試乗インプレッション

最新のメルセデス・ベンツにイッキ乗り【SUV編】(GLC 220 d/GLE 400 d/G 350 d)

試乗を続けたいと思わせるGLC、オンロード性能が劇的に進化したGクラス

 メルセデス・ベンツの集中レポート第2弾はSUVシリーズ。試乗したのは「GLC 220 d 4MATIC」「GLE 400 d 4MATIC スポーツ」「G 350 d」の3台だ。メルセデス・ベンツでは5年ほど前にSUVラインアップ強化を図った経緯があるが、これまでの販売実績から考察すると今やSUVの世界でもプレミアムブランドとしての地位を確立したといえるのではないか。

 一方、世界中の自動車メーカーが大小のSUVをラインアップし、その多くは順調に販売台数を伸ばすなかで、メルセデス・ベンツが得意とする分野は次の3点ではないかと筆者は考えている。

①/使い勝手。SUVに特化した使いやすさをどのモデルでも前面に押し出した。それはやや背高でワイドなボディなど見た目の安定感や分かりやすさだけでなく、サスペンションアームの張り出しを極力抑えるなど実質的なロードクリアランスをしっかりと高め、4輪駆動である4MATICでは前後トルク配分をモデルごとに細かく最適化させたことにも現れている。

②/エンジンバリーション。今回の3台はいずれもガソリン/ディーゼルの両エンジンをラインアップに持ち、さらにGLEでは48V系列の電気アシストシステム(2次電池は約1kWhのリチウムイオンバッテリー)であるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)機構を直列6気筒3.0リッターのガソリンエンジンに搭載した。さらにGLCでは「GLC F-CELL」として、現時点で世界唯一の水素を用いた燃料電池プラグインハイブリッドもフリート販売ながらラインアップする。

③/先進安全性能。日本においては先代Eクラス(W212型)の大幅マイナーチェンジ版である、いわゆる後期型から導入された2つの光学式カメラ(メルセデス・ベンツでは“ステレオマルチパーパスカメラ”と呼称)と、25/77GHzミリ波レーダー(計5個)、超音波ソナー(計12個)によるレーダーセーフティパッケージ。後発モデルでは同センサーや解析技術を昇華させ、新たな運転支援機能が次々に追加された。今回でいえば、Gクラスのみステレオマルチパーパスカメラではなく単眼光学式カメラに留まる。よって、限界性能だけ捉えればGLCやGLEに劣る部分があるものの、それでもADAS(先進運転支援システム)の役割は十分以上だ。

試乗を続けたいと思わせるGLC 220 d 4MATIC

 試乗はまずGLC 220 d 4MATICから行なった。直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンはトルクコンバーター方式の9速ATと組み合わされ、前後駆動配分率は前45:後55(カタログ記載値)の固定式。現行Eクラスから搭載が始まった同エンジンだが、これまでの2.2リッター版から刷新された進化版で、排気量は200cc減ったが実用域におけるパワーとトルクが高まり非常に扱いやすい。ここが最大の美点。

 ご存知のように、ディーゼルエンジンに対する排出ガス規制は世界的に厳しい。日本では排出ガス規制であるポスト新長期規制の施行以降、乗用車/商用車ともに低速域での力不足が顕著になった。メカニズム的な詳細は省くが、人体に有害とされる二大排出ガス成分のNOxとPMのうち、NOxを効果的に下げるには「AdBlue」(尿素水)を使った高価なSCR触媒が不可欠で、これによりNOx値そのものが規制値内に収まったとしても、どうしても極低速域、俗に言う“タイヤひと転がり目のトルク”が低くなる傾向になる。

 その点、GLCが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボ「OM654」型エンジンは、ピストンとシリンダーブロックに異なる熱膨張率の素材を使いつつ、表面にそれぞれコーティングを施すことで摩擦を低減し、熱効率を向上させて極低速域から出力特性を改善。これにより、アイドリング回転数直上の1500rpmあたりからしっかりとしたトルクを発生し、ゆっくりと発進させたままのアクセル開度のままであってもターボチャージャーの高まる過給圧とともに1950kg(試乗車)の車両重量が20%以上軽くなったかのようにグイグイと増速する。

GLC 220 d 4MATICが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボ「OM654」型エンジンは、最高出力143kW(194PS)/3800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1600-2800rpmを発生。WLTCモード燃費は15.1km/L

