと、氷上路面ではタイヤがさらに1段しなやかであることが分かってきた。ブリヂストンも氷上性能では定評があるが、横浜ゴムはさらにブリヂストンと同等の氷上グリップ力を確保しながら、しなやかさがある、という印象だ。
2銘柄の違いを端的に表現するなら、ブリヂストンは高い氷上性能を筆頭に総合性能は高いが、やや硬質な乗り味。横浜ゴムは全域しなやかだが、マイルドゆえにタイヤからの情報量は少なめだ。もっとも、タイヤには車両とのマッチングがあるわけで、上記のコメントは限られた路面コンディションでGLCに装着した場合の相違点と捉えていただければよいだろう。
GLCの雪上(氷上)フィーリングだが、今回は全長100mほどの周回コースのみの試乗だったのでそこでの印象のみをお伝えする。なお、ドライ路面での筆者による試乗レポートはこちらをご覧いただきたい。
路面の摩擦係数にして0.1~0.2というほぼ氷上といった路面では、基本的に後輪駆動ベースの4WDが示す若干のオーバーステア傾向であるものの、たとえば大きめのステアリングの舵角が入った状態での加速状態では、前輪への駆動力が予め高められているため前へと押し出される感覚は強い。また、ステアリングに対するクルマの動きはごく素直で、切った分だけESPを駆使しながらなるべく頭をその方向へと向けようとする制御が介入する。よって、見た目に分かりづらい凍結路面の上にうっすら雪がのった状態の路面に出くわしても、一気に姿勢が乱れることなく安心だ。
とはいえ、駆動力の伝達に優れた4MATICでも、完全なる氷上ではドライ路面から小さくなったタイヤの摩擦円を超えないように丁寧な運転操作が求められる。故に5~6m間隔で置かれたパイロンスラロームでは手を焼いた。
取材時間の関係で一般道路の試乗はかなわなかったが、周回コースは特殊な路面状況であり、その意味では状況は一変していたように思える。次回はぜひ、この4MATICの実力を前輪駆動ベース(例:Aクラスなど)、後輪駆動ベース(例:GLC)の両方を交互に味わいながら試してみたい。