 これには9速化によりワイドになったレシオカバレッジも効いていて、試乗した山道の上り坂でも走行ギヤを保持したまま速度を落とさず上り切った。また、意図的にキックダウンさせたとしても、もともと高い静粛性を保っていることと、カプセル化されたエンジンルームの相乗効果によって、キャビンへの燃焼音透過は最小限だ。

2019年10月にマイナーチェンジが行なわれたGLC。今回の試乗車はGLC 220 d 4MATIC(690万円)で、ボディサイズは4670×1890×1645mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm
撮影車はオプション設定の「AMGライン」を装備し、標準仕様と異なる台形型のグリルデザインを採用するとともに、ダイヤモンドグリルとシングルルーバー、バンパー下部左右に配置された2本のフィンやシルバークロームのフロントエプロンなどが装着される。マイナーチェンジにより、リアまわりではバンパーとエキゾーストエンドを一新するとともに、フルLEDリアコンビネーションランプもデザイン変更が行なわれている
インテリアではスポーティで上質という従来のデザインコンセプトを継承しながら、ダッシュボード中央にナビゲーションやエンターテインメントシステムの表示画面となる、高精細10.25インチの「ワイドディスプレイ」を装備。ステアリングホイールはSクラスと同じデザインのメルセデス・ベンツ最新世代のもの

 マイルドな乗り味にも感心した。パッケージオプションとなるエアサスペンションを装着していたことが大きいが、前述したトルク特性とも相まって終始ゆったりとした走らせ方が似合う。それでいて、車格からするとややクイックなステアリングレシオを持っているため、カーブの切り返しなどでも遅れることなくスッと鼻先の向きを変えていく。未試乗ながら、直列4気筒2.0リッターガソリンターボを搭載する「GLC 300 4MATIC」との重量差は30kgと最小限であることからも、日常領域における挙動に関していえばエンジン種別による違いはほぼ感じられないのではないか。

 インテリアは、スピード&タコメーターなど多彩な情報を表示する12.3インチのTFT液晶画面(GLC 220 dでは高額なパッケージオプションを選択しないと装着されない。通常はスピード&タコメーターに5.5インチのマルチファンクションディスプレイの組み合わせ)こそ目立つ存在ながら、そのほかの造形は極めてシンプルで、多くのスイッチはステアリングとインパネ下部のタッチパッド付近の2か所に集約されている。現行Cクラスからのデザインモチーフだからずいぶんと見慣れた感もあるが、筆者はとても機能的であると好印象を抱いている。

 造形だけでなく、試乗車の内装が黒色一色であったことからも相当地味な印象を受けるが、運転操作に集中させることを安全哲学とするメルセデス・ベンツの流儀からすれば、これが基本なのだと改めて実感。Cクラス ステーションワゴン(S204型)オーナーの筆者からすれば、買い換え(られ?)るならこの1台として、強烈に後ろ髪をひかれながらGLC 220 d 4MATICを降りた。

3列シート/7名乗車仕様が標準となったGLE

 7人乗りが標準となったGLEでは、いい意味でいろいろと個人的な予想が外れた。第一に先代から長さ、幅ともに大きくなったボディながら扱いやすさはそのままだったこと。運転席からの見切りがいいことに加えて、シート調整幅が弟分のSUVであるGLCと比較しても格段に大きいことから、小まわり性能を除いて取りまわしで苦労することは少ない。

2019年6月にモデルチェンジを行ない第4世代となったGLE(前身はMクラス)。試乗車は「GLE 400 d 4MATIC スポーツ」(1109万円)で、ボディサイズは4930×2018×1795mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm(数値は欧州参考値)。新型では初めて3列目シートを設定して乗車定員が7名となったほか、新型Aクラスで導入したインフォテインメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)」や最新の安全運転支援システムを備えた
GLE 400 d 4MATIC スポーツが搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボ「OM656」型エンジンは、最高出力243kW(330PS)/3600-4000rpm、最大トルク700Nm(71.4kgfm)/1200-3000rpmを発生
新型GLEでは、ホイールベースを先代比で80mm延長したことで居住性と積載性を向上。さらにAピラーを起こすことで乗降性も高めた。2列目シートにはこのセグメントのSUVとしては世界初となる6ウェイフルパワーシートを全モデル標準装備し、レッグルームは先代比69mm増となる1045mmに拡大
全モデル標準装備の3列目シート(2人掛け)は可倒式で、3列目シート使用時のラゲッジルームスペースは160L。2、3列目シートを倒すことで最大2055Lまで拡大する。また、トランクスルーで積み込める横幅を72mm拡大し、長尺物の積載性を向上。加えて、AIRMATICサスペンション装備車ではスイッチ操作でリアの車高を約40mm下げることもでき、よりスムーズな荷物の積み下ろしを可能とした。3列目シートは大人だと長距離移動するのは厳しいか

 続く予想外は、オフロード性能に特化した走行プロファイル。今回はオンロードのみの試乗だったのでオフロードの実力を試すことはできなかったものの、例えば前後駆動力配分には前100:後0~前0:後100の電子制御連続可変式を採用し、カタログ数値では最低地上高200mm(GLE 400 d)、アプローチアングル23~25度、渡河深度500mm(ともにGLE 300 d)をそれぞれ確保している。

 エアサスペンションを装着したGLE 400 dの乗り味もオフロードに特化した挙動が大きな特徴。荒れた路面でもキャビンへの振動伝達を極力抑えようとするスカイフック的な特性を持つ。もっとも、それが時としてオンロードではもっさりした動きとして感じられるものの、直列6気筒3.0リッターディーゼルターボの出力特性は徹底的にスムーズで、そして豪快。これらの共演によってGLEのキャラクターは鮮明に映し出されていると感じた。

オンロード性能が劇的に進化したGクラス

 1979年の登場から数えて39年、2018年に大幅な変更を受けたGクラス。今回はそのベーシックグレード「G 350 d」に短時間ながら試乗した。筆者の現実的なライフスタイルは駐車場環境を含めてGクラスを受け入れることはできないものの、これまで何度も何度もGクラスのある生活を夢見てきた。

 2015年秋に、ドイツ・フランクフルト郊外のオフロードコースで試乗したGクラス(従来型のG 550)は、3つのデフロック機構を駆使することで超絶シビアなコースをいとも簡単に走破。一方で、道中のアウトバーンでは200km/hを優に超えるパワーを発揮するものの、オフロードに特化したステアリング&サスペンション特性などにより直進安定性は冴えず、少なからず不安を覚えたのも事実だ。

 2018年の大幅変更では、オンロードでの走行性能が劇的に進化。というよりまるで別物だ! ボール&ナットから一般的なラック&ピニオンとなったステアリング形式は、スッと巨体(試乗車の車両重量は2500kg)の向き変えることに大きく貢献。さらに、オンロードでのしっかり感(アウトバーンも安心か)と乗り心地をよくするためにフロントサスペンションの大改造を行なうなど、各所に大きな変更を受けている。

2019年4月に追加されたディーゼルモデルの「G 350 d」(1192万円)。ボディサイズは4660×1930×1975mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm。パワートレーンは「S 400 d」などにも採用される最高出力210kW(286PS)/3400-4600rpm、最大トルク600Nm(61.2kgfm)/1200-3200rpmを発生する直列6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボ「OM656」型エンジンを搭載。トランスミッションにはトルクコンバーターハウジングをアルミニウム製、ギヤハウジングをマグネシウム製とした9速AT「9G-TRONIC」を採用。0-100km/h加速は7.4秒
G 350 dのインテリア

 個人的な不安要素だったオンロードでの安定性を強化し、2018年以前のモデルでは装着できなかった衝突被害軽減ブレーキ「アクティブブレーキアシスト」(歩行者検知機能付)も標準で装備する現行型。装着されたアクティブブレーキアシストは、単眼光学式カメラとミリ波レーダーのフュージョンセンサー方式ながら運転支援機能としては十分な性能を持つ。もっとも、ベーシックグレードとはいえ車両価格は1192万円だからおいそれと手を伸ばすことができないが、これからも憧れのメルセデス・ベンツとして夢を見続けたいと思う。

 今回はメルセデス・ベンツの最新SUV3台に試乗した。SUVに求められる性能をクラスごとにキャラクター分けした開発手法はやはり見事だ。GLCではガソリン、ハイブリッド、ディーゼル、「EQC」としてBEV(バッテリーEV)、そしてフリート販売(4年間のクローズエンドリース契約のみ)ながら「GLC F-CELL」(燃料電池プラグインハイブリッドモデル)と、現在考えられるパワートレーンのすべてを搭載。GLEでは市場での声を反映して7人乗りを標準とし、さらにオフロード性能に特化。Gクラスでは長年培った本格的なオフロード性能に、現代的なオンロード性能と先進安全技術をプラス。こうしたユーザーへの的確な訴求を裏付けに、メルセデス・ベンツのSUVはこれからも独自の路線を歩み続けていくのだろう。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